2-4 なぜこうなった
イライラする。何に対して?わからん。ただイライラする。怒りはある。不満もある。理不尽極まりない、は違うな。初めから理不尽とご都合だ。それは今さらだ。
「感情を高ぶらせたら、大事なものを見逃すかも知れませんよ。」
テラスは抑揚無く話す。
心を読まれているのが、癪に障るのか?違うな。これも今さらだ。
「1つ1つ、疑問を伝えてみては。」
ムカつく!何故かムカつく!
「では、アオバソーイチが平静するまで、暫く私は黙りましょう。読心もしません。」
目を瞑るテラス。
ただただ、俺は心の中で感情を荒ぶらせていた。
★
「落ち着いた。もう大丈夫だ。」
時間はかかったが、俺は荒ぶりを抑え込んだ。
「はい。」
テラスの言葉には、感情は感じられないが、いつもの事だ。
左目を開き、俺を見る。
聴きたい事は沢山ある。とにかく、現状把握、強いては今後の対策は必須だ。だからこそ、溜まったものは吐き捨てさせてもらう。遠慮は無しだ。
「はい。私も話せるものは話します。」
「つまり、話せない事もあると。」
「はい。」
「その理由は?」
「話す内容によります。全てを知っている訳ではありません。」
「嘘はつかないな?」
「私は嘘をつけません。」
「その理由は?」
「私の言葉に結果が影響するからです。」
「ん、それは、運命を決める力があるという事か?」
「危険な質問です。黙秘します。」
確かに、もしテラスに運命を決める力があった場合、この質問の肯定否定どちらも駄目だ。
「すまない、次は言葉を選ぶ。」
「はい。」
ノーミソカラッポーにして会話したが、尋問になったな。違うそうじゃない。俺は話し合いが希望だ。
「はい、私もです。」
何故か安堵した。言葉の力?いやそれより、これからの事だ。
「先ずは、地上のテラスの事だ。彼女はどんな存在だ?」
危険な質問か?いや、危険なら、答えなければ良い。
「地上のテラスは、存在は私と同一です。そして、肉体、精神を持った別の個体です。」
ん?よくわからん?
「アオバソーイチが私に「テラス」と名付け、極彩の蓮華によって産み出された個体です。」
「つまり、俺が産み出した。と?」
「私の存在を材料にして、を付け足しましょう。」
「存在を材料?」
「はい。」
何か訳が解らなくなってきた。
「その為にも、アオバソーイチの事を伝えます。」
ん?聴きたい事だが、そっちから話してくるのか?
「話し合いを希望なら、私も話せる事は話さなければいけません。私の話が終わってから、質問しても良いかと。」
「確かに。」
納得したが、言葉の力ではない。何となくだがわかる。さっきの結果が云々は、俺の勘違いと理解した。なら、どんな意味が?
「よろしいですか。」
「あ、悪い。」
「はい、では。」
話が長い、いや、俺の理解不足の為に長くなっので、纏めを伝える。
俺には5つの力があるとの事。
集中、解放、掌握、創造 癒しだ。
白の世界は掌握で俺の世界になった。元は誰のかは黙秘された。これまで、沢山の黙秘があったが、理由は最後に言う。
白の世界で移動手段として、集中と解放が培われたらしい。肉体、精神、理力(魔力)、思考、等の様々な干渉が出来るらしいが、無限バフと考えれば良いのか?
そして、創造。これが物作りをする俺にとっては有り難いが、相当危険なものだった。
一言では、材料があれば何でも創れる。だが、この「何でも」がヤバイ。
神の力の一端となる、「極彩の蓮華」を器に宿したらしく、材料さえあれば、宇宙すら創れる力があるのではと思った。テラスは黙秘したが、それが証拠だ。チートにも程がある。
何故、俺に「極彩の蓮華」を宿したのか?それは楔の件が原因である。
楔が抜けた瞬間、俺の器は崩壊寸前だったらしい。テラスが咄嗟に「癒し」を分けて、事なきを得たが、集中、解放、掌握で強くなった器が、「癒し」で更に強化、巨大になり、「極彩の蓮華」を身に纏えたとなった。若返りはその時の副産物だった。
力以外にも、テラスの加護、「癒し」を備えた。力ではなく加護だが、力で良いや。
回復の力だが、4つの力を多大に使っても、直ぐに回復すると言ってた。テラスに負担は無いらしい。
ここまで来るとこの能力はチート以上のバグと思った。まぁ、オレつえ~!には興味ないので、今後は行動には気を付けよう。
神の一端になってしまったのか?と思ったが、肉体、精神、がある以上、神属は無いと断言され、安堵した。
神なんぞ絶対つまらない。と俺は感じている。肉体、精神が無いならば、干渉もない。刺激も創作も無い。生物の概念か無くなるのは御免だ。
異世界のご都合だが、俺のこんなバグ存在が歪みの原因らしい。
この辺りから、俺は自分に呆れていた。ご都合すら大した事では無くなっていた。
そして、黙秘だ。
「私は記憶を奥底に封印しました。直接関わる全てを禁意とし、開口しないようにしました。」
「理由は?」
「黙秘です。」
「それなら、言葉ではなく、行動は?肯定なら頷く、否定なら首を降る、とか?」
「それでしたら、多少は融通が効きます。ですが、直接関わる事は無理です。」
「わかった。」
禁意。多分危険だからこそ、封印した。と解釈したほうが良いか?
コク
あ、何か可愛い。いや、違う。
つまり、世界が危険になるのか?
コク
俺も危険になると、
コクコク
何故2回?
では、テラスが防波堤になっているのか?
「黙秘します。」
この答えに俺は居たたまれなくなった。この言葉にはテラスの責任の重みが含まれている。
禁忌としての黙秘と仮定し、肯定も否定も許されない。確実に俺の身に何かがおこる。運命力を持つテラスが、少しでも外敵から逃そうとしているのがわかった。だが、何故そこまでする?助けた義理か?
辛い。もういい。
「なぁ、俺に何か頼みとかあるか?」
何故かこの言葉が出た。同情とか哀れみとかではない。何故だ?
「私には感情はありませんので、辛さもありません。ですがお願いならあります。」
感情ないのに?
「はい、地上のテラスのお願いです。彼女に沢山の風景を見せてあげて下さい。」
「ん?地上のテラスの願い?」
「はい、地上のテラスとは繋がりがあります。思考は読めますので、私ではなく、彼女の願いを叶えてあげて下さい。」
「あぁ、それなら喜んで。」
「ありがとうございます。」
その表情は笑顔に見えた。
「あ、なら今日だけど、俺が地上のテラスに問い詰めた時、かなり震えていたけど、何故だ?」
「彼女の記憶は、私の一部しかありません。それを話したら、捨てられるのでは、と考えたようです。」
え?なんで?
「アオバソーイチとの信用を失う事に恐れたのです。」
いやいや、・・・、いや、確かに平静ではなかったな俺。・・・。
「朝起きたら、また彼女に謝るよ。」
「今、彼女はアオバソーイチに愛感情がありますし、受胎願望もありますから、尚更離別はしたくないのでしょう。」
うん、今サラっと凄いこと言ったよね。
この会話って、地上のテラスにも?
「はい、伝わってます。」
絶句・・・、思考停止・・・。
「どうかされましたか?」
「いや、駄目だよ、それは・・・。」
「そうですか。」
平静のテラスとは対称的に、俺は困惑した。
朝は大変だな。
それだけしか考える事が出来なかった。
★
暖かい
プニッ
柔らかい
プニプニッ
なにこの気持ちいい感触・・・
目を覚ますと、俺が寝ていた木のベットに、テラスもいた。裸で。俺の腕は胸の膨らみに挟まれ、手は太ももに挟まれていた。
彼女は寝息をたてながら、しっかりと俺の腕を抱きしめていた。
驚愕した俺は、腕を離そうとすると、テラスは目を覚ました。
「あ、いや、その、あの。」
言葉の出ない俺は、ただただテラスの綺麗な裸体を見ていた。
体を起こしたテラスは、頭を俯いたままだ。顔は見えなかったが、首や耳が真っ赤だ。裸もそうだが、内面をさらされたのだ。恥ずかしくて死ぬ!が適切だろう。
「あ、あの、」
俺は、言葉を詰まらせたが、テラスをゆっくり抱き寄せ、
「これからも、一緒に、いよう。うん。」
これが限界だった。混乱?いや、テンパっていた。
暫く、抱き寄せていた。どうすれば良いかわからなかった。
「はい、いっしょに、いたいです。」
と小さな声で聞こえた時、二人で照れ笑いをしていた。