1-2 白の少女
俺は、目の前の状況に困惑していた。
眼前に銀髪の少女がいた。真っ白な少女。目は閉じているが、整ったその顔は、間違いなく美少女だ。
白髪とも銀髪ともいえないその髪は、ストレートで腰まで長く、また肌も透けるような白い肌。
裸体を最低限度隠す程度の服装。淡く、儚げなその美少女は、その場にへたりこんでいた。
美少女の隣には、暗い棒状の物があり、それが不思議な状況を表していた。
簡潔にいえば、刺さっている。
刺さる物が無いのに、刺さっている。空間に刺さっている、と言えばいいだろうか。うっすらとだが、美少女の影にらしきものに刺さっているようにも見える。刺さっている先に手をかざしてみたが、何も手応えがなかった。
暗い棒状の物の淀んだオーラに不気味さを感じていたので、なるべく触らないようにした。
とにかく、美少女のほうだ。
この際、神でも悪魔でもどちらでも良い。状況に変化があるかもしれないのだ。
美少女に近づき声をかける。
声が出ない。
忘れてた。視覚はともかく、感覚はかなり薄くしか感じない。残りの味覚、聴覚、嗅覚はいまだに感じられない。
美少女だって、俺と同じ状況、もしくは酷い状況なら伝達など無理だろう。
俺は、美少女の肩を触る。
そのまま素通りしてしまった。
触れないか・・・。
何度も触ろうとする手が、美少女をすり抜ける。
次に、美少女の目の前で、手を左右に振ってみた。
反応は無い。
困惑した俺は、美少女に対し神経を集中し視てみた。
ん?
俺は、注視する。
ゆらぎのようなものが視える。
美少女を包むノイズのようなゆらぎは、見た目はSFによくある3Dのホログラフィックの感じのようだ。いや、存在は感じられるのだから、少し違うか。
存在してるが、干渉できない。といった状況なのだろう。
美少女の方は無理か。
俺は怪訝に隣の暗い棒状に目をやる。
禍々しい。を体現しているソレは、俺に畏怖感を沸き上がらせる。
ヤバイものには間違いない。
けど・・・
俺は、おそるおそる手を出し、棒に触れる。
バシッ!!
瞬間に痛烈な痛みを感じたので、即座に手を離す。
手への痛みはもちろんだが、それ以上の痛みが脳裏に浮かぶ。
それは、俺が今までに経験した精神的苦痛だった。
幼少時のいじめ、道場の修行、部活のスパルタ、仕事場のしごき等々、精神に影響するトラウマの記憶が、走馬灯の様に脳内を駆け回り、俺の心の根幹をへし折ろうとする。
チッ!
俺は舌打ちをしながら、怒りを表す。その怒りが対抗心、打倒心、反発心ともいえる感情を抱かせ耐え抜く。痛みという感覚があったからか、思考を刺激され、活発になっていた。
解った事
胸糞悪いが、暗い棒には干渉出来る。
痛覚を感じる事が出来た。
そしてその結果、美少女が俺の存在に気付いてくれたのだった。
★
反応した美少女は、顔をフルフルと左右に振っている。それは誰かを探しているような感じだ。
とにかく、
触れる事が出来ない、喋ることが出来ない、俺を視えてすらいない。ならば、干渉するには・・・。
俺は、歯を噛み締めながら、暗い棒を握り締める!
ガァァァァ!!!!!
痛烈な痛みと精神を蝕む過去の苦痛に耐え、心の中で叫ぶ!
ー おい!聞こえるか!返事しろ!! ー
俺は美少女を見る。
キョロキョロしながら、手を伸ばし辺りを探る仕草をしている。
俺はおもむろに、美少女に手を伸ばす。
手が触れた瞬間、美少女の思考が入ってくる。
ー 楔から離れなさい。消滅しますよ ー
ー うるさい!そのまま握っていろ!! ー
美少女の手を握りながら俺は、その楔に目を向け、腕を引く。暗い棒、楔が僅かに揺れるたび、身体中に激痛が走る。
ぐぅぅ!
だが、俺は手を離さない。それどころか、渾身の力を込めて楔を握り、引き抜こうとする。
こんな、こんな物に負けるかよ!!
ー ・・・・・・・・・・・・・!!! ー
美少女が何か叫んでいるが、俺には聞こえない。
・・・・・・・・・・・!!!!!!
俺は声なき絶叫をあげ、身体中に力を込める。激痛に耐える為。精神的苦痛を拭う為。ただ、この胸糞悪い楔を引き抜く為に。
ブチッ!!
何かが切れた感覚を感じた瞬間、視野は暗くなり、思考も止まる。痛覚も感じなくなった。体全体の力も抜ける。俺は失いつつある意識に抗う事なく、その流れに全てを任せた。
抜けた楔を手に持って・・・
タイトル詐欺になってすいません。