4-28 ラフレ助祭
五日後、エクシリオス教のラフレから連絡が届いた。西の村の賠償品の準備が整ったという。
直ぐ様俺とロイド男爵は、エクシリオス教の教会に向かう。今回テラス達は留守番だ。
「例の女史に会って見たかったんだけどな。」
「悪い、今回は留守番な。」
「わかりました。お帰りお待ちしております。」
「気をつけてね。」
「ああ、気をつけるさ。じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。」
三人の嫁のお送りを背に、俺はブライアンが行者する馬車に乗り込む。ロイド男爵も同行し、向かうはエクシリオス教の教会。一抹の不安はあるが、俺は俺の仕事の完遂するために向かうのだった。
★
エクシリオス教の教会に到着する。準備が整っているのか、ラフレを筆頭に、回りには入信者が多数揃っていた。その背後には賠償品の山が鎮座する。
「お待ちしておりました。ロイド男爵。」
「そちらも素早い準備だな。」
軽い挨拶の後、今回納める倍賞の確認をする。
金貨の確認はロイド男爵の従者が務め、ロイド男爵はその確認をする。俺は賠償品の確認だ。
市場価値がわからない以上、ロイド男爵の従者に頼りっきりだが、貴族自らが値踏みをするような状況ではない。出来る人にやってもらう方が良い。
賠償品の量はかなりある。金貨十枚ともなると、その量は半端ない。あまり品質は良くないのは、数より量を選んだのかもしれないな。これならば無限保管の副作用があっても、丈夫になるだけだろう。それにしても、馬車の荷台で運ぶにしても、何台いるか考えたくもない。
「なあ、本当に俺が運ぶのか?」
「馬車を調達するだけでも大変なんだ。その不思議なポケットで簡単に運んでくれよ。」
俺が危惧しているのは、その不思議な力を見せても良いのか?なんだがな。
「君の不安は杞憂だよ。この世界にはアイテムボックスってゆうスキルが存在するからね。」
(こんなには入らないけどね。)
「うん?なんだ?」
「何でもないさ。」
今回はロイド男爵の言葉を信じるしかないか。あまり目立ちたくはないが、この賠償品はさっさと無限保管に放り込んでしまおう。
「ところで、この品物ですが、どの様に運ぶのですか?馬車が見当たりませんが?」
ラフレ女史の言う事ももっともだ。
「それは、彼が運んでくれるさ。」
飄々と語るロイド男爵。片っ端から無限保管に品物を吸い込む風景に、入信者からはどよめきが起こっていた。
「アイテムボックス、ですか?」
「彼は特別な、ね。」
「そう、ですか。」
入信者の慌てふためきとは対称的に、ラフレ女史は落ち着いている。なんというか、胆力の差なのか、年齢の差なのか、さだかではない。
全ての賠償品を無限保管に突っ込んだ。かなり大量だったが、俺達の小屋が入る位なのだから、これくらいは楽勝だろう。最大容量が知りたくなったが、無限、の言葉を信じるならば、実験はしない方が良さそうだ。
「これも神の導き。」
手を合わせ握りしめるラフレ女史。続いて入信者もしゃがみこみ、同じ祈りのポーズをする。
なんかやりにくい。神の導きとか何とか言ってるし。なんとなくだが、テラスを連れてこなくて正解だったかもしれない。彼女の神秘さは、宗教的にはドンピシャだからな。認知され余計なトラブルを招いたかもしれないからな。
「よし、確認も終了だ。では、今後、エクシリオス教は西の村には入らないように。勿論、謝罪名目も無しだ。」
「謝罪が出来ないほどの罪をおかしたのです。ですが、この謝罪文だけはご容赦して頂けませんか?」
「・・・、わかった。それならば許そう。」
「ありがとうございます。」
蝋で封印された手紙をロイド男爵に渡すラフレ女史。その行動にロイド男爵が譲歩する。ラフレ女史が深々と感謝をする。一つ一つの行動に真摯を感じるのは、ラフレ女史の想いが詰まっているからだろう。
「良いのか?」
「これくらいは良いだろう。ちゃんと謝罪した証拠は必要だしな。」
「証拠、ね。確認しないのか?」
「それは西の村でするさ。村人が文字を読めない可能性も考慮してな。」
ここで開封して、謝罪文に不備があって返却となれば、入信者から不評を買うだろう。ここではあまり荒事は好ましくないこの状況だ。ロイド男爵もそれをわかっての行動だろう。
ロイド男爵はエクシリオス教を貶める行動はしない。確かに世話になった恩義はあるだろうが、今やケルト市の繁栄の一端を担っているのだ。ここで、関係を悪化させるのは悪手だろう。
「では、行こうか。」
「貴殿方にエクシリオスの御加護があらんことを。」
深々と礼をするラフレ女史。その姿に、何故か神秘さを感じずにはいられなかった。
★
「感想を聞こうかな。どうだった、彼女は?」
「何て言うか、ただならない人だと思うよ。」
馬車の中。ロイド男爵と会話する。勿論、内容はラフレ女史だ。
「彼女はね、良くも悪くも聖教者なんだよ。」
「良くも悪くも?」
「彼女の信仰はね、それだけ一途なのさ。そんな彼女に何かしら影響受けただろ?」
それは図星だ。ラフレ女史の存在感、神秘的な振舞い。目を奪われるのは容易だ。
「あれが彼女の武器さ。騙す事はしないが、騙されてはいけない。彼女はね、全ての行動はエクシリオス教を中心にしている。君も巻き込まれたら、ひとたまりもないよ。」
「意味がわからないな。」
「盲目になるよ。それこそ、神に魅了される、というやつさ。」
「宗教詐欺、か?」
「違うよ。詐欺じゃない。金品なんか関係ない。本気になるんだ。全てをエクシリオスに委ねてしまうのさ。」
それは、怖いな。エクシリオス教、いや、全てはラフレ女史の掌の上というやつか。
「俺はね、そんな彼女の一途さに恐怖したのさ。だから、エクシリオス教から去った。洗脳されなかったのは、前世界の記憶があったお陰だな。」
「洗脳してるのか?」
「俺はね、彼女の行動一つ一つに洗脳効果があるとおもっているよ。ただ、彼女が行動は無意識の中にしているだけなんだよ。」
「無意識に?」
「しかも、悪事をしないからな、尚更彼女は人の心に入りやすいのさ。全てはエクシリオス教の教えに殉じている。」
魅了、洗脳、を無意識に、か。俺が持った違和感はこれが起因しているのかもな。
「彼女の行動原理は、エクシリオス教の普及だ。金儲けではない。だから色々な意味で、彼女は危ないんだ。」
「なあ、聞いていいか?」
「なんだい?」
俺の問いにロイド男爵が答える。
「狂信者は、ラフレ女史の兵隊か?」
「いや、違うよ。あれはラフレ女史に侵されて暴走した教徒さ。彼女に起因するが、勝手に暴走しているのだから、質が悪い。全てはエクシリオスの為。だから何でも許される、と真剣に思っているのさ。エクシリオス、いや、ラフレ女史の優しさに心が溶けた脱落者さ。」
全てはエクシリオス教の為、か。ラフレ女史の私兵ではなく、勝手な暴走なのか。確かにね、ラフレ女史の魅了は、人を壊す可能性はあるな。だけど、な?
「彼女は意識していないのか?自分が、暴徒を産み出していると思っていないのか?」
「これも神の試練、らしいよ。だから彼女はトップに立たずに、助祭の地位にいるようなんだ。」
意識はある。だが、利用はしない。全てはエクシリオスの為。
確かに、怖い人物だ。要注意も頷ける。
「彼女は、言わば光の導きなのさ。真っ直ぐで、暖かくて、明るくて。そんなものを見せられたら、魅せられるのは当然の結果さ。」
違和感は、ラフレ女史自身の存在感。影が無い所なのかもしれないな。
「で、これからケルト市はエクシリオスとラフレ女史とどういうつきあい方をするんだ?」
「放置、だよ。彼女は悪行は絶対にしない。トップを監視し、木っ端を取り締まる。それだけさ。」
ロイド男爵は飄々と語る。これには解決はない。と言っている。消化不足だが、こればかりは仕方がないな。
「さて、西の村が近付いたよ。説明に謝罪品の分担、やる事はまだまだあるからね。指示出し、頼んだよ。」
「わかったよ。」
西の村に到着するやいなや、俺は仕事でてんてこ舞いする事になった。
★
「だだいまー。つっかれたー!」
「お帰りお疲れ。大変だったみたいね。」
「お帰りー!」
「お帰りなさい。」
俺は西の村の仕事を終えて、小屋へと戻った。テラス達が出迎えてくれた。やはりここが俺の帰る場所と改めて思う。夕食の準備も万全のようだ。
「ん~?」
「どうした、テラス?」
「ん~ん、いつものソーイチだなって!」
「はい、穏やかなソーイチ様です。」
「うん、いつもの寝ぼけた貴方だわ。」
マリアさん、酷くない?
「胸の支えは取れたのかしら?」
「そうだな。原因はわかったよ。」
俺はリビングに移動し、堅苦しい服を脱ぐ。いつもの作業着に着替えて、遅めの夕飯をとる。
「いただきます。」
並ぶ食事はいつもの家庭料理。だが、それが良い。美味しい料理をどんどんと口に運ぶ。
「それで、どうだったの?」
マリアが聞いてきた。気になって仕方がなかったのだろう。
「色々忙しかったよ。整理してから話すよ。」
俺は、美味しいご飯を食べながら、今日一日の出来事を話す。
ラフレの事。ロイド男爵の行動。西の村の雑多な働き等々。
「成る程ね、その魅了に当てられてた訳ね。」
「無意識に抵抗していたから、なのかもな。ラフレ女史は光そのもの。影が無いから、違和感に感じたのかもしれないしな。」
「正に聖人君子か。厄介な人ね。」
「まあ俺の隣には、それ以上の魅力的な人が三人もいるからな。当て付けられなかったのは、それじゃないか?」
「ばっ、馬鹿!」
「マリア、顔真っ赤だよ。」
「でも、嬉しいです。はい。」
魅了より、魅力が勝った、なんて言ったら、またマリアが真っ赤になりそうだ。もう言わないけど。
「それで、西の村は?」
「それはね・・・。」
西の村の賠償品の分担はまだ楽だった。どちらかというと、西の村とエクシリオス教に深い溝が出来たのは当たり前だ。不可侵を前提に話をしたが、村の人は、疑心暗鬼になっていた。それを解すのに苦労した。
ラフレの手紙には謝罪と不可侵の約束が記されていたが、村の人は、それを信じなかった。それどころか、賠償品に八つ当たりする者も出る始末。
まあ、気持ちはわかる。だが、物に罪はない。
「確かにね。なぶられ、犯されだもんね。普通なら、交流を断ち切る位は憤慨しても仕方がないわよね。」
「納得も理解も無理だったよ。後は、傷が癒えるまで何かしらが必要だろうな。」
「それで、何をするの?」
「それは、ケルト市がする事さ。俺の出番はないよ。」
そう、放置するなり、減税するなり、何かをするのはケルト市がする事だ。俺がでしゃばる事ではない。
「なんか、スッキリしないわね。」
「それな。」
消化不良なのは、俺の関与が中途半端だからだ。いや、ケルト市と西の村、エクシリオス教と、俺にとっては、他人の出来事であり、対岸の火事にも似たような事だ。対岸を中途半端に渡ろうとして、火の粉を被った。だからだろう。
「まあ、後は草原小人との交渉だな。ドワーフと交流を持つケルトなら、異種族との関係も確りやってくれるだろうさ。」
「あなたが仕切るんじゃないの?」
「やっぱり、そうなるよね?」
「あのね。」
正直今回の出来事でやる気がなくなっている。疑心暗鬼の村人、警戒する草原小人、それにケルト市の面々。頭が痛くなる。
「ま、頑張りなさい。ここで辞めたらそれこそ中途半端よ。」
「だな。頑張るよ。」
食事も終わったし、風呂に入ってゆっくり休もう。今日は精神的に疲れた。
「風呂に入るか。今日はちょっと癒されたい。」
「お風呂ー!」
「ちょっと、テラスちゃん!ここで服を脱がないの!」
「では、行きましょう。」
そして俺は至福の時間を過ごすのだった。




