第16話 兄(大臣)は帰還する
「さて、こんなものでいいかな」
俺は兵の首を無造作に投げ捨て、そう呟いた。今回の目的は皇国に俺たちの恐ろしさを知らしめるだけだからこんなものでいいだろう。
「ミラ様、あの兵は変態皇帝に謁見出来たようです」
「──変態皇帝ねぇ」
あいつの噂くらいは調べてある。
95代目皇帝、リヴァンクル・バリニューチヒシ・クリム・ド・ツワル。毎年愛人を徴集し、謁見すると必ず愛人と交わっていることから変態皇帝とも呼ばれ、その名に違わぬダメ皇帝ってことらしい。
「あいつが伝えたことを信じて何か対策を講じてくれると嬉しいんだが、それも期待できないかな」
「いっそ皇帝を暗殺して、次の皇帝に対策を講じさせますか?」
シュバリエがそう提案してくれたが、俺は首を横に振る。さすがにそこまでして皇国を攻める必要もない。どうせ民には嫌われた皇帝だ。法国とかを攻めてる間に国民が暗殺するだろうし、魔王軍が汚名を被ってまで暗殺する相手ではない。
「──取り合えず帰還するか。影の監視者はここに待機して偵察隊が来るかを確認しろ。1週間経っても偵察隊が来なければ帰還を許す」
「はっ!」
俺の命令に応えるため、それぞれが行動を開始する。俺は転移門を開き、魔王城へふたりと帰還した。
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「くそっ!あの変態皇帝、俺が報告したのにまともに聞きゃしねぇ!」
ミラに報告に行かされた兵士、ゲインは城の自室で吐き捨てた。ミラはそれなりに偉いやつと思っていたが、彼は皇国兵士長と呼ばれる皇国軍の最高戦力で、城に自室を貰えるほどの重要な人間だった。
「3人で駐屯地を壊滅させるほどの魔族がいたのに、それを聞き流してヤり続けるとか、早めに皇太子殿下を即位させた方が皇国のためだ」
ゲインはミラの《闇の豊作祈願》を思い出し、顔を歪める。自分が分隊に派遣されていた時にあんな化け物が来るなんて、考えもしていなかった。皇国最強の戦士である自分に勝てるのは王国にいるという王国の賢者や勇者くらいのものだろう。そんな自分が育てた兵士達がなすすべもなく殺された。本隊にいる自分の弟子だって、あの魔族の前には同じ末路を辿る。それは自分も同じことだ。
「──明日、暗殺者協会に行こう」