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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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4-7 ケルト市 その5


 晩餐会という訳ではないが、夕食をケルト侯爵と頂く事になった。

 風呂に入り汗を流す。やはり侯爵家。風呂がデカイ!本来は浴衣を着ての混浴だが、夫婦な訳だし浴衣を着ないで入った。

 風呂から上がり、折角なので、ビビとマリアにはドレスに着替えてもらう。かしこまった食事会ではないが、ロイド男爵に助言をもらいながら、準備を進める。


 ある程度の準備を進めていると、扉からノック音が聞こえ、開く。従者が避けると、そこには見知った女性が立っていた。


「あら、ようやく来たのですね。お待ちしていましたわ。」

「お久しぶりでございます。ヒルリー様。」


 リューア伯爵夫人だったご婦人。いまは未亡人だ。相変わらず布地の少ない格好をしている。

 ビビの着付けを行っていた手を止め、礼をする。代わりにマリアが着付けを行い始めた。


「挨拶が遅れ、申し訳ありません。」

「構いません。そなたには礼もある。無作法は許しましょう。」


 ほぼ全裸で肌油を探していた人に、無作法と言われたくはないが、黙っていよう。


「食事の時に挨拶する予定だったんだよ。今日はソーイチ家も相伴するから、賑やかな食事になるんじゃないかい?」

 ロイド男爵がヒルリー婦人に経緯を話す。にこやかな表情に、何故か俺の背筋が凍る。


「そうですか。では、料理長には格別に腕を奮ってもらいましょう。ほほほ。」


 なんか怖い。あのリューア伯爵に真っ向から対立していた人だ。並の精神力ではない筈だ。


 ロイド男爵が目配せするが、なんだろう?何かやることかあるのか?


「今日は一段と磨きをかけないといけませんね。ケルト家以外の人物がいるのですから、怠惰をみせる訳にはいきますまい。」

「その通りですね。妾としてもそなた達は客です。不躾であるわけにはいかないでしょう。」


 ・・・、そういう事かい。


 自分の背に手をまわし、無限保管から肌油の瓶詰を出す。これは俺が造った特製品だ。


「こちらをどうぞ、ヒルリー様。アーノ女準男爵から預かっておりました。」

「おおお!待っておったぞ!・・・、コホン、肌油も切らしておったのでな、丁度良い。貰っておきましょう。」


 渡した肌油を握り締める。従者が手を添え受けとる素振りをみせたが、ヒルリー婦人は渡す気はないようだ。


 かなり気に入っているようだな。


 俺は苦笑する。そこまで執着しているとは思っていなかったからだ。


「姉さん・・・。」

「気にするでない。よきにはからえ。」


 どこのお殿様だよ。


「では、料理長に今宵はケルト家の威厳を現してもらうとしましょう。では、後程。ほほほ。」


 上機嫌でヒルリー婦人は退室した。完全に肌油目当てだと断言する。


「嵐も去ったし、準備を進めてしまいたまえ。」

「・・・、そうする。」


 ビビの着付けは終わっていた。ビビの髪を整えるマリア。俺はマリアの衣装を準備する事にした。





 情報やマナー等の事前準備を整え、夕食会が始まった。


 席には、ニール侯爵、長娘のヒルリー婦人、長男のシュタイナー男爵、養子のロイド男爵、後は俺達四人だ。広間は豪華で、きらびやかな調度品が並ぶ。テーブルにいたっては、材質、彫刻の技術、彩飾等、一級品の物で、価値はかなり高いと予想は容易い。後でマリアに鑑定結果を聞こう。


 前菜、赤身魚のカルパッチョ。レモンのような酸味の果物で調理をしたようだ。さっぱりとしていてとても美味しい。


 スープはコンソメ、パンが付いてきた。柔らかいパン。酵母菌があるのにはビックリした。


 魚料理は、白身魚のソテーだが、一口食べ気付く。


 これ、黒胡椒(ブラックペッパー)だ。


 調味料に胡椒だけは持っていない。似たような山椒の粉で代用していた。

 前菜のカルパッチョにしてもそうだ。味の引き締めに白胡椒(ホワイトペッパー)を使っているだろう。


 成程、ヒルリー婦人が威厳を現す料理を提供させるとは、この事のようだ。


 胡椒は流通していない。昔、金と同等価値があった時代があったように、この大地もまた、胡椒は希少な物だ。安い物で、緑黄山椒があり、これが胡椒の代替品となっている。癖があり、辛味に苦味が混ざっているため、中々に使い所が難しい調味料だ。だが、ここには胡椒がある。これは手にしたい。


 肉料理は鹿肉のロースト。


 これが絶品だった。肉が柔らかく、臭みもない。ソースは赤ワインを使っているだろう。ビビが御澄ましでよく味わっているが、尻尾が凄い勢いで振っており、肉料理を褒め称える。

 テラスは終始にこやか、マリアはぶつくさ言いながら食べているのは、調理法を盗もうとしているのだろう。


 デザートは果物のシャーベットだ。


 驚いた!製氷技術があるのか!ぜひとも見てみたい。


 デザートの時間になり、ようやく会話開始となる。此方のマナーで食事中は会話禁止となっている。料理を味わうためか、料理を疎かに、会話を下品行為としているかはわからない。


「どうだね、今宵の料理は?」

「はい、とても素晴らしい料理でした。」


 反芻する。美味かった。とても美味かった!


「ふむ、感想を聞こう。」

「はい。」


 俺は感想を1つ1つ話す。ケルト侯爵の脇に立つ料理長にも今回の料理がどれ程素晴らしいかを伝えた。


 前菜のカルパッチョ。ビネガーに酸味果物を使いさっぱりと、塩胡椒で素材を引き締める。

 スープはコンソメだが、香草と、これにも胡椒が使われている。パンの酵母菌は多分ワインの酵母だろう。

 魚料理で口を直し、メインの肉料理には、料理長の腕を見せた。ロースト、釜焼きだが、塩と香草を惜しげもなく使ったのだろう。忘れていたが、塩も高級品だ。

 デザートは製氷に氷魔法を考えたが、魔法を見たことが無い為却下し、気圧低下させ作ったと意見した。空間の空気を抜くだけで、気温は下がる。料理を箱に入れ、空気を抜く。液体循環させ徘熱もできればなお良い。それを利用したのだろう。

 そして、これらを完成させるには並大抵の努力ではないだろう。そう、この熱意こそ料理長の思いが詰まった料理と締めくくった。


「ふむ、どうだ?」

「はい、アオバ男爵の仰る通りにございます。ご慧眼素晴らしく思います。」


 当たっていたようだ。多少の知識からの推測だったのだが、やはり知識は偉大だ。


「ふむ。」


 何故かケルト侯爵もご満悦だ。


「この料理はロイドの助言のもと、この料理長が試行錯誤したものだ。美味いという一言ではなく、素材や技術、努力を表した貴様の言、見事だ。」

「あ、はい、ありがとうございます。」


 間抜けな返答に後悔したが仕方がない。誉められるとは思っていなかったからだ。


「どうだ、シュタイナー。」

「はい、納得致しました。この者なら致し方ありません。」

「うむ。」


 ん?何だこの会話?


「さて、貴様に聞くが、これは貴様が作製した物か?」


 手にするワイングラス。そう、ケルト侯爵との流通するために作製した特注品。


「はい、間違いなく、私が作製しました。」


 俺は正直に話した。隠すものでもない。逆にケルト侯爵に嘘はつかないほうが良いと判断した。ロイド男爵から伝わっているだろうし。危険もないだろう。


「そうか。さらに聞くが、貴様は製作物で財を成す気はあるか?」

「それはありません。私の目的は、旅と観光です。作製は必要最小限にしております。」


 俺が本気になったら、伝説級の物を量産してしまう。これは世界のバランスを壊してしまうから、自重している。


「そう、か。忠告だが、余計な物は作るな。よいな?」

「はい、畏まりました。」


 怒られた、というよりは心配された、のだろう。強面だから怒られた気分になるのは仕方ない。


 5つのグラスにワインを注ぐセバス。光で乱反射するグラスはさも、神秘的なものだった。


 ケルト侯爵、ヒルリー婦人、シュタイナー男爵、ロイド男爵、俺がグラスを手にする。テラス達は普通のワイングラスだったのが悔やまれる。


「乾杯としよう。貴様の旅路に幸運を。」



 キィーーィン


 澄み切るグラスの当たる音が、心地好く木霊する。一口飲み、ワインの美味さが舌を濃厚に包む。


「マリア、改めて俺自重する。」

「何?どうしたの?」


 俺のグラスをマリアに渡し飲ませる。


「意味がわかったわ。あんたはほんとにトンでもよ。」



 ワインには濃厚さに芳醇さがある。そして、有り得ない事に新鮮さがあった。

 ワインは醸造酒。つまり、葡萄を酵母で発酵してつくる。長い時間の貯蔵で味は濃密となり、葡萄の濃厚な味と芳醇な香り、アルコールがそれを鼻孔に運ぶ。つまり、醸造過程で果実の新鮮さはなくなる。だが、搾りたての葡萄の果実の甘味やみずみずしさを感じ、あまりにも非現実的な事を肌身に感じてしまった。


 俺の表情に、ケルト侯爵は笑みを溢す。


 因みに、ヒルリー婦人とシュタイナー男爵は目を丸くし、ロイド男爵は苦笑していた。


 強者達も、このワイングラスの効果には驚きを隠せなかったようだ。


「こ、これはヒトを堕落させる!」

「他のワインでも試したいわ。よろしいかしら、父上様?」

「あ~、これはひどい。」


 三者三様。褒めているが、その先の感想をしている様で、各々本音が漏れる。


「では、今宵の食事は終了する。セバス、後は任せた。」

「仰せのままに。」


 片付けを始めるセバスと従者達。ワインを名残惜しそうにしていたが、

「ニール様がご機嫌であればまた飲めるというもの。励む糧にされてみては?」

のセバスの一言に乗せられ退室していった。流石である。


「さて、もう少し話をしようか。普通のグラスで。」

「そうだな。」


 俺達とロイド男爵は客室へと移動した。





 着苦しい服から解放され、俺は一息つく。女性陣も早々と着替えて、いまや、ラフな格好でくつろいでいる。

 ロイド男爵は女性ともあって、恥じらう必要が無いためだ。


「たくましいね。」

「この位は普通だろ?」

「君もそうとうだよ。」

「そうか?」


 ロイド男爵と語る。くすねたワインをグラスに注ぎ、二次会を始める。ツマミはチーズだ。癖が強いく臭いが、味は格別だった。


「俺は、吸収、とその力を、変換、する能力を持っている。」

 ロイド男爵が、自分の手の内を曝し始めた。

「随分素直に告白したな。話さないと思っていた。」

「何て言うかね、君を敵にしてはいけないと思ったからさ。手の内曝すだけで信用を得られるなら安いものさ。」

「おいおい、そんなに安くはないぞ?」


 信用は行動から得られる。だが、一朝一夕ではない。日々の積み重ねが必要だ。


「わかっているさ。だから、君と、皆に話すんだろよ。」


 1度は騙されている身。簡単には信用出来ないが、折角の告白だ。聞くことにしよう。


 ロイド男爵。旧名、ライラ・バートン。


 彼女は異世界からの転生者。過去の知識を持ちながらこの世界で産まれた。


 ケルト市の市民だった彼女は、早くに両親を失い孤児となる。そこで世話になったのがエクシリオス教の助祭ラフレだ。

 過去の記憶があるせいか、宗教にのめり込む事はなく、知識を活かして孤児院内で才覚を現す。

 文字、計算、科学、医療と様々な知識をラフレに進言し、街の発展、ないしエクシリオス教の発展に勤しんだ。

 天才ロイド。ケルト市に伝わり、彼女は有名となる。

 年を重ね彼女が女性と認識され始める頃だ。ケルト家より、養子縁組の話が持ち上がった。

 ロイドはそれを受ける事にする。


「貴族、それも街の領主の家に入れるのならば、人に頼らず自分の能力を発揮出来るだろ。」


 ロイド男爵はそう言った。


 男装はこの頃からだ。髪を切り、胸を潰し、体を鍛え、男として行動するようにした。王国は男尊女卑の傾向がある。女では発言力を得られないと考えたからだ。ただ違うのは、彼女は女を隠していない、という事であり、相手に勘違いをさせているだけなのだとか。ある意味、この世界の常識を利用した策と思った。やはり策士だ。


 ケルト家に入ってからは、政治の助言と、情報収集が仕事になったようだ。これがケルト市の発展になると思っている。


 能力、吸収と変換。


 相手の気力を奪う、吸収。

 吸収した力を別の形に変え放出する、変換。


 成程、リューア伯爵の止めの一撃は変換か。駿足一閃のそれも頷ける。


 能力に目覚めたのは、ケルト家に入って、体を鍛え始めてからだそうだ。


「変換は自分の能力を飛躍的に向上させる能力なんだけど、時間が短いのがネックかな。だから、切り札としてしか使えないんだよ。」


 それも頷ける。リューア伯爵の戦闘には参加せず、止めの一撃にのみ使った。


「変換はわかった。吸収に疑問がある。俺の体力は異常に多いんだ。だが、それでも睡魔に襲われたのは何故だ?」

「そうだね、気力だがら、精神力ないしMP(マジックポイント)の吸収だから、体力は関係ないよ。君は譲爵で忙しかっただろ?あまり吸収しなかったけど、効果が出ちゃったんだよ。あれは失敗した。」


 悪びれなく飄々とするロイド男爵。そういう奴だ、こいつは。


「質問あるかい?」

「エクシリオス教には入信してないのか?」

「してないよ。内情をしっているだけにね。でも、育ての恩があるし、街の発展で貢献しようと思っているのさ。発展すれば、寄与も増えるだろ?」


 確かにな。


「何か情報が欲しい時は気軽に聞いてくれ。横流ししてあげよう。これでも、主任務だからね。」


 ロイド男爵の言葉に信用はない。そんなに直ぐに信じる事は出来ない。この話も、嘘と思えばそれまでだ。


 だがね、


 女の嘘を許せない程、俺は狭心ではない。


 男の浮気と女の嘘は許すもの。


 爺さんの言葉だ。男は浮気、女は嘘。これを許さずヒトは生きては行けぬ。これには人それぞれ異論があるだろうが、俺は納得している。性別悪ではなく、太古から生きるための生涯の歴史だ。無意識にDNAに刻まれていてもおかしくはない。まあ、もちろん許容範囲内での話だがな。だから、本気の浮気はよくないよ。嘘も人を不幸にするのも駄目だよ。わかっているよ。


「わかった。そうさせてもらう。」

「そんな簡単に信用してもらえるとはおもってない。後は俺の行動を見てくれれば良いさ。」

「はいはい。」


 やはり、心が読まれるな。表情か?勘か?


「勘だよ。」

「そうね、女の勘。」

「はい、何となくわかります。」

「ソーイチ、バレバレだよ。」


 女性陣に畳み掛けられる。勘ですか、そうですか。


「さて、そろそろ遅いし、お暇するよ。君達も明日は観光だろ?早く休むんだよ。」

「最後に1つ良いか?」

「ん?なんだい?」

「美味い飯屋を聞いていない。」

「はははっ!君は面白いね。朝までに観光地図でも作っておくよ。じゃ、お休み。」



 退室するロイド男爵。


「なぁマリア。ロイド男爵は嘘をついていると思うか?」

「嘘はわからない。でも、信用は出来ないかな?少し黒さが見えたから。」


 黒さ、か。


「テラス、ロイド男爵をどう思う?」

「強いヒト、かな。ソーイチも強いけどロイドも強いと思う。」

「それとエクシリオスっていう神は知っているか?」

「知らないよ。聞いたことない。」


 知らないか。


「ビビはどう思う?ロイド男爵やエクシリオス教の事だが?」

「はい、警戒は必要と思います。ヒトは嘘が上手い種族ときいてますので。」


 そうか。3人の意見も重要だ。油断するなといった所だな。


「さ、寝ようか。明日は観光だな。」

「たのしみ!」

「はい。」

「そうね、早く休みましょ。」


 用意されたベットは寝心地よく、3人の感触を肌で味わいつつ、俺は直ぐ様に寝落ちしてしまった。




 リアルが忙しいので、続きは後日になります。不定期投稿ですいません。続きは18日予定にします。

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