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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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4-37 想いと思惑と

日の出と共に目覚め、身体を起こす。ビビやマリアも同様だ。朝の鍛練は欠かせなく続けるものである。今日も型の反復であり、下半身の鍛練、体幹の鍛練を続ける。上半身は柔らかく、流れる柳の様にしなやかな動きをする。俺の動きにシンクロするビビ。マリアも俺達の鍛練の見学をしていた。


滴る汗をそのままに、身体から発する熱が、身体の目覚めを呼ぶ。こうなると頭が覚醒し、思考がはっきりとする。

そして始まるビビとの乱取り。今日も軽く流す程度に行う。今や実力はほぼ互角だ。本来のポテンシャルならば、ビビの方が伸び代があり、俺なんかとうに超えている可能性も否めない。流石は戦闘民族。だが、俺だって負けてはいられない。長年の経験と知識、あと予想でその差を埋める。俺はこの鍛練に限りチートは使わない。あれはまた実力とは違うからと考えているからだ。


実力拮抗だからこその鍛練とも思っている。だが、いずれはチートも使わざるを得ない状況になるだろう。ビビの吸収はそれだけ早い。大したものだよ、本当に。


軽く汗を流し、鍛練を終了する。セバスがタオルを用意してくれたので、ありがたく使う。


「大したものです。御二人とも。あれほどの動きを続けて、息を上げませぬか。」


感服したのか、セバスが俺達の鍛練の感想を言う。一応流す程度だ。大した事はしていない。


「セバスも動きに無駄がなく、歳を感じさせないじゃないか。流石の一言しか言えないぞ。」

「私もまだまだ負けられません、というところでしょうか。」

「あの、よろしいですか?」

「どうした、ビビ?」

「はい、またセバス殿と一戦お願いしたいですが、よろしいですか?」


ビビはまたセバスとの一戦を求める。ビビらしい。


「では、僭越ながら。」


腕を捲るセバス。彼もまた、俺達と実力が拮抗している強者だ。


今回は、老獪な動きをするセバスがビビを翻弄する。動きが散漫になってしまったビビの隙をついたセバスの勝利となり、勝敗は五分になった。


「ビビ対策、見事でした。」

「ギリギリの勝負でした。次は勝てる見込みはないでしょうな。」


とは言いながら、セバスの笑顔がとても清々しい。彼にとっても、厄が落ちたかのように見えた。


「翻弄されました。私はまだまだ未熟者です。」

「絡め手の妙手だったからな。何事も経験と思えば、負けも良い経験だよ。」


ビビを励ます。ビビもその負けを己の経験にし、次に生かしてもらいたい。


「次はアオバとセバスか?」


気がついたら、ケルト侯爵も見学している。いつの間に。


「いえいえ、そのお時間はありません。ご容赦を。」

「前にも聞いたな。よほどやりたくないと見るが?」

「あの御方と試合をすれば、心が折れてしまうやもしれませぬので。」

「ふむ、それはいかんな。」


なんか酷い言われようだ。チート抜きなら、良い勝負になると思うけどね。


「それを、手抜き、と言うんだよ。」


ロイド男爵が背後から物言いをする。


「そうか?」

「隠すのはわかるけど、やり過ぎはかえって相手に失礼な時もあるのさ。たまにはビビ君の本気を受け止めてあげたらどうだい?」

「それは、たしかに、そうだな。」

「それはともかく、君にこれを渡すよ。」

「ん?なんだ?」

「ドワーフ国の入国許可証さ。もう君には必要ないのかもしれないが、申請受理したんだから、受け取ってくれよ。」

「確かに、申請はお願いしていたからな。受け取らせてもらうよ。」


渡されたのは、手紙と金袋。金袋には赤い石、ルビーみたいな宝石が一つ。

「これをドワーフ国の大門前で渡すんだよ。後は良くしてくれるさ。」

「本当に?」

「信用、ない?酷いね。」


日頃の行いだ。だがもう慣れた。ロイド男爵も飄々としている。


「確かに受け取った。」

「あ、あと、赤い石はマリア君には見せない方が良いよ。これは忠告。」

「理由は?」

「オススメしないよ。」


表情は笑顔だが、目が笑っていない。闇すら感じる。


「・・・、わかった。聞かないでおく。」

「世の中には知らない方が良い事もあるのさ。」

「そのようだな。」


俺は渡された許可証を無限保管に突っ込んだ。


流した汗を風呂で綺麗に洗い流す。贅沢な時間を過ごす。テラスも風呂と聞いて飛び起きた。


朝食を頂き、出発の準備を進める。


皆から別れと再会の挨拶を、料理長からは弁当を頂く。ブライアンは泣いていた。いつかまた会えるさ。


「いろいろありがとうございます。では。」


短い挨拶をし、俺はドワーフ国に向けて馬車を進ませる。行者はビビだ。ケルト市の東側に向けて出発した。





「行かれましたな。」

「ふむ、彼の行くところに幸があれば良いな。」


ケルト侯爵はいつものように書類に目を通し、仕事を行っている。彼に届く書類は毎日大量に届く為、休む事は出来ない。


今日も書類に目を通し、サインを入れ、判をする。



「大丈夫でしょ。なんやかんやといって、彼等は何とかやるからね。」


ロイド男爵は飄々とした態度で、ケルト侯爵の心配を払拭しようとする。


「確かに。彼等はこの領内に多大な貢献をしたものだしな。」

「それに気がついていないのも、ある意味凄いよね。無知は怖いもの無し、とはこの事だよ。」


肩を上げるロイド男爵。その態度にケルト侯爵は軽く睨む。


「草原の先住民と交流出来たのは大きい。しかも無血でだ。」

「確かにね。これで彼等との交流を継続して、間接的にでもケルト領に携わる者にすることが出来たからね。大きな一歩になった。」

「人に信用なくとも、関係を持てば無視なぞ出来なくなるのが、縁というもの。それに後は我々の仕事だ。どれだけ彼等と接点を持つかが勝負となるであろう。」

「それは気楽にやろうよ。時間が必要なんだし。彼等もまだまだ此方を信用はしないさ。」


ロイド男爵の提案に、ケルト侯爵も同意する。


「そう、それにエクシリオスを抑えたのも大きいな。」

「そうだね。彼等は種族差別があるからね。草原小人との交流の阻害されては困るから、抑えられたのは嬉しい誤算だったよ。」

「ゼノスも再度捕らえたようだな。これで汚職も少しはましになるだろう。」

「彼等の働きは、今後のケルト市を変える事になる事は間違いないと言えるね。」


セバスが紅茶を煎れる。会話の間に二人は紅茶を飲む。一息いれる。


「ロイド、わかっているな?」

「はいはい、わかってます。では、俺は仕事するよ。」

「うむ。」


部屋を出るロイド男爵。彼もまた多忙の人だ。


「さて、この結果が吉となるか、凶となるか。見定めなければならんな。」


深いため息の後、ケルト侯爵は書類に向かう事になった。




ドワーフ国はここから馬車で1日ほどの距離にあり、ケルト市の大きな関所、ドワーフ国の大門をくぐってようやく国内に入れるようだ。舗装された道が、道標となっており、迷う事はないだろう。


さて、ここからが面倒が多かった。


待機していた商人達が声を掛けては、一緒にドワーフ国に入ろうとするのだ。勿論、金袋を差し出してくる。

勿論これは犯罪であり、処罰の対象だが、商魂逞しく、危ない橋を渡る商人が多数いるため、いちいち捕らえる事は出来そうにない。


「ただ、後ろについていくだけです。お願いしますよ。」


この言葉と金袋で買収された貴族も多いのだろう。全く、勘弁して欲しい。


俺達の馬車の速度を上げる。足で追いかけてくる商人もいたが、それを振り切る。

馬車を少し走らせて、休憩をいれる。レンとイトも疲れてしまっては元も子もない。飼い葉に塩、水を飲ませる。


所々に沸いてくる商人を振り切るのに苦労したが、関所が見えれば、接触はなかった。


「賊より質が悪い。」

「全くね。これもゼノスの教育なのかしらね。」

「悪どい商売だな。」

「儲けの為なら、色々棄てた馬鹿達よ。」


マリアは彼等の行動を辛辣に語る。確かに、賄賂を常習化された習慣は悪習だ。これは確変も必要だろう。


「逞しさは買うがな。」


皮肉しか言えない。


さて、山脈の麓。道の入り口に、ケルト市の関所がある。一般的にはここを通らないと、ドワーフ国の大門に入れない。一般的には、だ。例外もある。俺はビビを見る。うん。美人だ。


さて、関所には、数名の兵士が待ち構えていた。並ぶ者はいない。完全に俺達の馬車だけだ。


少し警戒する。ここはケルト市から少し離れている。何があっても不思議ではない。


「停車!」


俺達の馬車を止める兵士。砦の入り口は閉じている。


「通行証の提示をお願いします。」


あ、ケルト侯爵の紋章入りの馬車だったからかな、兵士が礼節もって対応してくる。


俺は無限保管から通行証を出し、それを渡す。


兵士がそれを確認し、大きな判子を押す。通行の証なのだろう。


「開門!」

「開門!」


砦の門が開く。大きく開いた門が、俺達を吸い込むように、馬車を進ませる。


「この先は山道です。道中お気をつけ下さい。」

「わかりました。」


ビビが答える。俺達が通過すると、門が閉まった。


一応だが気配察知をするが、商人が忍び込む事はなさそうだ。警備は確りとしているようで安心した。


「結構大変ね。」

「それに見合う何かが先にあるんだよ。」

「だと良いわね。」

「楽しみ!」

「ビビは二度目のドワーフ国だな。」

「はい。」


さて、どんな国だろうか。


俺は期待を膨らませていた。


4幕終了です。5幕開始は先になります。ご了承下さい。

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