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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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2-2 村発見

残酷な描写があります。注意してください。


「凄い綺麗。本当に綺麗。」


 俺たち二人は丘を登り、見晴らしの良いところにいる。テラスがその風景に魅了されているようだ。


 広大な大地に青々と繁る木々や草花。匂いを運ぶ爽やかな風が、多少の疲労を癒してくれる。

 テラスが喜んでくれたのは良かったが、俺には別の目的がある。



 人里を探す為だ。



 現在、生きる為に必要な、水や食料を持っていない。そう、何もない。


 衣食住とあるが、衣は最低限ある。住は野宿でもなんとかなる。危険はあるが。だが、食が無いのはまずい。特に水だ。


 その為、急いで人里を探す必要があったのだ。



 川とか森とかもいろいろ考えたが、何があっても対処ができる人里を選んだ。

 怪我や病気は、即死亡に繋がるかもしれない。住人に襲われる可能性は否定出来ないが、人々がいる所の方が襲われにくい。また、この世界の常識を知る為にも、人との交流が必要だ。


 また、危険探しにも繋がる。


 死体や死骸、倒壊などの確認も、遠目からだが出来るかもなので、多少は危険回避も出来るはずだ。


 この状況で一番危険なのは、襲撃だ。


 賊なんかの人間はもとより、大型動物、もしかしたら魔獣や魔物なんかでたら、人溜まりもない。


 こればっかりは運だ。どうしようもない。



 俺がこんなに落ち着いているのは、元の世界の漫画や、小説の知識があるからだ。ファンタジー系は確立されているジャンルであり、様々な状況の物語を読んだせいか、今ある最善を考える事が出来た。正直、参考程度ではあるが。

 また、多少だがサバイバル知識もある。だが、身の安全が水準以下なので、行使自体が危険だ。

 ちなみに、今俺の靴は、テラスに履いてもらっている。紐できつく絞めているが、大きな靴を履いてピョコピョコ歩くテラスが可愛すぎた。


 そんな訳で、俺は靴下での行動だ。




 丘で遠くを眺めていると、近くに小さな集落を見つけた。煙も出ているので、人はいるだろう。


 俺は安堵したが、同時に不安も沸いてきた。


 言葉は通じるのか?


 身振り手振りも限界はある。コミュニケーションをとるにしても、言葉は絶対に必要だ。



 風景がそうさせているのか、初体験からの物珍しさなのか、笑顔のテラスを不安がらせてはいけない。と俺は気持ちを奮い立たせ、その集落に向かうことにした。






「おみゃ~さん達は、こんな村に何の用じゃ~?」


 言葉通じるし!

 俺は自信の不安のせいか、心の中でつっこんでしまった。

 とにかく、言葉が通じるならなんとかなる。事情を話して助けを願おう。


 村は丸太の柵で囲われており、森が周りを覆っている。短めの一本道のその先に村入口があり、一人のじいさんが自身より長い木の棒を持って話しかけてきた。

 棒を向けてない事から、警戒はそんなにしていないだろう。


「私達は、遠くの地から旅をしている者です。近くで事故にあってしまいまして、荷物を落としてしまいました。申し訳ありませんが、多少の滞在と食料を分けていただけないでしょうか?」


 我ながら嘘が下手だ!


 こんなんじゃ信用は無理だろうな。なんとか真摯に対応するしかない。


 老人は怪訝な顔で此方を見る。


 やっぱり無理か。


「滞在は構わんのじゃが、生憎食料は分けれるほどないんじゃよ。若い衆が森に入って、狩りをしているが、なかなか捉える事が出来んて、難儀しとるんじゃ。」


 お!滞在は良いんだ!でも駄目だな。食料ないんじゃ、余所者は不穏の種にしかならない。それに老齢爺さんが門番やる時点で、この村の困窮がわかるな。村全体で食料の切り詰めをしているだろうし。


 水と他の街への情報わけてもらって、御暇するか・・・。


「すまないのぅ、儂等も余裕がないんじゃよ。」

「いえいえ、私達も急に不躾な事を言ってしまって、申し訳ありません。重ねて不躾ではありま・・・・・?」


 背後から、ガラガラガラと大きな音を立ててなにかが迫ってくる。


 何だ?荷車か?


「大変だー!!!」

 荷車の脇にいる若い男性が、叫んでいた。


 何やら物騒だ。


「ど~した~?!」

 門番の爺さんが、力の無い返事をし、足元覚束無く荷車に向かっていく。




 村入口手前に停まった荷車には、血だらけの若者が息絶え絶えに倒れていた。背中に三本の太い引っ掻き傷。グロい。


巨大熊(ジャイアントベア)が出やがった。ここいらの動物がいなくなったのは、此処等の仕業だ!」

「巨大熊じゃと!」


 熊か?なら逃げるしかない。ここに猟銃とかあるわけじゃないし、武器や罠が無いなら、戦うのは論外だ。若者が持つ小さい短弓じゃ、熊には通用しないだろう。


と思案して、俺はテラスを見るが、


「どいてください!」

 テラスは怪我人の方にいた。 


 テラスは、怪我人に向かい、左手を差し出した。


 左手から、淡い光が集まり、怪我人の傷に覆う。


 少しずつ覆うその光は、傷を徐々に塞いでいく。


 光が収まった時には、怪我人の傷跡は残ってはいるが、完全に塞がっていた。



 安堵したのか、力尽きたのか、テラスは倒れそうになるのを、俺が支えた。


「良かった。」


 テラスは笑顔でそう言って俺に身を委ねる。


「か、回復師じゃ!回復師様じゃ!!!」


 門番の爺さんが驚愕している。周りの若い衆がも唖然としていた。


 だがそれも、

「GAAAAA!!!!!!!!!」


 村入口側面の森から、巨大熊が現れた。


 二足で立ち、両腕を広げ威嚇する。全長は5メートル以上はある。


 腹の奥に響くその咆哮で、周りの人をすくみ上がらせた。



 まずい!



 咄嗟に俺はテラスを地面に座らせ、その近くにあった拳大の石を拾う。


 右手に力を込める。感覚を集中させる。


 そして俺は、巨大熊の頭に向かって、石を投げた。




 体が勝手に動いていた。

 ただ、まずいと思った。ただこのままでは、皆が死ぬと思った。

 テラスが死ぬと思った。俺が囮になろうと思った。

 ただそれだけだ。





 俺は唖然とした。


 目の前の現実を疑った。


 俺は石を投げただけだ。


 ただそれだけだ。


 何故、

 それなのに、

 巨大熊の頭が破裂して、倒れているんだ?



 ただ

 ただ

 唖然とするしかなかった。



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