1-3 何が何やら
甘い花の香りが鼻を擽る。後頭部に感じる柔らかな感触を感じながら、俺は目を覚ます。
目の前にいるのは、銀髪の美少女だった。俺は下から見上げている。右目は瞑っているが、左目は金色でこちらを見つめている。
歳は15才位か?儚さを多少感じるが、可憐、清楚な面立ちに、俺は嘆息した。
胸の膨らみもあり、Dカップはあるだろう。布面積が小さい為、チラチラと見せる双丘に喜びを感じたが、見た目年齢的にも罪悪感を感じたので、目を背けた。
俺は今、美少女に膝枕をしてもらっていた。なんと役得なんだろう。このままこうしていたい。
美少女は俺を見て微笑んでいた。その笑顔の魅了は、俺を動悸させる。
俺は照れながら、ゆっくりと上体を起こす。
多少の頭痛はあるものの、この位なら我慢の範囲内だ。
ふ~・・・
俺は息を吹き、心を落ち着かせる。
「えっと、・・・ありがとう。」
うん、意味わからん。まだ混乱しているようだ。
「ごめんなさい。貴方を苦しめてしまいましたね。」
謝罪された。まあ、役得や眼福があったから気にもしていない。
ともかく、希望の一端として向かった場所に、美少女と暗い棒、楔とか、一体ここは・・・、んっ!?
・・・会話してる?
ようやく、現状を理解した。
五感がある。
辺りは白い世界のままだが、床に座る感覚がある。重力なのかはわからないが、何も無い床に座っていた。
感触を感じる!匂いを感じる!会話が聞こえる!軽く指を舐め味を感じる!
「おおおぉぉ・・・!」
俺は興奮を抑えきれなかった。立ち上がり歓喜した。
今までに感じていた違和感。何も感じられない、の違和感。五感の回復が、その違和感を払拭してくれた。
「あははは!よしっ!よしっ!」
五感の再確認の後、俺は小さなガッツポーズをしながら、回復を喜んだ。
美少女が、笑顔で俺を見ている。
年甲斐もなくはしゃいでしまった。美少女の視線が俺を我に帰す。
コホン。
「失礼。」
俺は恥ずかしくなり、その場に座る。
落ち着け、俺。
深呼吸をして、心を平静にする。
微かに香る美少女からの甘い匂いが、俺の心を落ち着かせていく。
・・・うん、落ち着いた。
さて、
「改めて、俺は青葉 総一。あなたの名を聞かせてもらっても良いだろうか?」
落ち着いた事だし、当初の目的に戻る。
聞きたい事は山ほどあるが、先ずは挨拶からだろう。自己紹介は大事だ。相手を知るにも、協力してもらうにも、俺の事を知ってもらわなければならない。
だが、美少女は困惑顔をして、
「名を語る事は出来ません。アオバソーイチの協力はしましょう。」
名前は駄目か。でも、協力は確約でき・・・、あれ?
協力要請して無いよね?何故?
「多少ですが、思考で会話をしています。」
あ、なるほど。心を読まれてるのか・・・。
って!さっきの役得眼福も筒抜けって事か!
「欲は、器を持つものの証です。恥じる事ではありません。」
いやいや、っても無駄か。心を読まれるのには落ち着かないが、これだけトンでも展開だ。何があってもおかしくないか。
心を平静に、素直に、意思を込めて話そう。
「はい、何から話しますか?」
美少女は笑顔で答えてくれた。
俺は苦笑するしかなかった。
★
話は長いので、要点を纏める事にする。
先ずはこの白の世界から。
ここは彼女の空間であり、俺の世界だそうだ。うん、意味不明だ。詳しく聞いても同じ答えしかもらえなかった。解釈が難しい。
また、俺が此処にいるのは、楔を打ち込まれたときのイレギュラーらしい。
楔の事。
楔の事は話してもらえなかった。無言とばりに口を閉ざしてしまった。俺が心を読めないのが不公平と感じたが、この際仕方がない。だが、状況的にここに縛り付ける誰かはいるのは間違いない。
また、楔を引き抜く行為は、器の破壊に繋がる行為であり消滅を意味する、と長めのお説教をもらってしまった。
俺の生死
結論、生きている。ただ、先程の楔の件で、器の中身が枯れているとの事。
器とは
魂の台座らしい。あれ?中身が枯れてるなら死んでるのでは?と思ったが、それは否定された。死の定義が違うのか?
「魂は器に惹かれ依り代とします。器の保有により、産まれる魂を引き寄せ、死ぬ事にはなりません。」
うん、わからん。これは定義が違うな。
多分だが、輪廻転生の類と思う。魂と器の組み合わせる事で、霊気の継続を示しているのかもしれない。個人としては死んでいると思うが。
「確かに、アオバソーイチという個人の魂は消滅まで行きましたので、人としての死を定義してもよろしいかもしれません。ですが、器を保有してますので、死の確定ではありません。」
ごめん、本当にわからない。
話題を替える。
元の世界に帰れるか
またもや楔の件で、繋がりが断たれたので不可能との事。あ~、ブチッ!ってあったのはそれかも。
美少女の存在
これも語ってはくれなかったが、女神様とか神様の使いみたいな存在と憶測すると、笑顔で返された。
楔の行方
持っていた筈の楔がなくなっていたので聞いてみた。霧状に霧散したそうだ。
これからの事
ここで永劫的に過ごす。もしくは別の世界へ転移するかの2択だったが、これ1択だよね。
何も無い世界に永劫なんて、地獄以上の苦しみしかない。まぁ、美少女と二人きりも良いかもしれないが、人の営みから外れる気は無い。そんな訳で、転移を希望する。
転生では?と聞いてみたところ、肉体、精神、器が揃っているのを捨てる事になると答えられた。器はそのままだが、肉体、精神は変化するとの事。確かに、また他の誰かの子として産まれるのだからそうなるか。正直、今の自分に不満は無いから、転移にする事にした。
転移先
選べない。人が住む世界だから生きてはいける。情報ももらえなかった。不安しかない。
お約束
チートなスキル譲渡はあるのかを聞いてみたら、
「ナニソレオイシイノ?」
だそうだ。軽くイラついたが、祝福をもらったので、それで了承した。チョロいな俺。
最後に、彼女に「テラス」という名前をつけた。貴女とか君とか、違和感しかなかったからだ。名前付けに反対したわけでもないし、俺は満足した。
★
転移をする準備が始まった。
テラスと向かい合う。
不安はあるが、人が住んでいるのなら、生きてはいけるだろう。幸い、手に職もあるし。鍛冶、加工で食べていけるだろう。
楽観的かもしれないが、見えない不安に振り回されても仕方ないし。
強いて言えば、テラスとの別れが寂しいかな。美少女ってのもあるけど、なんか楽しかったからかな。
俺はテラスの右手に左手を添え頷き、見つめる。
テラスは左腕を高く挙げる。その先には光瞬く何かが降りてきた。それは幻想的な光を放ち瞬く。
多分、俺の器の中身になるものを召喚したみたいだ。魂の召喚だろう。摩訶不思議な事この上ない。
その光を、俺の右手に渡す。
それは圧倒といってもいい、多彩な色に瞬く極彩食の蓮の花のつぼみに変化した。
その光量に圧倒されそうになったが、不思議と心地よく、それを受け入れた。
そして、前方のテラスの驚愕した表情みた瞬間・・・
★
気がついたら、俺は草原に寝転がっていた。
久しぶりと感じる、風の感触と草原の匂い。陽射しの暖かみ、眩しさ。多彩な色に風景。今まで無くしてしまった物を取り戻したような感覚に、感動しかなかった。
たださ
異世界に来るのは前もってわかっていたから、困惑する事はなかったけどさ。
このトンでも展開には理解しがたいとしか言えない。
なんで、
裸のテラスが隣で寝ているの?
俺は一抹の不安を感じずにはいられなかった。
ようやく異世界に来ましたが、タイトル詐欺は続きます。すいません。