3-38 旅立ち
夜、小屋に戻り、明日の旅立の確認をする。基本、持ち運びは無限保管に突っ込んであるし、万が一忘れ物があっても戻れば良いだけだ。気楽に確認する。
疲れたのか、酒に酔ったのか、テラスとビビは先に休んでいる。マリアはアーノさんと過ごしていて、今は俺一人になっていた。
怒涛の月日だったな。
ロックグラスにブランデーを注ぎ、この世界に来てからを思い返す。白の世界からテラスに出逢った。ビビと出逢った。クコ村長と出逢った。ヴェルケスでアーノさんとマリアと出逢った。ケセト士爵、ルフツ士爵、フリード子爵、沢山の人と会った。リューア伯爵とは対峙した。
前世界に無い生活、この世界の日常を思い返す。
チート能力、巨大獣、そして暗。非常識な日常を。
自分のチート能力もよくわからないまま、感情や知識や発想でここまできた。取扱説明書があったらどんなに助かるか。手探りはまだまだやらなければいけないだろう。
巨大獣には食料として大変助かっている。チート能力がなければ死んでいたが。
そして暗。
暗い楔、白の世界にあった不気味な物体。精神を掻き乱し、器を削り、魂を溢す。負の感情を媒体にしていると仮定しているが、まだまだ断定出来ない存在。
「違うな・・・。」
思考を切り替え、マスタールームに向かう。テラスを見る。可愛い寝息をたて寝ている。
軽く髪を撫でる。
テラス、ビビ、マリアとの生活を優先にする。自分や暗は後で構わないだろう。時間はあるんだ。ただ、油断しないよう準備だけはしっかりしよう。
横になり、目を閉じる。
アルコールが廻ったのか、眠気が襲ってくる。テラスとビビの温かさに包まれ、そのまま眠った。
★
「マリアを任せたよ!」
「はい、アーノさん。行ってきます。」
アーノさんと握手をする。ボディクリームを確り塗ってはあるが、年月の苦労の証しなのか、手荒れは治っていない。
「おばあちゃん!行ってきます!」
マリアとアーノさんは別れの抱擁をする。目に涙を溜めているが、表情は笑顔だ。
「あぁ、元気でやるんだよ。マリアの帰りを待っているからね。」
マリアの背中をポンポンと叩く。
「あんた達も元気でな。いつでも帰っておいで。」
テラスとビビも抱擁をする。テラスは遠慮なく抱き締めていたが、ビビは照れているのか、添うような感じだった。
俺達は東市民区の関所にいる。見送りにアーノさんが来てくれていた。ケセト士爵やギルドの職員達とは、商工ギルドの前で挨拶をしていた。
馬車の準備も完了し、旅立つだけとなった。
「行ってきます。」
「あぁ、いってらっしゃい。」
馬車に乗り込み、別れの挨拶をする。荷台からテラスとマリアは大きく手を振っている。ビビは手綱を持ち操者をしてくれている。
関所をフリーパスで抜ける。アーノさんが見えなくなるまで、マリアは手を振っていた。涙も流している。
育ててくれた恩者に。
例え血が繋がっていなくとも、かけがえの無い家族だ。別れも辛いだろう。
「マリア?」
「大丈夫よ、テラスちゃん。私は、大丈夫。」
マリアの笑顔は晴れやかに見えた。
「のんびり行こう。」
「そうね。」
振り向くのをやめ、前を見る。道の先、ケルト市に向かって進む事にした。
ヴェルケス編終了です。
次回は未定です。申し訳ありません。
激務が落ち着きましたら、投稿を再開したいと思います。




