5-2 ドワーフ国国王
薄暗い廊下を進み、大きな扉にたどり着いた。回りの物とは格段にレベルが違う扉。門番も二人いる。この扉の奥にドワーフ国の国王がいるのだろう。
俺は背筋を伸ばし、息を整える。テラス、ビビは相変わらずだが、マリアは顔色が悪い。馬車酔いなのか、緊張なのかはわからないが、マリアに声をかける。
「大丈夫か?」
「え、ええ。心配ないわ。」
「なら良い。」
俺は向きを扉に向ける。扉の前にいた門番が、その大きな扉をゆっくりと開ける。
「どうぞ、此方に。」
案内のムキムキの執事が、赤いカーペットの上を歩く。俺達はその後に続く。
「ここでお待ち下さい。」
執事がカーペットから外れ、脇に移動した。正面には空の王座。国王はまだいない。
俺達は片膝をつき、国王が現れるのを待った。
カツン、という足音が聞こえ、謁見場にいた皆が、頭を下げる。
「面を上げよ。」
その重低音の声色に、俺は顔を上げる。そこには、王座に座るドワーフの国王が鎮座していた。
★
見た目、ドワーフには見えなかった。座っていてもわかるその体躯は、高身長、鍛えられた筋肉、腹まで伸びた長い髭を携えていた。年齢的にも中年位。眼光鋭く此方を見下ろす。
「その者が、生命石を持ってきた者か。」
その声に俺が反応する。
「はい。交友関係にありますケルトより持って参りました。」
「ふむ。」
嘘はつかないよ。だってばれるもん。この場合は、正直に話したほうが得策だろう。
「大義である。では献上せよ。」
「はい。」
俺は、袋に入っている赤い石、生命石を執事に渡す。そのまま執事は国王に生命石を渡した。
「では、褒美を与える。何なりと申せ。」
「はい。では、この国の滞在許可を頂きたいです。」
「そんな事で良いのか?」
「はい。私はこのドワーフの国を見聞したく、ここまできました。ですので、滞在を許可して頂くだけで充分です。」
「ふむ。」
「申し上げますが、この生命石を見つけたのは、ケルト家に支える者でありまして、私は運んだだけに過ぎません。褒美をお考えならば、ケルト家とのより深い繁栄をお願い致します。」
「そうか。」
この発言に、回りに雑音が聞こえる。俺の手柄ではなく、ケルト家の手柄を主張し、あまつさえ国同士の政治に関与したからだ。だからと言って、嘘までつく必要はない。
「わかった。貴様の願い、聞き入れよう。」
「ありがとうございます。」
「ケルトの奴には後に手紙を送る。貴様等も滞在を許可しよう。詳しくは別の者が準備をする。遠慮なく希望を話せ。」
「はい。寛大なご配慮、ありがとうございます。」
「うむ。」
そう言って、王座から立ち上がる国王。俺は再び片膝をつく。皆も頭を下げる。
退室する国王。張り詰めた緊張が一気に緩む。
「では、私が皆様のお世話を致します。先ずは客室に戻りましょう。」
「はい、わかりました。」
俺達は謁見場を後にした。
★
「ふい~。」
俺はきつく締めた服を緩める。マリアも同じだ。いまだに城の中にいるのだが、緊張の糸が緩んでしまったのだ。こればかりは仕方がない。
執事が持ってきた水を一気に飲み干す。汗が今になって吹き出してきたからだ。
「大役お疲れ様でした。」
執事の言葉に、赤い石、生命石の運搬はかなりの所業だったのだろう。国王からも感謝されるし。
「いやなに、当然の事をしただけだ。」
俺は何もしていない。ただ運んだだけだ。
「国が一丸になって探していた生命石を見つけて頂いたのです。感謝の念が絶えません。」
「それはまず、王子様の全快してからにしましょう。」
俺の言葉に執事が目を見開く。目的は王子様の全快であり、生命石の発見ではない。
「そうでございますな。では、御用がある時は、何なりとお申し付け下さい。大体の物は揃えましょう。」
深々と礼をする執事。
「それは助かる。では、城の外に空き地が何処かにないか?ひろめの空き地なのだが。家が建てる位の。」
「空き地、ですか?大門の西側はまだ未開発ですので、空き地はあると思いますが、何をされるのですか?」
首を傾げる執事。俺達の希望を何に使うのかわからないからだろう。
「いやなに、大したことはないさ。マリア、動けるか?」
「ええ、大丈夫よ。」
先程よりは、顔色が戻ったマリア。移動も大丈夫だろう。
「んじゃ、その空き地に向かいますか。それと、今後この城に入るための通行書なんかはありますか?」
「はい、ではドワーフ国の紋章入りの書簡をお渡し致しますので、此方をお使い下さいませ。」
「ありがとう。大切に使わせて頂くよ。」
俺はその書簡を受け取り、テラス達を引き連れ、客室を離れる。執事には城の外までの案内をさせた。この広い城をただ歩いたら、迷子になってしまうからな。
そして、城の外に出る。レンとイトを連れてきてもらい、馬車に乗り込む。
「城の外は何かと不便もありましょう。御用がある場合は、私めに御連絡して下さいませ。」
「何から何までありがとう。何かあった場合はそうさせてもらうよ。」
一礼する執事と門番。俺はビビに合図し、大門の西に向かって発車した。
★
「錬金術師を呼べ!直ぐにでもエリクサーを作るのだ!」
「はっ!畏まりました。」
手を入った生命石を手に、ドワーフ国王が命令を出す。重度の病に伏せている王子を助けるためだ。
エリクサー、それは万病を治す不思議な薬。特別な材料が必要であり、生命石もその一つだ。
「生命石を持ってきたあ奴等は今何をしておる?」
「はい、城を出まして、大門の西に向かいました。」
「彼処はまだ未開発の地であったな。何をするつもりだ?」
「それは、わかりませぬ。」
「ふむ、監視はつけるべきか。ケルトに連なる者であっても、人は人。用心に越したことはないだろう。」
「では、いつものように。」
「うむ、誰かを奉公させよう。人選は任せる。」
「はい。畏まりました。」
ある一室に国王が入る。そこは王子の部屋。医師、執事、メイドと、頭を下げる。
「具合はどうだ?」
「変わりません。思わしくありません。」
「そうか。」
国王が息子の王子が寝るベッドに向かい、王子に語り始める。
「ギルガドグ。もう少しの辛抱だ。生命石は手に入った。後はエリクサーを作るだけだ。この病ももうすぐ治る。だがら、病に負けるでないぞ。」
「はい、父上。」
王子であるギルガドグは弱々しく国王の言葉に返事をする。息を鳴らし、苦しい呼吸を繰り返す。
「頑張るのだぞ。貴様を妻の後は追わせぬからな。」
「・・・はい。」
「後は、任せる。」
「はい。お任せ下さいませ。」
医師が答える。国王は部屋を後にする。後ろ髪を引かれる思いはあるだろうが、国王にはやらなければならないことが沢山ある。それを蔑ろにする事は出来ない。
「エリクサー完成を最優先で行え。」
この言葉に、後ろに控える者達が動き出した。
死なせはせん。絶対に死なせるものか!
拳を固く握り、国王は執務に戻るのだった。
★
西の空き地に到着した。流石に未開発の地だけあって、更地になっている。この地を拠点にするには些か都合が悪い。
急に小屋が出現し、そこに人が住むのだ。回りからは何と思われるか、想像に容易い。もう少し目立たない場所を探したいものだ。
西側を歩き、都合の良い場所を探す。そうすると、畑が見えてきた。小屋もある。この辺りなら、土地を借りても構わないだろう。
「この辺にするか?」
「はーい。」
「わかりました。」
「もう何処だって良いわよ。早く休みたいわ。」
無限保管から小屋を出す。回りの風景には馴染めない木造の建物。この辺りの家は、石作りが大半だった。もう正直、構わないだろう。
俺達が小屋と厩舎を出し、色々準備をしていると、一人のドワーフが此方に来た。
「ここは国が管理する土地だが、貴様達は何をやっているのか?」
「ああ、ここを暫く借りたいと思ってな。ちゃんと許可も得ている。問題はない。」
俺はそのドワーフに書簡を見せる。たちまちドワーフの顔色が変わり、俺達に対しての警戒心をと解いた。
「そうだったけ。許可をお持ちなら構わない。俺はバルバ。この辺りを管理する者だ。」
「ソーイチだ。此方は妻のテラス、ビビにマリアだ。」
ドワーフのバルバ。この西側の未開発の地の管理者のようだ。辺りは畑になっているが、代替えの地なのだろう。
「それで、この小屋はなんだ?木造の家なんて、直ぐに壊れそうだがな。」
「そうでもないさ。見た目はアレだが、中身は良いんだ。」
「まあいい。どうやって建てたかは知らないが、開発が決まったら撤去するからな。」
「その時は直ぐに撤去するさ。邪魔はしないからさ。」
「ならいい。俺はこの辺りで仕事をしているから、何かあったら声をかけてくれ。」
「そうさせてもらうよ。」
俺は厩舎にレンとイトを休ませ、世話を始める。テラスとビビは食事の準備を、マリアは今日は休みだ。ゆっくりと休んでもらいたい。
それにしても、ジオフロントか。なかなかに壮観だな。
神秘的な緑色の光に包まれているドワーフ国。光苔の光で回りを照らしているその光景に、俺は感動すらしていた。
今日は休みだ。ゆっくりと休んで明日から活動しよう。
レンとイトの世話も終わり、俺は風呂の準備をする。折角なので、紫水晶に吸わせた温泉を使おう。これで疲労を癒すのだ。
食事を済ませ、風呂に入る。一日の疲れを癒す。マリアがマッサージを所望したので、それに答える。
なかなかに色っぽい声を出すマリア。テラスとビビも羨ましそうに見ていたので、交代でマッサージをした。テラスとビビには必要ないが、それでもマッサージをする。
ちなみに、今日はお預けであり、テラスとビビから不評が出た。マリアが疲れているからな。今日はしっかりと休みたい。今日のところは勘弁して下さい。
皆で一緒に寝るためのベッドはケルトで購入していた。さて、柔らかい感触に包まれて、おやすみなさい。
★
「生命石が見つかったのか?」
「はい。国王は錬金術師を呼び出し、エリクサー完成の道程に入りました。」
「おもや、生命石がみつかるか。それで、完成の目処はたったのか?」
「いえ、まだ着手もしてはおりませんが、始まりましたら、完成には七日程になるでしょう。」
「ならば、やることは少しでも完成を遅らせる事だな。どんな手を使っても良い。邪魔をせよ。」
「了解致しました。」
一人、消える。
「このままいくかと思ったが、余計な邪魔が入ったな。だが計画に変更はない。このままギルガドグにはご退場してもらおう。」
「生命石を持ち込んだのは、ケルトに連なる者のようだ。」
「ちっ!忌々しいケルトめ!我等を傀儡にする元凶め!」
「まあよい。ギルガドグは風前の灯。少しでも完成の邪魔をしようではないか。」
「奴等はどうするのだ?この地に滞在するようだが?」
「放置で構わんだろう。ケルトの連なる者でも簡単に我々には辿り着けまい。」
「それもそうだな。」
「では、計画どうりに。」
闇の中で計画を進める男達は、静かに笑っていた。




