4-22 ケルト市西の村
1度小屋に戻る。ブライアンを残す為だ。彼を西の村に連れて行く事は出来ない。危険だからだ。
「私は解任ですか?」
青ざめるブライアン。だが、彼は誤解をしている。
「いや、これから市の外へ出るのだから、置いていくのは当然だろ。貴様はケルト侯爵様の従者なのだから。」
「そう、でしたか。では、ドワーフの自治領に向かわれるのですか?」
「いや、その前にやる事が出来た。また戻るからその時は貴様に馬達の世話を任せよう。」
「は、はい!ありがとうございます!」
任せる、の言葉に喜びを感じたのか、俺達の出発を笑顔で見送ってくれるブライアン。彼もチョロいようだ。
さて、それでは西の村に向かいますか。
業者をビビに任せ、俺達は西の村に向かう事にした。
★
市から出て、丘の上。西の村が見える場所に着く。
馬車の荷台を一般に変更し、俺達の服装も商人風に着替える。貴族のままで行ったら警戒されると思ったからだ。
エクシリオス教の影がある以上、あまり目立つ行為は控えた方が良い。自警ギルド員も村には入っているだろうから、旅商人とすれば、怪しまれる事もないと踏んだ。
麦畑が広がる大地。果樹林もあり、なかなかに農業が豊かな土地だ。
以前は通りすぎた村への入り口の路を進む。畑作業をしている村民が此方を見る。怪訝そうな表情から、あまり歓迎はされていないようだ。
「ビビ、停めてくれ。」
「はい、わかりました。」
村に入る前に村の状況を聞いておきたかった。俺が降りると皆目線を逸らすが、一人の青年だけは此方を睨んでいた。
彼に聞くか。
近寄ると、構える青年。自身の怯えを隠し、立ち向かおうとする姿勢。嫌いじゃない。
「そんなに警戒をしないでくれ。俺はソウ。単なる旅商人さ。話を聞きたいんだが良いか?」
「旅、商人?本当か?」
結構警戒してるな。見た目としても戦闘的ではないから、構える必要は無いんだが。
「そんなに警戒をしないでくれ。ただ、話を聞きたいだけた。」
「いや、信じられない!余所者は皆、村を滅茶苦茶にする!」
ん、疑心暗鬼か?それとも、村に入っている奴等がそうしているのか?
「わかった。村に入らない。それは約束するから、話を聞かせてくれ。信用ないなら、他の人を呼んでも構わない。どうだ?」
兎に角情報が欲しい。懐柔してでも話を聞きたいものだ。
「お前、商人だろ?何しにこの村に来たんだ!?」
「この村の果物に興味があってね。納税以外でもし余っていたら売ってくれないか交渉したいんだよ。」
嘘、ではない。本題から逸れているだけだ。
「村には入らないんだな?」
「約束する。なんなら街道まで戻っても良いぞ。」
警戒心が少しは鈍ったようだ。青年は黙ってしまった。
「・・・長と話をする。街道で待ってろ。」
よし!まずは取っ掛かりが出来た。
馬車に戻り、街道沿いまで戻る。俺達が街道に向かうと、安堵の表情をする村民。彼の安否を気にしたのか、村の安否だったのか、それはわからないが、緊張が解れたのはよしとしよう。
街道沿いで少しの時を待つ。畑路から老人と若者3名が此方に来た。先程の青年もいる。手には農具を持っているが、護身用だろう。
「あんたが話の商人か?」
「はい、私はソウといいます。」
「もう一度聞くが、この村に何の様があって来なさった?」
「此方の果物は質が良いので、隣のヴェルケスで売ろうと思ったのですよ。もし、在庫があるならば買い取らせていただきたいと思いまして。」
「そうでしたか。ですが、在庫はありません。足を運んでいただいたのに、申し訳ない。」
在庫が無い?こんなに広い農地で?税が重いのか?いや、違うな。
「申し訳ないが、この農地面積で在庫が無いとは思えません。納税を考えましても、村の規模以上の収穫があると思うのですが?」
「確かにその通りなのですが、今は余裕が無いのです。申し訳ないがお引き取り下さい。」
おかしい素振りだね。これはなんかあるな。
「もしよろしければ、村の内情をお話ししていただけませんか?もしかしたらお役に立てるかもしれません。」
「何を根拠にそのような事を仰るのか?」
「余所者は信じない。これですかね。」
青年に目線を合わす老人。申し訳なさそうに俯く青年。
「私には貴族様との繋がりもあります。ですからお話しを聞かせていただけませんか?」
この言葉にどよめきが走る。貴族様の言葉に衝撃があったようだ。まあ、俺がその貴族なんだがな。嘘、ではないよな?
「わかりました。ここでは目立ちますので、場所を変えましょう。馬車は隠しますがよろしいですか?」
「構いません。よろしくお願いします。」
うん、うまくいった。これで、村の内情を知る事ができそうだ。
俺達は老人の案内に導かれ、離れの小屋へと向かっていった。
★
麦畑の真ん中。休憩所に使われているような小さな小屋に案内された。
馬車は麦藁で隠された。馬達は麦柱で囲ってある。
「今、この村は、余所者、エクシリオス教がのさばっております。」
やはりそうか。村にエクシリオス教が介入してきたのだろう。
ケルト市の強制入信禁止令。これは、市での令であり、村では関係がないからな。勢力拡大の為の入信運動をしているのだろう。だが、おかしいよね?
小鬼族の討伐依頼。これも不自然だ。ビビの話では小鬼族は集団行動であり、森や山、洞窟に生息している。この辺りは農地か草原しかない。小鬼族としては、生息しづらいと考える。
ゼノスの確保。これも悪事に利用するといっているようなものだ。
エクシリオス教には、貴族と同じ権限を持つ。これも、悪用出来る。ラフレの言葉に説得力がなくなるが、この世界では、関係ないな。権威権力こそが真義であり、正義だ。悪事も正義になる。
「最近です。エクシリオス教が野盗を引き連れ、村を占拠致しました。神の元の統治とか言いまして、入信を迫っておりまして。あのような脅迫めいた言動に我々は拒否をしたのですが。入信を断ると、傍若無人の振る舞いを行い始めまして。備蓄の食料を粗末にするばかりか、暴行すら行う始末。抵抗するにも、エクシリオス教には逆らう訳にもいかず、貴族様に伝えようとも、そんな事は出来ずにいたのです。」
宗教とは名ばかりの暴力集団か?と疑う話だな。いや、タガが外れ、監視の目もない。だからこそ、悪行を平気でしているのかもしれないな。
「お願いします。この事を貴族様、ケルト侯爵様にお伝えしていただけませんか?お礼は出来る限りの事をしますので!」
いや、ケルト侯爵と繋がりはあるとは言ってないぞ。彼等には貴族=ケルト侯爵となっているのか?領主だからか?
「その前に、この辺りには小鬼族が出没するのですか?」
「いえ、見たことはありませんが。」
やはりな。これはでっち上げだろう。
「あと、野盗ですが、何故野盗と判断を?」
「はい、何処からかどんどん増えているのです。初めは礼儀もあった方たちでしたが、今ではすっかり悪逆非道を行うようになりまして。」
あ、自警ギルドの奴等だな。エクシリオス教の庇護を受けてすっかり堕ちたようだな。
「その悪逆非道ですが、聞かせていただきたい。口に出すのは辛いと思いますが・・・。」
正直、聞きたくない。予想は的中する。人の悪行ほど、聞きたくないものは無い。
予想は的中する。女性陣には退室してもらった。聞かせたくない。人の悪事をこれでもかと突きつける村民。溜まった不満をぶつけてくるように、エクシリオス教や堕ちた自警ギルド員の悪行を暴露する。
うん、裁くには充分な理由だ。さて、どうする?ロイド男爵を連れてくるのが簡単か?いや、今は忙しいか。ケルト侯爵は論外。シュタイナー男爵とはあまり面識も無い。
小鬼族か。討伐依頼もあるんだよな。
「私に考えがあります。数日間我慢していただけますか?」
「貴族様にお伝えしていただくのですか?」
「それもありますが、それだけではなく、今後の対策も必要ですから。」
「どうするのですか?」
「はい、これから貴族の誰かに村を守ってもらうようにするのです。」
理由を作る。いや、創ってやるさ。
★
夜。街道を西に進み、草原地帯にいる。
進路を南へ。草原地帯に侵入する。小屋と納屋を出して、馬達を休ませる。
俺達は草原地帯を進む。小屋は見える範囲でだ。周囲は月明かりで何とか見える位だ。一応松明は持ってきている。使ってはいないが。
カサカサ
違和感ある草の擦れる音。件の監視者が来たようだ。
「ダンデを呼んでくれ。話がある。」
「ん?草原小人がいるの?」
「はい、いますね。」
「今日は皆でおはなしね。」
少し待つ。目の前の草原から知る顔が現れた。
「久しいな、ヒトよ。」
「息災ですか、ダンデ。」
ダンデだ。相変わらず、気配を感じさせない身のこなしには、驚かされる。
今回、テラスやマリアがいたから、気配を感じるように集中していたが、顔が現れるまで感知出来なかった。彼の優秀さが際立つ。
「何の用だ、ヒトよ。」
「頼みがあるんだが、聞いてくれないか?」
「貴様には借りがある。たが、受けるかどうかは話次第だ。」
話は聞いてくれるようだ。多少は信用してくれているのかもしれない。
「うん、頼みというのは・・・。」
ダンデに今回の西の村の事を話す。彼等には関係のない話だが、それでも話す。
「我等には関係ないな。」
当然の返しだが、それでも話を続ける。
「今はな。だが、今後はそうではなくなるかもしれない。」
「どういう意味だ?」
今の所、ヒトは草原に手を出していない。だが、エクシリオス教の拡大は、大地の面積に移行する可能性、農地を増やし、お布施増大を目論む可能性がある。暴力的宗教団体だ。これくらいはやるだろう。
「そうなる前に打開したい。」
「貴様はヒトの繁栄を邪魔するのか?」
「悪の繁栄は御免だ。俺はそう思っている。」
「それで、我等に何をやらせようと考えているのだ?」
「それは・・・・・・。」
俺の考えを話す。この考えは女性陣に話してあり、特にマリアには好評だった。
「良いだろう。その時は貴様が前面に出るのだな?」
「そうなるな。お互いの繁栄の為にはそれが一番だろうし。」
「少なくとも、私は信じよう。時はいつだ?」
「二日後の昼間。場所は村の西端。」
「わかった。借りは返そう。」
「ありがとう。」
「構わん。」
ダンデは草原に帰る。違和感ある草の擦れる音も聞こえなくなった。
「さて、小屋に戻るか。準備をしなければいけないしな。」
「そうね!手伝うわよ!」
「うまくいくといいね。」
「いきますとも。ソーイチ様の優しさならば。」
ビビさん、その台詞は恥ずかしいからやめて。
さ、西の村と草原小人達の為に、一肌脱ぎますか。




