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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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3-37 ヴェルケス旅立準備 その3

 風呂に入り、汚れと臭みをとる。石鹸さんの大活躍により、汚れと臭みは彼方へ流れた。

「さっぱり。」

「無理したバチね。」

 小屋の居間では、マリアのお説教が待っていた。


 正座しながら、マリアの説教をきく。まぁ、うん、心配の裏返しだ。


「聞いてるの?!」

「はい、聞いてます。ごめんなさい。」


 頭が上がりませんでした。ビビは怒られていません。何故俺だけ?



 無限保管に入れた鯰と翼竜。加工しやすいように捌いた。

 翼竜の翼の皮は馬車荷台の天套に使えそうだ。生臭いが、天日乾燥と鞣しで臭みが消えてもらうのに期待しよう。肉は、癖が強そうだ。頭と内蔵は、土に入れる事にした。一応竜種とあり、供養はしておいた方が良いと考えたからだ。内蔵には毒があるようなので、棄てたんですけどね。毒の利用はしません。


 鯰の内蔵には痺れ毒があるようだ。マリアの鑑定でわかった。こういう使い方が出来るマリアの鑑定は重宝する。鍛えて能力向上を図りたくなる。そんな訳で鯰の内蔵も棄てた。


 樺、檜、椚ともう少しだけ伐採させてもらった。


 日も落ち、小屋で休む。夜番はしていないが、大丈夫と判断した。翼竜の血の臭いが、獣を寄せ付けなかったからだ。


 夜にイチャイチャした。ありがとうございますありがとうございます。



 翌朝、ヴェルケスに戻った。







 ヴェルケス、工房。


 材料が揃ったので、弩を造る。折角なので、気合いを入れる。マリアには許可をもらっているので、とことん突き詰める。


 頭の中にある設計図を紙に表す。実寸大で書いていく。図面台は造りました。


 部品作成。檜の台座、椚の弓、鯰の髭を弦にする。金属部品は、引き金や金座を造る。また、歯車を造り、手回しのハンドルも造った。マリアの練度を考え、リストアームも造る。手首の固定が命中率を上げるだろう。


 弩や弓は、弓のしなりや反りの反発力で矢を飛ばす。弩の弓は短い為に、硬さとしなりが必要になる。椚の特性が理想的だった。反りやひねりを加え、反発力を向上させる。

 鯰の髭も硬くしなやかで、なおかつ伸びもあった。相乗効果で威力が上がるだろう。

 台座やグリップ内部に歯車を組み込み、ハンドルと連動させる。回すと引き絞る仕様だ。


 矢も造る。本数が必要だが、今は10本程にしておく。矢尻は鉄で烏賊頭に、羽は短目にする。最大射程は縮まるが、有効射程を伸ばす仕様にした。真っ直ぐ飛ばすのが目的にする。


 今回、弩の作成に注視したのは、扱いやすさにした。再装填、照準、射程距離、重量、大きさ、これ等を考慮した。

 長さも前腕程に収め、幅も肩幅もない。取り回しが容易だろう。



 特製弩、完成。


 さて、試射をして、微調整をしよう。


 1度延びをし、首を回す。没頭し過ぎて時間がわからない。疲れはあるが、達成感ある心地よい疲労感だ。


 外は明るい、いや、日の出か。空が明るく水色に染まっていく。


 小屋の前には、ビビが鍛練をしていた。汗が日の光りに照らされる。

「ビビ、おはよう。」

 この声に反応して、ビビが振り向く。鍛練を途中で止めて、俺に小走りで向かってくる。

「おはようございます!ソーイチ様!」

 元気な挨拶のビビ。満面の笑顔と、振りきれそうな尻尾が迎えてくれた。

 頭を撫でる。汗でしっとりしていた。長い間、鍛練をしていたのだろう。

「俺も終わったし、風呂に入ろうか?」

「はい!」

 ビビは嬉しそうだ。一緒に小屋に向かう。


 朝早く、テラスとマリアはまだ寝ていた。そのまま風呂に向かい湯を沸かす。

 

 テラスとマリアを起こす。テラスは喜び抱き締める。マリアは俯きながら、裾を掴んでいた。

「大丈夫?辛くない?」

 ん?どういう事だ?

「大丈夫だけど、どうした?」

「うん、あんた3日も籠ってたのよ。ご飯も食べていなかったみたいだし、声をかけるような雰囲気でもなかったし、心配で・・・。」

 マリアは涙を流す。掴む袖に力がこもる。


 3日?三徹したのか?確かに、チートの大盤振る舞いで、弩造りは集中していたが、ここまで時間の経過を忘れるとは。


「ごめん。気を付ける。」

「馬鹿!」


 腕を叩き、泣くマリア。心配もここまでくると、反省しなくてはいけないな。これからは集中も注意が必要だな。


「完成したからゆっくりしよう。さ、風呂に入ろう?」

「ん。」

 頷くマリアに、喜ぶテラス。4人で風呂に入り、疲労をとった。

 女性人の密着感がいつもより増していた。エッチな雰囲気にならなかったのは、喜びが強いからだろう。少し休んだら、みんなと出掛けよう。


 心に誓いながら、風呂の中で眠りについた。







 中央区砦居城。


「明日、ケルト市に向かいたいと思います。これ迄の御利便、ありがとうございました。」

「そうか、出るか。」


 フリード子爵に挨拶に来ていた。勿論、テラス、ビビ、マリアも一緒だ。


「お忙しいようですね。」


 周りの従者が目まぐるしく働いている。フリード子爵は椅子に座りながら、書類に目を通していた。


「ふん!この程度、大した事ではない。積もる話もある、私室にテリーヌもいる。ゆっくりしていけ。私も後で行く。」

「はい、フリード夫人に挨拶してまいります。」


 書室を後に、フリード夫人待つ私室に向かった。


「まぁ、久しいわね!ご健勝でしたか?」

「はい、御気遣いありがとうございます。テリーヌ様もお美しく何よりです。」


 貴族の常套句の挨拶をかわし、お茶会を始める。テリーヌ様はマリア考案のドレスに身を包む。俺達は、無難なフォーマルにしてある。


 リューア伯爵の事での御礼として、宝石を渡されたが、無礼もあった為、断る事にした。だが、体面もあるだろうから、布を要求した。

「貴方は、面白い方ですのね。」

「私には十分に価値がありますので、ご容赦下さい。」

 皮肉に聞こえた言葉だったが、テリーヌ様としても上機嫌な訳だし、構わないだろう。


 リューア伯爵の事を切っ掛けに、様々な事を話す。

 これからのヴェルケスの事、フリード子爵の責任、市民の活性等々だ。

 和やかな時間は直ぐに終わる。


「待たせたな!」

 フリード子爵も参加する。仕事は息子に丸投げしたそうだ。


「さて、貴様に話す事がある。」

 雰囲気を察し、テリーヌ様は退室した。


「リューア伯爵の地下室の件だ。」

 空気が緊張感で満たされる。先程までの朗らかな時間が無くなった。




 フリード子爵が話す。

 地下に拉致された職人の強制労働。交易の独占、そして、脱税。王国への税の支払いを誤魔化していた。領主は王国への税の支払いは義務になっている。

 また、昔のリューア伯爵はここまで恐怖の存在ではなかったと言う。変わったのは、地下を封鎖した頃からだと言う。

 原因はわからないが、恐怖政治に移行してから、搾取の対象に貴族も追加され、逆らう事が出来なかった。


 フリード子爵の言葉に、俺はようやく疑問がとける。


 仮説だが、今回の件を纏める。


 リューア伯爵の地下室の件。職人の怨念の意思とリューア伯爵の私念の複合。結ぶ白い石。地下で感じた職人の叫びは、リューア伯爵の行動の結果と一致する。

 恐怖、統率、挑発、それに加え私利私欲。それから生まれた私念。

 暗は、人の怨念を糧に、人を蝕む。気性が穏やかな世界での怨念は、珍しい感情かもしれない。そして、溜まった怨念の意思は、理術と働き、形になる。

 結果、リューア伯爵は職人の暗に蝕まれる。職人の切望であった生は勿論、怨念は貴族と市民に向けられた。だが、リューア伯爵の私利私欲も重なり、前の悪政に変貌したのだろう。


 だが、1つだけ納得出来ない事。それは、リューア伯爵が変貌した時の行動だ。

 あれは、リューア伯爵の意思ではない。職人の暗の意思としても、行動がおかしく感じる。憤怒により発狂した。のは変化前だ。変化してからは、間違いなく俺を狙っていたからだ。


 他に何かがあるのだろうか?


 頭を振る。リューア伯爵はわかったが、暗は未だにわからないな。気持ちを切り替えよう。


「どうした?」

「いえ、何でもありません。」

「あの様な化物がいるのだ。貴様も注意するがよい。」

「はい、畏まりました。」


 重い空気が続いたが、フリード子爵の笑いけ声がかき消した。

「まぁ、よい。今宵は飲むぞ!貴様を見舞ってやる!」

「あ、ありがとうございます。」


 気がつくと、日が傾いていた。時間があっと言う間に過ぎていた。


 従者に食事と酒を準備させるフリード子爵。テリーヌ様も戻ってきた。


「貴様の旅路に幸運を!」


 フリード子爵の乾杯に、豪勢な食事が並ぶ。小さな宴会ではあったが、楽しい時間を過ごした。





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