3-18 アーノの決意
アーノさんは語る。淡々と。それは昔、戦争からの話だ。
80年前、大陸で戦争が起こった。この大陸ルーズゲート王国と南のドズワン帝国とだ。ドズワン帝国が侵略を仕掛け、西のギズ領やここケルト領にも進行をした。
ん、80年前?アーノさん、歳幾つだ?
「私は95歳だよ。」
まじが!見えん!
「お若いですね。」
「はっ!お世辞が上手いね!」
満更でもない表情のアーノさん。実際に見た目は50代だぞ。背筋も伸びているし、足腰だって、肌も・・・。いやはや、逞しい。
戦争でヴェルケスはボロボロになった。城壁の中に避難できたものの、取り残された外の住人は皆殺しにされただろう。そして城壁の中まで被害が及んだが、何故かドズワン帝国が撤退したのだ。理由はわからない。
復興はヴェルケス全体で行われた。住人の安否確認、瓦礫撤去、衣食住の安定、物資の流通、やることは山ほどある。
中央区の指示の下、復興は行われた。
市民は城壁の外で復興作業、貴族は他領からの支援を受けるための外交をしていた。
アーノさんも外で復興作業をしていた。
ここら辺は聞いたな。だが、改めて聞くと悲惨さが伝わる。
死体埋葬、瓦礫撤去、生存確認、これだけでも精神が磨り減る。尚且つ、自給自足、住居確保や建築も他領から助けられる事なく、生存者が行ったようだ。
貴族の外交も当てにならないな。いや、戦争で他領も余裕がなかったかもしれないが、それでも当事者よりはましではないのか?
復興も形になり、ロレウス領やギズ領といった隣領と流通が出来るようになったが、それでも傷跡は消えない。生活が豊かになる事はなかった。物資が中央区を経由するからだ。
アーノさんは考えた。豊かになる方法を、幸せになる手段を。
衣食住の充実に力をいれた。貴族に頼らない生活を目指した。開墾、放牧を指揮し、自給自足を確保、余りを商人の流通で資金にする。また、技術向上も行った。これはアーノさんの旦那さんが奮闘したようだ。鍛冶職の旦那さんが、沢山の武器や防具を作りケルト市やギズ領に売ったようだ。流通が盛んになると工芸品も質が向上し、人も集まってきた。ギルドを創設し管理する。税管理の為だ。不正搾取対策といってもいいようだ。
口で言うのは簡単だ。だが、並大抵の努力では実現出来なかっただろう。
ある時、中央区から提案を寄越した。上級市民として中央区への移住許可だ。アーノさんは勿論蹴った。
確かに、こんなもので貴族への不信感は拭うことは出来ないだろう。
そして事件が起こる。旦那さんが殺されたのだ。息子夫婦も行方不明という。
また、技術の高い職人は中央区に強制移住させられたようだ。
強制かよ!だから技術継承されてないのか。それに流通が中央区経由だったとはね。質が悪くなるのも頷ける。暴動や盗賊とか出そうだけど?
「貴族専用の経路があるんだよ。兵士を列ねて警備しているから、強盗なんか無理だよ。」
何か、バカ貴族しかいないんじゃないか?いや、早計は止めよう。たが、市のトップは馬鹿だ。これは間違いない。
本題
「私の真意はね、交易の自由化さ。」
含みある言い方。なるほどね。
「人も揃った。物資もある。餌をちらつかせて、交渉の場を作るのさ。」
うん、間違いないな。伊達に長生きはしていない。
「今、年寄り扱いしただろ?」
ばれてる!顔だな、隠し事も出来ないか。
「まぁいいさ、手伝ってくれるかい?」
「勿論です。最高の餌を準備しましょう。」
「ありがとう、恩にきるよ。」
「いえ、絶対に成功させましょう。」
堅い握手をする。年季の手だ。苦労の勲章。俺の好きな手だ。
アーノさんの意図はわかった。秘密の打ち合わせをする。俺も、餌以外の準備をしなければいけないな。
外に出る。今日もギルドは忙しそうだ。家の前にはテラス達がいた。
「お帰り。」
「ただいま。硝子持ってきたわよ。」
荷車をには樽で大量の硝子が積まれていた。
「ビビさんいて助かったわ。こんなに仕入れる事が出来ると思わなかったから。」
流石はテラスの加護。半端ない。
「テラス、ビビ、マリア、ありがとう。次は俺の番だな。」
「ソーイチ、なんか格好いいよ?」
「はい、力が溢れてませんか?」
惚けるテラスとビビ。
「ちょっとね、決意新たにしたからかな?」
「ま~た始まった。イチャイチャすんな!」
ジト目マリア。だが、心なしか優しい態度だ。
「工房行こうか。忙しくなるぞ。」
俺達は工房に向かった。




