4-20 黒鋼槍 後編
準備に1週間かかったが、本番を開始する。
開始前に蝋で形造った槍を埋没材に埋めている。その回りには耐火レンガを敷き詰め、圧力に負けないようにする。乾燥を待っていた。これは炉の内部に入れてある。
炉と圧式鋳造は一体型。鋳造と同時に圧力をかける仕組みだ。圧は空気圧。炉の後部を押し込み、内部の圧力を高める。これは木材のしなりを利用する。煙突からも圧を加える事が出来るようにしてある。これは大石を乗せる。
炉の内部に火を入れる。高温になるまで火の番をする。イアンも駆け付け、手伝ってくれる。
「何処まで上げるんだ?!」
「玉鋼の融解適切温度だ。任せるぞ。」
「おっしゃ!任された!」
2日後、温度は最適まで上がったとイアンから報告が入る。柄杓に玉鋼を入れ炉に入れる。柄杓は俺特性の石製だ。かなり重いが、イアンには扱えるだろう。もうひとつは、駄作の黒鋼槍が粉々にしてある。創造の力を使い切ったのだ。
俺は、硫黄を水で溶かし、その溶解液に黒石を入れる。
立ち上がる煙り。多分毒性がある。それを吸い込まないようにする。
完全に黒石が溶け、黒い溶液が出来上がる。翼竜の鱗粉を加え、それも柄杓に移し、炉に入れる。ゲル状のそれは、コールタールにも見えた。否なるものだがな。
時たま、石灰を玉鋼に加える。溶解を促進させるためだ。火山灰は黒溶液に入れる。
最適に溶解した玉鋼。イアンの合図に俺は黒鋼槍が溶解した物と、黒溶液を注ぐ。
ゆっくりと玉鋼に注ぎ込む。美しい銀色がどんどんと黒々しくなる。棒を突っ込みかき混ぜる。
ここは、集中を使う。一番の要だからだ。
混ざりあった黒鋼を埋没させている型に流し込む。鋳造だ。
流しきった所で、火を全部離し、炉の全蓋を閉じる。
ビビとマリアに合図を送り、圧力を加える縄を切る。
ボンッ!!!
一瞬に最大加圧を受けた炉から音と振動が響く。熱気も多少伝わったが、炉外壁の熱が伝わった為だろう。
破損が無い炉に、成功を確信する。
後は自然に冷却されるのを待つだけだ。多分4日はかかるだろう。
「イアン、手伝ってくれてありがとう!」
「何、良いって事よ!あんたも良い腕をしているじゃないか!今からでも貴族様なんか辞めて、俺と共に働かないか?!」
「すまんが、俺にもやることがあるんでな。」
「そうか!残念だ!」
がははと笑いながら、握手を求めるイアン。握るとわかるその仕事の手。
熱にやられ、皮膚は固く変化し、所々に火傷をしている。仕事の手。俺の好きな手だ。
「あんたも年の割には努力をしているじゃないか!気に入った!気に入ったぞ!」
「貴様もな!」
二人で笑い会う。喜びを分かち合った。
「さ、ご飯よ。成功をお祝いしなくちゃね!」
「ありがとう、マリア。」
「私の為に、ありがとうございます。」
「ビビ、まだだよ。渡した時にいってくれ。」
「お疲れ様!」
「テラスもお疲れ様。」
俺達は宴会を始める。レンとイトを宥めていたブライアンも参加させ、美味しい食事に酒を楽しんだ。
掘り出し、研磨を終わらせたら、イアンに見せると約束して、イアンは製鉄所に戻っていった。
空いた時間、俺はマリアの言いつけで休みになった。確かに3徹したからな。疲労はしているだろう。
「さて、ケルト邸の風呂に入るか?疲れもとれるし。」
「ううん、今日はこっちが良い。」
「あ、あの、私も。」
「ん?そうなのか?」
「あんた、鈍いって言われてたでしょ?」
失礼な!本当の事を言われた!
「さ、お風呂入りましょ。」
そそくさと小屋に行く女性陣。風呂に入り意味がよくわかった。
「ソーイチ・・・。」
「貴方様・・・。」
「ソーイチさん・・・。」
うん。そうだよね。最近してなかったしね。疲れも吹き飛ぶ女性陣の破壊力は、俺の理性すらも吹き飛ばしてしまう。
癒すところか、興奮は最高潮に達する。求め合い、絡ませあった。
俺の欲望を喜んで受け止め、痙攣するテラス、ビビ、マリア。
俺は優しさと温もりと柔らかさに包まれ、静かに眠りへと落ちていった。
★
黒鋼とは、純粋な鋼とはちがい、合金の鉄である。炭素を抜いた鉄で鋼ができるが、これは鋼に添加物を加えることにより、脆さをカバーしている。
黒石。これも鉱物だが、金属とは異色と言わざるを得ない。固く、重く、脆い。だが、比重の重さが、その密度を物語る。その密度を利用したのが黒鋼という訳だ。
多分だが、分子間に入り込むほど小さな分子で、その間を埋めるのだろう。そして、翼竜の鱗粉は接着剤だ。それにより強固となり、比重も重く、脆さをカバーする。
正直、錬金術と大して変わらない。
合金の錬金術と言えば良いのかわからないが、この技術はそれに近いと思う。
3日後、まだ温かい炉の扉を開ける。
圧がかかっているために、勢いよく開く扉、そこから熱気が噴出する。異様に臭いのは硫黄だろうか?
後は内部に入れる位に冷めたら、埋没物を掘り出して研磨をする。1日待とう。
俺は自室の工房で、玉鋼の棒を造った。これからビビの訓練に合わせ、俺の棍も金属に変えなければ、対応出来ないと判断した。
直ぐに折れてしまうからだ。
俺のは棒なので、刃は無い。まあ、俺は不殺を貫いているわけでもないが、無力化出来れば充分なのだ。直ぐに造り完成させた。
表面加工はざらつきをつけ、摩擦力を上げる。握りに合う太さで、少しだけ凹凸を付けて、手に馴染むようにした。
振り回し確認する。重さには振り回されない。重さで威力が増したので、充分に気を付けて扱わなければならない。ヒトには棍で対応しよう。
冷めた炉の埋没材から、槍を掘り出す。
しっかりとした重量感。俺の玉鋼棒よりも重い。表面の土を落とし、余計なざらつきをなくす研磨をする。
これは簡単に終わる。黒石で擦るだけだからだ。光らせる訳でもないので、手が傷付かない程度に綺麗にする。
さて、鍛えるか。
刃先は鋳造とあって、まだ弱い。だから、鍛造する。叩き鍛えるのだ。
大体の形は出来ている為、熱して叩いて、研ぐだけだ。1日あれば何とかなるだろう。
湯は鉱物水を使う。何となくだ。理由は無い。
熱し、叩き、熱して、叩いて、急冷。
これを繰返し、刃先を造り出す。両刃なので直刃だ。槍だし、当然と言えば当然だ。
最後の研ぎには、俺用の黒石の砥石を使って仕上げる。
妖しく光る刃。軽く凪ぎると、刃先の光で光閃の弧が出来た。
黒鋼槍
完成させた。無限保管の出し入れをし、強度を上げる。隣にいたマリアの顔色を見て、察する。やっちまったのは覚悟の上だ。
「満足?」
「ああ、業物だ!」
俺はマリアに鑑定を聞かない。きっと伝説級だろう。虹光櫛も創ったのだから、これもそうであると思った。
今回、創造で創らなかったのは、過程を知る為と、俺のチートを試すのもあった。
創造を使わずに、何処まで上物が出来るか試したかったのもある。
結果は時間はかかるが、創造で創るのと大差無い物が出来上がった。
過程の大変さから、思い入れは此方の方が上だ。やはり、行程は大事だ。
さてと、
「あ、ありがとうございます!肌見離さず使わせて頂きます!」
「喜んでくれて良かったよ。これがビビを守ってくれるさ。」
「はい!はい!」
黒鋼槍を握りしめるビビ。
「良かったね、ビビ。」
「はい!!」
テラスには虹光櫛を渡してある。マリアがテラスに譲ったのだ。
「これはね、守りの櫛だと思うの。だから、テラスちゃんが持つものだと思うの。」
「いいの?」
「良いのよ。私はソーイチさんから弩や水鉄砲を貰ったから。」
「うん、ありがとう、マリア。」
ビビは黒鋼槍。
マリアは特製弩。
伝説級を揃える。そして、今度は防具を造ろう。材料を探し、危険を跳ね返す防具を。
「その前に、自分のを造りなさい!」
「心読むのヤメテ!」
マリアの突っ込みに動揺する。
刃は翼竜の革で造った鞘を被せる。被せただけだが、有事に対応する為だ。留め具は無い。
夜も遅い。今日は休んで、明日イアンの所に行こう。黒鋼槍を見せなければいけない。
「さ、寝ようか。」
俺は女性陣をベットに誘い、休む事にした。
余談。
黒鋼槍は無限保管に入れました。ビビが肌見離さずと言ったが、寝るときは危ないと言ったら、簡単に渡してくれた。
「ソーイチと槍、どっち?」
「勿論、ソーイチ様です。」
即答だった。でも何か嬉しいので、ビビを抱き締めた。俺はやはり、チョロイチのようだ。
★
製鉄所、応接室。
「こいつぁ、見事だ!」
イアンに黒鋼槍を見せた。結構な重量の槍を軽々と持ち、様々な角度から見定めている。
「イアンの協力あればこそだ。感謝する。」
「いいって事よ!俺も本物の黒鋼の声を聞かせてもらったんだ!こちらが感謝をしたい位だ!」
固い握手をする。感謝の印の握手。イアンがいなければ、黒鋼槍を完成する事は出来なかったからだ。それは、イアンも同じなのだろう。
「それで、こいつの銘は何だ?!」
「そういえば、決めていなかった。」
「そいつぁいけねぇ!業物の黒鋼槍だ!受け継がれる代物なのは間違いない!」
確かにな。未来を考えても、無銘じゃ味気無いな。
「ゲー・ボーグ!とか?」
「おい、やめろ!」
マリアの冗談を制する。間違っても必中の槍の名をつける訳にはいかない。
「黒一閃、とかどうだ!?」
悪くはないが、ビビが何か言いたそうだ。
「私は、ソーイチ様に名付けていただきたいです。」
そっか。なんというか、ビビらしい。
「そうだな・・・。」
考える。こういうセンスはからきしだが、ビビの想いには答えたい。
「黒鋼槍にビビ。黒狼爪・・・、とかどうだろう?」
「はい!素晴らしいです!」
「ま、ビビさんがよければ良いんじゃない?」
「かっこいいね。」
「おぅ、良いじゃねぇか!」
女性陣には概ね好評で、イアンも満足そうな顔をしている。
黒鋼槍、改め、黒狼爪と銘打った。
「黒狼爪よ、これからよろしく頼む。」
黒狼爪を握りしめるビビ。
新たな仲間は、ビビを守ってくれるだろう。
俺には、刃先を光らせる黒狼爪が、ビビの想いを答えたように見えていた。




