3-8 北部村 その3
眼を覚ますと、寝床で寝ていた。左腕は暖かく、テラスに包まれている。柔らかい感触が、心地好い。ビビはいなかったが、食べ物の匂いもするし、準備をしているのだろう。
テラスが裸なのはいつもの事だが、俺も裸だ。そういえば風呂の後の記憶が無い。あの後、寝落ちしたようだ。ビビが運んでくれたのだろう。もう少し微睡みしたかったが、起きる事にしよう。
テラスの拘束を解き、体を起こす。
囲炉裏で、ビビが朝食を作ってくれていた。鉄鍋でシチューを作っているようだ。
「おはよう、ビビ。」
「おはようございます、ソーイチ様。」
辺りに、シチューの良い香りが漂う。
・・・・・・あれ?
「どうしたの?これ?」
鉄鍋を指差し、ビビに聞く。鉄鍋は常備していないし、朝食の材料もビビには渡していない。
「はい、村の方々のご厚意をいただきました。材料と作り方は、村の女性の方々から、鍋はゴッソ殿からいただきました。」
そうだったのか。お礼を言わなくては。
「お忙しくお疲れのようでしたので、お声をかけませんでしたが、勝手な事をして申し訳ありません。」
頭を下げるビビ。
「いや、ありがとう。後で村の人達にもお礼を言うよ。」
ミルクシチューか。本当に有難い。牛乳は樽でいただいたか。無限保管に入れておこう。
「こちらは、村長殿からいただきました。」
小さな袋を渡してくれた。何だろう?
「中身は?」
「はい、塩です。」
塩!!まじか!!一舐め・・・、塩だ。嬉しい!
タタラ炉を造る為に村に暫く滞在して、多少の常識と流通は知れた。塩は流通はあるが、貴重品でもある。この辺りは山側の土地で海が遠いらしく、塩の値段が高いそうだ。常識としても、この村の生活や道具は、充実とまではいかないが、最小限は揃っている。クコ村が最低限過ぎたのだ。改めて、クコ村の人達は逞しい。発展を期待したい。
「そうか。村長にもお礼を言わないとな。」
俺は塩を受け取り、無限保管に入れる。
「テラスを起こして、ご飯をいただこうか。」
俺はビビに伝え、テラスを起こしに向かった。
★
シチューは美味しかった。肉無しにも馴れたのか、ビビも美味しく食べている。今度、肉を焼こう。塩もあるし。まあ、岩塩もあるんだが、精製されていると、使い勝手がちがうからね。本当に有難い。
さて、今後の行動だけど、隣にある街、ベルケスに向かう事にする。テラスとビビもこれに同意する。距離も、徒歩2日と近い。村の人達にお礼をして出発しよう。小屋を無限保管に入れ、集落に向かう。
村長に挨拶して出発しようと思っていたのだが、出発は明日になりそうだ。
村長が村の人を集め、宴会を始めてしまったのだ。製鉄もそうだが、櫛や積木のお礼と言う。
俺としては、大した事では無いのだが。
「いんや、ソーイチ殿の技術は素晴らしい物です。村の人達も感謝をしつおります。」(なまりがひどいので、訳しました。)
そうなの?
酸っぱいエール酒を飲み干しながら、俺に礼を言う村長。酒は嫌いではないが、これはちょっと苦手だ。旨い酒を探すのも悪くないかもしれない。テラスとビビは、女性陣の麦芽飴を舐めていた。
「そうですか?屑鉄から不純物を取り除いただけですよ?」
融解して、不純物を取り除いただけだ。破壊したタタラ炉にあった木炭は、不純物を吸収する為に置いただけだし、石灰石とかあれば、質も上がるんだがな。
「いやいや、屑鉄の質が上がれば、それだけで仕事が捗ります。壊れにくくなれば尚更。今後はゴッソに頑張ってもらいますが、ソーイチ殿の貢献は村の今後にも関わる事でしょう。」(訳しました)
ま、まぁ、喜んでくれてなりよりだ。
「櫛やら積木も皆喜んでおります。女性達は宝物にすると言ってましたぞ。」(訳しました)
酔ってるね?村長。
「何故、そこまでしてくれたのですか?いや、無粋な事を聞きました。集落の代表として、感謝を致します。本当にありがとう。」(訳しました)
なんか盛り上がってしまったな。村長は泣いて感謝をしているし。ま、まあ、折角の宴会を開いてくれたのだし、俺も楽しませてもらおう。
日が暮れ、遅くまで宴会をする事になるとは、その時は考えもしなかったが・・・。
★
厩舎で寝た俺達は、朝早く集落を出発する。宴会の盛り上がりが盛大だったというのに、村の人達に見送られた。
こちらの世界の人は逞しいのかもしれない。
荷車に村の餞別と、多少の路銀を頂いた。ベルケスの入街税に使って欲しいと言われた。村人に入街税はないが、他の市や街の人には入街税を取るという。初めてのお金だ。有り難く使わせていただこう。
俺達は村を出発する。向かうは南のベルケスの街。宴会の時に聞いたが、この辺りに野盗は殆んど出ないという。野盗をやる位なら、農従をしていたほうが生活出来るとか。安全はほぼ保証されたし、楽しく向かおう。
俺達は足取り軽く歩き始めた。




