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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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3-32 想いと思い

 任命式の後の会食会は、早退する事にした。ケルト侯爵との会話に疲れたのか、疲労感が半端無い。アーノさんには悪いが、今後のヴェルケスの交易は任せよう。


 俺はもう疲れたよ。


「構わないよ。あんたの仕事はゴマ擦りじゃないさ。」


 本当は駄目なのはわかっているが、気力がない。もう余裕がない。


 フリード子爵にだけは挨拶をするが、早退の旨は伝える。

「貴様とゆっくり話がしたいが、その様子では無理のようだな。後日挨拶に来い。それで構わん。テリーヌも貴様には礼をしたいと言っていたからな。」

「御配慮、感謝致します。では、本日は失礼します。」

「良い、休め。」


 行為に甘えて帰らせてもらう。テラスとビビに支えられ、帰路に発つ。


「私はおばあちゃんといるわ。ゆっくり休んでね。」


 マリアはアーノさんの随伴するようだ。支えてあげたいのだろう。


 二日前、アーノさんの息子夫婦の死亡が確認された。息子は作業場で、妻は心労で後を追ったらしい。遺体は無い。遺品は捜索中だ。

 アーノさんは、死亡報告を前向きに捉えていた。

「今まで行方不明だったんだ。確認されただけ良しとするよ。もしかしたら、遺品が出てくるかもしれないしね。」


 1つのけじめをつけたアーノさん。気丈に振る舞うが、心身負担は大きいだろう。そのアーノさんをマリアは支えたいのだ。


「わかった。後は任せる。」

「ゆっくり休みなさい。お疲れ様。」


 マリアは見送ってくれた。


 気力を振り絞る。小屋までは意識を保たせよう。



 小屋に着いたまでは覚えている。だが、その後は無くなった。深い睡眠に落ちたからだ。





 目覚めは遅く、昼を過ぎていた。テラスの添い寝に、ビビの膝枕が俺を暖かく包む。


「おはよ、ソーイチ。」

「おはようございます。ソーイチ様。」

「う、うん、おはよう。」


 目は覚めた。だが、もう少しだけ微睡みたい。


 ビビの太ももに顔を埋める。柔らかい感触と女性の良い香り、頭を撫でるテラスとビビ。


 気持ちいい。癒される。


 しばらくこの甘えを堪能して、気持ちを発起させる。


「ありがとう。テラス、ビビ。元気出た!」

「うん!良かった!」

「はい。」


 二人を抱き締め感謝する。自分がどれだけ二人に支えられているかを実感する。


 さて、やりますか!


 心に余裕ができ、昨日の事を思い出す。ロイド男爵への文句は今度に取って置き、俺は外出する事にした。





 中央区。アーノさんの息子トロノの遺品探しを始める。アーノさん達は、引き継ぎや中央区との連携で忙しい。マリアも同じだ。他の人が遺品捜索をしているようだが、俺達も捜索を手伝う事にした。


 トロノの元作業場や元住居は直ぐにわかった。捜索担当者に聞いた。初めは怪訝な顔をされたが、俺が男爵とわかると態度を変え、丁寧に教えてくれた。


 成る程、これは便利だ。


 他にも情報を仕入れ、元作業場へ向かう。


 個人工房。いや、中央区は基本個人工房で構成されている。リューア伯爵の政策だろうが、これでは品質発展がない悪政にしかならない。もしかしたら決起防止の意味合いが強そうだ。トロノは鍛冶職のようだ。アーノさんの旦那さんも鍛冶職だったから、後を引き継いだと考えてしまう。

 作業場には何も無い。当然だ。さて、後はテラスの出番だ。折角のテラスの不思議能力を使わないのは勿体無い。

「何かわからないか?」

「ん?何も無い。」


 そうか、テラスでも駄目か。


 考える。いや、テラスは、何も無い。と言った。何故、何も無いのだろう?鍛冶跡はある。だが、それだけだ。生活感が見受けられない。


 ここに住んでいない?いや、端から誰もいない?


 もう一度、トロノの詳細を探る事にした。


 知っている人がいないか探す。現在、市では祭が行われているが、中央区は騒然としている。今までの悪政の影響が、市民の心は困惑させていた。生活補償がなくなり、作った品物を売らなければ、生活出来なくなる。今は中央区財政担当者が、アーノさんと共同で流通を促してはいるが、浸透には時間がかかるだろう。


 その打開策は思い付いたが、今はトロノの痕跡探しだ。


 足を使う。結果はゼロだった。


 明日も探すが、今日は引き上げよう。





「卸売市場?」

「はい、中央区の品物を集め、競りを行うんです。」


 夕食の会話だ。俺がアーノさんに、今の中央区の現状打開策を説明する。


「中央区職人の品物を、身分関係なく競りに掛けます。金銭を流通させ、中央区との繋がりを濃くするのが狙いです。」

「でもさ、それだと貴族有利じゃない?資本があるし。」

 マリアが会話に入る。最もな意見だ。

「構わないさ。大事なのは貴族も金を払う事だ。売れた品物を作った職人に金銭授受をする。職人は材料購入に市民区を利用する。案内所も利用すれば良い。」

「成る程ね。目的はあくまで金銭流通な訳だ。腕の良い職人の宣伝にもなるし、中央区と市民区の隔たりも解消される。貴族も仕入が上がるから、競りには慎重になる。貴族個人の儲けが減る分反対も多いだろうが、市の税収は上げる事が出来るし、市民の活性化にもなる。」


 流石はアーノさん。全部言われてしまった。


「あんた!良い策だよ!明日、フリード子爵に提案して、直ぐにでも実施するよ。」

「参加者は自由にして、市民区の職人にも声をかけて下さい。もしかしたら、血縁者や知人捜索の手がかりにもなると思うんですよ。」


 流通あればこその考えだ。品物以外にだって利用するさ。


「わかったよ!ケセトに言って情報を流すさ。さぁ、忙しくなるよ!」


 満面の笑顔で俺の肩を叩くアーノさん。やっぱりこの人は、現場で頑張る人だ。






 北市民区。


 トロノのアプローチはここに変えてみた。中央区での捜索はまだまだ残っていたが、どうにも手応えがない。少なくとも、知人や同僚位はいてもおかしくないのに、掴めなかったからだ。


 アーノさんの知人にあたれば、少しばかりは収穫があるだろう。



 話は変わるが、戦争が80年前、失踪が50年前。さて、これは年数が不自然なので、マリアに聞く事にした。

「寿命が永いのよ。150年位は平気で生きちゃうらしいのよね。」


 成る程ね。この世界の人は、寿命が永いのか。倍は生きるとか、ファンタジーだ。


「その分、出産も少ないから、バランスとれてると思う。此方って、出産が女性の誉れなのよね。だからかもしれないけど、女性も肉食多いかな。」


 これは文化の歴史と生態系が産んだものだな。


「私の生理も50日周期で4日で終るわ。軽くなったから、これは助かるのよ。」


 うん、口が滑ったか?まぁいいけど。


 つまり、異世界転移のマリアも身体に変化がある訳だ。俺にもあるだろうが、このチートがそうなのか?いや、違うか。



 余談はさておき、これを踏まえて捜索する。年数は経っているが、事実を知る者も多い筈だ。アーノさんも探したと思うけど、復興片手間だったと思うし、手掛かり位は見つけたい。



 アーノさんの知人や、職人達に聞いても手掛かり無し。参ったな。


 

 日も暮れたし、聞き込み次いでに買い物もしたし、今日は引き上げる。



 夕食の後の風呂。


 考える。何故手応えが無いのか?テラスの何も無いの言葉の意味は?


 捜索だって少しばかりは進展してもおかしくは無い。ただ、何も無いは不自然だ。


 捜索者は従者、もしくは市民。アーノさんも探した筈だ。探していない場所。若しくは探せない場所。そんな場所あるか?


「しわしわ~。」

 テラスが俺の眉間を指でなぞる。

「ごめん。またやってしまったな。」


 一人で突き進むクセ。テラスやビビがいるのに、全部一人でやろうとする悪いクセだ。テラスの頬にキスをする。


「誰にも見つからない場所って、この街にあるかな?人に見つからない場所。」

「家の中。」

「人いるよ?」

「土に埋める、とかですか?」

「確かに見つからないな。」


 ん?家の中、土に埋める。探していない場所。


そして俺は考える。頭をフル回転させる。

 そして閃く。うん、1ヶ所だけあった!


「ありがとう、テラス!ビビ!」


 光明が見え、二人にキスをする。


「わかったの?」

「あぁ、多分間違いない。」

「何処ですか?」


「砦居城さ。」


 明日は砦居城に向かい探索しよう。今ならズカズカ入れるし、貴族になって本当に良かった。


 湯船の暖かさと、二人の温もりを感じながら、希望を胸に秘めるのだった。



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