4-11 拠点は安心安全であれ。
空地に小屋を出す。ブライアンに驚かれたが、そこはそれ、魔法、とした。万能な言い訳である。
辺りには石壁の残骸に木の小屋を建てる。結構目立つ。だが、ここはケルト家敷地内。往来がなく、人目は気にしなくて良い。
用意された宿?キャンセルしたよ。
到着し中に入る前に、テラスが拒否をしたのだ。
「なんかやだ。」
この一言で、宿はキャンセル。キャンセル料は必要ないが連絡は必要なので、ブライアンに任せた。元々、気に入らなければ別の宿を探すとセバスが言っていたので、キャンセルを気に病む事はない。
「なら、いつもの小屋だな。」
「うん!」
「結局変わらない訳ね。」
テラスの意見に皆も賛成している。ビビには邪の気配の察知、マリアも黒さが視えたようだ。この宿屋には何かあると思い、避ける事にした。必要ない虎穴には入らない。
いつもの小屋で休む。厩舎でレンとイトを休ませ、今日の働きを労う。テラスとブライアンがブラッシングをしてくれている。
マリアは食事の準備、ビビは手伝いだ。
今日の俺は休みとなった。手持ちぶたさはあるが、折角の提案だし、休ませてもらっている。
椅子に腰掛け、ふと想う。
俺の発言で、ヒトが死に至った。
チンピラ共はいい。あれは明確に殺しにきた。殺人を行おうとした奴等に情状酌量なぞない。
ゼノスにしては、俺に失言しただけだ。だが、不敬罪にはかわらない。不敬罪は最悪死刑だ。商店の人々の喜び様は、奴の悪行の積み重ねだろう。
だが、この事に良心の呵責がまるでないのはおかしいのでは?と考えてしまう。
人を殺した、事にはかわらない。間接的に、自分の手は汚さずに。
不快になる。後悔が沸き上がる。もっと良い立ち回りがあったのではないかと思ってしまう。
テラス、ビビ、マリアを侮辱されると、一瞬で爆発してしまう。自分では押さえつけているつもりなのだが、回りにはそう見えていない。思考も、相手を改めさせる事をせず、殺る気になってしまう。
自分の思考の変化に違和感を感じる。この世界に馴染んできた証拠なのだろうか?それとも?
ふにょん。
「またむずかしい顔してるよ。」
後ろから抱き締めてきたテラス。後頭部がテラスのたわわな胸に挟まれ幸せになる。
「俺は、間違っているのかな?」
「なんで?ソーイチは間違ってはいけないの?」
「なるべく間違えたくはないな。なるべく平和に暮らしたい。」
「今は平和だよ?」
「そうだけど、何て言えばいいか。」
「ソーイチはソーイチだよ。一生懸命なソーイチだよ。」
「ねぇ、あんたには信条があるでしょ。いいから胸を張りなさい!」
マリアが入る。
「ソーイチ様は間違えていないと思います。」
ビビも加わった。
言葉にするから意味がある。言葉に責任を持て。即ち、それは行動に繋がる。
「ん、ありがとう、みんな。」
気持ちを切り替える。奴等は悪事を行った。だから罰した。それだけだ。大した事はない。
「美味しいご飯食べれば、嫌な事は忘れるわ!さ、食べましょう。」
ブライアンはケルト邸舘に戻っている。いつもの四人だ。
テーブルに料理がならぶ。
「では、「「「いただきます。」」」」
いつもの美味しい料理を口に運びながら、今の幸せを噛み締める事にした。
★
「お邪魔するよ。」
「呼んでないが?」
「ま、ワインでも飲もうよ。」
ロイド男爵が小屋にきた。ワイン片手に入ってくる。
こちらは風呂に入る準備をしていたので、多少荒れた部屋になっている。マリアが即座に散らかっている服を片付け、ロイド男爵を招く。
「せめてノックくらいしろよ。礼儀だろ?」
「わかってたからしなかったのさ。」
飄々とした態度に腹が立つが、これが奴だ。立つ腹も意味をなさない。
「中々立派な家だな。」
「そいつはどうも。」
「キャンピングカーならぬ、キャンピングハウスなんて、これはずるいね。快適な旅な訳だ。」
「まあな。」
他愛のない会話をする。ロイド男爵にはチートは話していないが、ある程度は把握しているだろうし、今更感がある。
「本題だけど、ゼノスを捕まえたんだろ?やるね。」
「あれは偶然と奴の油断が招いたものだ。狙った訳じゃない。」
「それでも、ケルト市ね悩みの種の1つを潰せたのは良いことさ。」
「ん?なら、ゼノスの悪行を教えろ。」
「良いとも。」
ロックグラスにワインを注ぎ、ロイド男爵と今日の事を語る。
ゼノスの悪行。
暴利貸し、税の横領、貴族への賄賂、土地の強制収奪、等々。悪事もここまでくると立派に感じてしまう。
「よく今まで生きていたな。」
「バックに貴族がいるからな。市民は手を出せない。」
「それこそ自警ギルドに頼めば良いんじゃなかったのか?」
「あれも市民。報復を恐れるのは当たり前だろ?」
やりたい放題だな。
「証拠が無ければ拿捕は出来ない。商工ギルドの地位に貴族のパイプもあるから、現行犯でなければならなかった。だが、今回のは言い逃れも出来ない。それに、奴が誰に喧嘩を売ったのか思い知らしてやろう。こってり絞って刑を執行させるさ。」
悪人面の笑みを浮かべるロイド男爵。
確かに、ゼノスの所業は許される者ではない。死刑は確実だな。
「バックの貴族は誰なんだ?」
「それがね、わからないんだよ。だから、今回の拿捕はその情報を聞き出せるチャンスなんだ。」
「暗殺されそうだな?」
「そこは大丈夫。もし暗殺されたらされたで、予想が絞れるから。」
ん?そうなのか?
「この辺は政を行う者の采配さ。ゼノスは切られるだろうが、有効利用はさせてもらうさ。」
黒い!これが本性だろう。悪役顔のロイド男爵。
「後、多分君達はゼノスの私兵に狙われるから、気を付けるんだよ。」
「もう狙われた。」
「そうなのかい?」
宿。あそこに私兵がいたかもしれない。確認はしていないが。
「君とビビ君は大丈夫だろうけど、テラス君とマリア君は一人にならないほうが良いだろう。元締めさえ捕まえれば、君達の安全は保証されるさ。」
「それってつまり、元締め拿捕に協力しろ、という事か?」
「察しが早くて助かる。」
こいつはこういう奴だ。人が断れないのをわかって言ってきている。
女性陣の安全確保は最優先だ。街からでる事も出来るが、それはドワーフ自治領を諦める事と同じだ。女性陣がそれを良とする訳がない。なら、俺は元締めを拿捕し、安全確保をしなければならない。
「情報は逐一報告していこう。君達には護衛を付ける。隠れているから、目立つ事はないし、君達の行動に制限を付ける事もない。ただ、1日の報告を此処でするだけさ。」
話を進めるロイド男爵。してやられた感が半端ない。
「わかった。お互いに、協力していこう。情報は大事だからな。」
妥協した。どうせ断るのが困難なら、解決させた方が面倒もないと判断した。アパラ拿捕で片足突っ込んでしまったんだ。なら、協力したほうが後腐れもない。
「今日の1日を報告する。」
俺はグラスのワインを一気に飲み干し、ロイド男爵に今日の1日の出来事を話した。
★
街で危険になるとは思っていなかった。いや、街の外もそれなりに危険だが、大して危険度がかわらない、いや、相手はヒトなのだから、一筋縄ではいかないだろう。
俺は考える。どのように行動するか。どうすれば安全かつ、素早く解決出来るかを。
「何を造ってるの?」
俺は工房兼私室で工作をしている。マリアが私室に入ってきた。
「うん、ケルト家の料理長の料理で閃いた事があるんだよ。」
俺は大1つ小3つの箱を作った。大は俺の身長ほど高く、小は股下くらいにした。
「またトンでも造る気?」
「いやいや、マリアも絶賛するから期待しろ。徹夜もしないから。」
「本当に?」
「約束する。」
怪訝な顔のマリアだが、今回は呆れながらも納得してくれたようだ。
「明日はどうするの?」
「明日は病院とエクシリオス教会へ行こうと思う。人が集まる場所だ。相手も大きな行動は取れないだろ?」
「それも、そうね。」
小さな机にお茶を置くマリア。箱が気になるようで、眼を離さない。
「箱、ね。」
「今はな。今日はもう休んだ方が良いぞ。明日も体力戦だからな。」
「う、うん。わかったわ。」
マリアを手招きする。軽く頬にキスをする。
「お休み。」
「はい、お休みなさい。」
テラスとビビには、後でキスをしよう。それなら文句はない筈だ。多分。
退室するマリアを目で送り、俺は作業に戻る。
大の箱は開閉式。砂漠百足の殻に付いていた粘膜をパッキンにする。また、内部は薄い金属盤を重ね入れ、その間に管を何本も通す。小の1つも同じように造る。
そして、砂漠百足の紫水晶を管に組み込む。
この紫水晶だが、水を吸収だけではなく、放出も出来る。軽い衝撃を与えると片側の先から水がでるのだ。
紫水晶に衝撃を与え、管に1度水を通す。反対側から出る水は紫水晶に戻る。循環装置となった。
あとは、小さな箱と組み合わせるだけだ。
小さな箱には、円筒型のふいごに、ばね、歯車と金属板を組み込む。ばねの力でふいごが動く仕組みだ。
ふいごは先程造った箱に連動する。これ、ぜんまい式ではあるが、自動的に空気を抜く仕組みを造った。
冷蔵庫、冷凍庫
完成。
気圧低下と空冷と水冷を利用した。現代の冷蔵庫と比べるとかさばるが、冷える、事だけを目的にしたので構わない。
マリアの喜ぶ顔が浮かぶ。
さて、と。ダミーは造った。本題を造る事にしよう。
設計だけして、今日は休む事にする。約束を守る為に。
寝室にいき、女性陣の間に入り込む。
暖かく、柔らかい。幸せ。お休みなさい。
色々あった観光初日は終了した。




