3-10 SS 寄り道
肉。
それはこの一言から始まった。
北部の村を出てから、ビビの元気がなかった。あまり私情を出さないビビだが、あきらかに元気がない。心配になったので話を聞いてみた。
「あの、肉が食べたいです。」
なるほど。
肉食系が野菜メインの食事にストレスを感じてしまったか?いや、人を基準にしてはいけないな。彼女は狼人だ。食生活も違うだろう。
「いえ、違います。野菜も食べますよ。ですが、野菜だけの食事が続いてしまって・・・。申し訳ありません。」
なんだ、びっくりした。だが、あのビビが我が儘を言うんだ。これはちゃんと受け止めた方が良いな。
「狩りとかしたいかい?」
「はい。最近は体を動かすのは、朝の鍛練だけですので。」
平和慣れしてないからか?彼女の人生は狩りが日常か。尚更ストレスを感じるだろう。
「じゃあ、狩りに行くか?」
「うん!」
テラスが同意する。ビビは体を固めていた。
「あの、今から、ですか?」
「そうだよ。3人で行こうか。」
「ですが、この辺りには山も森もありませんが?」
確かに、この辺りには無い。一面麦畑、もしくは平野だ。だったら移動すれば良い。
「大丈夫。連れていくから。」
「ですが?街はどうされるのですか?」
「あ、うん。この際寄り道も良いと思うよ。」
「あの、あの・・・。」
「あとは、ビビの精神の健康の為だよ。狩りが終わったら、街の近くに移動するから。」
「いや、あの・・・。」
ビビは俺の言葉に理解していないようだ。チートの事は知らなかったか?
「大丈夫。ソーイチに任せれば良いよ。」
テラスがビビの手を握る。シュンとなるビビが可愛かった。
「さて、行きますか。」
★
無限保管から弦を出す。ビビを背負う。外套を着せているが、胸と太ももの感触がたまらん。垂れてる外套の裾を持ち上げながら、弦でビビを固定する。これなら、ビビの素敵な肢体を他の野郎に晒す事は無い。違う!移動中に落ちる事は無い。テラスはお姫様抱っこだ。前後幸せサンドである。
「テラス、どの方向に行けば良い?」
「んとね、あっちかな?」
東の方角を指差すテラス。二段跳躍を連発させ、高所に移動する。空中のまま場所を固定して、集中を使い指差す方を視る。
「あの森かな?」
「うん、でももう少し奥かな?」
「了解!じゃあ、行くぞ!」
跳躍!瞬動!縮地!なんでも良い。空中移動をする。距離があるので速度を出す。
「この辺かな?」
「ソーイチ・・・・?」
「・・・・・・・・。」
二人が不穏だ。
「ごめんなさい。」
ゆっくりと目的地に着地する。
テラスに怒られました。ビビは腰を抜かしていた。
本当にごめんなさい。
さて、気を取り直して、狩りをしますか。
今回はビビの指揮で狩りをする。ビビは遠慮をしていたが、俺がビビの狩りに興味があったからだ。
「では、後ろをお願いします。」
了承して、着いていく。外套を脱ぎ、堂々と進むビビは、神経を尖らせている。匂い、音、感覚、視覚をフルに使っているのがわかる。流石は狩人。
ある開けた場所に来た。真ん中に池がある。幻想的な風景に圧倒され、溜め息を漏らす。
「ここで待ちましょう。」
ビビの指示が出る。俺とテラスはゆっくりと座り、この風景を楽しむ事にした。緊張感がないのは仕方ない。今回はビビ任せにしている。獲物が来たときだけ、注意をすれば良い。気配察知は使っているし、大丈夫だろう。
暫くすると、動物が水を飲みに来た。
金色の兎?いや、銀色もいる。何とも綺麗な兎だ。
「あれかい?」
「いえ、あれは駄目です。ですが、奥にいます。」
え?気配察知。ほんとだ。でかいのがいる。
油断大敵だな。反省。
「兎は保護しましょう。奥のは私が相手をします。」
「わかった。俺が金色、テラスは銀色でいこう。」
「うん。」
「では、行きます。」
ビビが勢い良く飛び出す。俺とテラスは回り込み兎に向かう。その瞬間、巨大獣が飛び出した。直線的に金色の兎に飛び込んできた。
ビビが巨大獣に向かい、突進に相対する。
槍を獣の角に横凪ぎで当て、方向を変える。その隙に、俺は金色の兎を捕まえ保護する。テラスはパタパタと走っていたが、難なく保護したようだ。流石はテラスだ。敵意を感じないのは動物も同じのようだ。
保護した兎と共に、その場を離れる。ビビは、巨大獣と睨み会う。
巨大獣は紅い牛のような獣だ。牛が肉食とは、流石異世界というべきか。
それは瞬間の出来事だ。
牛の突進に対し、ビビは流の円の動きで避わす。
日々の鍛練の成果だ。避わした直後に牛が重心を崩す。ビビは流れるように体捌きを剛に変え、震脚からの槍の一突き!頭を捉えた。
一瞬で勝負は決した。
巨大牛は倒れ込み、動く事はなかった。
★
「鍛練の賜物だな。」
「いえ、ソーイチ様の指導あっての事です。」
相変わらず謙虚だ。だが、その表情は笑みが漏れている。強敵を倒した喜びだろう。
兎を離し、森へ帰す。兎は俺とテラスに虹色に輝く石を置いていった。
「お礼かな?」
「だと思います。彼等は森の精霊ですから。」
精霊?
「はい、金銀つがいの動物は、その森の精霊といわれています。彼等がいるから森が滅ぶ事がないといいます。ただ、今回のように力のあるものが、精霊の力を得ようと襲う事もあるそうです。」
なるほど。森の破滅を救ったお礼か。なら、この礼は、
「ビビとテラスのお陰だな。」
俺の手にある虹色の石を渡す。
「いえ、私は違います。」
「いやいや、場所を教えたテラスと驚異を排除したビビの功績だろ。受け取りなよ。」
俺は無理矢理ビビに渡す。
だが、
「あの、私が持っていますと、落とすかもしれません。持っていていただけませんか?」
そうきたか。
「ん、わかった。だけどこれはビビのだから、ちゃんと受けとるんだよ。」
「はい、わかりました。」
「ソーイチ。」
「テラスのも持ってるよ。」
「うん、ありがとう!」
これは彼女達のアクセサリーの材料にしよう。それなら落とす事も無い。
無限保管に石と牛を入れる。
「さて、戻りますか。」
二人を抱え、上空に上がる。まだ日は高い。平野を見つけ、そこでビビと競争をする事にした。テラスは抱っこのままだ。ビビは笑顔で走っている。尻尾でわかる。
ベルケス手前の目立たない場所を見つけ、小屋を出し夕食の準備をする。今日は牛肉の石焼きステーキにした。塩を降り、味付けをする。ビビが我を忘れるくらい食べている。よっぽど食べたかったのだろう。俺は焼き専になってしまったが、テラスがあ~んをしてくれたので嬉しかった。
牛はメチャクチャ旨かった。塩があるから尚更だ。まだまだあるし、もう少しは持つだろう。
「ありがとうございました、ソーイチ様。」
風呂の後、就寝の時にお礼を言われた。調子が戻ったようで何よりだ。今後も定期的に狩りや運動をしよう。メンタルケアも体調管理だからね。
笑顔で寝ているビビの頭を軽く撫で、俺は左右の幸せの感触に挟まれなから、眠りに落ちた。




