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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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3-6 北部村 その1

なにやら、圧迫感がある。暖かく柔らかく良い香り。夜明け少し前に目覚めた。地面に布を敷いただけの寝床。仰向けで寝ている俺の上に、テラスが寝ていた。仰向けで・・・。


器用な・・・


テラスの寝姿に少し呆れながらも、頭を撫でる。今回は服を着ていたので、安堵した。


ビビは右懐にいた。丸くなっている。


起きようと思ったが、体が動かせない。動けばテラスを起こしてしまう。なので、この状況を日が昇るまで堪能する事にした。






寝床が固かったからか、身体の所々が軋む痛みを出す。そこはストレッチで身体をほぐして緩和させる。

朝の体操、鍛練をビビと軽く流し、身体を目覚めさせる。今回は無限保管から風呂を出せないために入れない。だから、軽く流すだけにした。

朝食は無限保管から保存食を取り出し、それを噛み締める。腹を満たすには少しばかり足りないが、我慢しよう。

テラスは満足しているようだが、ビビはというと、やはりというか何て言うか、表情は隠しているが、尻尾で不足と訴えていた。

俺の保存食を分けようとしたが、頑なに拒否をされてしまった。次はしっかりとした朝食にしようと心に決めた。


さて、朝の準備も終わり、いざ、集落へ!


麦に囲われた街道を進む事にする。荷車も無限保管から出し移動する。距離的にも、昼位には到着するだろう。地面に寝たせいか、身体中の節々がまだ痛いが、目的地に期待を膨らませ集落へと向かった。



途中で人とすれ違う。男性、年配、麦わら帽子、質素な服装。集落の人だろう。仕事に向かう途中と思う。


「こんにちわ。」

「おぉ、こんづわ。」(こんにちわ)




笑顔で答えてくれた。印象は悪くないようだ。ご年配はそのまま仕事に向かったが、言葉も通じるし、これなら交流もなんとかなるだろう。


お日様が天辺間近になる頃、俺達は集落にたどり着いた。


集落は塀や柵等に覆われるから事なく、すんなりと入る事が出来た。

この集落はとても簡素な家の集まりだ。木と石の簡単な家。壁は土壁だろう。煙突から煙が立ち上っている。そのまま中に進み、集落の中央には、広場もあったので、そこで辺りを見回す。


質素だけど、生活には困らない感じだな。


俺はこの喉かな風景に安堵する。正直、クコ村の切迫が当たり前なのかもと思った時もあったが、実際は違うようだ。多少だが、人の目が気になるのは、俺達が余所者だからだろう。


さて、これからどうしよう・・・。


考えている時、一人の幼女が声をかけてきた。


「だ、れ?」

「旅の人だよ。」

「た、び?」

「そうだよ。」


俺は笑顔で答える。


そうだな・・・


無限保管にしまっていた、道中で造った竹トンボならぬ木とんぼを取り出し、それを飛ばす。くるくると回りながら空を飛ぶ木とんぼを、幼女はポテポテと追いかけていった。


落ちた木とんぼを拾い、戻ってくる。


「もっかい。」(もう一回)

「良いよ。」

また飛ばす。拾って戻る。飛ばす。テラスさんも追いかける。拾って戻る。繰り返す度に、幼児が増えていった。

「つぎはぼくがひろう!」

「あたしやる!」

「もっともっと!」

楽しいのだろう。俺は無限保管にある木とんぼを数個を渡し、遊ばせる。持っていない子の為に、木片を削り、木とんぼを急いで造る。道具はあるから、直ぐに完成する。全員に渡ると、楽しく遊んでいた。勿論、テラスにも渡してある。


「にぐじゃのぅ。」(賑やかじゃのぅ)


年配の男性が近づいて来た。その表情はにこやかだ。


「初めまして。」


なまりか?意味はわかるけど。


「童っ子がこんなはしゃごで、えぇのぅ。」

「楽しんでもらえて、良かったです。」


俺も満更じゃない。


「こげな場所さ何用さべ?」

「いえ、旅の途中でして、立ち寄らせていただきました。」

「旅の者かい?そりゃものいのぅ。」(珍しいの)


珍しいのか?


「この村の先には、何がありますか?」

「大きな街じゃて。バルケス言うのがあぞ。」

「そうですか、ありがとうございます。」

「いんやいんや、童っ子ば喜ばしってくれたすな。」


笑顔の年配。気が付くと、年配の女性がお茶をくれた。


「あんがとな。」

「こちらこそ、ありがとうございます。」


交流は良い。緊張の糸が切れたかのように、俺はこの和やかな雰囲気に埋もれた。






この村はバルケスの北の村であり、バルケス市に統治されている。村人は農奴ではなく、農従というらしい。税の麦や畜産を支払う代わりに、衣食住を保障しているとか。


やるな、バルケス市。


また、土地の開墾して税を10年納めれば、土地の所有者になるという。


墾田永年?みたいな物か?


年配方の会話から、様々な情報を聞き出す。常識的な事、治安、気候等。因みに、甘い調味料を聞いてみると、蜂蜜と樹蜜、麦芽糖があるとの事だが、あまり出回っていないようだ。


よしよし、黒糖は間違っていなかった。いや、見つけたテラスのおかげか。


また、ビビにはフードを被せている。獣人の価値観を確認するためだ。ここでも畏怖の存在なら、却って身分は隠したほうが良いと思ったからだ。


だが、この集落では、獣人は畏怖の存在ではないようだ。フードを外し、顔を出すビビ。


「たまげたなぁー、こないなべぴんさこさえたか~。」


そうだね、ビビは美人だよ。首を傾げるビビ。ことばが通じていないようだ。


さて、時間も昼頃だったか、昼食をご馳走された。村人が集まり、皆で食べる。固いパンと麦のミルク粥だった。野菜もしっかり入っていたのが嬉しかった。最近は肉しか食べていなかったからだ。テラスは満足しているようだが、ビビは肉が入っていないのが物足りなさそうだ。だが、しっかり食べている。


野菜も大事だよ。


大地の恵みに感謝をしながら、俺は美味しく頂いた。







昼食後に一人の若者が、木とんぼを不思議そうに見ている。


「これ、面白な。初めてみたん。」

「そうですか?」


竹トンボならぬ、木とんぼは気になっているようだ。


「あんたは、何しと人じゃ?」

「私は、鍛治師ですが、木工細工も作っているのですよ。」

「鍛冶屋!そらすごえ!」


すごいのか?


「なら、農具ば直す事もできるだか?」

「出来ますが、状態にもよりますよ?」


多少ならば直せるが、ヒビや折れは窯がなければ直せない。


「見てもらてえが?」

「はい、良いですよ。」


昼食をご馳走になったのだ。恩義を返すのは当然だろう。少しは力になりたい。


若者が持ってきた農具は、鎌だった。錆があり、刃も欠けている。だがそれ以前に、鉄の品質が悪い。これでは直ぐに壊れてしまう。


「村にも鍛冶屋ばいんが、鉄が悪ての。すぐ壊れん。」

「鉄が悪いのは?」

「んだど、市から屑を安うもらてるからな。」


成る程。屑鉄の再利用か。だが、製鉄を工夫すれば・・・。


「これは、設備が必要ですね。鍛冶屋さんとお話ししたいのですが、紹介してもらっても宜しいですか?」

「あぁ、いんぞ。こちだ。」


ついていく前にテラスとビビに事の顛末を話す。テラスは村の女性達と会話を楽しむみたいだ。ビビにテラスをお願いする。



俺は若者を追う。場所は鍛冶屋の家だった。金属を叩く音が聞こえる。


「ゴッゾ?いいが?」

「なんぞ~!?」


一人の男がいる。中年でガチムチ。金槌片手にこちらに来る。


「鍛治師さん連れて来たど。」

「そが~!」


手を止め、俺をまじまじと見る。視線が痛い。


「初めまして。私はソーイチといいます。」

「おらぁ、ゴッソだ。」


握手をする。かなりの握力だ。だが、それ以上に、手の荒れが酷い。だがそれは彼の努力を教える。


「難儀してるみたいですね?」


鎌を見ながら、ゴッソさんと会話する。


「んだ、屑鉄だがな。真鉄なら市が使うかの。」


頭をむしり掻きながら、怪訝な顔をする。


「仕事場を見せてもらっても宜しいですか?」

「いんぞ。」


俺は仕事場を見せてもらった。


ふむふむ、窯は、使えるな。だけど鋳造は・・・無理か。


「薬品とかありますか?」

「んなの、ねよ!」


・・・無いのね。仕方ないか。


「他にも屑鉄のとかありますか?使えなくなった農具とかですが?」

「あっぞ、裏だ!」


裏手には、大漁の壊れた農具があった。錆びも酷いが・・・、これだけあれば。



「何とかなるかもしれません。仕事場をお借りしても宜しいですか?」

「屑鉄ば、使うがか?」

「はい、これだけあれば、かなりの数を直せますよ。」

「ほんとが!?」


ゴッソが眼を見開き驚いている。


「はい。お手伝いをお願いしても宜しいですか?」

「あ、あぁ、勿論だ。」


俺の仕事をゴッソさんにも見てもらって、これからも頑張ってもらおう。いや、チート使えば一瞬だが、それでお仕舞いだ。これからの事も考えないと。


「さて、やりますか。」


久々の製鉄だ。腕が鳴る。




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