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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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4-36 ケルト市出発準備

いつもの日の出にいつもの鍛練。だが今日は少しだけ違う。違うのは、今日はマリアは休みな事と、ブライアンに型を教えている事だろう。


マリアは昨日の巨大砂漠百足の件で手首を多少痛めた。水鉄砲の反動が原因だ。マリアにリストアームを着けていなかった事が悔やまれるが、生活には支障はないようなので、完治するまでは練習を休みにした。そんなマリアだが、ゆっくり休めばいいのに、俺達の鍛練の見学をするという。


「休んで良いんだぞ。」

「いいの。気にしないで。」


俺とビビの鍛練を見学するマリア。なにやら真剣な眼差しだったが、なんだろうな。


(体を鍛える?いやでもあれは無理ね。)

「どうした?」

「何でもない!」


なんなんだ一体。


ブライアンの方だが、下半身の鍛練の進捗は順調だ。たかだか数日だが、確りと鍛えられはじめている。鍛練はまだまだ先があるが、今までの礼を込めて、一の型を教える事にした。

これ一つで突き技の基本を習得する。単調な型だが奥は深い。確りと反復し身につけてもらおう。


「下半身の鍛練は忘れずにこの一の型を習得するんだ。これだけで、身を守るのには十分に効果はある。」

「はい!」

「まだ俺も習得途上だが、今現在までに身に付けた過程を見せる。目を離すなよ。」


そう言って、俺は一の型を全力(チート抜き)で始める。


下半身の動き、震脚、それを伝達、繰り出される突き。


空気が鳴る。擦れる音は回りに響く。風圧が発生し、空気を震わせる。


一の型を終え、呼吸を整える。


ビビ、マリア、ブライアンから拍手をもらう。ビビは目を光らせ、マリアとブライアンは驚愕の眼差しだった。


「素晴らしいです。ソーイチ様。」

「なに、まだまだだよ。」

「凄いわね、素人目でも凄いのはわかるわ。」

「はい!凄かったです!」


そんなに誉められるとはな。まだまだ、そう、俺はまだまだだ。


「兎に角、これでもまだまだだ。だが、先が見えたほうが遣り甲斐があるだろう?ブライアンの強くなりたい心があれば、この位は出来るだろう。頑張りなさい。」

「はい!はい!ありがとうございます!」


やはり、目標を見せたほうが、やる気になる。単調な一の型だが、やりきって欲しい。


「それで、アオバ様はケルト市を出られるんですよね、寂しくなります。」


ブライアンが暗くなる。そう、そろそろこのケルト市を離れる事になる。実際ここは通過点だ。


「まあな。やるべきこともあるしな。」


俺はブライアンの肩に手を置く。涙を堪えるブライアン。まだ別れではないのに、感情が込み上げたのだろう。


「今日も街に出て買い物するからな、行者、頼んだぞ。」

「は、はい!お任せください!」


その言葉に元気を出すブライアン。彼はやはりだが、誰かが使命を出した方が生き生きとするな。


「さて、朝御飯にしよう。今日はブライアンも一緒にな。」


今日はブライアンも誘い、食卓を囲む。いつもより楽しい食事。恐縮するブライアンだが、マリアの料理には舌鼓をしていた。ん、正直が一番だと思うよ。


今日はロイド男爵も混じっての朝食になった。これは珍しい。


「どうした?今朝は早いな。」

「今日はここで朝食をとりたくてね。良いかい?」

「大量に作っていますから大丈夫ですけど。」

「それは良かった。」


相変わらず飄々としている。食卓に混ざり、朝食を食べ始める。


「屋敷の食事も良いけど、ここの食事も味があっていいね。」

「褒め言葉としておくぞ。」

「勿論、マリア君を褒めているのさ。」


皮肉にも聞こえる言葉だが、ロイド男爵の態度は今更である。


「んで、今朝の用件は?」

「ん?今日の夕方、我が家へのご招待、だけど、来てくれるよね?」

「それは、ケルト侯爵の御誘いなんだろう。行かせてもらうよ。」

「本当に君は話が早くて助かる。それで、今日の予定は?」

「市内で買い物だな。調味料とか買いだめしておきたい。」

「そうかい。なら、野外市場が良いよ。安くて種類も豊富だ。」

「わかった。行ってみる。」


野外市場ね。良い情報ももらったし、行ってみるとしよう。





さて、ロイド男爵の情報の市場に行く前に、俺は高級商店で貴族服を買う。軽装の貴族服がボロボロになったからだ。オーダーメイドが普通の貴族服だが、今日はあまり時間もないので、既製品にする。軽装の貴族服だから、既製品で問題はないだろう。正装じゃないし。


俺の買い物も終わり、足は野外市場へ。ブライアンの案内で、野外市場にたどり着く。人が多く活気がある。こういう人が多い場所は、品物が豊富になるから、ここは期待できそうだ。


「んじゃ、私は買い物するわね。」

「ビビ、マリアに付き添ってくれ。」

「はい、わかりました。」


マリアは買い出し、ビビはその警護だ。人が多ければ、何かと不埒な奴も出てくる。ビビなら、その排除は簡単にこなしてくれるだろう。

そして俺はテラスと人が少ない場所に移動する。やはりだが、テラスがまた体調不良になった。今までを振り返ると、人混みが起因すると考えた。テラスも休めば大丈夫の事。なので休ませる。


テラスを横にし、俺はそれに付き添う。手を繋ぎ、人々の流れを観察する。歓声、奇声、笑い声に、怒声、入り交じる声に、様々な人達。活気を生み出し、元気を作る。幾重に重なる声は、まるで音楽のように響く。


悪くないよな、こういうのは。


だが、急にそれをぶち壊す。


少し休んでいたその時、気配察知に危険感知を感じた。


すぐさま態勢を整える。無限保管から短棍を取り出す。最優先はテラスの護衛だ。少しだけ無理をさせるが、テラスを立たせ、俺の背に寄り添わせる。


悪漢達は茶色のローブを身に纏い、俺達を襲う。片腕一本でそれを対応する。悪漢の動きはがさつで、尚且つ大雑把だ。これならばなんとかなりそうだが、数の力を振りかざしてくるのが痛い。


らちが空かない。やむを得ないか。


テラスを急いで抱える。それを邪魔しようとする悪漢。襲いかかる悪漢に短棍を叩きつけ、払い落とす。


こいつらには権威は通用しなさそうだし、人が多いこの場所で争うのは愚策だな。


テラスを抱えたままに、俺は跳躍、市場の建物屋上に登る。見上げる事しか出来なくなった悪漢達。表情は見えないが、焦りを感じる事は出来た。そして俺達を襲えなくなったので、彼等もまた移動を開始した。

俺はそのまま無限保管から光学迷彩外簑を取り出し身に付け、彼等を追跡する。テラスに負担がかかるから、なるべく慎重に揺らさないように注意しながら移動した。

悪漢達は、この街の貧困(スラム)地区に入っていった。その一つの家に入る。

俺はなるべく近寄って、中を確認する。なにやら怒声が聞こえる。


「何をやっている!貴様等は!」

「ですが、奴もあんなに強いとは思ってませんでしたし。」

「うるさい!黙れ!言い訳なぞ聞かん!」


横暴な男が、その悪漢を罵る。見たことある男だ。うん。


「いいか!あの銀髪の聖女を手にいれれば、エクシリオスで地位が手に入る。奴の隣にいる銀髪を必ず手に入れろ!さもなくば、わかっているだろうが!!」


その言葉に俺は怒りを露にした。込み上げる怒りを、手に込めた。


テラスを降ろす。地に足をつけ、なんとか立つテラスを見て、すぐに終わらせる、と決意する。


震脚!からの絶掌!小屋の壁を吹き飛ばす。急な出来事に慌てる男と悪漢。俺は素早く、短棍を急所に突き当て、気絶させる。


倒れる悪漢達。男は何が起きているのかわからないようだ。俺はそのまま拳を男の腹に入れる。くの字に曲がる男は、胃液を吐き悶絶しながら倒れ込んだ。


やり過ぎた?いや、そんな事はない。


そして男達を縛っておく。後はロイド男爵に任せるとして、衛兵を呼ぼう。回りの野次馬にチップを渡し、衛兵を呼ばせる。騒動に駆けつけた衛兵に事の顛末を話する。男達を逮捕し、拘留してもらう。


マリア達も心配だし、すぐに戻ろう。テラスは無事だな。良し。


「もう少し我慢してくれよ。」

「うん、大丈夫だよ。」


テラスを抱え、市場に戻るとした。少しだけゆっくり。でも急いで。


待ち合わせ場所には、ビビとマリアが待っていた。


「何処に行っていたのよ!もう!」

「ちょっと野暮用が出来てな。」


大した事はない。少しだけ掃除をしただけだ。


「まあいいわ。それより!いっぱい買ったのよ!これで少しの間は大丈夫ね。」


戦利品の様に大量の買い物を見る。まあ、すぐに無限保管に仕舞うのだがな。


「なんか新しいのはあったのか?」

「酢を見つけたわ。これで、魅惑の調味料が作れるわ。」

「魅惑?酢で?ああ、なるほどね。」

「なんの話?」

「料理の話。さ、一旦小屋に戻ろうか。」


俺達は買い物を済ませ、小屋へと戻った。





今日の夕方は、ケルト侯爵のお誘いを受けている。慌ただしく準備をする。


今回の招待は、晩餐だろう。と予測するのは容易い。だが、身なりは確りと、貴族らしい格好に着替える。


俺とテラスはすぐに完了、テラスのウィッグは外した。やはり彼女はこの方が良い。

ビビはドレスを拒否したそうだったが、無理を言って着せた。やはり、凄い破壊力である。俯くビビが愛らしい。

マリアは悪戦苦闘していた。おめかしに気合いが入り過ぎている。あまり気負うな、と言っても無理だろう。そのままでも十分に綺麗なんだが。こればかりは女の見栄だから、仕方ないな。手伝おう。


服を選び、着付けをする。食事がメインの招待だから、ウエストは締め付けないドレスにした。全部食べる訳ではなくとも、無理して食べるとは何か違うと思うからだ。


「それ?違くない?」

「これが似合うよ。」

「ソーイチさんがそう言うなら・・・。」


うん、素直なマリアもかわいいな。


こうして、準備も終わり、いざ、ケルト侯爵邸へ赴いた。





とりあえずは、豪勢な食事でもてなされた。料理長も腕によりをかけたのだろう。料理に本気度を感じた。

テラス、ビビは普通に食べていた。マリアはゆっくりと、鑑賞しながら食べていた。多分だが、鑑定しながら食べていたであろう。つまり、この料理を再現出来る可能性がある。素晴らしいね。

ケルト侯爵もご満悦であり、あのワイングラスを出しては、ワインを楽しんでいた。


食事も佳境。デザートを食べている時に、本日の招待者が口を開いた。


「ロイドから聞いたが、この地を離れるのだな。」

「あ、はい。準備が整い次第には。」

「ふむ、場所はドワーフの街だったな。」

「そうですね、彼等の鍛冶技術に興味がありまして。」

「まあ、良い。やるべきことは成せ。」

「わかりました。」

「今日は特別だ。セバス、準備を。」

「畏まりました。」


「本日は、振る舞うぞ。グラスを持て!」


俺制作のチートワイングラスを皆が持つ。いや、数が足りないのだが、テラスとビビ、マリアは普通のグラスを手に取っていた。


「彼等の旅路の安全を祈り、乾杯!」

「乾杯!」


ワインも上物。尚且つ俺制作のワイングラス。もうね、神の酒なんじゃないかと錯覚する。ワインとグラスに酔わさせる。


楽しく呑んでいるケルト侯爵とその家族達。こうしてみると、家族の暖かさを感じる。権力者でも見せる暖かさ。


いいね。本当に。


俺は、ワインを少しずつ飲みながら、彼等との会話を楽しんだ。





さて、お開きになったが、ロイド男爵に捕まるのは当然であり、俺も予測はしていた。

「ゼノスの件だろ?わかっているって。」

「知っている事は全部話してくれよ。」


そう、俺はロイド男爵の仕事を増やした。元商工ギルドマスター、ゼノス。彼の逮捕は、ロイド男爵としても朗報だろう。

事情聴取をするロイド男爵。俺はありのままを伝えた。


「銀髪でエクシリオスの地位狙い、貧困者を部下にし暴挙か。いろいろ彼も追い詰められた、と感じるね。」

「だな。エクシリオスに逃げなかったのは、徒党を組んだ貧困者達がいたからだろうか。ゼノスにとっては、居心地悪いからだろうな。」

「だがそれももう終わりか。完全な暴行を指揮した罪は、不敬罪よりも重い。強制労働者は確定だな。」

「奴にとっては俺達が疫病神に見えるだろうな。」

「間違いない。」

「あとは任せた。頑張れよ。」

「結果は気にならないのかい?」

「別にいい。今はドワーフの街に行く事が大事だ。」

「そうかい。」

「じゃあな。」

「元気で。」


俺達は、そのままケルト侯爵邸の準備された部屋に向かう。大きなベットに、四人が寝そべる。服を脱ぎ、解放感を味わう。


「忘れていたわ!温泉!」

「今から行くか?」

「行くー!」

「行きましょう。」


満場一致で風呂に向かう。先客はヒルリー婦人。


「来ましたわね。」

「この温泉を最後に楽しみたいですから。」

「そう、ね。」

「ん、どうかされましたか?ヒルリー婦人?」

「何でもないわ。ただ、貴殿方が羨ましいと思いましてね。」

「何故ですか?」

「自由、でしょうか。私には環境が其を選ぶことが出来なくなったのは仕方がありません。だからこそ、貴殿方がとても羨ましく感じるのでしょう。」

「旅の話や侯爵様への報告に戻る事もありますので、土産話を楽しみにしていて下さい。」

「そうね。わかったわ。貴殿方に無事を祈ります。」

「ありがとうございます。」


ふろにゆっくりと浸かり、身体をほぐす。広い浴槽に温泉だ。気持ちいいに決まっている。なので、少々頂く事にした。紫水晶に温泉水を吸い込ませる。凄い勢いで水を吸い上げる水晶は、だんだんと色が濃くなっていった。


必要量を吸わせてもらったし、これはもう良いな。上がらせてもらおう。


「では、御先に。」

「見送りは、盛大になりますからね。寝坊などせぬ様に。」

「助言、ありがとうございます。」

「肌油の件では感謝している。」

「いえ、それもまた縁ですよ。」

「縁、ですか?」



それからヒルリー婦人は風呂から上がった。俺達も上がる。部家に戻り、またベットに飛び込む。


「さ、寝ようか。」

「おやすみー。」

「おやすみなさい。」

「おやすみ。」


こうして、晩餐会は終る。明日はドワーフの町に向かう。どんな街かはわからないが、たぶん大丈夫だろう。


俺もゆっくりとまぶたを閉じて、柔らかい所に顔をつけて眠った。


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