4-25 女の性(サガ)
やっとこさ更新です。
今回はマリア視点です。
つらい。
この空間が、雰囲気が凄くつらいわ。
テラスちゃんやビビさんは平然としているみたいだけど、私には耐え抜く自信がない。
目の前にヒルリー婦人がいる。コルセットで胸を持ち上げ、小さめのショーツを身に付け、透けているレースのショールを纏い、寛いでいる。
半裸の格好なのはいつもの事なのに、あらためて対面すると、婦人の異様さを感じずにはいられなかった。
齢、90歳は越えている筈。けれど、見た目は40代といった所。肌の照りが綺麗さを際立たせている。正直羨ましい。これ見よがしに肌を露出させているのは、自信の表れなのだろう。正直、引いている。
「あら、緊張しているのかしら?」
「いえ、そのような事は・・・。」
「そう?折角の時間ですもの。貴女も寛ぎなさい。」
出来るか!妖怪を目の前にして、いや、そうじゃなくて、この異質な雰囲気を作り出すヒルリー婦人を目の前にして、寛げる筈がないわ!
「そういえば貴女は、ヴェルケス出身だったかしら?」
「は、はい。」
「そう・・・。」
伏せ目になるヒルリー婦人。
「私の元夫で苦労をかけたわね。」
「いえ、大丈夫です。」
嘘です。結構恨んでいます。悪政(あいつの説明で少しだけ解釈を改めた。)とまではいかなくても、圧政を強いて強欲を満たそうとしたのは許せる訳がない。・・・違うわね。私は、強制連行の悲惨さを知らないけど、その事でおばあちゃんに辛い想いをさせたのは絶対に許さない!
「本来なら一族処刑で、私も死んでいた筈なのですがね・・・。」
リューア伯爵は化け物にとりつかれていた。これが悪政の原因とされ、化物退治で落着。一族に責任問題が発生しなかった。いや、させなかった?のような気がする。権力よね、やっぱり。
ヒルリー婦人には、子がいない。リューア伯爵に側室や給仕の夜伽もなく、後継者がいないのは周知の事実。ヒルリー婦人を追放させただけでこの件をうやむやにしたかに思える。
私としては、許さないけど、根に持たない事にした。解決はしたし、晩餐会でアイツを助けた訳だし。結果論ね。
「生きているのは奇跡なのか、当然なのかと聞かれたら、私は当然と答えるわ。」
え?何いってるのこの人?この流れと関係ないわよね?
「私は、まだ死なない。死ねない。子を産むまではね。子を産んでこそ女よ!貴女達もそう思わない?」
見栄っ張り!凄い見栄っ張りだ!知ってたけど、再確認したわ。まあ、気持ちはわかるけどね。
「うん、ソーイチの子は欲しいよ。」
「そうですね。私もいただきたいです。」
「そうでしょ、そうでしょ!貴女は?」
「は、はい、私は・・・。」
言えるか!恥ずかしい!
「あら?どうしたのかしら?顔が真っ赤よ?」
微笑むヒルリー婦人に少しムカついた。わかっているくせに、弄ってくる。
「ほ、ほ、欲しい、です。」
あーー!!もう、恥ずかしい!!何でこんな告白しなきゃいけないのよ!クスクス笑うヒルリー婦人が更にムカツクわ!
うんでも少しスッキリした。想いを口にしたからかもしれないわね。いや、行為はしているから口にする事はしなくてわかってくれていると思っていたからかもしれないから口にはしていなかったけど話すとこんなに気持ちが楽になるとは思わなかったわ。
・・・恥ずかしいけどね。
「緊張は解れたかしら?」
優しく微笑むヒルリー婦人。
でも、
騙されませんよ。解れましたは結果論でしょ。絶対にこの人は私を弄ってくる。間違いないわ!
「少しずつですが、慣れてきました。」
「そう、それは良かったわ。まだまだ時間はありますし、貴女方の話も聞きたいわね。」
あれ、これは私が頑張らないといけないのかな?
ビビさんはいいけど口数は少なめだし、テラスちゃんには不安があるわね。何をしでかすかわからないわ。ここで怖じけずく訳にはいかないわね!気合いを入れなきゃ!
これから、和やか?な、お茶会が始まるのだった。
★
「女はね、男を虜にするのが性欲なのよ。目当ての殿方以外にも優しくされたいのは性ではないかしら?」
「それはヒルリー様だけではないのですか?」
「あら?貴女は優しくされたくないのかしら?」
「下心は要りません。紳士な対応だけで充分です。」
ヒルリー婦人の見栄っ張りにはついていけないわ。この人、性欲の塊ね。淫乱にすら感じるわ。
「あら、貴女は殿方に抱かれたくはないというの?」
「決めた相手、特定の男性だけで結構です。周りの色目には不快感しかありません。」
「勿体無い。多数の男性の想いを受け止める快感は、女の特権というのに。」
ビッ○発言は止めて頂きたい。これが侯爵家の血縁とは考えたくないわ。いや、逆に納得したかもしれないわ。貴族は一般市民とは違う世界の住人なのよ、きっと。
「貴女達もかしら?」
「私はソーイチ様一筋ですので。」
「ソーイチ、泣いたり怒ったりするから嫌だな。笑ってるソーイチが好き。」
「つまり、あいつだけ、という意味です。」
ビビさんは直球だし、テラスちゃんの不思議ぶりも箔が着いてきたわね。
「勿体無い。貴女達も私ほどではないにせよ綺麗なのに、それを生かさないなんて。」
人が皆、同じ性癖と思うな!あんただけだっつの!
「それで、同じ殿方を愛した3人。正妻は誰なのかしら?」
!!!
私はこの言葉に息を詰まらせる。第一夫人。私はどす黒い感情が胸の中で暴れるのを感じた。
シタリ顔のヒルリー婦人。急所をついた手応えを感じたのか、私に悪意ある笑みを見せつける。
正直、聞かれたくなかった。比べられたくなかった。テラスちゃんやビビさんのように綺麗ではない、胸もない、肌もぼろぼろ、見劣りする私。それで、妻に順番まで付けられたら、私は間違いなく第三夫人。第三夫人・・・。第三・・・。
・・・やだな・・・。
「あら?どうなさったの?顔色がよろしくないわね。」
む か つ く !!!
胸のどす黒い感情を作り出した張本人が、悪意の笑みで余裕をかましている。
「あら恐い顔。」
やばいやばい、挑発!これは挑発よ!落ち着きなさい私!また、同じ事を繰り返すの?
「ねぇマリア、正妻って何?」
「え、あぁ、第一夫人の事よ。」
「あら嫌だ。違うわね。アオバ男爵が3人の中で一番愛しているのは誰か?と聞いたのよ。」
知っているわよ!敢えてずらしたのに、直球ぶちこんでこないで!
この言葉にビビさんも動揺したのか、尻尾が垂れ下がってしまった。
どす黒い感情が沸き上がる。私自信、気がつかなかった感情が芽生える。
そうよ。一番に愛されたいわよ。独り占めしたいわよ。テラスちゃんもビビさんも好きだし、一緒にいたいけど、私は女だもの。一人の男を愛したんだもの。優劣や順番なんかつけられたくない。一番に愛されたい!独り占めしたい!
やばい、泣きそう・・・。
「ソーイチは皆を愛しているよ?」
テラスちゃんは優しく語る。それは、私の胸のどす黒い感情を洗い流すかのような優しさを感じた。
「あら?では、貴女が一番に愛されているのかしら?」
「ううん、一番じゃない。皆一緒なの。」
「その言葉だと、アオバ男爵は皆平等に愛していると言っているのかしら?」
「平等じゃないよ。違うよ。」
「おかしな事を言うわね。貴女には独占したい欲はないの?自分一人だけ愛されたい欲求とかはないの?」
ヒルリー婦人の直球にテラスちゃんは少しも動じない。それどころか、違和感を感じるわ。
「私は愛されてる。ソーイチに、ビビに、マリアに。」
「だから、そのアオバ男爵の愛を自分の物にしたくはないのかと聞いているのですよ?」
話が噛み合っていない。違和感はこれね。
「してるよ。独り占め。皆の愛をもらっているよ。」
「どういう、意味かしら?」
ほんの少しだけど、ヒルリー婦人の顔色に変化を感じた。テラスちゃんの感性についていけないのか、理解出来ないのかはわからないけど、苛つきを表した。左頬がひきつり上がっている。
わかった!違和感の正体。それは愛の価値観の違い。
「ヒルリー様は恋心、テラスちゃんは無償の愛情を語りかけています。話が噛み合うわけがありません。」
「つまり?」
「はい、テラスちゃんは愛にたとえ不公平があっても、愛する事も愛される事も愛には変わらない、と言いたいんだと思います。その中に、個別に沸き上がる欲ではなく、全体的の欲、つまり私達四人で1つの愛を受けていると言いたいのだと。」
「エクシリオスの聖人様みたいな事を言うわね。」
「テラスちゃんには、独占欲はありません。」
「えっ?あるよ。」
え?まさかの否定的発言。
「私は、家族を独占してるの!」
はは、参った。あいつがこの言葉を聞いたら、絶対にこう言うわね。
テラスには敵わない。
「ほほ、ほほほ。確かに、強欲なまでの愛情ね。」
テーブルのお茶を啜るヒルリー婦人。自信の色欲以上の強欲を目の当たりにして、動揺しているのかしら?
「貴女達も同じなのかしら?」
「家族が一番です。」
ビビさんの言葉少な目が、決意の表れに感じたのは私だけかもしれない。
「私も、皆を、家族を愛して愛されたい。そこに順番はないんです。これは理屈ではないんです。」
そう、理屈ではない。説明出来ない感情。相思相愛複数人なのだから、説明出来る訳がない。理解出来ない人は出来ないだろう。
「・・・妬けるわね。」
「何か?」
「何でもないわ。さ、そろそろ終わりにしましょうか。殿方が泣きべそ面で帰ってくるから、励ましてあげないと。」
「泣きべそ、ですか?」
「相手はラフレよ。小僧に勝てる相手ではないわ。グランなんて小物ならいざ知らず。貴女達も愛しの旦那様を励ましてあげなさい。それとも、励まし方を教えてあげましょうか?特に夜の。」
「結構です。」
最後にセクハラとは。ヒルリー婦人も大概だわ。
でも、泣きべそ面か。想像できない。あの自信家のあいつの泣き顔か。ちょっと見てみたい。
「夜の励まし方?」
「テラスちゃん、そこに食い付かないで!」
「マリア殿は意味がわかるのですか?」
「教えて教えて!」
「あら、勉強熱心ね。給仕の一人を呼んで教えてあげましょう。」
「結構です!!」
知りたがりの二人にノリノリのヒルリー婦人。勘弁して欲しい。
「マリアだけ知ってるなんてズルい!」
「後で教えるから!」
やったことないけどね!
「あら、帰って来たわね。玄関まで迎えに行きましょうか。」
ヒルリー婦人が立ち上がり部屋を出る。私達も後をついていく。
「テラスちゃん。」
「ん、何?」
「ありがとう。」
「?」
胸のどす黒い感情は全てなくなり、晴れやかな気持ちになった。これなら笑顔であいつのお迎えが出来そう。
早く会いたいな。
焦る心を落ち着けながら、私達は玄関に向かうのだった。
投稿不定期です。ご了承下さい。




