第17話 兄(大臣)は監視する
「けけけ。まさか皇帝の暗殺依頼がくるとは思ってなかったぜ」
路地裏のテントの中。不気味に笑う暗殺者とゲインは向き合っていた。その笑いには寒気がするが、彼が皇国でも一二を争う暗殺者だということは紛れもない事実だった。
「しかしよぉ、なんで兵士長ともあろう御方が主の暗殺依頼を持ってくるんで?なにか裏があるとしか思えないんだよ。けけけ」
「変態皇帝の噂くらい聞いたことあるだろ?あんなのに国は任せられない」
「へぇ。まあ金さえ貰えりゃ何でもいいんですがね。けけけ」
暗殺者は後ろの木箱の上に置いてあった魔剣を取る。曲がりくねったその刀身は、捻れた彼の人格を象徴しているようだ。
「だが、皇帝の暗殺となるとこちらの危険も増える。料金はかさみますぜ。けけけ」
「ああ。皇太子殿下が即位すれば金などいくらでもだせる。後払いじゃ信用できないってなら前金も出す」
「けけけ。ありがたく受け取らせていただきましょう」
ゲインは皮袋にいれてある通貨を渡す。日本円にして80万円のそれを受け取り、暗殺者は今まで以上に不気味な笑みを浮かべた。
「皇帝を殺すのかぁ。あれの心臓を抉って、脳天をかち割って、血を浴びる。けけけ、けけ、けけけけかけけけけけけけけけ───!」
◇
「あいつは皇帝の暗殺を依頼したようだな」
俺はあいつにつけていた監視魔法を見てそう呟いた。暗殺されたりして国が崩れるまでは侵攻しないつもりだったが、こんなにもはやく暗殺されるとはな。
「恐縮ですが、あの暗殺者に皇帝を殺すほどの実力はあるのでしょうか?」
「大丈夫だ」
窓際で直立していたアウラに俺はそう返す。あの暗殺者の能力を調べさせてもらったが、隠密スキルも数多く保有し、一撃必殺に鍛えていた。宮に侵入して皇帝のひとりやふたり殺すことくらい容易いだろう。
「──ってことだ」
「ならば、あの兵士長は処分いたしましょうか?」
「いや、皇国の暗部についても知りたかったところだ。捕まえてきてくれ」
「かしこまりました。誰を向かわせますか?」
「そうだな・・・。上位悪魔隊のカリスを行かせるか」
あいつは魔王軍のなかでも見た目が人に近い種族である上位悪魔。しかもそれの隊長だ。実力も申し分ない。
「はっ!そのように手配いたします」
「あとシュバリエも同行させろ。ことを荒立てずに連れてきてほしいから、記憶を消すことのできるあいつもいた方がいい」
「はっ!それではいって参ります」
アウラはいつものように窓から飛び降りるべく、窓枠に手をかけた。
「ちょっとまて」
「なんでしょうか?」
「カリスとシュバリエにこう伝えてくれ」
「はい」
「生死は問わない。死んでても生き返らせればいいだけだ、とな」
「はっ!」