プロローグ 妹(魔王)が帰って来た
「王都で冒険者になるなんて、大丈夫か?」
「大丈夫、英雄になって、お兄ちゃんに楽させてあげる。」
7年前、シラはそう言って家を出ていった。確かに初めの数年は仕送りもあったが、いつからか仕送りは途絶えていた。探しに行こうにも親の借金を返すためのバイトで忙しくて、旅にも行けない。その上父親は夜逃げして、家の金は持っていかれた。こんな状況のまま、俺と母親は増えていくだけの借金を返すために働き続けた。そんな俺達に救いの手が差しのべられるわけもなく、今に至っている。
「ミラ、お客人みたいだよ。出てきてくれない?」
「わかった。珍しいな、こんな辺境にお客さんなんて。」
俺はそう言って差し押さえの札が貼られている家具が置いてある廊下を通って玄関に行く。いまだに家具を持っていかれていないのが不思議だ。
玄関を開けると豪華な服装のご令嬢がいた。誰だろうか?この辺りを治めている貴族にこんな人はいなかったはず。
「あの、どなたですか?」
俺が喋った時からご令嬢は震えていた。気に触ることをしてしまっただろうか。処刑だけは避けたい。
「お兄ちゃん、やっと帰ってこれたよ!」
「へ?お兄ちゃん?」
俺の理解が及ぶ前にご令嬢は続ける。
「ごめんね、仕送り出来なくて。これからは家族と一緒に暮らせるから許して。」
「え、シラ、シラなのか?!」
「そうだよ、お兄ちゃん!」
「王都に行った直後はきちんと冒険者してたんだけど、魔王になってからはギルドからお金もらえなかったんだ。」
「いや、シラが帰ってきてくれればいいんだ。母さんもお前のこと心ぱ───魔王?!」
こんな辺境にも噂くらいなら流れてくる。魔物を従えて、王国を侵略している最悪の元冒険者らしい。まさか、それが。
「うん、なんか強そうな魔族を倒したら王さまにされちゃって、成り行きで王国を滅ぼすことになっちゃった。お金もいっぱい手に入れたから、借金返済するね。」
俺の妹は唐突に魔王となって帰って来た。借金も唐突に返済されて、唐突に魔王城に住むことになった。その上で唐突に大臣になった。唐突×4に襲われた俺の意識は暗くなっていった。