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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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4-19 黒鋼槍 前編


「うらぁーー!これが資料だ!」


 イアンは持ってきた黒鋼にまつわる書籍を雑に放る。10冊はあるだろう。散らばる書籍をまとめ、机に置く所員。すみませんすみません、と平謝りしている。


「そして、これが本物の黒鋼だ!」


 黒い塊を渡すイアン。男性の親指位の棒状な物。

 確かに、本物を知らなければ、駄作とわからないものだ。俺やマリアは能力があるからわかるんだがな。


 本物の黒鋼。黒というより光黒に近い。明かりに乱反射して、キラキラと光っている。

 重さもあり、親指程なのに、500g弱はあるだろう。比重が重いのだ。それこそ金より。


「中身はドワーフ語だが、読めるか!?」


 パラパラっと資料に目を通す。やっぱり読める。知らない文字だが、何故か理解出来る。テラスは当たり前として、マリアも理解は出来るようだ。ビビが読めなくて落胆しているが、普通は読めない。気に病む必要はない事を伝え、慰める。


「実は私ってば凄い?」


 今更か!マリアの能力を遺憾無く発揮すれば、学者にでもなれるはずだ。地質、考古、歴史、何でもござれになるだろう。本質理解とは、そういう能力だ。

 いたいいたい、足を踏まないで。


 秘匿技術が書かれた書籍だ。持ち出すわけにもいかないだろう。この場で目を通す事にした。


「俺は仕事に戻る!後はゆっくりしろ!時間がかかるなら飯も用意してやる!」

「ありがとう。・・・借りるぞ。」


 興奮が抑えられず、素が出る。感謝の言葉に所員が絶句し、恐れ多いと恐縮していた。イアンは、がはは!と笑いながら退室する。所員も一礼して、退室していった。


「さて、読みますか。」


 資料を読むのが、マリアは真剣に目を通し、テラスはビビに読み語りをしている。娘が母へ本を読んでいるように見えて、心が温まる。


「ねつしょりおんどにやきなましをくわえる。あつりょくはいってい・・・。」

「???」


 光景に噛み合わない内容に苦笑するしかなかった。







 夕食をご馳走になる。肉メインの料理が並ぶ。ビビの目がランランとしている。

 イアンから玉鋼を購入し、それを黒鋼の材料にする。結構な値段だったが、今後必要材料になるので惜しむ気はない。イアンとしても急な大入り客になったようで、代金はそのまま宴会資金になった。経営大丈夫か?


「どうだい?!何かわかったか?!」


 火酒を片手に俺に話しかけるイアン。

「大まかにだな。もう少し読み解く必要はあるが、そう時間もかからないだろう。」

「そうか!理解するか!あんたは貴族様には勿体ないな!どうだい、うちで働かないか?!」

「親父さんの馬鹿!すみませんすみません。」


 所員の真剣に謝罪する姿を見て、苦笑する。確かに不敬なのかもしれないが、悪意が無いのだから、突き詰める気は更々ない。それにこういう人だし。それどころか、誘われるという行為に多少の喜びを感じたのは、俺を信用したからなのだろう。まぁ、貴族を辞める気は今は無いけどね。


「構わんさ。読み解いた場合だが、協力を要請するかもしれんが、了承してもらうぞ。」

「はい、はい、勿論でございます!すみませんすみません!」


 謝罪はもういいよ。


 資料で知識をまとめ、材料と設備を準備する。設備は俺が造れるとしても、材料ばかりは、イアンのツテが必要になるかもしれないからな。確約は有り難い。


「黒鋼の再加工だが、俺にも参加させてもらうぞ!

ドワーフの秘匿技術をこの目で見ておきたい!」

「構わないが、貴様は何故黒鋼を紐解かない?」


 素朴な疑問。資料があるなら再現位は出来るだろうに。


「ドワーフ語が読めん!」


 そこか!


「これを他の奴に頼む訳にもいかん!技術が盗まれるのも好かん!だが、あんたのような貴族様になら、悪いようにしないと思った訳だ!」


 信用し過ぎじゃないか?たかが黒鋼槍を見せただけで、こんなにも信用するとはな。


 ん?まて、まてよ?


「イアン、この黒鋼槍をみせたら、ドワーフ自治領に入れるんじゃないのか?」

「当たり前だ!がっはっは!」


 マジか!初めから許可証を持っていたとか!無知は恐いとはこの事だな。


「だが、ケルト様の検問もあるからな、そこは通過出来んよ!」


 それも、なんとかなるんじゃないのか?俺、一応ケルト直属で、紋章を借りてる身分だし。ドワーフもケルト家とは友好なんだろ?なら、通過も容易いのではないのか?後でロイド男爵に聞いてみるか。


「嬉しそうだね、ソーイチ?」

「ああ、朗報だからな!」


 テラスに微笑む。目的地のドワーフ自治領がすぐ近くになったのだ。喜ぶのは当たり前だ。


 ま、やることやってから向かうけどね。


 まず、黒鋼槍の再加工。病院の見学もしておきたい。それからでも遅くはないだろう。


「資料だが、借りるが良いか?」

「構わん!」

「親父さん・・・。」


 胸張るイアンに、頭を抱える所員。気苦労お疲れと思っておこう。


 宴もたけなわだが、お暇する。鞄に資料を入れ、小屋へと戻る事にした。ブライアンに肉のお土産を渡し、もうひと頑張りしてもらう。


 小屋に着いたら、再確認に検証だな。マリアには手伝ってもらおう。デザインもお願いするか。


「今、寒気がしたわ。」

「察しが良いな。」


 頭を抱えるマリア。デジャブと思ったら敗けだ。ビビの為に、能力を発揮してもらおう。


 黄昏の路、小屋へと馬車は向かうのだった。





 気になっていた検問だが、ロイド男爵に聞いてみると、問題なく通過出来ると聞いた。

「だけど許可証がないと、門を潜れんよ?」

「大丈夫だ。これが許可証になる。」


 黒鋼を見せ、事情を話す。


「これ、誰にも話してないよな?」

「抜かりはない。他の奴には話してないさ。」


 安堵するロイド男爵。黒鋼の意味は知らなかったようだ。


「だが、イアンという奴に黒鋼を見せるのは危険だな。流出したら、許可証の意味が無くなるかもしれない。」


 確かにな。だが、約束してしまったし、破る訳にもいかんだろう。


「ドワーフにしか通用しないし、検問強化で大丈夫じゃないか?信用あるものにしか黒鋼は渡さないようだし、製造もかなり難しいからな。」

「君が難しいと言わせるか。なら大丈夫かも知れないな。一応手順を聞きたいが?」


 大体を説明する。材料の入手難易度、設備の特殊さ、溶解、鋳造の技術力。それらを話して、ロイド男爵は製造不可を確信した。


「ヒトには無理だな。いや、出来るだろうが、直ぐには無理だろうな。後は、イアンという奴が簡単に渡さなければ問題無い。」

「それは大丈夫と保証する。あれは生粋の職人気質だ。ああいう輩は、ホイホイと秘伝を渡さない。それに、設備は俺が造り、破壊するから問題ないだろ?場所もここにするから、イアンにだけ見せるさ。」

「うん、それでいこうか。」



 ロイド男爵の許可もとれ、確認も出来た。憂いは無い。


 さぁ、始めるとしようか!





 玉鋼。それはある。それも上質の玉鋼。


 石灰と火山灰。それはイアンに用意させた。正しくは所員だがな。


 黒き石。まさかねと思い、黒石をイアンに見せたらまさにそれだった。クコ村の黒石が必要材料になっていたとは。沢山拾って良かったよ。


 翼竜の鱗粉。これもある。過去の失敗を思いだし、俺とマリアは頭を抱える。


「あれは忘れたい。」

「あの刺激は人を狂わすからな。気にしないようにしよう。」


 翼竜の超媚薬。ヒトに知られれば、絶滅するまで狩り尽くされるだろう。これは誰にも話せない。


 黄色の溶解液。これがわからなかったが、隈無く調べた所、火山火口にある硫黄のような物を溶かした物と判明した。劇物だろう。


 設備。


 炉は特殊炉。超高温に耐えられる物が必要。それは耐火レンガとか必要だが、回りの塀がそれなので使わせてもらおう。


 圧式鋳造機。


 これが難題。鋳造は簡単だが、圧を加える必要がある。それに耐えられる物が必要で、耐火レンガだけでは無理だと判断する。無限保管に入れて強固にするのも考えたが、それでも危険性がある。


 問題は接着剤だ。何か特殊な接着剤が必要だろう。

 そこで、イアンに闘技場建設の接着剤が伝わっていないか聞いてみた。あるにはあったが、配合率が失伝している。材料は知っていたので助かった。


 闘技場へ行き、レンガをマリアに視てもらう。本質理解だ。大体の配合がわかったので、直ぐ様お暇する。


 火山灰と石灰と水。この水が特殊で、鉱石水との事。


「ねぇ、多分だけど。」

「あぁ、俺も同じ事を思った。」


 紫水晶の水。これだろう。準備が整いすぎて怖くなったが、これも白テラスの御加護と決めつけた。あまり深く考えない。


 埋没材。これは接着剤に土を加えるだけで良いようだ。膨張収縮率が気になるが、圧式なのであまり関係がないのかもしれない。


 俺が設備を造っている時、マリアにはデザインをしてもらった。簡単な直槍。長さは今までの棍と同じ胸までの短槍。バランスと握りを重視して、余計な飾りは撤去した簡素なデザイン。だが、マリアは真剣にデザインしたのだろう。清書したそれは、槍の芸術を感じさせた。打刀が芸術品と感じるのと似ている。流石はマリアだ。


「私も開き直ったのからかしら、恐怖感を感じないわ。」

「ビビの為、だがらだろ?」

「それもそうね。」


 微笑むマリアは満足そうだ。抱き締めると、照れながらも抱き締め返してきた。


「次はソーイチさんの番かしら?私も手伝うからね。」

「ああ、頼りにしてるよ。」

「うん。」



 俺はマリアデザインの槍を蝋で形造る。


 さて、準備は整った。明日が本番だ。



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