3-30 その後のヴェルケス
夜、ささやかだがギルドの広間で宴会が開かれた。関係者だけの小さな宴会だが、進言成功と言質確保、全員生還を祝った。貴族は中央区で事情聴取で缶詰めなので、ルフツ士爵はいない。
リューア伯爵の正体には箝口令が敷かれ、俺、テラスにビビ、マリアにアーノさん、ケセト氏と詳しい話は出来なかった。そして件のリューア伯爵は、ケルト家反目として処断されたという事になった。
「約束が果たせた。今日は飲もう!」
「そうですね、ケセトさん。」
ゴブレットに注がれたワインをがぶ飲みするケセト氏。夫人も寄り添っていた。
「ボロボロになって帰って来ましたが、ソーイチさんに助けられたと聞いています。主人を助けて頂き、本当にありがとうございます。」
「いえ、私もケセトさんには助けられましたから、お互い様です。此方こそありがとうございました。」
お互いに感謝の礼をする。
辛い時期を過ごしたケセト夫人。貴族の復権より、ケセト氏の生存が第一と言っていた。二人の愛を感じる。
良いよね、こういうの。
「これからどうなると思いますか?」
「中央区のロイド伯爵次第だな。」
ロイド男爵。今は仮伯爵。ケルト領主の息子。イケメン。リューア伯爵は妾の子と言っていたが、能力が高いから息子に認定されたのだろう。期待するしかない。
「お肉追加よ!どんどん食べて!ビビさんには別皿あるから!」
マリアは料理を振る舞っていた。肉は俺が提供している。ビビの食欲も考えた結果だ。無限保管の肉を全部出してしまった。今度狩りに行って補充せねば。
「ところでさ、あんた、能力は生産系じゃなかったの?凄く強く見えたけど?」
「気のせいだ。」
「チート?」
「気にすんな。」
背中ペチペチは可愛いぞ。
「むぅ、ま、良いわ。今日はお祝いだし、しっかり食べてね。」
マリアは上機嫌に厨房に戻る。
テラスはギルドの女性陣に可愛がれ、ビビは男性陣に混ざり、大食い競争を始めていた。バタバタと倒れる男性陣。ビビの圧勝は予想容易い。
「飲んでるかい?」
「はい、楽しんでますよ。」
アーノさんが話しかけてきた。
「あれから時間が経って冷静になったが、あんたには本当に辛い思いをさせてしまった。すまない。」
リューア伯爵の挑発に闘いかな?
「良いんですよ。計画が成功したのですから。」
「私も相手があんなだとは思っていなかった。調査不足だね。」
リューア伯爵が化物だったなんて知りもしないさ。仕方がない。
「今日は飲みましょう。お祝い事なんです。湿っぽい話は止めて、明るくいきましょう。」
「そう、だね。あんたは器がでかいね!」
背中をバシバシと叩くアーノさん。マリアはやっぱりアーノさんの孫だと実感する。
「今日はどんどん飲みな!どんどん食べな!」
「「「おーー!!!」」
アーノさんの発破に会場のボルテージか上がる。
宴会は深夜まで行われた。
★
ヴェルケスの動向が気になるので、旅の準備を揃えつつ、滞在延期をしていた。
空いた時間に、懸念していた事を済ます。
まずビビの状態。テラスは器の修復が必要と言っていた。やはりかなり無理をさせていた。小屋で休ませる。今は俺とテラス、ビビの3人でいる。
「治るか?」
「ビビをいっぱい愛してくれたら直ぐに治るよ。」
「いっぱい?」
「そう、いっぱい!」
これは、いつも、の意味だろう。体力は回復しているが、やはり器はなかなかに治らないな。
「ビビ。」
「はい、何でしょうか?」
抱き締める。
「あ、あの?」
「いつもありがとう。」
「・・・・・・・。」
ビビが震えている。いや、泣いていた。頭を優しく撫で、励ます。テラスも抱きついてきた。
暖かい。心が暖かい。染み込む。力が器の極彩色の蓮の華に集まるような感覚。
「暫くは滞在だから、一緒に行動しよう。今度また狩りに行こうか。」
「うん!」
「はい!」
二人にキスをする。二人の求め方が激しかったが、今は無理だよ。
「な、な、な?!」
マリアが来たから。
「人前でイチャラブするな!!」
「マリアも混ざる?」
テラスさん?
「・・・・・・・・・!」
マリアさん?あ、絶句してる。
ビビには回復専念だ。沢山愛そう。間違ってもHの事ばかりじゃないからな。
さて、
「いつまで呆けてる。」
マリアに声をかける。
「あ、あ、あん、あ、ん。」
「テラスの言葉に動揺するな。それより聞きたい事があるから、落ち着け。」
「わ、わた、私はち、ちが・・・。」
駄目だ。これは相当だ。
「テラス、お願い。」
「は~い。」
マリアに抱きつくテラス。顔を真っ赤にしたマリアだが、テラスの抱擁に少しずつ落ち着いていく。
暫くするとお互い抱き締める状態になり、マリアが平静になったのを確認する。
テラスがマリアの頬にキスをする。
「マリア!大好き!」
パタパタとビビの所に戻っていった。
頬を覆いながら、テラスを見続ける。
「落ち着いたか?」
「えっ?あ?う、うん。大丈夫。」
まだ顔が赤いが、こちらの言葉は聞いてくれるようだ。テラス、ありがとう。
「リューア伯爵の事だけど。」
「あ、うん。何?」
リューア伯爵の発言に少し緊張したようだ。真顔に戻る。
「リューア伯爵を鑑定しただろ?しかも本質理解で。暗い霧を視た訳だし。身体は大丈夫かと思ってな。」
「あ、うん。大丈夫よ。視えた瞬間、胸に痛みを感じたけど、直ぐに逸らしたから大事ないわ。」
そうか。
「テラス、マリアは大丈夫か?」
「うん、器は大丈夫だよ。」
良かった。
ビビは直接触れてしまったが、マリアはテラスの防御壁越しに視たからかもしれないな。
「何?どういう事?」
説明をする。ビビにも聞いてもらう。俺とテラスの話。楔。痛みや器。全部話した。
「つまり、あの暗い何かが元凶なの?」
「そうだな。正体はさっぱりだが、この世界にもいるようだ。」
「あれに対抗して、退ける。だからソーイチ様は強いのですね。納得しました。」
ビビは胸を抑えながら話す。
「テラスちゃんもわからないの?」
「うん、わからない。」
「多分、テラスの元が教えていないんだと思う。正体を知れば、危険にさらされるからとか言っていたし。」
「いやいや、今回も危険だったわ!」
「もっと危険になると考えれば、その考えもわかる。」
白テラスはこの状況を見越したかもしれない。だが、これからは暗い何かの対策も考慮しなくてはいけない。
「ねぇ、旅辞めたら。平和が一番でしょ。」
「別に、あれを退治する旅ではないし。これから対策、準備もするさ。」
そう、今回は何も対策していなかった。もし、次がある事を見越して、準備をしよう。
「私はソーイチと一緒。」
「私は、ソーイチ様とテラス様を守りたいです。」
「そんな訳だし、旅は続けるよ。まあ、マリアが無事で良かったよ。」
「そっか、・・・。」
ん?マリア?
「なら、この街でしっかり準備しなさいよ。私も協力するからね!」
「あぁ、頼りにしてるよ。」
「任せて!」
胸に拳を当てるマリア。その表情は自信満々だった。頼りにしよう。
俺はビビに膝枕して、頭を撫でながら、今後の対策を考える事にした。
★
ギルドマスタールーム。
俺とアーノさんで話をする。
「で、話って?」
「はい、交易の事ですが。」
俺はアーノさんにプレゼンする。
1つ目は黒糖。クコ村の一大産業予定の黒糖の交易。現物を見せる。
「蜜を粉にしたのかい!?」
「はい、これで流通しやすいと思います。黒糖の仕入に金銭や雑貨、食料品、人材等色々出来ると思います。また、貴族の派遣も申請してますので、将来的にも有用になると思います。」
「成る程ね。なら、先ずは人材派遣と拠点作りだね。直ぐにやるよ。」
即決か。マリアも驚愕していたからな。当たり前か。
2つ目は肌油。油状とクリーム状の2つを出した。
「はは!これは凄い。今まで流通した物とは偉い違いだね!」
原材料、作り方を詳しく説明する。これは誰でも作れるから、商品価値はそこまで高くならないはずだ。また、花の汁を入れて香りを付けるアイディアも言ってある。
「あと、ケルト領のヒルリー様が御愛用なので、交易には必ず入れて下さい。」
「侯爵家御用達か。市民用と分けた方が良いね。」
「因みにこれが、アーノさんの分です。」
少し多めに譲渡する。
「何から何まで・・・。」
「ブランデーのお礼ですよ。」
「はっ!また仕入れてやるよ!」
「ご期待してます。」
ドアノックから一人の男性が入ってくる。ロイド仮伯爵だった。
「急な訪問失礼するよ。話があってね。あぁ、ソーイチ君もいたかい。ちょうど良かった。」
「これはロイド伯爵。」
俺とアーノさんは一礼する。
「さて、話なんだけど、アーノが言っていた自由交易や中央区解放、関税撤廃なんだけど、目処がついたよ。」
「そうですか!ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべるアーノさん。
「そこでなんだけど、商工ギルドのマスターには譲爵される予定だ。栄誉士爵、アーノは栄誉女準男爵だ。」
この展開は予定外だ。呆然とする俺とアーノさん。
「いや、待って下さい。いきなり譲爵と言われましても。」
「うん、そうだね。順に説明しよう。」
説明を始めるロイド仮伯爵。
市民の交易に統括を必要とする。その統括を貴族が行えば、円滑に進められると結論になった。また、市民区が貴族による統括で、市の恩恵も受ける形になる。
それを踏まえれば、中央区解放も素早く行われ、流通が盛んになると予測がつく。
関税の代わりに入市税が適用されるが、市民でも支払える額になるだろう。
アーノさんが栄誉女準男爵なのは、ギルド統括者としてだ。ギルドマスターは一代限りの栄誉としてしかならないが、マスターになった者は必ず栄誉士爵となり、仕事に従事する。
「これが大前提なんですよ。受けてくれますね?」
確かに貴族による統治なら、誰にも文句は言われない。他貴族からも反感出しづらい。
「仕事は変わりません。やり易くなるだけですよ。」
ロイド仮伯爵は微笑む。貴族には貴族の考えもあるだろうが、メリットは多いな。
「わかりました。譲爵、慎んでお受けさせて頂きます。」
「わかりました。新太守が決まり次第、譲爵になりますので、姓を決めておいて下さい。おめでとうございます。」
「はい、ありがとうございます。」
強ばるアーノさん。即決するのが格好いい。
「さて、ソーイチ君。君には少し私について来てもらうよ。」
「どちら、にですか?」
「中央区。」
★
中央区、中心地砦居城。
「おぉ、ソーイチ!息災か?」
「フリード男爵様。ご無沙汰しております。」
と言っても、あれから3日しか経ってないが。
「妻は連れておらんのか?」
「ただいま妻が療養中ですので。安静にさせています。」
「ああ、あの狼人だな。あれも素晴らしい女性だ!全快を祈ろう。」
「ありがとうございます。妻もよろこびます。」
一通り挨拶が終わる。
通された部屋は書斎。多分フリード男爵の仕事場だろう。飾り気なく質素だが、広々としている。
「さて、話をしましょうか。」
ロイド仮伯爵が話を始める。
「フリード男爵は新太守任命に際、子爵に譲爵されます。」
おぉ、出世だ!
「そこで、フリード男爵からのお話しですが。」
あ、やな予感。
「ふむ、もう一度聞くが、私に仕えぬか?ソーイチよ。貴様のような有能な奴は、私は見過ごせん。」
ですよね。どうやって断ろう。
せっかくフリード男爵とは仲良くなれたし、もしかしたら、アーノさん達もフリード男爵の采配かもしれないし、・・・。
「くくく、断る言葉を探しておるか。私も貴様の心はわかっておる。理由を話せ。」
「は、はい!」
やっぱり俺は顔に出るようだ。
「私達は旅をしております。一ヶ所に留まる事はしませんので、貴族の責任を果たせると思えないのですよ。」
「ふっ、なるほど、旅か。」
「その旅が、ヴェルケスの、そして出会いの切っ掛けならば、悪くはありませんね。」
ロイド仮伯爵が俺のフォローをする。何故?
「貴族になりたくない、のではなく、貴族になれない。か。」
腕を組み考えるフリード男爵。
「旅の目的は何だ?」
「観光、ですね。様々な品物や人種、歴史、建造物に興味があるのです。」
「ほっ!奇特な奴!」
奇特って、酷い。
「でしたら、大使としてはいかがですか?これならば貴族の統制の仕事ではなく、交易が仕事になりますよ。」
ロイド仮伯爵が進言する。
大使。貴族御用達になるのか?後ろ楯は嬉しいな。
「・・・ふむ。」
ん?なんか違和感感じた。何故だ?
「どうです?大使として王国、いや、大陸を旅してみては?無用なトラブルも回避出来ると思いますよ。」
ロイド仮伯爵が微笑む。
大使。観光大使かな?これならば貴族のゴタゴタにも巻き込まれにくいか。
「大使になれば、私にも気軽に会いに来れるしな。」
フリード男爵も圧してきた。
確かに、市民が貴族に会うのも許可が必要だし、大使なら身分証明にもなるか。
「貴族の交流は旅のアドバンテージになりますよ。」
そうか?そうだな。確かに悪くないな。俺の目的は旅として、それが邪魔にならないのならないのなら、貴族の後ろ楯は悪くない。権力闘争にも加担しなくて済むし。
「わかり、ました。大使としてなら、お受け致します。」
「おぉ、そうか!」
「言質頂きました。では、ケルト領ケルト侯爵様代理ロイド伯爵より、ソーイチに任命を与える。」
ん?何、この展開?
「ソーイチはこれより、栄誉男爵を譲爵、観光大使としてケルト領の発展に勤しむべし!」
は?
「はっはっはっ!流石ロイド殿、口が上手い。」
「これも私の仕事ですから。あ、姓を考えて下さいね。」
だ、だ、騙された・・・。
今わかった違和感の正体。これ、キャッチセールスの基本じゃないか。下げて上げて、良点だけ言う。アーノさんの時からそうだ。話し方とか、微笑みとか、全部計算だ!やられた!
「私の部下ではないが、この際構わん!共にケルト領を発展させようではないか!はっはっはっ!」
「貴族も悪くありませんよ。メリットは多いに越した事はありません。あ、譲爵はフリード太守任命に合わせて行いますので。任命式には必ず出席するように。」
したり顔のロイド仮伯爵。
あはは、はは、ははは。もうやだ。貴族恐い。
★
「え、栄誉男爵ー!!」
マリアさんうるさい。
夜の食卓。リビングで団欒を過ごしていた。
「妥当だね。で、役職は?」
アーノさんは当然と思っていたようだ。
「観光大使です。大陸を旅して、ケルト領を宣伝と交易交渉ですね。」
「しかも大使かい!で、だれの大使だい?」
ん?何故に?
「ケルト侯爵代理ロイド伯爵?になるのかな?」
「あっはっは!こりゃあ豪気だ。あんた、名は栄誉男爵だけど、中身は伯爵と同じ権限だよ!」
へ?!何、なんで??
「馬鹿ね、大使はその人の代わり。つまり、例え仮でも伯爵の大使になるから、あんたの権限は伯爵になるの。」
聞いてない。
「ロイド伯爵はフリード新太守で男爵に戻るけど、あんたは伯爵の状態で受けたから、そのまま伯爵権限になるわ。ケルト侯爵直属は間違いないわね。ケルト侯爵の大使になるから。」
や、やられた。
「い、いや、伯爵って上級貴族じゃないのか?こんな簡単に任命出来ないんじゃないのか?」
焦る。マジ焦る。普通は王様からの任命だろ?
「だから、男爵の名なんだよ。男爵までは領主で任命出来るからね。まあ、与えられる錫杖は多分伯爵だろうがね。」
マジか!いや、アーノさん、冷静に分析しないで。
「諦めなさい。まあ、男爵権限は自分の責任ですむけど、伯爵権限はケルト侯爵の容認だから、簡単には使えないわ。あくまで保険みたいな物よ。」
だといいんですけどね。いや、そもそも何を考えてる、ロイド仮伯爵!
「ま、私もあんたも貴族様だ。仲良くやろう!」
アーノさんは割りきったようだ。逞しい。
「男爵様、か。」
「どうした、マリア?」
「な、何でもないわ!冷めちゃうから早く食べなさい!」
何だよ全く。
「ソーイチはソーイチだよ。」
「はい、私もそう思います。」
テラスとビビは通常運転だ。でも、嬉しいな。肩書きより、俺自身を見てくれた。
「そう、ね、そうよね。貴方は何も変わらないわ。」
マリアまで乗ってきた。
確かに、貴族の責任は重い。その分、融通も利くようになるだろう。行動は変わらないし、面倒は負わなければいい。うん、元気出た!
「ありがとう、みんな!」
「えへへ~。」
テラスの笑顔にビビの微笑み、あ、尻尾も。マリアも笑ってくれた。
譲爵まで時間もあるし、ヴェルケスを堪能しよう。
マリアの絶品料理を頬張りながら、気楽に考える事にした。




