4-9 市内観光 その2
ケルト家の大館はケルト市中央の丘の上に建てられている。身分の高い人は高所を陣取る傾向があるようで、標高の高さが身分の高さと比例しているようだ。
勿論、戦略的にも、高所は有利陣地であり、市を一望出来る。という事は、有事の際、その方角も確認出来る意味も持つ。
闘技場は市の北西に位置する。俺達はブライアンの案内の元、闘技場に向かっていた。
中心地、貴族の居住区の外回りにロータリーの様に円く路がある。そこから外側に路が延びる。要所を繋ぐ8方向の大通り。ケルト市北西大通りを馬車で進む。
この区画は、宿場や商店が並ぶ地区のようで、市外から来た来訪者の滞在場所になっていた。路は馬車用の中央路、歩行者は端路となっている。通りの歩行者に商人らしきヒトや、武器防具を装備した冒険者、探索者が闊歩していた。
「この辺りは自警ギルドがありますので、多種様々な人種や職業者が利用しております。」
ブライアンの説明が入る。闘技場という、特殊な建造物があるからか、よそ様が集まるのだろう。治安維持が必要な地区ともいえ、逆に考えれば、治安が悪いとも言えるだろう。
治安維持には、ケルト市兵士も携わっている。というか、兵士の主任務が治安維持だ。だが、広いケルト市、兵士だけでは治安維持が出来ず、尚且つ、役所仕事なので、行動も遅い。貴族の命令がなければいけないのだ。
その点、自警ギルドは民間なので、その手の煩わしい行程がない。依頼があれば、直ぐに対応出来る軽快さがある。
大きな事項は兵士、簡単な事柄は自警ギルドと分け、治安維持に務めているのだろう。
おもわず、兵士と自警ギルドの仲を聞いてみた。意外にも仲は悪くないようだ。命令中枢、兵士は市の直属なので命令権があるが、自警ギルドに発令した依頼の受理者にのみ発動される。
つまり、兵士は誰にでも命令出来る訳ではなく、自警ギルドの依頼受理者にしか命令出来ない。自警ギルドも依頼の選択権があり選べる訳だ。
なるほどね。それなら衝突も少ないな。
この仕組みに感心した。いや、これは失礼だな。人の生活の工夫、知恵の努力、円滑な仕組みを考え出した先人者。当たり前の事なのだ。考えない人はいないのだ。法を整備し、治安を守る。それは当たり前の事だ。
折角なので、ここで法の説明をする。
盗め3ヶ条。
殺すな、犯すな、盗むな。である。
これを聞いたときは、おもわず吹いてしまった。何処の改め方だよ!とつっこむ位だった。
だが、この位シンプルな方が、世間に広まりやすい。勿論、他にも細かくあるが、この盗めの3ヶ条が主法律であり、市民基準となっている。
兵士と自警ギルドが連携して、治安維持にあたる。素晴らしい事だ。
まぁ、間違いなく例外もあるし、ばれないようにやっている奴はいる。悪党は何処にでもいるものだ。
大通りを進む。進行方向に巨大な建造物が見えてきた。
闘技場だ。
★
楕円形の巨大建造物。ある国の古代闘技場を思わせる石造りの建物。かなりの大物だ。
「ここが闘技場です。兵士や自警ギルドの訓練の他に、祭事にも使われます。2年に1度、闘技会も行われます。」
それは凄い。やはり主要都市となると、祭事のスケールが大きい。
旅が珍しい世界だが、いない、という訳ではない。行商も確認しているし、また、武者修行している者や、東の獣族や亜人族なんかも、腕試しをする切っ掛けになるだろう。
「私はここで、皆様を御待ちしております。ごゆっくり御鑑賞下さいませ。」
「もう一度確認だが。」
「はい、有事の際は、ケルト邸館にて合流ですね。大丈夫です。この子達も賢いので、危険を察知してくれるでしょう。」
「では、行ってくる。待っててくれ。」
「はい、いってらっしゃいませ。」
馬車を定位置に停車させ、俺達は闘技場に向かう。ブライアンは留守番だ。もしもの時の取り決めも決めていた。まぁ、大丈夫だとは思うが。
ケルト闘技場。
古代からある石造りの建造物。大石を互い違いに重ね積み上げる。壁は窓の様にアーチ型にし、重量を支えている。また、全形を楕円の形にして歪みに耐える構造だ。多分、石の間にはセメントが使われているだろう。石灰岩と火山灰だとは思うが。ガイドが欲しくなる。
警備兵士に見学の意図を伝える。錫杖を見せ、身分を証す。
暫く待つと、一人の男が寄ってきた。
「お初にお目にかかります。わたくし、ロッセと申します。この闘技場の学芸員を携わっているおります。」
「アオバ男爵だ。よろしく頼む。」
兵士に案内人を頼んだのだ。かなりの大きさがあるので、迷子にならないようにするのと、闘技場の説明をしてもらう為だ。
「はい、畏まりました。先ずは、闘技場の説明から致します。」
はっきり言う!話が長い!そんな訳で要約する。
ケルト闘技場。
ケルト宗主がドワーフに依頼して造った建造物。有効の証として建造依頼をしたそうだ。建造年数は30年とされ、大多数の人員が導入されたようだ。
設計者はドワーフであり、かなりの天才だったそうだ。
確かに、この建築方式を編み出すのは並みでは出来ない。
アーチやセメントは俺の予想通りだった。だが、セメントに関しては、失伝したという。配合率がわからないそうだ。勿体ない。
また、美術的にも施され、石像はドワーフの腕を見せる物として、飾られている。とても造型が細かく出来ている。今にも動きそうだ。
ゴーレム?マリアさん、どう?
「石よ。動かないわ。」
それはよかった。
細かい歴史の説明を受け、中に入る。
アーチを抜け、階段で上に上がる。
暗い場所から反転、明るい陽射しが目を遮る。
明るさかに慣れ、俺は嘆息する。
「これは、凄い!」
「すごーい。」
「良い眺めです。」
「そうね、絶景だわ!」
各々の感想に、ロッセが胸を張る。うん、気持ちはわかる。だが、ロッセの功績ではないぞ。
内部は階段状に整地され、大人数で観戦出来るようになっている。
客席に天幕が張られ、日影を作る。真ん中の闘場に陽射しが当たるようになっている。その陽光の元、自警ギルドが大人数演習を行っていた。
班に分かれている。剣を素振りする集団、型を行う集団、案山子に打ち込みする集団、木刀だが実戦さながらに乱取りを行う少数と分かれていた。
練度に合わせた演習のようだ。
中々に活気がある。教官の怒声のような声に、気合いで答え、各々真剣にやっているようだ。
俺は、一通りみる。
素振りや型は未熟さが溢れ出ている。修練というより、基礎が足りない。打ち込み組も勢いだけで、腰が入っていない。それでは、斬る、ではなく、叩く、だ。
乱取り組を見ると、様にはなっているが、まだまだ基礎が足りない。上半身に頼るから、下半身の不安定さが露見する。相手の読みも甘い。剣も振っているだけ。振るう、をしていない。この「う」が大事なのだ。
「大した事ないな。」
「はい、そのようです。」
思っていたのと違うのか、ビビの落胆は大きいようだ。だが、よく考えれば、自警ギルドは民間だ。練度に合わせた演習なら、ここにいるのは低練度の者達かもしれない。
「大した事ない、ですか?様になっていると思いますが?」
ロッセは俺の言葉に驚いているようだ。学芸員なので、武の修得はしていないだろうから、この光景も凄惨なのだろう。
「ここにいるのは、まだ若手か?」
「そう、ですねかね?確か、自警ギルドの演習は希望者の集まりとなっております。腕に自信のある方々は参加なさらないかもしれません。」
「やはり、そうか。」
その言葉に安堵する。自身の未熟を認めた者達の集まりであれば、その身も向上するというものだ。
「気合い充分。伸びるのを期待しよう。」
「はい、そうですね。」
ビビをフォローする。強者がいると思っていたのだ。だが、いないのは仕方がない。
そういえば、
「ロッセ、この闘技場は兵士やエクシリオス教の騎士も演習に使うか?」
「はい、使われます。兵士は5日に1日、騎士は不定期ですが使われます。」
「ダッド殿は来るか?」
「はい、いらっしゃいます。」
騎士団長ダッド。ロイド男爵に強いと言わしめた男。彼に会うのも手かもしれない。
「騎士が演習の時に見学は出来るか?」
「はい、出来ます。教徒も見学に集まりますので、お気軽にお越し下さいませ。」
それは良いこと聞いた。
「次は騎士の時に来るか?」
「はい!ありがとうございます!」
ビビは喜んでいる。尻尾が勢いよく振っている。
「次、行こうか。」
「そうね、ちょっとむさ苦しいけど、楽しかったわ。」
「がんばれー!」
マリアは飽きていたようだ。テラスは自警ギルドに応援していた。テラスの声は聞こえていないようだが、今は自分の事に集中しているからだろう。
いいね、その気合い。嫌いじゃない。
俺達は、ロッセの案内で外に出る事にした。
★
闘技場、アーチ下通路。
俺達が外に向かう時だ。
「あっ!」
ロッセが目を見開いている。何かを見つけたようだ。
目線の先、そこには人影。四人いる。
皮鎧と片手剣装備。一番ガタイが良い男は鉄胸当て、大剣装備。間違いなく、自警ギルドの者だ。
「いたぜー、ロッセェ!」
やらしい声で此方に近づく。威圧的に歩くその様は、チンピラがよく似合う。
「すみません、ガゴさん。今はお客様がいらしてますので、また後にして下さい。」
「はぁ!?このガゴさんに対してその口の聞き方はなんだ?」
訂正、チンピラだった。
「さっさと出すもん出しな。そしたら帰ってやるよ。へへっ!」
「待って下さい!この前で最後と約束したじゃないですか?!」
「は?知らねーな!それとも俺に逆らうのか?ロッセごときが、このガゴさんによ?」
へらへら笑うチンピラ共。金銭要求とか、正直いって胸糞悪い。
「兎に角!今はお客様がいらしています。今は待って下さい!」
「なんだてめぇ?!」
怒るチンピラ。反抗が気に障ったのだろう。俺に視線を移す。その目は、相手を見下すゲスの眼。
「そこの奴か?ふん!邪魔だ、消えろ!」
ほう?いい度胸だ!
「へっ!いい女がいるじゃねぇか。女は置いていけ。わかったら痛い目あう前にさっさと消えろ。」
威圧的迫り、ガンを飛ばすチンピラ。女性陣を瞬視し、吐き気を誘うような笑みを浮かべる。
うん、殺るか。
「ガゴさん!この方々は貴族の方ですよ!アオバ男爵様です!不敬ですよ!」
ロッセが止めに入る。必死の抵抗が、ロッセの真摯な態度を現す。
さて、俺の身分を明らかにしたが?
「はあ?だからなんだ?」
うん、頭も悪いようだ。
「こんな臆病者に何も出来やしねぇさ。さっきから何も喋らねえ。びびってんだろ?へっへ。」
違う、会話する気がないだけだ。
「さっさと女を置いて消えな。貴族だか何だか知らねえが、てめえには似合わねえ女達だ。俺たっぷり可愛がって、ぐぼぁ!!」
あ、腹に一発入れてしまった。イカンイカン。平和的に解決せねば。
「あ、兄貴!」
「や、やりやがったな、てめえ!死んだぞ、てめぇは死んだ!」
待って、笑うから止めて!そんなテンプレ、素で言わないで!
立ち上がるチンピラ。足元が震えている。ダメージが回復していない証拠だ。
「や、止めて下さい!お金は渡しますから、直ぐに帰って下さい!」
ロッセがチンピラに金を渡そうとするが、他の二人に取り押さえられる。
チンピラ二人が抜剣した。ここまで脳無とは思っていなかった。
「殺してやるよ。俺の魔剣でてめえの血を吸ってやるよ!」
グッハァ!笑いが、笑いが止まらん!
「死ねえ!!」
大剣を振りかざすチンピラ。その軌道は俺の直上。
たが、
遅い。
降り下ろされた大剣を最小限に避わし、チンピラの顎に掌底の一撃を加える。
顎の間接が外れた音が聞こえたが、構わない。
折れないか。頑丈だな。
その流れで、隣のチンピラにも腹に蹴りを入れる。足刀蹴り。軸足を回し重心を移動させ、速度と重さを上げる。皮鎧越しだが、くの字に曲がり、膝から落ちた。
その一瞬の出来事に、ロッセを取り押さえていたチンピラ二人は、ロッセを解き慌てて逃げていった。
ここまでテンプレとは。
悶絶し、意識を失っている二人のチンピラ。そして俺はこの二人を見逃す気はない。
髪を掴み引きずる。行き先は、闘場だ。
★
「責任者を出せ!」
チンピラを放り、大声を挙げる。
修練していた自警ギルド達は一斉に手を止め、此方を見る。
辺りを見渡し、責任者らしき人物を探す。集団の奥から一人の男性が近寄る。
「何だお前?」
威圧的態度。怪訝な表情の男が俺にそう言ってくる。
「アパラさん!この方はアオバ男爵様です!」
「そうかい、名乗らなかったからわからなかった。」
確かに。名乗ってはいない。
「俺はアオバ男爵。お前が責任者か?」
「・・・、はい、私が自警ギルド責任者、アパラと申します。お見知りおきを。」
方膝をつき、礼をする。それに合わせ、後ろの雑多も方膝をついた。
「こいつらはお前の預かり者か?」
「・・・はい、自警ギルド所属、ガゴにズケでございます。」
頭を垂れながら話すアパラ。ここまで正直に話すのは意外だった。知らぬ振りを決め込むかと予想していた。
「この者が何を?」
聞くアパラ。決して表情は見せない。
「こいつらは私に不敬を働いた。強請、婦女暴行未遂、貴族への抜剣。これは見過ごせん!」
震脚。足元の石畳に亀裂が入る。その音で、恐怖を呼び寄せる。
「貴様の意見を聞く。責任者として、この件、どう処理する?」
「はっ!然るべき処置を行います!」
「具体的に言え。」
「はっ!衛兵に引渡し、事情聴取を行い、刑の執行と成ります。犯罪奴隷は勿論、最悪、奈落行きかと思われます。」
奈落行き?何だ?
「奈落を教えろ。私はこの地に疎い。」
「はっ!奈落はケルト市の北東にあります地下洞窟です。死罪以上の重罪者はこの奈落での生活を余儀無くされます。洞窟入り口は1つ。見張りもいますので、脱走は不可能です。また、内部には凶悪な怪獣も住み着いています。この刑は、受刑者に恐怖の中で死を迎えさせる為にございます。」
一瞬の死より、真綿で首を絞める死か。結構考えがエグいな。
「見張りは襲われたりしないのか?」
「厳重な扉があります。また、怪獣が陽に当たる事はありません。」
夜行性なのか?まあいい。
「こいつらにあと二人の仲間がいる。捕まろ。」
「・・・失礼ながら、それは依頼でしょうか?」
確かに、自警ギルドは依頼で動く民間組織だ。依頼受理で初めて動く。
「正式に依頼する。手段は任せる。逃げた仲間にも相応の刑を執行させろ。」
「では、依頼発行受注処理は今は簡略致します。後日依頼処理の為、代理人を自警ギルドに寄越して下さい。では、失礼致します。」
頭を垂れながら下がるアパラ。振り向き、後ろに並ぶギルド員に声をかける。
「聞いたな!受けたい奴はノロにベンを捕まえろ!男爵様直々のご依頼だ!逃がすな!」
その言葉に反応し、全員が散らばる。壮観だった。
アパラはまた振り向き、此方に顔をみせ、膝を付き頭を垂れる。
「じき、見つかるでしょう。では、ギルドでお待ちしております。」
立ち上がると、軽い身のこなしで闘場を抜けるアパラ。彼もまた、強者だったようだ。
自警ギルドマスターだからな、実力者なのは必然だな。
さて、
「戻ろうか、ってテラス?」
テラスは俺の頬を摘まむ。
「メーだよ。ソーイチ。」
テラスは御冠のようだ。珍しい。理由は直ぐにわかった。
ビビは気圧され、マリアは恐怖で涙眼になっている。チンピラのせいではない。俺の怒気に反応してしまったのだろう。
「ロッセ、悪いが外してくれ。」
「はい、畏まりました。」
ロッセの表情も重い。彼は顛末を気にしているようだ。優しい人なのだろう。
抜けるロッセ。
「すまない。怒りで我を忘れた。」
俺の胸をポカポカ叩くテラス。珍しい。いとおしさからか、頭を軽く抱き締める。
荒ぶっていた怒気か収まる。冷静な思考になり、テラスからの安らぎが、俺を癒す。
「ビビ、すまない。」
「いえ、ソーイチ様は何も悪くありません。」
ビビの頬に手を添える。ビビが手を重ねる。安堵の表情に戻った。
「マリアも、すまない。」
「怖いのは苦手だけど、ソーイチさんが恐いのはやだ。」
「すまん。」
マリアの頭を軽く撫でる。俯くマリアは軽く震えていたが、切り替えたのか涙眼のまま微笑んだ。
「さ、次行きましょ!安心したらお腹空いたわ。いっぱいごはん食べて幸せになりましょ。」
「そうだな、行こうか。」
「はい!」
「うん。蜜屋にも行こうね。」
「勿論さ。」
落ち着いた俺達は、闘技場を後にした。




