4-2 草原小人族
視線を感じる。
砂漠百足を討伐した矢先の出来事だ。少なくとも5人。草原から気配を感じる。ビビの見立てでは、草原小人のようだ。砂漠百足討伐の際に、発生した爆発音の確認しに来たのだろう。
斥候が気配を気取られるとか。練度が足りないな。
こちらは草原側の斥候に気づいていないフリをする。向こうが接触するなら、それに対応すれば良い。無いなら無いで放置すれば良い。
「それで、どうするの?」
「ん?砂漠百足か?取り合えず無限保管行きだな。」
「そうじゃなくて・・・。」
「ん?砂漠の後処理か?」
とぼける俺の態度に、マリアはやっと察してくれた。
打ち合わせをしたわけではないからな。無言の意志疎通なんか中々出来るものではない。
後ろの視線は無視して、俺は当初の目的に戻る。
邪魔な砂漠百足を無限保管に入れる。
後ろからガサガサと草の擦れる音がした。
未熟者がいるのだろう。精進してほしい。
ぽっかり空いた穴の中に入り、残った砂を無限保管に入れていく。まるで掃除機の様だ。掌にドンドン吸い込まれる砂は、あっという間に片付いた。
土の壁面から、チョロチョロと水が涌き出てくる。このまま放置したら、池になるかもしれない。そうしたら、動物達の憩いの場、オアシスになるかもしれない。
俺は穴を塞ぐのを止め、そのままにする事にした。
底面や側面には、紫色の物体を何個か見つけた。鉱石、紫水晶の様な物だが、勿論、こんな場所では採れる訳がない。砂漠百足の排出物辺りが妥当だろう。全部頂く事にする。中には、俺の身体の位の大きな石もあった。無限保管に入れ、皆の待つ場所に戻る。
「おかえりー。」
「ただいま。面白い物があった。」
紫水晶モドキを見せる。
「キレー。」
「そうですね。紫とは神秘的です。」
「ん?紫水晶じゃないわね?何かしら?」
「多分だけど、砂漠百足のう○こだと思う。」
「ギャッ!!」
本当にマリアは良い反応をしてくれる。
「汚いもの触らせないでよ!」
俺の服で手を拭くな。
「おいおい、排泄物=汚い、は違うぞ。自然摂理の一部なんだから、そんな事言うなよ。」
「だって、糞なんでしょ?」
「多分だよ。ま、ほぼ間違いないだろうけどな。」
無限保管に入れ、当初の目的を終了する。
「穴は、どうするの?」
「このままにするさ。水が涌き出ていたから、池になると思うし、動物達の水飲み場になれば、この草原も潤うだろ。」
「なるほど。」
ビビが唸る。水の大事さは、森の住人には見に染みているだろう。
「それで、あちらさんはどうだ?」
「動かないよ。そのまま。」
「はい、警戒しているようです。」
「そうか。なら、無用な接触は避けようか。レンとイトの場所に戻ろうか。」
「よろしいのですか?」
ビビの警戒はごもっともだが、向こうに悪意があるのならば、その姿勢も見せる筈。警戒で止めているのなら、調査が目的なのだろう。斥候の練度も低いし、驚異にはならないだろう。
「ビビは後で草原小人の話を聞かせてくれ。さ、戻ろうか。」
「うん!レンとイトが心配してるよ。」
「そうだな。」
俺は3人を抱え、跳躍する。草原にいるであろう草原小人を飛び越え、レンとイトが待つ場所に戻る。
草原小人か。色々いるんだな。
想いはせながら、この場を後にした。
因みに、
「お説教の続きよ!」
マリアの怒りは収まっていなかった。
てっきりうやむやに出来たと思ったんだが仕方がない、最終手段!
「え?なに?はむ?んぐ、むう・・・。」
怒りが収まるまでキスをした。胸を叩くマリアだが、少しずつ力が弱くなり、次第に俺に体を預けるように寄り添う。
「ばかぁ。」
顔を赤らめるマリアの息が荒い。
「悪かったよ。今度からは気をつけるから、勘弁してくれ。」
「む、わかったわ。じゃ、あと一言だけ言わせて。」
ー 怖かった ー
「・・・ごめん。」
俺はマリアを抱き締める。震えるマリアを宥める。戦闘未経験者が本格的な戦闘を最前線で体験したのだ。恐怖が後から来てもおかしくはない。
「ねぇ、・・・。」
見つめるマリアにもう1度キスをする。重なる唇から震えを感じなくなるまで重ね続けた。
★
夜。小屋。ビビからの説明。
草原小人、グラスランナー。
ホビット等の小人族の一種。草原で生まれた小人。ホビットは森の小人だ。ハイホーが良く似合う。身長は1メートル程で小さいが、身のこなし、俊敏性が高く、隠密行動にも優れた種族。まあ、個体差はあるだろう。
足の速さを生かし、ウィズ大森林では、情報屋として活躍しているようだ。戦闘力は低く、逃げ足とも揶揄されているようだが、優れた隠密行動や情報収集能力は他の追随を許さないそうだ。油断はできないな。
ドワーフ自治領、ドラゴンロードの向こう側にある街、ガウスには、様々な人種や亜人が住み着き、草原小人もその足を生かして生活しているようだ。やはり情報は大事だよな。草原小人も良い仕事をしているようだ。
さて、こんな話をしているが、今の状況は何だろう?左はテラス、右はビビが双方俺に寄りかかり、その柔らかさを押し付けている。ありがとうございます。
「だって、今日はマリアばっかりだったもん。私達だっているんだからね。」
「はい。」
腕に絡み付くテラスとビビ。マリアはジト目で俺を見るだけだ。
柔らかいものに挟まれる腕が幸せだ。ありがとうございますありがとうございます。
さて、それはともかく。
「ビビとしては、昼間の草原小人はどう思う?ビビの話からすると、もう少し隠密が高そうだが?」
「そうですね。あまりにもお粗末だと思います。東側の草原小人はもっと能力も高く、気配を気取らせません。」
「マリアは草原小人の話は聞いた事があるか?」
「無いわね。小鬼族なら兵隊から聞いたことはあるけど。」
「テラスは?」
「わかんない。」
ですよねー。
「やっぱり小鬼族もいるのか。ファンタジーそのものだな。」
「見たことはないわよ。嘘か本当かはわからないわ。」
「ビビは?」
「はい、小鬼族もいます。とても弱く臆病ですが、繁殖力と連携力が驚異です。私も何回か獲物の横取りをされた経験があります。」
いるんだ。
「ねえ、小鬼族はヒトの女性を弄ぶとかするの?」
「?しませんよ。小鬼族は小鬼族としか子を成しませんから。」
「そっか、なら良かった。」
胸を撫で下ろすマリア。ちょっと偏見を持っていたようだ。
「いやね、小鬼族とか豚獣族は変なイメージがあるから、ちょっと心配になったのよ。」
「豚獣族もいます。彼等は森の番人です。高い生命力と防御力は圧巻の一言です。」
「いるんだ、豚獣族。」
「いっそ魔王もいそうだな。」
「はい、魔王もいます。」
・・・は?
「森の北、海を渡ると島があるのですが、そこに魔王が統治する国があると聞いた事があります。なんでも、その国王がたいへん強く、森の住人は敬意を払い魔王と呼んでいます。」
敬意、なのね。
「侵略とか、ないでしょうね?」
「?私が知る限りでは、侵略はありませんでしたが。」
「そう、なんだ。ならいいわ。」
マリアの挙動がおかしい。自分の想像で危機感を募らせている。
「テラス、マリアをお願い。」
「はーい。」
ペタッ、ギュー、スリスリ・・・。
さっきまで堪能していたのに、マリア変われ!と言いたくなるのは何故だろう?
「大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから。」
「そう?」
「大丈夫。ソーイチさんの所に戻って良いわよ。」
「ううん、もう少しいる。マリア、良い香り。」
「そ、そう、ありがとう。」
照れるマリア。流石テラス。
「山脈向こう側、東の方は本当に何もしらなかったわ。結構、世界の情報を仕入れていたと思っていたけど、知らない事は沢山あるわね。」
「まあな。この世界、自分の目と耳が頼りだからな。偏るのも無理はないさ。旅は始まったばかりだし、これからだよ。」
「そうね。」
知らない事は知れば良い。全てを知る事はできないが、増やす事は出来る。要は行動だ。見聞を広めるためにも、旅はとても良い経験になる。苦労もあるが、楽しさもある。貴重な経験だ。
「さて、風呂に入るか。」
「うん!」
「はい。」
「一緒に入るのも、当たり前になっちゃったわね。」
とか言いながら、微笑むマリア。
俺達は、陽気に風呂場に向かった。
★
夜中。小屋外。
女性陣はベットでお休みをしている。俺はテラスの拘束をほどき、外に出た。
外は気温が低く、軽く涼しい。石で釜戸を作り、火を炊き暖をとる。鍋にはスープを作る。
程よい時間が経過し、良い香りを放つ鍋のスープをゴブレットに分けすする。体が温まる。
風のざわめき、草の擦れる音、焚き火の声。そして俺の声が静寂の中響く。
「お待たせしました。」
気配は感じない。だが、近くにいるのはわかっていた。
草むらから現れる、草原小人。
「気づいておりましたか。」
「そうでもありませんよ。どうぞ。スープをご馳走します。」
俺は草原小人を誘う。
昼間に草原小人との接触はなかったが、認識されたのは間違いはない。ビビの話では、隠密が高いというし、昼間のあれではなく、熟練者の来訪に備えただけだ。だが、ここまで隠密性が高いとは思っていなかった。俺の素の間合いギリギリで待機していたようだ。
「はじめまして、私はソーイチと言います。」
スープを入れたゴブレットを草原小人に渡す。
「ダンデと言う。」
草原小人のダンデはゴブレットを受け取ってくれた。
「御用件は何でしょうか?」
俺は多種族交流を始めた。
★
草原小人のダンデ。1メートルに満たないその小ささに子供と思わせるが、その顔は童顔といえない。ほりが深く中年のシワを見せる。声も太く、違和感を感じずにはいられなかった。
耳は少し尖っており、肌は薄い緑色。服装も緑色を着ているため、草原では目立たないだろう。迷彩の類いと思わす。
俺がスープをすすると、ダンデも軽く口にしてくれた。多少は信用してくれたのだろうか?
「我らはヒトを信用しておりません。」
ダンデにも心が読まれた?しかし、こんなにも読まれるとは、無意識に顔に出るのだろう。チートの副作用と考えてしまう。
「ですが、昼間の砂漠百足の事、感謝いたします。」
ダンデが、礼をしてきた。
「いや、あれは偶然通りかかった時に見つけただけです。草原にあんな不自然な砂漠があれば、気にもなります。」
「たとえ偶然でも、討伐していただいた事には変わりありません。我ら大地、お守りいただき、一族代表し感謝いたします。」
また、礼をするダンデ。礼節を重んじる種族のようだ。
「無礼を承知でお聞きしますが、ソーイチ殿は何故この大地にこられたのか?」
「東にあるヒトの街、ケルトに向かう途中です。方向は違いますが、見事な草原でして、駆ける欲求にかられました。警戒をさせてしまいましたか?」
「はい。またヒトが我ら大地を脅かすと思いましたので。」
「そうでしたか。それは申し訳無いことをしました。無断での進入お詫びいたします。」
お詫びの言葉に、ダンデの表情が曇る。何故だ?
「ソーイチ殿は、ヒトですか?」
何故そんな事を聞く?
「失礼、厚顔無恥なヒトではなく、礼を持つヒトがいるとは思わなかったもので。」
草原小人にはヒトはかなり信用されていないようだ。ダンデの言葉も引っ掛かる。
またヒトが・・・。また、か。
過去に何かしらあったのだろう。侵略、略奪、殺傷、ヒトの闇を受けたのかもしれない。そうでなければ、ここまで警戒され、無信用にはならない。種族統一視、ヒトを個別ではなく一括りに見てしまうのは、異世界だろうと何処でも一緒のようだ。
「我らはヒトを信用しません。ですが、無用な争いをする気もありません。砂漠百足の討伐に感謝の意しか現せません事、ご容赦を。」
「構いません。私も無駄な争いは避けるべきと考える者です。感謝の言葉だけで充分です。」
これは本音だ。砂漠百足の討伐は偶然だし、討伐後に草原小人を確認したのだ。要求なんて厚かましい。
「ソーイチ殿は変わった方のようだ。」
少しだけ笑みを浮かべるダンデ。俺の意思は通じたようだ。変人扱いされたような気がしたが、気のせいにしよう。
「食事、感謝する。私はこれで失礼させてもらう。」
「有意義な時間でした。」
礼をするダンデ。背は見せず、草原に溶け込んだ。姿が見えなくなり、存在すら感じ取れない。
隠密、か。
草原小人の隠密能力を確認した俺は、火を消し、小屋へと戻る。
テラスが起きていた。裸で立っている。
「終わったの?」
「ああ、今帰ったよ。害は無いと判断してくれたようだ。」
胸に飛び込むテラス。右手を伸ばし、俺の頬を摘まむ。
「ひとりはダメだよ。」
心配させてしまったようだ。
「気をつける。」
テラスを抱き締め、心を委ねる。
「ビビとマリアの所に帰りましょ。」
「そうだな。」
テラスをお姫様ダッコして、マスタールームに戻る。二人は夢の中だったが、静かにテラスを寝かせ、俺も休む事にした。




