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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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2-5 修行は大事


 いちゃラブは最高だ!


 だが、まだ、手は出さん。雰囲気に流されて、「おめでたっ!」なんて無責任な事にはなりたくない。この世界に来て、まだ1日。生活拠点も無く、生活はまともに出来てすらいない。そこに出産、育児・・・。


 結論、まだ早い。


 当然一緒にいるのは構わない。美女嫁とかサイコーだ。


 ならば、


「今日も一緒に頑張ろう。」

 と笑顔でテラスに話す。


「はい。一緒に。」

 笑顔で返してくれた。



 ああ、もう、かわいいな、チクショウ。







 村長と朝食を一緒にいただく。


 テーブルには、村長、婦人、息子、そして俺達二人で、5人いる。

 朝食は、トルティーヤ〈タコスの生地〉みたいなのと、芋のスープだった。

 質素感が伝わる。美味しくいただきながら、村の困窮事情を聞いた。



 この村、クコ村と言い、西にあるギズ伯爵領のダグ男爵が治めるダグ市から逃げてきたのだという。

このダグ男爵がトンでも悪政で、権威を横暴に奮っていたとか。市民や農従の生活は困窮していたようだ。

 命からがら逃げ出したクコ村の人達は、良主と噂名高いロレウス公爵領で村開拓をしたのだとか。

 それを知ったロレウス公爵は条件として、今の場所で、開拓が落ち着くまで無税のかわりに、自衛と自給自足を提示したという。

 クコ村は、ダグ市から徒歩で7日程の距離と言う。


 食料がよく持てたものだ。


 聞けば、荷車一杯に粟のような雑穀を大量に持ち出したようだ。

 クコ村長達は、ロレウス公爵の街に移住する事は出来なかったが、ダグ男爵から離れる事が出来れば良かったので、死ぬ気で開拓したのだという。


 そして噂を聞き付けたダグ市民逹が、クコ村に逃げ、開拓を手伝ったのだが、それを気に入らないダグ男爵はクコ村に対して圧力をかけてきた。


 初めは理不尽な暴力が行われたようだ。だが、クコ村長は事前の準備と決死の覚悟で対抗した。数回の襲撃後、パタリと無くなった。襲撃行動を聞き付けたロレウス公爵が、ダグ男爵に圧力をかけたと考えるに容易い。領主の縄張り争いを主に、村の防衛はついでの様な気はする。


 だが、ダグ男爵は南の隣国である、ドズワン帝国との戦争気運を理由に、王国軍を動かし、クコ村から強引に食糧と農機具全てを摂取した。


 絶望的だったが、クコ村は諦めなかった。

 近くの森や河にある石を使い、道具を作ってギリギリの生活を送っていた所に、俺達や、巨大熊とか・・・。


 いやはや、クコ村の人は逞しい。いや、それだけダグ市の生活は酷いのだろう。近づかないのは決定だな。



 回復師についてだが、奇跡の存在なんだと言う。

 理法〈魔法〉使いは少なく、その中でも回復を使える者は特にいないらしい。

 光や水には治癒促進はあるらしいが、即時回復は有り得ない事だった。


 成る程、そこにテラスの回復理法か・・・。


 それは崇めるな。


 それにあわせて、俺の理法か。俺のは違うんだかな。


 生活のどん底。更なる追い討ち。疲弊した肉体に精神。残すは気力のみ。


 巨大熊の襲来を奇跡的な展開で討伐か。


 これは、一歩間違えたら、勇者フラグの戦いの日々になる。テラスを危険な目に会わせるし、国や貴族の戦争の道具になってしまう恐れがある。と考えるのは容易だった。


 準備が整ったら、直ぐに御暇しよう。


 村長含め、村民全員に俺達の事は秘密にしてもらう事にした。理由として、ダグ男爵に利用される可能性があると話すと、クコ村長は納得して、箝口令を敷いてくれると言う。話が早くて助かる。



 朝食を終え、俺は道具を見せてもらった。


 長槍の先に石の刃とか、石器時代を思わせた。が、俺は、その石が気になった。


 黒色の石で、固く重い。密度が高いのか?


「これは、河原でよく採れる黒石を使っています。鉄のように鋳造は出来ませんが、固さは鉄より頑丈ですので、槍や弓矢、鍬先等に使っています。」


 なるほどね、再利用で別の道具には出来ないが、

有用な石のようだ。


「河原で採れるんですか?」

「はい、北に河があります。村の用水路を辿ると、半刻もあれば着きます。」

「そうですか、私は今日は河原に行ってみます。皆様はどうされるんですか?」

「私は、農作業ですね。まだまだ開墾しなければいけません。息子逹、若い衆は森で狩りをします。」

「では、何かありましたら、河原にいますので、呼んで下さい。協力は惜しみませんので。」

「そう言って頂けるとは。本当にありがとうございます。」


 頭を下げるクコ村長。


「お世話になっているのですから、当然ですよ。」

と、俺は笑って応えた。







 用水路の水源地は、東の森にあり、水を引っ張り畑に廻す。これは効率がいい。畑は思ったより広く、収穫出来れば、安定もするだろう。

 よくみればこの場所って、良立地なのかもしれない。水はもちろん、開墾して畑も作れる。森で狩りも出来る。

 畑を荒らす害獣とかもいるだろうが、そこは頑張ってほしい。

 あと、ダグ男爵の圧力があるから油断は出来ないな。このままでは、何かにつけて食糧を摂取され、同じ事の繰り返しになる。


 その為にも村力を上げなければいけないな。


 村人口、食糧事情、物流交易、自衛強化、問題は山積みだ。


 俺は、俺に出来る事を考えた。



 テラスは、珍しいものを見るように、目をキラキラさせながら風景を見ていた。

 ぱたぱたとはしゃぎまわり、急にしゃがんでは虫を観察していた。


 彼女というより、小さい娘だなぁ。


 と思ってしまうのは仕方の無い事だった。



 後ろから声が聞こえる。

「ゆ~しゃさま~!!」

 村の子供達だった。

「ゆ~しゃさま~、どこいくの?」

「ゆうしゃ、じゃなくて、ソーイチお兄さんと言いなさい。」

「あ、そうだった!ソーイチおに~さんはどこにいくの?」

「今から、テラスお姉さんと河に行くんだよ。」

「そ~なんだ!じゃあ、ぼくおさかなさんたべたい!」

「わたしも!」

「いっぱいとってきて!」

「おなかいっっぱいおさかなたべる!」


 あれ?魚採ることになってる。まぁでも、子供の期待は裏切ってはいけないな。


「いいよ、一杯お魚採ってこよう!」

「「「やったー!」」」


 両手を挙げてはしゃぐ子供達。もしもしテラスお姉さん、君まではしゃぐ事はないですよ?


「おと~さんとおか~さんのおてつだいしてくる!」

「たくさんだよ!やくそくだよ!」

 そう言って、子供達は畑に向かって、戻っていった。


 ん~、どうするか?


 籠とかないけど、たくさん持てるか?まぁ、採ってから考えるか。


 俺は子供達に手を降り、河原に向かった。テラスお姉さんは子供達についていく事はせずに、ちゃんと横にいたので安心しました。







 河原でする事。


 自分の能力確認

 魚採り

 だ。


 久しぶりに、護身拳法の型をする。

 呼吸法から始まり、突き、蹴り、体捌き、基本的な動きを確認する。うん、普通。今までと変わらない。

 次に、集中を込める。だが徐々に。丹田に気力を込める。


 軽い集中だけでも、動きが違う。


 突き一つにしても、空気を割くような音がする。蹴りも同様だ。体捌きは柳水のようにしなやかに動く。


 次に、集中を少し強めに込める。


 突き後、拳先の空間が歪んだように見えた。直ぐに収まったが、戻る瞬間のビキッ!という音に焦ったが、何も起こらなかった。


 本気はヤバイか?


 下半身に集中を込め、跳躍の瞬間、集中をする。


 軽くのはずが、10メートルほど跳んだ。

 落下の時は焦った。着地は、集中で事なきを得た。

 もう一度跳躍して、最高点の時に、もう一度集中を行い跳躍してみた。空間に足が乗り、そのまま二段跳躍が出来た。


 つまりは、

 通常の跳躍後、集中を展開する。場所は、足の裏だ。


 空中に浮くことが出来た。スゲェ。


 このまま空中散歩を少しだけして、地に足を着ける。


 開放は集中の流れを円滑にしているようだ。確かに、込めるだけでは機能はしないよな。


 次の掌握なんだけど、イメージでは、空間系と思ったが、何か違った。

 白の世界を掌握というから、空間把握かと思って気配察知とかやってみたけど、これ耳や鼻とか、感覚の集中と解放で出来たんだよね。違うのか?


 考えてもわからないので、気を取り直し、河に入って魚を採ることにした。


 股下位の水深なのに足を取られないのは、意外だった。下半身、重心の安定感がよくわかる。足の裏に大樹の根が張り巡らしているようだ。


 さて、魚はいる。俺は、手の届く魚を掬う。簡単に掬えた。けっこう大きい。鮎っぽいが、大きいのは鮭位の鮎が採れた。俺が熊になり魚を採るような感じなので苦笑してしまう。簡単に魚が採れるのが楽しくて、つい、多く採ってしまった。テラスが魚をツンツンしながら観察している。気味悪がらないのが救いだった。


 夢中になったら昼時になったので、魚を焼く事にした。


 近くの林で枯れ木を集め、石で竈を作る。火は、木を両手に持って、集中を利用しながらマッチのように擦ったら、点火した。イージーすぎる。


 大きい魚は捌かないと無理そうなので、林で拾った大きな葉に包み、小さな魚を枝に刺し焼く。


 その間に創造を試してみよう。


 河に落ちていた手の平大の黒石から小型ナイフをイメージする。

 後は、集中と解放を利用して、撫で剃る。手で石を削る事には驚く事はなくなっていた。空を歩けるのだ。石くらい削れるさ。

 切り出すイメージで削って、空間ごと切ったら危ないので、触れた部分から剃るように削った。


 半刻くらいで、ナイフが出来た。


 出来がそんなに良くない。これ、創造で創っていないのかも。


「ソーイチはいつも難しい顔をしている。」


テラスに言われた。


「おでこに皺寄せて、難しい顔をしている。なんで?」


 俺の額を指で押し指しながら顔を覗きこむ。

「あ、うん、考え事してた。」

「そうなの?難しい事なの?」

「いや、わからない事があってね。」

「そうなんだ。私にもわからない事なの?」


 あ!


 俺は、テラスの事を無視していた事に気付いた。自分の事は自分で、なんて独りよがりだ。一緒にいると決めたのに、話し合うとか言ってたのに、全部独りでやろうとしていた。


「ん、目が覚めた。ありがとう。」

 テラスの頭を撫でた。気持ちいい感触が、心を落ち着かせる。

 テラスも、

「エヘヘ。」

 と言いながら、頬をほんのり紅く染めていた。


 うん、かわいいは正義!



「掌握と創造の感覚がわからなくてね。」

 俺は、悩みを打ち明けた。

 俺が持つ力はテラスも知っている。白のテラスが教えてくれたのだから、当然だ。

「掌握は今でも使っているよ。」

「ん?どういう事?」

「えっとね、ソーイチの世界は掌握で安定してるの。」

「うん?そう?」

「それで、集中と解放も掌握を使っているの。」

「うん?」

「掌握があるから、ソーイチは力が使えるの。」


 あ!なるほどね!そういう意味の掌握か!


「要は、力あれ技術あれ、自分の能力を掌握によって管理する。そんな感じか!」

「そんなに難しく考えなくていいよ。掌握があるから出来る。無いと出来ない。でいいと思う。」


 基礎とか基本とか土台とか、そういう事か。


「例えば、掌握をもっと意識出来るようになったら、使える力が上がるのか?」

「出来るよ。ソーイチはまだ掌握したてだもん。」


 更に強くなるのか、俺?


「どうすれば、掌握出来るかな?」

「んっとね?一杯使って、コツを掴む?かなぁ?掌握を意識しながら、他も使う感じ?」


 何故疑問系?


「よくわかんないや。ごめんなさい。」

「いやいや、謝らないでくれよ。なんとなくだけど、光明を得た感じだから。」

「そうなの?なら良かった!」

コロコロ表情を変えるテラスを見る。


「あと、創造もよくわからない。」

「創造はね、んっとね?」


「テラスの名前とテラス様を使って、私がいるの。」


 なるほど、わからん。


「材料があれば、何でも創れると白テラスが言ってたんだけと、いまいちパッとしないんだよ。」

「テラス様の説明がそのままなんだけど、えっとね・・・」


 考え込むテラス。


「今欲しいものってあるの?」


 ん?欲しいもの?


「強いて言うなら、魚を運べる物かな?沢山あるし。」

 と言って大きな魚の山を指差さす。

「運べれば、何でも良いの?」

「ん、欲をいえば、楽に運べれば良いかな?」

「楽に運ぶって?」

「重さを感じないとか、手に持たなくても運べるとか?」


 うん、なんとなくわかってきた。


「例えばさ、魚を俺の世界に運んだら、白テラスは「邪魔」とか言って怒るかな?」

「ん?怒んないよ。邪魔でもないし。」

「そうなの?」

「うん。ソーイチの世界にはこの世界が一杯入るもん。だから邪魔になんかならないよ?」


 さらっと凄いこと言ってるよ。俺の世界スゲー。


「魚を保存場所は俺の世界として、移動はどうしよう?」

「ソーイチの世界だから、ソーイチで良いと思うよ。」


 つまり、俺を経由して、俺の世界に放り込む。しかも出し入れ自由、かつ、簡単に。イメージはゲームとかのストレージやインベントリだ。


 ならストレージ〈無限保管〉をイメージしよう。


 イメージは出来たけど、送るイメージが無い。

「うん、俺は良いとして、感覚がわからない。」

「じゃあ、魚の前に来て、手を添えて。」

 魚に手を添える。

 テラスが後ろから抱き付く。

 柔らかいのが背中にあたってます。ありがとうございます。

「私が道を作るから、ソーイチは入れてみて。」


 すると、徐々に世界が白くなっていく。テラスに連れて行かれるように、世界が俺の白い世界に変わっていく。


 そしてまた徐々に、色彩ある通常世界に戻っていく。


 俺は目の前にある魚の山を、俺の世界に送るイメージをする。


 それは一瞬だった。目の前から魚の山が消えてしまった。


 そして、手から一匹の魚を出すイメージをする。


 目の前に魚が表れた。


 スゲッ!


 手を添え、また送る。


 魚が消えた。


 スゲー!!


「出来た?」

「ああ、出来た!スゲーよこれ!」

「良かった!」


 ぎゅっと抱き締めるテラス。本当にありがとうございますありがとうございます。


「これを掌握で使えば?」

「うん、もっと簡単に出来るよ。」


 これが創造。なんてチート。確かに創った。常識じゃない、イメージは補佐。手段と方法の結果論。神の一端の力。材料があれば何でも創れるの意味。


 スキルを創造したのだ。


「ありがとう、テラス!力の意味が良くわかったよ。」

「役に立った?」

「ああ、テラス偉い!」

 俺はテラスを抱き締め返した。


「エヘヘ。」


 創造=想像、常識に捕らわれないものの発想が、この力の根源だ。何でも創れる。そう、どんなモノでも!


「じゃぁ、あのね、ご褒美が欲しい。」

「ああ、何でも言ってくれ。何でも創ってみせるさ!」

「うん。ん。」


 えっとね?それは?


「テラス様とはキスしたのに、私にはしてくれないの?」


 あれ?


「あ、はい。」


 俺は、回りを確認してから、テラスと唇をあわせる。

 テラスの唇の柔らかさに興奮が!欲情が!溢れる!溢れ出る!!落ち着け!掌握だ!抑え込め!


 ・・・なんか、スンナリ落ち着いた。結果論だが、掌握もなんとなくわかった。


 唇を離し、テラスを見る。真っ赤になって抱きついて来た。


 欲情を抑え込むのに、掌握の練習になるとは思わなかった。



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