3-31 その後のヴェルケス その2
譲爵。それは一気に市民区に伝わった。フリード新太守を始め、市民から貴族になるギルドマスター。それは市民区が貴族統治の確約を意味する。また、フリード太守の新政策の期待も相まって、市民区全体がお祭り騒ぎになった。今は新太守を祝う祭りの準備中だ。
俺達は、譲爵の準備中だ。礼服を作っている。因みに、フリード男爵の助言で礼服のデザインを教えてもらう。また、アーノさんの提案で、ケセト氏は北区商工ギルドマスター、即ち士爵になる。
「まさか、貴族に舞い戻ると思っていなかった。」
「あんたも頑張ったからだよ。胸を張りな!」
ケルト侯爵との交易の立役者。働きも立派だし、リューア伯爵の件で、フリード男爵との共闘も評価されたのかもしれない。男爵までは領主、士爵は太守でも任命出来るので、フリード男爵の名で譲爵される。俺とアーノさんはケルト侯爵だから、勘弁してほしい。
また作法はフリード男爵の元、厳しく指導してくれた。
親方を思い出す。
前世界での仕事の上司。職人気質の頑固者。俺を一人前にしてくれた恩師。あの人がいたから、今の俺があるのは間違いない。
布は中央区から仕入れた。ロイド仮伯爵の計らいで、紋章入りの金袋を貰った為、関所はフリーパスになった。
確かに、貴族特権は悪くないな。
偉くなるつもりはないが、余計な抵抗が無いのは気分が良い。
そんなこんなで、礼服の完成。テラスやビビ、マリアのドレスも完成させた。ドレスは華やかよりも清楚感あるおとなしい形で、露出も少ない。色も寒色系に抑えた。
「似合う?可愛い?」
「とっても可愛いよ、テラス。」
ドレスを試着してクルクル回るテラス。明るい水色のドレスが、銀髪をより目立たせる。
「あの、どうでしょうか?」
「綺麗だよ、ビビ。」
ビビは完全回復した。あれから一緒の行動を増やし、スキンシップも沢山した。そのお陰か、器は修復され、いつものビビに戻っている。
「ありがとうございます。」
顔を赤く染め、俯く。尻尾はブンブン振っているからよほど嬉しいのだろう。
「はい、オチ担当よ。」
マリアは自棄気味だった。まあ、テラスとビビは別格なんだが、マリアも美人に入るのに勿体無い。
マリアの耳元で囁く。
「とても素敵だよ。」
みるみる真っ赤になるマリア。リップサービスではない、本音だ。
「ば、馬鹿ぁ・・・。」
小さくなり、モジモジしだすマリアがとても可愛い。
「おやまあ。」
アーノさんは苦笑していた。
一同に新作の服を見せ合い、誉め合っていた。
余談だが、マリアの胸元にパットが入ってあるのは内緒だ。
あっという間に10日が過ぎる。フリード子爵譲爵、新太守任命式典当日となる。
★
新太守任命とあって、ケルト領主要貴族が出席する。広大な土地に、ドワーフ自治領の管理も兼ねてあるためか、かなりの人数だ。数えたくもない。
フリード子爵に人が群がる。夫人のテリーヌ様は、俺とマリアがリメイクしたドレスで連れ添っている。御満悦は表情でわかる。
ま、俺達には逆の視線が集中しているが、予測通りだ。嫌がらせも考慮していたのだが、イケメンのロイド男爵が側にいるので、手を出してこない。
「流石に注目の的だね。」
気兼ねなく話してくるロイド男爵は回りを見渡す。
「ええ、おかげさまで。」
「つれないね。折角のお披露目だよ。堂々としなよ。」
階級が同じだから、言葉遣いには気にしなくても良くなったが、この人には一杯食わされている。警戒もするさ。
「これからは同僚だ。仲良くやろう。」
握手を求めてくるロイド男爵。
「お手柔らかに。」
小さく細い手だな。柔らかい。
「此方が随伴者かい?」
「テラスと言います。」
「ビビです。」
「マリアと申します。以後お見知りおきを。」
3人がそれぞれ自己紹介する。
「ロイド男爵だ。父の姓で名乗るのは恐れ多いのでね、ファーストネームにしている。気兼ねなく呼んでくれ。」
ロイド男爵も苦労はしているようだな。イケメンに隠れた苦悩か?女性にはたまらんだろう。
「それにしても、美しい女性達でハーレムルートかい?羨ましいね。」
「ロイド男爵?」
「わかってるよ。任命式が終わったら話せる時間が出来るさ。今は自分の譲爵だけを考えるんだよ。」
背中をバシバシ叩くロイド男爵。
時間を知らせる音楽が響く。
「おっと、時間だね。頑張るんだよ。」
笑いながら移動するロイド男爵。全く、掴めない男だ。
「ねえ、ロイド男爵って。」
「マリアの予測はあってるよ。」
ロイド男爵は異世界人だ。
★
譲爵の儀と太守任命式が始まる。ずらりと並ぶ貴族達。俺は定位置での待機。後ろに、アーノさん、ケセト氏、ギルドマスターの面々が並ぶ。フリード子爵だけは違う場所なのは高位だからだ。
「キルヒ・オ・フリード子爵とし、ヴェルケス市太守を任命する。」
「はっ、拝命致します!」
ケルト侯爵。老齢、黒髪の短髪。深いしわに焼けた茶色の肌。背も高く筋も伸びている。
もうね、眼が恐い。本当に恐い。人が避けるレベルだよな
「ソーイチ・アオバ!栄誉男爵に譲爵する!」
「慎んでお請け致します。」
礼儀作法には問題ない。多分。自信はない。フリード子爵に教わった通りにした。
「また、ソーイチ・アオバ栄誉男爵には、ニール・フォン・ケルト侯爵の大使を任命する。」
「は、拝命致します。」
場内がざわつく。無理もないな。市民が侯爵の大使とか。永代貴族には面白くないだろう。
続いてアーノさんにケセト氏と譲爵が続く。
問題なく任命式が終わり、会食会に移行する。
貴族に囲まれるフリード子爵だが、俺達は蚊帳の外。元市民だ。挨拶なんかないだろう。まあ、こちらから行く必要もあまりない。いや、ケセト栄誉士爵は頑張っている。大変だな、貴族は。
「ま、貴族同士で交易する訳ではないし、実績を示せばあちらから声をかけてくるさ。」
流石はアーノさん。通常運転だ。
「大役お疲れさん。」
「ロイド男爵。」
皆が一礼をする。俺はしないよ。爵位同じだから。たとえ栄誉でも。
「さて、話をするからソーイチ君は借りるよ。ああ、後ろはケルト市の交易担当者。仲良くね。ナカヨクダヨ。」
最後の一言は脅迫だな。
「申し訳ないけど、随伴も無理なんだ。」
テラス達も止められた。今回は仕方ない。アーノさん達に任せよう。
「エスコートしようか?」
「BL趣味はないぞ。」
「大丈夫。俺もない。」
★
「御苦労。」
目の前にいるのは、ケルト侯爵。高位のゲストルームに案内された。
「大丈夫。父上は強面だけど、易しいから。」
「ロイド、過ぎるぞ。」
肩を竦めるロイド男爵。下座に案内され、座る。
「さて、今回の譲爵と大使の説明をする。ロイド。」
「畏まりました。ケルト侯爵様。」
態度が変わるロイド男爵。これだけなのに、雰囲気ががらりと変わり、場を重くする。
「ソーイチ栄誉男爵。君は俺と同じ異世界人だね?」
話はここから始まった。
リューア伯爵にまとわりついた暗い霧。此方では、暗と呼ぶ。
神出鬼没の災厄で、人の欲望を糧にするという。たが、欲望が強いから暗に包まれる訳ではないのが、神出鬼没の一因だ。
暗に包まれた者は連鎖的に広まり、人の欲望を食いつくすという。
人にとって欲望は大事な感情で、最後には生きる欲望すら食らいつくすのだという。
リューア伯爵とヴェルケス中央区の関係図か?似ているがちょっと違うような気がする。
そこで、現れた暗を消す光。それが俺と言う。
「何か質問あるかい?」
「これ、嘘話ですよね?」
「根拠は?」
連鎖的に広がっていない事、少なくとも市民の人生の補償はしていた事、生きる欲を無くした者がいない事をあげた。
「ふむ。」
ロイド男爵はケルト侯爵を見る。
何?何したの?
「正解!今のは俺が作った法螺話さ!」
お粗末過ぎるぞ!
「さて、本題。暗は本当にある。神出鬼没も事実。対処法がほぼ無い。君は消滅化出来る。合ってるね?」
「そう、ですね。」
ケルト侯爵が会話に入る。
「ロイドには多少の権限を持たせ、領内を調べてもらっておる。今回のリューアの件はロイドの判断で貴様に譲爵をした。」
「意味わかる?」
間
「つまり、暗を消す旅をしろと?」
「半分正解。」
「貴様には、旅がてらで構わん。暗の元凶を調べてもらう。大陸を巡り、消滅方法や出現法則などを調べるのだ。」
「ソーイチ君は自衛も出来るし、対処も出来る。判断力や統率力もある。それに旅の便乗次いでに、暗も調べる事は出来るだろ?英雄になれなんて言わないさ。少しばかり災厄を調べて欲しいだけだよ。」
これに関しては同意しても良い。俺の旅はその暗から始まったような物だ。元凶や正体位は暴きたい。
「旅の途中、ケルト領が危ないと報があったら、直ぐに戻ってもらうけどね。」
それも大丈夫。直ぐに駆け付けられる。
「旅に必要な物とか、お金、権威、優遇もあるから、悪い事ばかりじゃないさ。」
確かにな。後ろ楯は結構重要だ。
「事情はわかりました。暗の件、調べさせていただきます。」
「良い。」
ケルト侯爵は御満悦のようだ。そして、その暗はこの王国、もしくは大陸に潜んでいるのは間違いない確証をもらった。早急な対策が必要だな。
「それで、これからどうする?」
「私達は、ドワーフの自治領に向かおうと思います。興味がありまして。」
「ならば通行証が必要だな。こればかりは貴族の権威は効かんから、ケルト市に来てもらう事になる。出発はいつだ?」
「旅の準備が整い次第ですが、10日程はかかります。」
多めに見繕う。正直、譲爵の件で何も準備をしていない。
「ふむ、ではケルト市で待つ。着いたら必ず顔を出せ。」
「はい、畏まりました。」
通行証も何とかなりそうだ。苦難もあるが、利益もあるし、貴族も納得しよう。
「では、失礼します。」
退室する。
「俺も出るわ。また報告します。」
「うむ。」
暗ね。楔の件とかもあるけど、今はまだ黙っている方が良いな。余計に混乱させるかもしれないし。
「さて、俺の仕事も終わったし、1度帰るか。ケルト市で会えるかわからないが、その時はよろしく、同僚。」
握手をする。やっぱり何かおかしい?
「なあ、ロイド男爵?お前さ?」
「やっと気付いた。俺、女だよ。」
イケメンの正体は女性かい!衝撃的過ぎるぞ!
「あはは。またね。」
疲れた。本当に疲れた。ロイド男爵には振り回され過ぎた。テラスとビビに甘えて癒されたい。
脱力しながら、足を会場に向けるしかなかった。




