SS 旅の日常
ヴェルケスから旅立ち街道を東に進む。目的地はケルト市。ケルト侯爵よりドワーフがいる自治領の入領許可証をいただく為だ。ケルト市まではおよそ十五日程の旅路と予定している。急ぐ旅でもない。ゆっくり向かおう。
馬車の操車はビビに任せている。俺がやってもよかったのだが、ビビの意思を尊重した。馬達もしっかり働いてくれている。頼もしい限りだ。
荷台は俺が改良してある。乗り心地は悪くない。少し大きめにしたので、空間的にも余裕がある。荷物の殆どは無限保管に入れてあるので、重量も軽い。また、衝撃緩和を組み込み、振動を吸収している。座布団も用意したから尻が痛くなる事はないだろう。だが、ある意味テラスは違った。
「エヘヘ。」
テラスは俺の膝の上に座っていたからだ。
お姫様ダッコの様に座るテラスは、俺の上半身に寄り添う。甘えん坊の子供のようだ。
操車席にいたビビは慈しむ様に微笑んでいるが、隣のマリアは何も言わずジト目で俺を見る。まぁ、テラスのこれはいつもの事だ。
「楽しいね。本当に楽しい。」
「そうか?見渡すかぎり丘と草原だけだぞ?」
街から離れ、風景は一変した。丘と草原か続く。いってみれば草原しかない。初めはその光景に嘆息したが、馴れてしまった自分がいる。
「こんなにもいっぱいあるんだもの。楽しいわ。」
「いっぱいって何が?」
「うん!色!香り!風!音!振動!いっぱい!」
なるほど、テラスらしい。
「確かに、いっぱいだな。」
「でしょ!」
テラスは顔を俺の胸に擦り付ける。
テラスは馬車から望む風景を堪能している。それは全身で感じ取っているようだ。
爽やかな風、街道から伝わる振動、心地好い陽射し。
穏やかだなぁ。
テラスの癒しに微睡みながら、俺は風景を楽しむ事にした。
★
昼休憩。無限保管から小屋と納屋を出す。馬達の働きを労いながら、水と飼料と塩を与える。テラスはもとより、俺も馬達と意思疏通が出来たので、関係は良好だ。茅葺きのブラシを造り、ブラッシングする。気持ちが良いのか、喜んでいる。
俺とテラスが馬達を労う間に、マリアは昼食の準備、ビビはその手伝いをしている。最近はマリアが料理を担当してくれているので、華やかな食事が並ぶ。マリア自作の調味料が決めてだった。
以前は簡素な焼き位しかなかったが、今では調理道具もある程度揃え、蒸しや煮込み等も出来る。足りない道具は俺が造っていた。
マリアの料理の腕は確かで、楽しみの時間でもある。ビビも表情には出さないが、尻尾が感情を表していた。
「では、「「「いただきます!」」」」
舌鼓をうちながら、マリアの料理を堪能する。ビビの食欲が止まらない。大量に作った料理は、ビビのお腹を満たす為だ。
「美味しい?」
「あぁ、旨いよ。流石はマリア。」
頬を染めるマリア。嬉しさが伝わる。
「マリアの料理の腕もだが、調味料は偉大だな。料理に豊かさが出る。」
「そうね。在り来たりの料理だと飽きもくるし、沢山欲しいわ。」
「旅がてら探すか。マリアの料理を楽しみたい。」
「そ、そう?」
マリアが俯いてしまった。耳が真っ赤になっている。素直な気持ちだったのだが。
「バカ。」
和やかな食事を楽しんだ。
★
夜。
食事前にビビと組手乱取りを行う。無手の乱取りだが、武器は手の延長なので、基礎向上に向いている。
最近のビビの成長には驚く。流の動きはしなやかに、剛へと繋げる。柔も板についてきた。戦闘民族成せる遺伝子。今や俺と張り合う実力を持つ位になってきた。勿論、チートは使わないでの話だが。それでも、俺の十数年の努力を短期間で習得するとか、才能を感じずにはいられない。
正直、教えは卒業だろう。だが、昇華に卒業は無い。これからはビビと二人で昇華させていけば良い。
「ビビは凄いな。」
「いえ、ソーイチ様の教えの賜物です。」
ここは言葉を選ばなければいけない。
「これからは、二人で技の昇華をしようか。」
「どういう事ですか?」
「うん。ビビは充分青葉流を身に付けたんだよ。だから、教えから昇華に移行しようと思うんだ。」
「・・・・・。」
ビビの俯きと震えが何かを思わす。
「お側にいて、良いんですよね?」
「当たり前だろ。二人でやるんだから。」
ビビの頭を撫で、励ます。ビビ笑顔が表れる。尻尾が千切れそうな程に振っていた。
「はい!頑張ります!ソーイチ様と一緒に!」
やる気を見せるビビ。闘志を燃やすを体現していた。
「さ、もう一本やろうか。今度からは応用と工夫だから、気を引き締めていこう。」
「はい!」
焚き火の薄明かりの中、俺とビビは技の昇華を行う事にした。
次もSSの予定です。




