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長期依頼

宿に着いた。

当然だが、ここも貴族用だ。

「貴族用にもランクがあるらしくてな。ここはその中でも上の方らしいぜ。」

そう教えてくれたのはアントンさんだった。

忘れていたわけではないのだが、彼はやはり騎士としてゼルバギウス家に仕えているらしい。

実を言うと珍しい話ではない。

若くして冒険者になった者のうち多くは途中で別の道を行く。

若いうちに自分には適性がないと悟りやめる者もいれば、魔物や野党相手に命を落とす者もいる。

そして長くても30くらいが潮時だ。その後はギルドで後輩の指導や駆け出しのサポートをしたり、アントンさんのように実力があれば騎士として貴族に雇われる場合もある。

この場合の騎士とは、正式な騎士ではなく地方の領主が直接雇うので騎士爵は持たない。

グラント王国でいう本来の騎士とは、王家が主催する試験に合格し爵位を与えられた者で、彼らは騎士団に所属し、貴族としても扱われる。

それに対してアントンさんのような場合は地方騎士とか雇われ騎士と呼ばれて区別するが、まあ、普通は騎士とひとまとめだ。

話が逸れたが、それだけ優秀な人なのだ。アントンさんは。

「そうなの?これだけ立派だと、上とか下とか言われてもよく分からないけど。」

なかば呆然としながらテオが返すと、

「俺もだ。」

そう言ってアントンさんが笑っていた。


「ルーク達。」

そう声をかけてきたのはレイ様だった。

ミリアーヌ様は宿に着くと、マーサさんと一緒に既に部屋に入っている。

「道中はミリアーヌの話し相手になってくれたようで助かった。先程会ってきたが、あんなに喜んでいるミリアーヌは珍しい。よほど嬉しかったみたいだな。」

そう言って、少しアゴを引く。頭を下げては迷惑になると分かってのことだろう。

「はい。いえ、ミリアーヌ様にお喜び頂けたなら、嬉しく思います。私達こそ、感謝しなければ。」

「ふむ。冒険者といえばアントンぐらいしか知らなかったが、ルークは随分と堅いというか丁寧なのだな。まるで商人と話しているようだ。」

「レイ様、それじゃ俺がガサツみたいじゃないですか。」

「みたいじゃないだろう。いや、実力は確かだし、他の奴らとも上手くやれてるが、あまり他の貴族の方の前で失礼なことはするなよ。」

最後の言葉はライエさんだ。

彼は先祖が騎士爵を持ち、その後子孫が代々ゼルバギウス家に仕えており、若い頃から騎士としての経験を積んできたそうだ。騎士爵は世襲しないので彼自身は貴族ではないが。


そんな風に話していると、レイ様がこちらに向き、改まった調子で口を開いた。

「今回はルーク達に会えて、本当に良かった。そこでだ。実は頼みたいことがある。」

「頼みたいこと、ですか?」

「ああ。もうしばらく私達に に雇われてくれないか?」

「それは、騎士になれ、ということでしょうか?」

それは遠慮したいというか、難しい。

私としてはまだ世界を見て回ったとは思っていないし、ゼルバギウス家に仕えるというなは流石に思うところもある。

「それも悪くないな。というかそうなってくれれば嬉しいが、今回はあくまで私個人からの依頼だ。単刀直入に言えば、私たちの留学中の護衛を頼みたい。」

「護衛ですか?しかし、既に騎士の皆様がいらっしゃるかと思いますが。」

「その通りだ。回りくどくならないようにいえば、頼みたいのはミリアーヌの護衛を、ユニに頼みたいのだ。」

「私に、ですか?」

ユニが首を傾げているが。

なるほど、言いたいことは分かる。

確かにこの世界に性別の格差はあまり無いが、性役割的な意識は、特に貴族の世界では強くある。

「ミリアーヌもゼルバギウス家の娘だ。多少の武は嗜んでいるが、女だし、あいつにはその手の才はなくてな。無論、元々は我が家の騎士が護衛に着く予定だったが、同性で腕が立ち、ここに来るまでもミリアーヌとも相性が良さそうなユニがいてくれれば心強いのだ。過保護だと笑われるかも知れないがな。」

「ちなみに御当主様達は私たちのことはご存知なのですか?」

「いや、まだ知らない。もし受けてもらえれば、その後に連絡をする予定だが、断りはしないだろう。両親は私を信頼してくれているし、ミリアーヌのことは私以上に溺愛しているからな。」

ゼルバギウス家の家族仲が良いのは、地元では有名な話だ。

「そういうわけで、報酬も問題ない。アントン達と同程度、日に銀貨3枚を支払おう。」

この大陸では日給での計算が一般的だ。そして、一般人の3倍の日給は、報酬としては十分そうだ。

が、長期での依頼か。

「分かりました。とはいえ即答は致しかねますので、今晩皆で話し合いをさせて頂けますか?明日の朝にはお返事をお約束します。」

「構わない。無理を言ってるのはこちらだからな。旅の途中ということも理解している。だから、1年程度でも受けて貰えれば嬉しいのだ。その間には、ミリアーヌも留学に慣れるだろう。それと、今晩はこの宿に泊まると良い。命を助けて貰い、妹によくしてくれたせめてもの礼だ。」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂こうと思います。」

この人のことだ。感謝の気持ちは嘘ではないだろう。しかし、同時に依頼を受けて欲しいという気持ちも伝わる。

ならば断るのも無礼といものだ。

ちなみに、ここまでの護衛依頼の報酬は1人金貨1枚。2日の護衛としては破格にも程があるが、これがグラント王国有数のゼルバギウス家、ということか。明日ギルドに行き、緊急依頼の事後報告に行くことになるだろう。



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