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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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3-33 想いと思い その2

 砦居城。でかい石造りの建造物。歴史も古く、王国建国以前から存在しているという。

 ぶっちゃけ、五千年も前にあるとか、ファンタジーにも程がある。劣化、風化しないのが疑問だ。


 砦居城を顔パスで入城する。ここに来たのだから、フリード子爵に挨拶もしなければならないが、今は探索を先にさせてもらおう。話が長くなったら嫌だし。


 砦居城のエントランスで、辺りを伺う。ここは砦居城の中心部。探し物には、うってつけの場所となる。


「テラス、何かわかるか?」

「ん?ん~、下、かな?」


 足元を見る。綺麗に敷き詰められている石床だ。所々にヒビがあるものの、綺麗に清掃されている。


「ビビは何かわかるかい?」

「微かに、ですが、異様な臭いがします。」


 ふむ、やっぱり何かあるか。


「ありがとう。テラス、ビビ。」

 二人の頭を撫でる。照れる表情が可愛い。ビビの尻尾もふわふわと左右に振っている。


 さて、どう探すか。


 リューア伯爵の側近達は皆、処刑若しくは流刑が決定している。側近の刑執行されるまでは、投獄されている。リューア伯爵に血縁者がいなかった事もあり、幼い命が消える事無くて良かったと思う。従えていた従者も今は監禁されている。例外なのは、ケルト侯爵の娘ヒルリー様で、ケルト市に帰省している。ケルト侯爵やロイド男爵はケルト市に戻る次いでに同行したのだろう。


 権力者の特権行使というやつだ。仕方ないね、うん。


 そこで俺は、なるべく年長者の執事、従者に聞くことにした。投獄されている場所へと向かう。


敷地の片隅から階段を降りる。地下に罪人認定された従者が投獄されていた。日も当たらず、空気も淀んでいる。長い時間は居たくない場所だ。


見張りの兵士に経緯を話し、中に入る。鉄格子越しに数名と話をする。そして、一人の男を見つけた。


「過去に拐った市民がいるはずです。何かわかりませんか?」


 この言葉に顔面蒼白する元執事。元執事長だった彼は、震えたまま俯いてしまった。


「知っているのですね。話して下さい。話していただければ、情状酌量もフリード子爵に進言しますから。」


 元執事は死刑濃厚だ。リューア伯爵の命令であり、破れば自分の命が危ないというのはわかるが、無実の人を何人も不幸にしたのだ。こればかりはやむ得ない。だが、流刑で従奴に堕ちで済む可能性もある。死んでしまうより、生きて罪を償ってほしい。


 元執事は震えながら話す。小声で聞き取りにくく、言葉一つ一つがリューア伯爵の束縛の恐怖を感じていたのだろう。ゆっくりと丁寧に、時間をかけながら精神を安定させ、話を進めさせた。元執事の言葉を要約する。


 地下にリューア伯爵専用の工房がある。優れた職人を集め、武器防具、装飾品を作らせていた。だが、リューア伯爵は急に閉鎖した。理由はわからない。工房の職人も閉鎖のまま、そのまま放置したという。


 聞いて胸糞悪くなる。人の命を何だと思っている!


冷静を欠いた俺だが、直ぐに気持ちを切り替える。ゆっくりと頭を冷やす。 


「案内してもらいます。」

「はい・・・。」


 砦居城の外庭に向かう。思わぬ出来事があった。

俺の少し強引だった行動が仇となり、フリード子爵の耳に入ってしまったようだ。移動途中で鉢合わせとなってしまった。


「貴様、挨拶もせず何をしておる。」

「フリード子爵様。私の無礼お許し下さい。今から、リューア伯爵の悪行蛮行を暴こうと思います。何卒ご容赦を。」


 片眉がピクと上がるフリード子爵。御供の貴族達も騒然としていた。


「き、貴様みたいな市民の成り上がりが、この城を我が物顔で闊歩するでない!」

「黙れ!!」

 御供の貴族が反論したが、フリード子爵は制してくれた。固まり震える貴族達。

「私もついていく。案内せよ。」

「ですが!」

 睨むフリード子爵。御供の貴族は完全に沈黙した。

「では、此方です。」

「うむ。」


 元執事の案内で、目立たない外庭に到着する。

 焼却場のような小さな建物。煙突もある。使われた形跡はあるが、長い間放置されているようだ。


「ここですか?」

「は、はい。」


 俺の問いに、震えて答える元執事。建物の扉を開ける。建物内には微かに漂う腐臭を感じる。

 椅子や机卓があるだけの小さな間取り。だが、床に不自然な扉がある。俺はその扉を開ける。


 立ち込める腐臭。きつい訳では無いが、蓄積された物だろう。下に続く階段がある。


「この先は私達が先に行き、安全を確認します。フリード子爵はその後でお降り下さい。」

「ふむ、良い。」

「し、子爵様。この様な場所、子爵様が行く場所ではございません!」

 慌てて静止を促す御供の貴族。でも、それは失言だよ。

「うん?貴様、何か知っておるな。」

「い、いえ、わ、私は何も。」

「後で問いただす!覚悟せよ!」


 御供貴族は崩れ倒れた。別の貴族が抑える。


「では、行きます。」

「気を付けよ。」


 フリード子爵に見送られ、階段奥へ進んだ。





 中は暗く、足場が悪い。灯りがないので、松明を造った。薪と油と布で。ハイブリットにしたので、とても明るく、寿命も永いだろう。


 奥に進む程、腐臭を感じる。空気の流れが少ないのか、留まっているようだ。階段を降り、先に進む。


 狭い坑道を進む。坑門工が幾重と施されている。かなりの深さだ。


 途中で鉄格子があったので、ビビに破壊してもらう。剛の一撃とか。いや、俺がしようとしたんだけどね、ビビの視線がね。まぁ、やりたいならやらせるべきだ。ビビの頭を撫でて誉める。ビビの尻尾が以下略。


 白骨が転がる。磨かれていない白骨。おびただしい数の、拉致された職人の死体。心で冥福を祷りながら、先へと進む。

 広い空間にたどり着く。異様な場所。散乱した道具類、壊れた炉、鉄格子、そして、沢山の白骨死体。


 空気が澱んでいる。空気循環がよくない。腐臭が残る。だが、そこまで気にならないのは、時間が経って分解されたからだろう。


 手を合わせる。テラスとビビも真似をしていた。


 そして、この場の惨状でわかる。過酷な強制労働、餓え、苦しみ、恐怖、そして、死。


 中へと進む。テラス、ビビもだ。

「具合が悪くなったら、直ぐに地上に出るんだよ。」

「うん。大丈夫。」

「わかりました。」


 少し調査をする。鉄格子の奥や白骨、炉の周り。多少の金属や宝石の原石を見つけた。


 閉鎖は知らされていなかったと考えるのが妥当か?だが、何故閉鎖した?


 こればかりは、リューア伯爵本人しかわからないか。だが、悪行を暴く事は出来たな。


 この先は土砂崩れがあったのか、道が塞がっている。これが空気の流れを止めていたようだ。


 後はフリード子爵達に任せよう。アーノさんも呼んで、探索に加わってもらうか。よし、戻ろう。


「ソーイチ、あれ。」

 テラスの言葉に足を止める。


 指差す先。何かある。禍々しい何か。

「マジか・・・。」

 ビビがテラスを庇い構える。


 そこには、暗い霧、暗が漂っていた。





 警戒する俺達。だが、暗は一向に襲ってこない。ただ漂うだけだった。


 仮に、前から存在していたのならば、調査の時に気づく筈。いや、調査の時に襲ってくる筈だ。


 今、発生したとしても、襲ってくる筈。だが、襲って来ない。


 少しずつ近寄る。テラスとビビは待機だ。


 手が届く場所まできても、変化はみられない。


 ゆっくり、ゆっくりと手を出し、触れる。



 ビシッ!!!



 一瞬の苦痛を感じる。

「ソーイチ!」

「ソーイチ様!」


 二人を手で制する。

「大丈夫。」


 大丈夫だ。問題ない。


 暗い霧から記憶が流れ込んでくる。脳裏に浮かぶ苦痛の日々。それはこの場所に連れてこられた職人達の悲惨な日常。拷問のような労働、些末な食事、澱む空気。そして、リューア伯爵への恨み。


 死霊の類いなのかもしれない。だか、俺にはどうする事も出来ない。

 テラスに話すが、首を振るだけだ。死霊祓いは無理のようだ。だが、テラスがこちらを涙目で見る。ビビは警戒を怠らない。


 どうしたものか・・・。


 これは暗い霧、暗ではない。人の思いの集合体のようなものだ。ここに強制連行され、重労働に縛られ、放置された怨念。


「テラス、ビビ、俺に勇気をくれ。」

「はい、貴方の思うままに。」


 テラスにキスをする。深く絡め、テラスを求める。

「貴方様の為なら。」

 ビビとキスをする。激しく求める。


 二人の想いが、胸に貯まる。まるで心にある極彩色の蓮の華に貯まるように。

 二人が惚ける。眼差しが熱い。


 ここで俺は無限保管から、白い石を出す。リューア伯爵との闘いの時に掌握で消滅させた暗の残骸。系統が同じだったものだ。何かしらの反応があると予測した。


 その白い石を近づける。するすると白い石に霧が吸収されていく。痛みが走る。だが、これならば耐えられる。吸収が終わると白い石は、黒灰色に変化した。


 これを掌握?いや、違うな。この人達の思いに答えるには。


 俺は、心の中で呟いた。




 解放。






 仕事を終えた脱力感からその場にへたりこむ。テラスとビビは駆け込み、抱き締めてくる。

「大丈夫?ソーイチ!」

「ソーイチ様!ソーイチ様!」

「大丈夫。疲れただけだよ。」


 この行動で身体の力をかなり持っていかれた。だが、掌の石は白くなり、暗い霧は無くなっていた。


「上手くいったか?」

「うん、綺麗になった。」

「そうか。良かった。」


 テラスが答える。禍々しい気配は感じられない。死霊祓い、いや、死霊回帰が出来たのだろう。これで、職人達は束縛から解放された。

 解放の最中、一瞬だが脳裏に写し出された、職人達の感謝の礼。



 また会いましょう。



「戻ろう。フリード子爵が待ってる。」


 二人に支えられ、俺は地上に戻った。





 地上に戻る。フリード子爵に事情を説明して、調査隊を派遣してもらう。一人の従者にはアーノさんを呼ぶように声をかけた。

「アーノ女準男爵に用があるのか?」

 フリード子爵が訪ねる。

「はい、息子さんの遺体があると推測しました。確認してもらおうと思います。」

「そうか。」

 フリード子爵はそれ以外に何も言わなかった。



 外庭で回復を待つ。テラスとビビが寄り添ってくれている。二人の暖かさが、心を癒してくれる。

 やって来たアーノさんに事情を説明して、調査隊に加わってもらう。

 アーノさんについてきたマリアは、俺の様子に激昂していた。

「あんた!また無茶したのね?!」

 頬をつねるマリア。痛いよ。

「身体は?怪我はない?」

「大丈夫。ちょっと疲れただけさ。」

「そう、なら良いけど。」

 マリアが安堵の表情の浮かばせる。

 マリアにもあらましを全部説明する。トロノの遺品捜しから地下の事まで。脳裏に写し出された職人の思い。そして、束縛からの解放も全てだ。なるべく聞かれないように小声で話した。距離は近い。

「そっか。ありがとう、ソーイチさん。」

 そう言って、笑顔で返してくれた。



 暫くして、アーノさんが戻り、俺を抱き締める。激しく、強く、そして震えていた。

「ありがとう!ありがとう!息子いたよ!ありがとう!本当にありがとう!」

「良かった。捜した甲斐がありました。」

 泣きながら礼を言うアーノさんは、貴族としてではなく、母親として感謝していた。


「こんなものまで隠していたとは、リューア伯爵めの悪行は根が深いな!」

「後の事はお願い致します。」

 フリード子爵も憤慨していた。

「任せておけ!リューア伯爵の小飼共は私が一網打尽にしてくれようぞ!」

 恐い。怒りが大声の波にのり、周りを威圧する。勘弁してほしい。


 体力も回復したので、小屋に戻る事にした。フリード子爵には旅立つ前に必ず挨拶に行くと約束し、砦居城を後にする。アーノさんとマリアはまだ残るようだが、夕食には戻るようだ。今日は小屋で待っていよう。


 俺にはもう1つやりたい事が残っている。


 小屋へと戻り、テラスとビビに打ち明ける。


「マリアを旅に連れていきたい。」


 そのままの意味だが、勿論言葉にしていない意味も含めてだ。


「二人はマリアの事を認めてくれるか?」


 これは男女の問題だ。一人でも反対すれば、いずれ亀裂が入る。正直、聞くのが怖い。だが、聞かねばならない。


「家族になるの?」

「そうだよ。マリアが了承したらだけど。」

「私、マリアが大好きだから良いよ!」

「ビビは?」

 正直怖い。

「はい、マリアと家族になるのは嬉しいです。」


 良かった!二人の了承をもらえた!


「今日の夕飯の時に告白するよ。テラス、ビビ、ありがとう。」

「家族が増える。嬉しい!」

「マリアの料理は絶品です。狩りも楽しくなります。」


 二人もマリアのいる旅を想像しているようだ。後は俺がしっかり告白しよう。もし駄目ならば、その時は諦める。マリアにも意思があるのだから、無理矢理やなし崩しはしたくない。

 緊張する気持ちを抑え、俺はマリアの帰宅を待つ事にした。







 夕食後、微睡み時間。


 緊張で味のしない料理を飲み込んだ。テラスやビビの時にはここまで緊張した事はない。


 リビングには、何時もの5人がいる。勿論、アーノさんにも俺の気持ちは聞いてもらいたい。


「マリア、ちょっといいか?」

「ん、何?」

 片付け途中のマリアに声をかける。緊張の中で言葉を選ぶ。

「あのさ、もうすぐ旅に出るんだけど。」

「そうね。・・・準備は出来たの?」

「いや、まだ。」

「そう!ならちゃんと準備しなさいよ。貴方の旅は危ないんだから。それまではゆっくりしなさい。」


 危ない。そうだ、忘れていた。気持ちが逸り、危険性を考慮していなかった。

 暗い霧、いや、暗。あれは人の消滅を招く存在。探す旅ではないとしても、追いかける存在。マリアを危険に晒す旅だ。

 テラスやビビだって危険に晒したくない。だが、二人は必ずついてくる。そして俺は二人に一緒にいると、家族になると誓った。離れたくないという想いもある。だから、守ってみせる。

 マリアは平和が一番と言っていた。俺の旅に絶対の平和は無い。暗がいる以上、何処かしらで遭遇するだろう。楽観視出来ない。この街にいれば、危険は少ない。もしかしたら、二度と出現しないかもしれない。

 やはり、俺の気持ちは抑えた方が良いのか?確かに辛いが、マリアを危険にするよりましだ。

 深く俯く。気持ちが萎える。感情より理性が強く働く。

「どうしたのよ?」

「あ、いや。」


 考えが甘かった!いや、自分の想いに走りすぎた。

「ソーイチ。」

「ソーイチ様。」

 テラスとビビが俺を見る。


「ソーイチの言葉の意味は?」


 二人が背中を支える。俺の言葉に真摯に向き合ってくれる。


「ねぇ、ちょっと大丈夫?」

「あぁ、うん。俺にはさ、言葉にするから意味がある。の言葉があるんだ。」

「うん?」

 マリアが首を傾げる。

「信条で、座右の銘でさ。意味は、言葉の意味を捉え、責任を持て。なんだよ。」

「うん。」

「マリア、・・・、一緒に旅をしないか?」

「一緒に、旅か。旅。」



 沈黙が痛い。マリアが考えている。そして変化。みるみると顔が赤くなり、耳まで真っ赤になった。


「そ!それ?そ、ププ、プロ!プ?プロポーズ!!!」

「あ、うん。」

 家族になる。つまり妻にする。同行や仲間ではない。妻にしたかった。


「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!何言ってんのよ!」

「嫌、だったか?」

「そうじゃない!そうじゃないわ!急に何を言ってるのって事!」

 全身真っ赤にしたマリアが激昂している。羞恥かもしれないが、自信がない。

「待って、待って。冷静になるわ。だから待って。」

 待つさ。ちゃんと向き合って話がしたい。

 マリアはゴブレットに注いであったワインを一気に飲む。


「プロポーズ、よね?」

「そうだよ。」

 目を見て話す。マリアの顔が赤いのはワインのせいではない。

「駄目、か?」

「駄目じゃない、ううん、嬉しいわ。・・・でも、行けない。」

 沈むマリア。目を逸らされてしまう。

 理由を聞きたいが、あまり突っ込むのも失礼だろう。


「理由はなんだい?」

 アーノさんが会話に入る。言葉が直球なので俺が驚いてしまった。

「うん、旅に出たら、おばあちゃん一人になる。」

 アーノさんを残せない、か。理由には充分だ。

「はっ!マリアがいなくても、私は大丈夫さね。」

「そうじゃない!寂しくない?」

「寂しいよ。寂しいさ。でもね、私はあんたが幸せにならないのがもっと寂しいさ!」

「でも、私は!」

「あんたは何で自分の幸せを棄てるのさ?私は幸せだよ。旦那や息子は死んだけど、遺体や遺品が見つかった。ヴェルケスも悪政を絶ち切った。全部ソーイチがやってくれた。感謝してもしきれないさ。」


 これは俺だけの成果ではない。皆の努力の結果だ。


「あんた、ソーイチが好きなんだろ?」


 なんか言われて恥ずかしいんですけど。マリアは逆に本音を暴露してるし。


「好きよ!ええ、本当に好きよ!でも、私は彼に釣り合わないわ。凄いもの作って、貴族になって、捜し物も見つけて!私には、私には・・・。」


 泣き顔のマリア。興奮が感情を押し上げてしまったのだろう。


「マリア、素直になりな。折角惚れた男が告白したのに、断る理由なんざ無いよ。あんたの悪い所は、自分の幸せを一番にしない所だ。」

「でも、でも・・・。」


 泣きじゃくるマリア。混乱すら起こしてるかもしれない。

 アーノさんが俺を見る。男を見せな!と言わんばかりだ。


 マリアに近寄る。手を握る。

「マリア、もう一度言う。良いか?」

「・・・・・・。」


 泣きながら、俺の言葉を待つ。


「俺の、お嫁さんになってくれないか?」

「馬鹿ぁ!」


 俺の胸で泣くマリア。頭を撫で、慰める。アーノさんは、やれやれという表情で、頬杖をついていた。テラスとビビもマリアを抱き締める。


 マリアが落ち着くまで、この時間が続いた。



「はい。私、ソーイチさんの、お嫁さんに、なるわ。だから、幸せに、してね。」

 まだまだ泣いた余韻があるマリア。

「ああ、約束する。」

「おばあちゃん。私、ソーイチさんと一緒に行くね。」

「行ってきな。幸せになるんだよ!」

「ありがとう、おばあちゃん!私、幸せになる!」


 また泣き始めるマリア。抱き締めて、慰める。


「あんたは本当に手がかかるねぇ。」


 やれやれという感じで、苦笑するアーノさん。


 泣き過ぎて目が真っ赤になるマリア。だが、皆が笑う。喜びを分かち合う。



 マリアが俺の妻になった。


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