3-21 計画準備期間 その3
目が覚めたのは、昼過ぎだった。
リビングには大量の御飯が残っていた。
朝はそのまま、お楽しみをしてしまったのだ。
「「「いただきます。」」」
残さず食べる。ビビは相変わらずだが、今日の俺も結構な量を食べる。足りなかったので、無限保管から肉を出し、焼いて食べた。
胃が馬鹿になっているようだ。
俺達の食事中にマリアが来た。
騒然たる食事風景に唖然としていた。
「運動後によくそれだけ食べれるわね・・・。」
「もごもご、はぐ、もごもご・・・。」
「飲み込んでから話なさい!」
ゴブレットに水を入れ、渡してくれた。
マリアは顔が真っ赤だ。怒っている訳ではない。
席に座り、食べ終わりを待ってくれた。食後のお茶が美味しい。一息つけた。
さて、
「完成したよ。見るかい?」
テラス、ビビ、マリアは頷く。
無限保管から光虹櫛を出す。3人が光瞬く櫛に息を飲む。
「綺麗。」
「はい。とても。」
「なに、これ?櫛なの?美術品にしか見えないわ・・・。」
テラスとビビの感想のほうが凄いと思う。マリアの感想が普通に感じる。創った俺もそう思うからかもしれない。
「マリアのデザインを形にしただけだ。」
「いやいやいや、これは想像の域を超えているわ!あんたおかしいんじゃないの?!」
「自画自賛か?」
「バカッ!!」
マリアをからかうのは面白い。あ、ビビさん怒らないで。マリアの愛嬌ですよ。
「明日、ギルドにグラス納品があるから、アーノさんには明日見せるよ。ついでに話もあるし。」
「おばあちゃんが言ってたわよ。世間知らずの癖に、勘だけは鋭いって。今度は何をする気なの?」
そんな評価をしてたのか。まあ、構わないが。
「それも明日だな。納品の時にお客さんが来るはずだから、その時に話すよ。お客の話は済んでいるんだろ?」
マリアに聞く。
「勿体振って・・・、まぁいいわ。それは勿論。でも、当初おばあちゃんと考えた計画と少し違うけど?」
首を傾げる。
これは少しでも成功率を上げる為だ。アーノさんと話した計画案の一部変更。
「それも明日話すさ。今日は気楽に過ごさせてもらうけど、良いか?」
「別に仕事は終わったんでしょ?無理したんだからゆっくりしなさいよ。」
そういえば心配されたっけ。
「ありがとう、ゆっくり休ませてもらうよ。」
「どうぞ、ごゆっくり。・・・休みなさいよ!」
顔真っ赤!何故?
今日はデートだな。テラスとビビを連れて街を散策しよう。
たくさん買い物キャッキャウフフした。
★
製作7日目
俺達は商工ギルドのマスタールームにいる。
俺、テラスにビビ、マリアにアーノさん。他の商工ギルドのマスター3人。あと、見慣れない男性陣5人だ。
「さて、皆集まったことだし、会議としようかね。」
アーノさんの言葉で始まる。
男性陣、若めの四人は市民区経済担当の貴族だ。今回の釣り針役になってもらう。
「中央区の現状はどうだい?」
訝しげに聞くアーノさん。
「ええ、全く変わりありません。」
現在の中央区の状況。
上級市民に格上げという強制連行。
中央区は独自の政治を行っていた。
上級市民は中央区に軟禁状態。工芸品、日用品、鍛冶等を貴族、いや、ヴェルケス太守、リューア伯爵に納め生活をしている。品物を税とし納税、代わりに補償金という生活費を渡す。
いわゆる強制労働者だ。
城壁は頑丈。立派な要塞都市となっている中央区。生活が優雅な貴族達。上級市民も生活は安定している。だが、それもリューア伯爵の情報操作や煽動により、市民を囲っていた。
リューア伯爵は、市民の生活を保証している政治をしているが、実際は強制労働をさせ、私腹を肥やしている。
そして、城壁の外の市民には補償がない。土地税だけ徴収し、政治を行わない。問題は全て市民が行い、都合が悪いと強制介入しうやむやにするという。
その例が交易だ。市民の交易には高いの関税がかけられている。貴族の交易にはそれがない。だから、市民には質の高い品物が入手しづらいのだ。
誤魔化しなら沢山ある。だが、市民の数が多い。とても誤魔化しきれない。
そして俺は疑問に思わなかった。前世界で、壁が国を二つに分断されたのを知っているからだ。マリアにもあるようだ。また、復興途中での生活補償だ。磨り減った精神に救いの手。中央区に入った人達は反対も少ないかもしれない。
ではなぜ、ここに貴族がいるのか?
リューア伯爵の反対勢力なのだ。これはアーノさん達長年の人脈といっていい。市民経済担当の貴族達は、いわば窓際の位置で、何もしていない他貴族達に見下されているのだ。仕事量は、どれも桁違いに多いが、認められる事はない。それが我慢ならないという。
最後の一人は、没落貴族だ。中年元貴族というべきか。アーノさんと縁があり、商工ギルドで仕事をしている。
「これが餌さ。しっかり宣伝しておくれ。」
5人の貴族にグラス入りの箱を渡す。四人の若い貴族達は中身を確認し、感嘆の息が出る。
「素晴らしい!これ程とは!」
「なんとも!」
「一体、どの様にして手に入れたのだ?」
「それは教えられないねえ。ギルドの秘密さ。」
にやけるアーノさん。結構悪い顔だ。
俺がいるから貴族にバレバレだけどな。
中年元貴族は確認させない。これは切り札だ。封印もしてある。アーノさんが書状もつける。
「あんたが胆だ。頼むよ。」
「ああ、死ぬ気でやらせてもらう。」
「死んじゃ駄目さ。生きる為に頑張りな。」
中年元貴族の肩を叩き、微笑むアーノさん。
「そうだな。間違えたよ。生きる為だ。任せてくれ!」
強い意思の目だ。彼なりの人生があったのだろう。
「作戦の行程を確認するよ!」
アーノさんの声に皆が反応する。
1、社交界等で、グラスを他貴族に自慢する。市民区、商工ギルドから入手した宣伝も忘れない。
2、貴族からの入手交渉は全てアーノさんが引き受ける。他のギルドマスターはアーノさんに任せる。入手交渉を仕掛けた貴族の情報共有は確実にする。
3、リューア伯爵との交渉に繋げる。必ず食いつく。四人の貴族が確信していた。
4、ヴェルケス市の交易自由化に繋げる。中年元貴族は切り札だ。
俺はリューア伯爵との交渉の時に、アーノさんと一緒に行く。グラス技工技師として。マリアはアーノさんの助手だ。テラスは北の商工ギルドでお留守番。ビビはその護衛。他の商工ギルドのマスターにも人を集め警戒してもらう。
「少し計画案の変更があったが、やることは変わらない。皆、ヴェルケスに生きる全ての市民の為に、必ず成功させるよ!いいね!」
皆が頷く。気合いが入る。
初動は一週間後の社交界となった。
さぁ、本当の復興をやりますか。




