4-18 ビビへの褒美
朝食をいただく。白パンにスープ、卵料理、肉は鶏肉のソテー。絶品だ。
ケルト家の面々は朝食済みだ。今は俺達しか食べていない。
執事やメイドも食べていないだろうと心配したが、格上が先に食べる習わしは封建主義ではよくある事だ。正直気を使ってしまう。早く済ませてしまおう。
食事はすんだが、もの足りなさそうにしていたビビ。追加するのも悪いし、このまま調理場を借りて、不足を補う事にした。
「これは、アオバ男爵様!」
料理長と部下が賄いを食べている時にお邪魔をしてしまった。皆、手を止めこちらに礼をする。
「皆、そのままで構わない。料理長、調理場を借りるが、構わないだろう?」
「は、はい、それは構いませんが、何をなされるのですか?」
いや、調理場ならやる事は決まっているだろ?
「ビビには少し足りなくてね、料理を作らせてもらうぞ。」
「で、でしたら私が!」
「いやいや、食事の邪魔をしたのは私だ。皆はそのまま食べていてくれ。」
「ですが・・・。」
ま、そうなるよね。
「構わないと言っている。」
強めの発言。少々強引だが、命令で、とならば彼等も従うだろう。
「そ、そうですか。では、失礼します。」
と、言うと、料理長と部下達が大慌てで食べだした。何というか、戦争の最中ような光景にみえてしまった。喉に詰まらせる人もいるじゃないか。
さて、彼等の事は放っておいて、
「折角だ、いつもとは違うものを作るか。」
「何を作るの?手伝うわよ。」
マリアに料理を話す。材料はある。タレは代用品もあるし、アレンジも出来る。
「良いわね。それなら朝でも食べられるわ!」
ご満悦のマリア。テラスとビビは首を傾げているが、多少の手伝いをしてもらう。
樹豚を出す。ビビが眼を輝かせる。
鍋にはお湯を張り、鶏ダシで軽く煮だてる。
樹豚は薄くスライス。
タレはコンソメスープを煮詰め、酢と酸味ある果物、塩、胡椒で味を整える。
野菜は細切りと、すりおろしを用意した。
そんな訳で、しゃぶしゃぶ、を用意した。
いつもは焼くか煮るだから、たまには代わり映えとして、これにした。
コンロはないが、七輪は造ってあるので、問題ない。木炭もあるし、抜かりはない。
食べ方を教える。軽い鶏ダシに肉を潜らせて、色がついたら、タレに浸けて食べる。
こ、こいつは!美味っ!!めちゃ美味!
「食べろ食べろ!かなり旨いぞ!」
食べ始める女性陣。
「美味しい!」
「ん・・・・・・!」
「ヤバイ、これはヤバイ!」
一心不乱に食べる女性陣。肉に熱中しているせいで、俺はそのまま灰汁取り係になってしまった。
「ソーイチ、あ~ん。」
テラスの優しさに涙がでる。
さて、楽しく食事をしている時に、
「あ、あの、宜しいですか?」
料理長が声をかけてきた。
「失礼ながら私にも、一口いただいても宜しいですか?」
遠慮深く願いをだす料理長。マリアを見る。頷くマリア。
「どうぞ。さあ、こちらへ。」
「では、失礼します。」
一口食べる料理長。顔を見ればわかる。余りの旨さに言葉を失っている。
「あ、あの私も。」
「私にも!」
この後、大試食会が始まってしまった。あれよあれよと肉が無くなり、追加の肉を用意しなければいけなくなってしまった。
無くなる肉にビビが哀しそうな目をしていたので、別口を用意する。しっかりお食べ。
あっという間に皿の肉は空になった。いや、無限保管にはまだまだあるけど、食いつくされそうな勢いだったので終了とした。
「驚きました!初めて食べましたが、この調理法は男爵様が考案されたのですか?」
「違いますよ。真似をしただけです。」
「そ、そうですか?いやはや、料理はやはり奥が深い。」
頷きながら、しゃぶしゃぶの旨さに反芻する料理長。
普段は牛肉なんだが、豚も旨いんだよね。樹豚なら尚更!
「この調理法ですが、使わせてもらっても?」
「勿論構いませんよ。」
「あ、ありがとうございます!」
大した事ないのだが、頭を床につける勢いで礼をする料理長。部下達も同じだ。
「あ、代わりと言っては何ですが、このコンソメスープのレシピを教えてくれませんか?」
「良いですとも!御安い御用です!」
部下達にざわつきがあったが、料理長は気にせずにレシピを教えてくれた。
後で部下の一人に聞いたが、コンソメスープのレシピは秘匿になっていたようで、作れるのは料理長だけらしい。またやっちまった。
ま、料理長が教えてくれたのだ。気にしないでおこう。
今日はまだ時間もあるし、街に繰り出すとするか。
前から行きたいと思っていた場所。
「製鉄所に行きたいんだが、良いか?」
「あれ、行きたい所って、病院じゃなかったの?」
「あそこは今度。」
「行く行く!」
「はい、お伴します。」
「そうね、行きましょう!」
女性陣の許可ももらったし、製鉄所に向かう事にした。
★
「あんじゃあ!貴様らは!」
製鉄所内。所員に案内された場所は、製鉄加工場。鉄が溶ける熱で、熱気が広がり、サウナ状態となっている。
一人の老年男性に怒声にも感じる声を挙げられ、所員が慌てる。
「親父さん!この方はアオバ男爵様ですよ!すみませんすみません!」
「いや、構わないよ。」
職人気質のヒトなのだろう。言葉使いが悪いのはよくある事だ。
「そうかい!貴族様だったか!俺は口が悪い!気に触るなら他者と話せ!」
「構わない。悪意は無いのだろ?なら問題は無い。」
「話がわかる貴族様だったか!汚ねえ所だがゆっくりしろや!」
「すみませんすみません!」
だから構わないといってるんだが。
大声の親父さんは、巨大な炉の管理に忙しそうだ。
鉄鉱石、鉄を溶かす最適温度を悟るのは、目と鼻と耳と肌で行っているようだ。機械管理はない世界。最適温度は感覚の世界だ。腕の差が出るだろう。
以前造ったタタラでもそうだが、鉄は融解温度で良し悪しが変わる。そして石灰や木炭などを使い不純物を取り除く作業。インゴットを作る。これが一番大事な作業である。このインゴットが駄物だと、全てが駄物になる。
親父さんは神経を集中させている。最適温度を計っているのだろう。
カーン!カーン!カーン!
警鐘?なんだ?
「大枠に鉄を流し込む作業の合図です。危険ですので離れて下さい!」
「わかった。」
作業場の端に行く。大型炉が傾き、鉄が勢いよく大枠に流れていく。立ち上がる炎、飛び散る火花。その熱さにも負けずに、作業員は鉄を流し込む手を止めない。親父さんは火花の雨に打たれながら作業している。
唖然としたよ。安全対策何も無いじゃないか。いや、ここではこれが一般的なのだろう。いやはや、逞しい。
大枠の鉄は、数個の中枠へと移動する。
「中枠は何のためにあるのか?」
「それはですね、再濾過をする為です。不純物を完全に取り除く為に2回の行程が必要なのです。中枠の鉄を再濾過、再微加熱しまして、小枠へと流し込みます。」
「あまり加熱すると、鉄が傷むぞ?」
「流石男爵様、博識でいらっしゃいますね。はい、ですのでここからは早さが物をいいます。ほぼ的確温度は親父さんが行いましたので、後はお弟子さんがその温度を保ち、枠へと流すのです。この行程が、我製鉄所自慢の純鉄を作り出すのです。」
「ふむ。」
要所を省いての説明は、企業秘密みたいなものだろう。まぁ、大体わかるが。この作業には無駄行程はあるが、不純物を取り除くという意味では、ある意味間違ってはいない。親父さんの的確温度があればこそだから、出来る行程ともいえる。
「鋼は作らないのか?」
鋼は、鉄から炭素を取り除くとできる金属。固くなるが、そのぶん脆い。
「玉鋼ですね。勿論作ります。中枠の1つが玉鋼の材料になります。」
「そうか。」
やっぱり無駄が多いな。品質優先なんだろうが、勿体ないな。まあ、この製鉄所のやり方なのだろう、口出しは止めておくか。
流し込みが終わり、作業場にも一段落したのだろう。休憩に入っている。
親父さんが此方に寄ってきた。
「改めてだ!名はイアンだ!」
「ソーイチ・アオバ男爵だ。見事な感覚だな。」
「へっ!貴族様に鉄の声が聞こえるとは思えないがな!」
鉄の声、ときたか。職人気質の自尊心だろうな。誉め言葉にイアンも満更ではないようだから、俺の言葉の意味を理解したと思っていいんだろうな。
「んで、その男爵様がこんな汚い場所に何の用だ?」
「これを見てくれ。」
黒鋼の槍を見せる。
ビビが以前ドワーフから貰った槍だ。熱管理に失敗した駄物だが、再加工すれば上物位にはなる筈だと思った。だが、この金属の加工は知識がない。知識のあると思われる人物に会って、話をききたかったのだ。
「黒鋼か?なんであんたが持っている?」
「以前、妻がドワーフから貰ったのでな。知識を得たくて訪れたのだ。」
「へっ!そうか!ならその妻を呼んでくれ!場所も変えよう!話はそれからだ!」
安全地帯にいるビビ達を呼ぶ。移動場所は、応接室だった。
応接室が涼しく感じるのは、作業場との温度差に他ならない。出されたお茶が旨い。団扇らしき物を借り、テラスとマリアに扇いでいる。
猫に団扇を扇いでいる感覚になるな。
「さて、黒鋼はドワーフの技術の1つだ!稀に現物を拝むが、これは失敗作のようだな!」
「はい、助けたドワーフは駄物といって渡してくれましたので、そうだと思います。」
「原因は配合か、温度管理か、圧力管理か、いずれにせよ失敗作で変わりはない!だがな、黒鋼を渡す行為は、評価でもある!あんたはそいつから信用を勝ち取った訳だ!」
「意味がわかりませんが?」
「つまりだな!」
黒鋼は秘伝の金属であった。稀少という意味でも価値のある金属。加工が大変難しく、鍛冶が天職といわれるドワーフでさえ、傑作数が少ない。また、数が少ないせいか、黒鋼を他者へ渡す行為は、認めた者にしか行わない。
「詳しいですね。」
「当たり前だ!俺はドワーフだからな!」
は??ドワーフ?確かに太ってはいるが、そんなに背は低くないし、髭とかのびきってないし。
「違いますよ。親父さんはドワーフの血が入っているヒトですよ。」
所員の訂正が入る。ハーフとかクウォーターとかか?
「ふん!俺の先祖がドワーフだったんだ!なら俺もドワーフだろうが!」
成る程、ドワーフに対しての強い憧れと誇りだな。何となく気持ちがわかる。
イアンの先祖は闘技場を建設に参加した一人のようで、そのままケルト市に移住したようだ。
疑問。ドワーフとヒトに子が成せるのは何故か?
「妖精人族ですからね、ドワーフは。エルフやホビットなんかも妖精人族ですよ。妖精人族はヒト族と近しき存在で、繁栄も可能なのです。」
「因みに、小鬼族や豚獣族は繁栄不可能ときいたが?」
「彼等は原種の分類ですからね。例えは悪いですが、動物からヒトは生まれません。」
成る程。軽く卑下する所をみると、ヒトは小鬼族や豚獣族は忌避の対象らしいな。マリアだけではなかったんだな。
「話を戻すぞ!黒鋼の加工は俺には出来ん!だが、先祖が残した書物かある!貴族様にそれを貸してやろう!」
「え?良いんですか?」
余りの驚きに、口調が普段に戻ってしまった。だって、ドワーフの稀少技術だろ?普通は隠すものだろう?
「構わん!貴族様が黒鋼を持っていただけで、信用に値する!俺は黒鋼よりも玉鋼を極める事にしているからな!待ってろ!持ってくる!」
はは、何か勢いよく動く人だな。満面の笑いを出しながら、退室するイアン。その後に所員も退室した。
「正に豪快を表した人ね。」
「だな。」
マリアの意見に同意する。今までうるさかったからか、今はかなり静かに感じる。
「それで、黒鋼をどうするの?まさかだけど。」
「ああ、造り直すさ。」
この不完全な黒鋼槍を造り直す。決めていた事だ。
「今のビビでこの槍では、実力を出しきれないからな。」
「あ、やっぱり。」
「わ、私は、あの、その・・・。」
呆れているが了承するマリアに、遠慮するビビ。今後の狩りを考えても、槍の再加工は必須だ。
「これは俺がやりたい事だ。完成したら受け取ってくれるよな?」
「は、はい、はい!勿論です!」
嬉々とするビビ。頭を撫で、落ち着かせる。
「よかったね、ビビ。」
「はい!テラス様!はい!」
お互いの手を握り会う。やはり、男は女性が喜ぶ様を見ていると心地良くなる。そして、やる気が湧く。
さて、書物かどんな物か、楽しみにしよう。
リアルの忙しさにより、続きは後日になります。予定では8月9日に投稿します。御了承ください。




