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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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4-23 村の守り神


 村の中心、集会所。


 昼間から、騒がしい声が響く。


 白のローブに身に包む者や、農従が着るような質素な服を乱雑に着こなす者もいる。片手には果物酒、半裸の女性がお酌をしていた。


 片隅では、悲鳴ともとれる喘ぎ声と、男性共の下品な笑い声。


 また、全裸の男性が棒状の何かで必要以上になぶられている。男性はあまりの苦痛に意識を失っていた。


 この世の地獄を体現する奴等は、エクシリオス教の僧と自警ギルド員の連中だ。

 ヒトのタガを外し、己の欲望と快楽を村民にぶつける。反抗を許さず、反発者は直ぐ様に刑という体罰を行っていた。下品な笑いの中行われるそれは、ヒトの所業とは思えない程残忍で、畜生に堕ちたとしか考えられないものだ。


「泣け!喚け!楽しませろ!」

「はははっ!汚ねぇこいつ、漏らしやがった!」

「酒だ!飯だ!持ってこい!」


 地獄を楽しむ奴等は、もはや、ヒトではなかった。


 その折、一人の青年がその雰囲気を壊すほどの大声を挙げ、乱入する。


「ば、化物だ!西で化物が村を襲っている!」


 この言葉に奴等は反応が無い。まるで関係無いように、自身の快楽に没頭する。


「な、何をしてんだよ!あんたらはこの村を守るためにいるんだろ!」

「うるせえよ、てめぇ!」


 一人の男が青年に拳を奮う。あまりの強さに仰け反る青年。


「化物が出たって行ってるだろ!何をやってんだよ、あんたらは!」

「だからどうした?」


 奴等は大義名分を忘れた。そう、己の快楽は当然の権利となったようだ。


「村を守る約束だろ!」

「知らねぇっていってんだろ!」


 蹴りを青年の腹に打ち込む。反動で吹き飛ぶ青年。あまりの苦痛に呼吸が荒れる。


「ま、守らないのか?この村を!」

「化物?そんなもの来るわけねぇじゃねえか。」


 僧の一人が叫ぶ。この辺りには化物はいないと知っているかのように。


「実際、襲っているんだよ!」


 青年の怒声に一瞬怯む奴等達。


「ならいい!もうあんたらには頼らない!化物を倒したら、次はあんたらだ!」


 腹を抱え、集会所を抜ける青年。村の家々を回るのだろう。


「ば、化物?」

小鬼族(ゴブリン)じゃないのか?」

「くそっ、どんなのか聞けばよかった!」

「次は俺達?笑わせる!」

「だが、その化物が村民を皆殺しにしたら?」

「法螺に決まってんだろ!馬鹿馬鹿しい。」


 集会所に動揺が走る。意識ある村民女性は逃げ出したのだが、その事には気にも止めない奴等。


「様子を見てこい!」

「は、ふざけんな!僧侶が命令するな!」


 とっくに統率がなくなっていた。命令上位はもういない。


「貴様!我がエクシリオス教に逆らうのか?」

「だからなんだ?似非宗教!」

「き、貴様!」


 お互いの行為を棚に上げる。化物の言葉に疑心暗鬼にかかる奴等は、酔いを急速に冷ましていた。


「聞け、貴様ら!化物がいたら討伐すれば良い!それがすんだら、村民も文句は言えんだろう!」


 僧の欲望にまみれた言葉だ。成すべき事は快楽であり、本来の目的は次いでと言っているようなものだ。


「貴様に言われる筋合いは無い!だがな、化物を倒したら、次はあんたらだ!」

「き、貴様!その言葉、わかっているのか!」

「化物に喰われた!その理由で充分だろ。」


 持つ剣を僧に突き刺すギルド員。その光景を見て、残りの僧は逃げ出した。


「追え!逃がすな!」


 数名のギルド員がエクシリオス教の僧を追いかける。身のこなしを考えれば、捕縛は容易いだろう。


「邪魔は消えた!化物退治に行くぞ!」


 残りのギルド員は装備を整え、集会所を出る。



 これでこの村は俺の物だ!誰にも邪魔はさせねぇ!


 不敵な笑みを浮かべ、ギルド員達は村の西に向かって行った。







「ば、化物・・・」


 一人のギルド員が腰を抜かす。あまりの恐怖に身を震わし、汚水を垂れ流す。


 前方にいるその化物。


 あまりの大きさにギルド員に混乱が生じていた。



 麦畑に円形の巨大な砂漠。そこから顔を出す巨大砂漠百足。全長10メートルはあろうその化物は、的確にギルド員達に襲いかかる。



 あるものは、巨大砂漠百足に立ち向かうが、傷ひとつ付けられず、弾かれる。そのまま体当たりをされ、吹き飛んでしまう。

 あるものは、遠距離からの弓矢で攻撃するが、これも弾かれる。その後、謎の攻撃により、倒れ混んでしまう。

 あるものは、その恐怖から逃げ出す。だが、足が縺れたのか倒れ混み、巨大砂漠百足の体重に押し潰される。


 蹂躙であった。


 的確に、ギルド員だけを襲う巨大砂漠百足。



 村民は遠くから見ているだけだ。襲われる事はなかった。


 残り一人。恐怖に震え身動き出来ないギルド員。青年を蹴り飛ばし、僧を刺し、他のギルド員を焚き付けた男。


 剣を両手に持ち構えている。がたがたと震えが剣にも伝わり、もはや先程の勢いは無い。


 し、死ぬ・・・・・・・・・・。


 絶望を味わい、死神を見続ける男。


 だが、


 その絶望から救われる。


 巨大砂漠百足が突然と千切れ倒れ混んだのだ。



 何が起きたか解らない男。目の前にいた、小さな生き物がいるだけだ。


 身の丈1メートルはない短身長。肌は緑で、耳は少しだけ尖っている。


「ゴ、ゴブリン・・・。」

「あんな下等生物と一緒にするな!」


 座り混んでいる男の顔を蹴り上げる。意識を失う男は倒れ混んだ。


「ふん、こんな茶番に付き合わされると思わなかった!」


 そう、茶番である。だが、茶番に感じるのは、ソーイチ達と、草原小人(グラスランナー)だけだろう。村民は何もわからず命懸けだった。


 そして、その茶番は終了した。







「巨大砂漠百足に村を襲わせるから、撃退してくれ。」


 俺の言葉に、ダンデは目を丸くする。


 巨大砂漠百足は草原小人の敵である。草原を砂漠にする害獣。天敵ともいえるかもしれない。


「本物の砂漠百足の撃退じゃないから安心してくれ。使うのは、前に倒したやつを使うから。」

「意味が、わからないのだが。」


 説明しよう。


 今回の茶番は、巨大砂漠百足をだしにして、守役を作り出すのだ。

 巨大砂漠百足は空いた穴を布で修復して、操るのだ。勿論操るのは俺だ。


 糸を通して、操り人形にする。細かな動きは出来なくとも、あんな大きな化物に襲われるのだ。ばれる事はないだろう。


 操るのはいいが、どうやって?


 久し振りに、創造を使い、あるものを創った。


 外套光学迷彩仕様。


 人の眼は、可視光線の反射で、網膜に写し込み物体を認識する。

 ならば、その可視光線を反射阻害、もしくは透過させればいい。

 可視光線阻害に成功し、俺は透明人間になった。


 折角なので、女性陣に試してみたが、


 テラスの場合。

「見えるか?」

「わかるよ。ここでしょ。ぎゅー!」


 抱き締められた。


 ビビの場合。

「見えるか?」

「見えませんが、匂いと気配でわかります。此方ですね。失礼します。」


 ビビにも正確に把握され抱き締められた。


 マリアの場合。

「視えるわよ。」

「ですよね。遠慮なくどうぞ。」

「馬鹿。」


 マリアにも抱き締められた。


 女性陣には通用しないようだ。だが、ビビの見えません、の言葉に透明化は成功している。


 後は、空から巨大砂漠百足を操るだけだ。


 そうして、草原小人が巨大砂漠百足を討伐する場面を創った。



 青年には呼び出し役をしてもらう。補助にはビビを忍ばせた。西に行かない奴等の拿捕をお願いした。


 マリアとテラスには、ロイド男爵とアパラを呼んでくるのを頼んだ。


 俺は、チートで西の畑に大穴を空け、無限保管に入れていた砂を流し込み、操り巨大砂漠百足を忍ばせる。俺は光学迷彩で上空待機する。


 後は、自警ギルド員とエクシリオス教を痛めつけるだけだった。近接には体当たりで、遠距離は拾った石ころの指弾をお見舞いする。逃げる奴等もいると考えられたので、麦畑に罠を仕掛けた。藁を括り輪にしただけの罠。無数にあるし、麦で隠れているため、簡単に引っ掛かった。

 この場にはエクシリオス教は来なかったようだが、ビビが拿捕をしてくれているだろう。


 光学迷彩を解き、地上に戻る。


 ダンデに労いの言葉をかけ、この場での待機をお願いした。

 無言のダンデ。承諾したと受け取る。


 しばらくして、テラス達が客を連れてきた。


 辺りを見回すロイド男爵は、現状理解に苦しんでいるようだ。


「どういう事か、説明してくれるよな?」


 ロイド男爵は憤慨している。説明なく急に呼び出したのだ。怒って当然かもしれないな。


「落ち着いて聞いてくれ。」


 俺は、村の老人、若者、女性を交え西の村の惨状を話す。詳しく、細かに。


 絶句するアパラは、怒りを顕にする。チンピラの件で罰則強化した矢先の出来事だ。馬鹿にされた気持ちだろう。


 ロイド男爵は俺の話を理解してくれた。村民の安否確保もそうだが、エクシリオス教の傍若無人の振る舞いには危機感を募らせていた。だがね、


 俺の本題はこれからだ。


「此方は、草原小人のダンデだ。ロイド男爵。君はこの方に謝罪をしなければならない。」


 この言葉に騒然とする。村民からは驚愕の言葉のようだ。


 あ、商人立場のままだった。ま、後で説明するか。


 俺は、草原小人の立場と今までの歴史を話す。


 ダンデは言った。


「大地を荒らした。」と。


 彼等の大地は、新規参入したケルト家の開墾が原因と推理した。これはダンデからも聞いており、間違いではなかった。

 それでも草原小人族はヒトと争わず、静かに、そして、大地を守っていた。


 巨大砂漠百足。


 これを防いでいたのは、間違いなく草原小人族だ。もし、討伐していなかったら、間違いなく被害はケルト領に広がっていただろう。

 現物もあり、説得力も増している。


「ロイド男爵。」

「わかった。わかったよ。俺も愚かじゃない。」


 ダンデに敬意を現し、膝をつけ謝罪をするロイド男爵。


「我が祖先が貴方達に迷惑をかけたことを、ここに謝罪する。」

「・・・・・・。」


 絶句するダンデ。素直な謝罪してきたロイド男爵の態度が信じられないのかもしれない。


 普通、貴族は簡単に謝罪などしない。特に過去の敬意や、領地争いに謝罪をしたら、非を認める事になる。権威も失墜しかねない。

 だから俺はロイド男爵に話した。彼、彼女は異世界の住人だった。俺の意図もわかっているだろう。政治的な駆け引きではなく、信頼と共存を進める為には、わだかまりを解さなければならない。平和とはそういうものだ。


 村を守る。市を守る。領を守る。理由としては充分な筈だ。


「俺としては、これを切っ掛けに交流をするのが良いと思うんだ。草原小人の大地を認めれば、侵略も出来なくなるし、平和的自衛も出来るだろ?」

「それは、確かにそうだね。」

「だが、我等は簡単にヒトを信じる事は出来ない。」

「それは構わないさ。大切なのは、お互いに接点を持つことなのさ。余計な争いを未然に防ぐ事にもなるし、縄張りの主張で、お互いの共存繁栄にも繋がるだろ?悪い事ではないはずだ。」

「む?」

「今すぐこれを決める必要はない。ダンデも族の皆に説明してから決めればいいだろうし。ロイド男爵はケルト侯爵様を説得すればいいだけだし。」

「簡単に言ってくれる・・・。」

「ケルトの未来には必要だと思うが、違うか?」


 沈黙。


「わかった。我らの総意を決めるために時間をくれ。」

「・・・此方も了解した。場所はこの村で良いか?時間はどうする?」

「10日はくれ。皆としっかり話し合う。」

「わかった。10日後、この村でもう一度話し合おう。その時は、私も参加する。」


 ロイド男爵を橋渡しに、話は纏まったようだ。ダンデは直ぐ様に草原に帰っていった。

 ロイド男爵の視線が痛い。


「君は何をやっているんだい?」

「怒るなよ。ちょっと予感が大当たりしてしまっただけだ。」

「それで?」


 憤怒のロイド男爵。笑顔なのが尚恐ろしくする。


「悪かったよ。忙しいのに手伝ってくれて。」

「違う!」

「エクシリオス教、か?」

「それもあるが!ったく!あれほど邪魔をするなと言ったのに!君は何をやっているんだ!」


 仕方ないだろ!蓋を開けたら大惨事で、村の悲痛な思いを考えれば、直ぐにでも救済しないといけないと思ったんだから!


 ロイド男爵のお小言を聞く。興奮で支離滅裂だが、こういう時は逆らわない方がいい。


「で、君はどうするんだい?」


 笑顔が怖いっての!


「・・・手伝うよ。借りを作ったからな。」


 エクシリオス教対策。俺はそれを手伝うことにした。足を突っ込んでしまったしな。後でマリアのお小言が待っていそうだ。


「こき使うから覚悟しろよ!」

「お手柔らかに頼む。」


 憤怒のまま、ケルト市に帰るロイド男爵。俺は拿捕したエクシリオス教の僧と、自警ギルド員を連行することにした。

 アパラは怒りを抑えながら、それに手伝う。


 馬車の荷台に縛り付け、逃げられないようにする。レンとイトには、もう少し頑張ってもらおう。


 其処らに放置した砂漠百足を無限保管に戻す。


 村の青年が近寄る。顔を腫らし、腹を抱えていたが、毅然と立っている。彼には辛い役を押し付けてしまったようだ。



「あんたは一体?」

「気にするな。次の実りに果物を買いに来るから。その時は良物を売ってくれよ。」


 俺は青年にそう言う。呆然とする村民を尻目に俺達はケルト市に戻る事にした。


 





 自警ギルド地下牢。


「お、俺達はエクシリオス教の奴等にのせられただけで、悪いのはあいつらだ!のさばっていて、逆らえなかったんだよ!」

「ならば、何故その事を報告しない?」

「で、出ることが出来なかったからだ・・・。」

「ならば、何故エクシリオス教の僧を殺した?」

「いや、それは、その・・・。」


 無言


「殺せるならば、簡単に逃げることも出来た筈だ。だが、お前達はそれをしなかった。エクシリオス教にのせられ、甘い蜜を受け入れた。違うか?!」

「ち、違う!俺達は村を守るために!」

「お前達の傍若無人の行いは全て聞いている。言い逃れは出来んぞ。もう一度聞くぞ。貴様、何故俺を裏切った?!」


 無言


「お前達は、ガゴと同じく奈落行きだ。これは決定している。」

「・・・・・・!!」


「明日、お前達は連行される。残り僅かの人生だ。神にでも祈っていろ。」


「止め、止めてくれ!」

「し、死にたくない!」

「殺してくれ!今すぐ殺してくれ!」

「アパラさん!アパラさん!」



「恐怖の中、苦しみながら、死ね!!」



 自警ギルド地下牢。


 断末魔が朝まで響いていた。



 次の掲載は、24日予定です。遅筆で申し訳ないです。

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