3-14 北区商工ギルド その2
食事の準備が整ったので、アーノさんを呼びに行く。大量にあった書類を片付け、のんびりとくつろいでいた。
この人も大概有能だな。
食事の用意が出来た事を話し、一緒に家に向かう。手に何か持ってるが?
今日はハンバーグだった。ハンブルグと言うらしい。マリアさんの考案した料理だ。
手を合わせ、
「「「いただきます。」」」
「いただくよ。」
「はい、どうぞ。いただきます。」
ハンブルグはかなり美味しかった。ミンチではない、包丁で肉のみじん切りで作っている。モツも入っている。だが、臭みはない。しっかりと処理をしたのだろう。肉の塊を食べているような感覚だ。本当に旨い。ソースはトマトソースでさっぱりと食べられる。
テラスも喜んで食べている。ビビは瞬殺だった。悲しそうな雰囲気を感じたので、半分分けた。テラスもだ。量を考えたら、ビビには足りない。ビビは遠慮したが、肉の魅力には勝てなかった。今度はゆっくりと味わって食べている。
「仲良いわね。」
マリアさんの言葉をかける。
「家族ですからね。」
俺は笑顔で返す。ハンブルグが作れる材料が揃っているのなら、いつでも食べられる。今度は俺が作るさ。
「次の肉料理はビビさん用に沢山作るわね。」
笑顔のマリアさん。
ゴブレットに何か赤い液体を注ぐアーノさん。
「葡萄酒さ。旨いよ。」
酒!ワインか!
「いただきます!」
こく・・・、旨い!マジ旨い!苦味の中にある甘味、濃厚な葡萄の味と香り、そしてアルコール感。これは、しっかり味わって大切に飲もう。
「気に入ったようだね。しっかり食べて、しっかり飲んで、そして頑張る!これが生きるって事さ!」
年配の言葉は重い。色々な想いが込めてある言葉だろう。
楽しい食卓だ。ワインはテラスやビビも飲んだが、様子がおかしい。
酔った?
目の焦点が合わず、頭を不安定に揺らすテラス。
ビビも同様だ。少し休ませよう。
「おやおや、可愛いねぇ。」
アーノさんは微笑みながら、ワインを味わう。実に旨そうに飲む。
ワインを片手に、アーノさんの話を聞く。苦労話を面白く話すが、かなり苦労してきたのが伝わる。
子供の頃に戦争に巻き込まれ、街の復興に全力を注いだそうだ。衣食住を揃え、心をケアし、生活を安定させ、人に仕事を与え、様々な苦労を話してくれた。だが、
「私はね、まだまだこの街を良くするよ!笑顔を作るよ!」
素晴らしい。その考えが、その前向きさが。
暫くすると、アーノさんもテーブルに突っ伏して寝てしまった。
「あ~あ、お酒弱いのに、あんなに飲むから。」
そうだったのか。準備万端だよな?
「飲みたかったんだよ。多分。」
「そう?かもね。」
俺はアーノさんを担ぎ、客間で寝かせる。何か寝言を言っていたが聞き取れなかった。
リビングに戻ると、テラスとビビは復活していた。お茶と果物で落ち着かせたようだ。
「所でさ、外の掘っ立て小屋あったんだけど、あれ何?」
「酷い!」
もう少しオブラートに・・・
「ログハウスにしては酷い雑だし。」
「雨風凌げれば良いの。」
確かに見た目はアレだが、機能性はバッチリだぞ。
「ねぇソーイチ、お風呂入りたい。」
「そうだな、掃除で汚れたもんな。」
「は?お風呂?」
マリアさんは目を円くしている。
「今沸かすよ。」
裏から外に出て、小屋に行く。中に入るのだが、なんか落ち着く。テラスは服を脱ごうとしたが、それは止めた。マリアさんいるし。恐る恐る入ってくるマリアさんは怪訝な顔をしていた。
奥へ行き風呂場へ。薪に火をつけ、掌握を使い風呂を焚く。湯気が立ち上る。
「テラス、ビビ、良いよ。」
「うん!」
「はい、わかりました。」
スポ~ン!ザパーン!!
早いな。
「えっと?何?これ?」
「風呂。」
「そうじゃなくて!」
「入る?」
「あんたね!」
打てば響くだな。楽しい。
「ソーイチも入ろ。」
「今日は後で入るよ。」
「そうなの?」
「ゴメンね。」
テラスに謝り、風呂場をあとにする。
家に戻り、リビングに腰掛ける。残っているワインを少し飲み、微睡む。
マリアさんもいる。彼女にもワインを注ぐ。ワインを一気に煽る。
「えっとね、どういう事?」
「その前に、お互いの正体を明かさないか?マリアさんも異世界から来たんだろ?」
驚愕するマリアさん。いや、驚愕のフリだな。
「いやいや、気づいてたでしょ。」
すると、素っ気に戻り落ち着いて話してくる。
「まぁ、ね。」
「どこから?」
「初対面から。服装がね、そのままよ。」
あ!やっちまった。格好悪い。繋ぎの作業着やコートは此方の世界には無い。
「あと、ハンバーグね。これなら貴方にもわかるかと思って。」
「確かに、これが確信になったよ。」
「どういう風に話せば良いかしら?」
「俺から話すよ。」
俺は話す。白の世界から。楔は話してないが、白のテラスは話す。チートの獲得。代替一月前に転移。テラスと出逢い、ビビと出逢い、クコ村から始めた旅。チートは創作能力特化の力と伝えた。
「櫛も力の賜物?」
「いや、これは俺の実力。前の世界でも加工技師だったからな。手先は器用なんだよ。」
「そう、なの?」
まぁ、無限保管の能力は黙っていよう。
「ねぇ、変な事考えてない?」
「どういう事だ?」
何か心配事か?
「いえ、その力で勇者プレイとか権力獲得とか俺様強い!とか?」
彼女も少しはあちらの知識があるようだ。
「それは興味無いよ。自衛手段はしても、目立つ行為をする気は無い。それは約束するよ。」
「本当に?」
「そればかりは信用してもらうしかないな。」
沈黙。
「マリアさんだって、自己主張してただろ?危険と思わなかったのか?」
「身の危険と街の危険を天秤にかければ、街を選ぶわ。私はね、1度死んでるから。」
マリアさんは語る。自身の事を。
彼女も異世界から来た。戦争の渦中で。死ぬ直前まで。住んでいた街が侵略され、兵士に刺される直前までは前の世界にいたそうだ。気が付いたらこの世界にいたそうだ。年齢は若くなり、5、6才になっていたそうだ。路頭に迷った時にアーノさんに拾われたそうだ。努力を惜します、アーノさんを手伝ったとか。健気だ。
「つまり、俺の存在が混乱を招くかも?と思ったわけか?」
「違うわ!そうじゃなくて、確認をしたかったのよ。」
「ん?何が?」
「貴方が何者で、何が目的を持っているかよ。」
「警戒はしてないのか?」
「食事の行いで害が無いのはわかっているわ。」
ん?ビビの肉かな?
「待って、話を整理しましょう。私は、この街を守りたい。貴方は?」
「俺はマリアさんやアーノさんに協力して、必要な道具や金、知識を手に入れたら、旅に戻るよ。」
「住む気は無いの?」
「折角の異世界だし、観光しようかと。」
「危険よ?」
「それは何処でも一緒さ。知識と判断で切り抜ければ良い。」
沈黙
「うん、わかったわ。貴方を信用しましょう。」
随分チョロいな。
「今、チョロいと思った?」
「何故わかる?」
「顔でわかるわよ!」
俺は嘘をつけない顔だな。
「暫くは滞在してもらうし、協力もしてもらうし、信用しないとやってられないわ。」
肩を透かすマリアさん。
「ありがとう、マリアさん。」
「マリアで良いわ。私はソーイチさんにするけどね。」
「ソーイチでも良いぞ。」
「テラスちゃんに怒られるわ。ビビさんにもね。」
女性の中では、呼びつけに意味があるのか?わからん。
「ん、わかった。これからもよろしく、マリア。」
「しっかり働いてもらうからね、ソーイチさん。」
握手をする。固く。信用してくれたのだ。頑張ろう。
「あのさ、お願いがあるんだけど・・・。」
マリアが上目使いで頼み込む。
「なに?」
「私も、お風呂、入っても良い?」
久々に笑った。腹痛い。
「いいよ!毎日入りに来なよ。すぐに風呂の準備をするから。」
顔を明るくするマリア。
「ありがとう!すっごい嬉しい!」
飛び跳ねながら喜んでいる。やはりお風呂は最強だ。
「あ!覗かないでよ!」
「覗くぐらいなら、一緒に入る。」
「スケベ!」
「褒めるなって、照れる。」
「褒めてないし!」
「マジか?イケメンって言ったよな?」
「言ってないし!イケメンって、誰がよ!」
「心は何時もイケメンですが?」
俺とマリアは大きく笑いあう。久々に冗談を言い合える人に出会えた。凄く嬉しい。
「お風呂借りるわね。」
「どうぞ。ごゆっくり。」
「ありがとう。」
マリアが裏戸へと向かう。俺はそのままワインで晩酌を始めた。
楽しいな、異世界。
ワインを飲み、微睡みながら、異世界生活を思い返す事にした。




