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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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3-2 アオバ流 護身拳法

夜も更ける。辺りは焚き火の灯り以外なく、真っ暗である。

初日は何事もなく、無事に終わりそうだ。空間を掌握するが、外敵になりそうな気配は感じられない。手元の道具を使いながら、こつこつと櫛を造っていた。


俺達には金銭が無い。雑貨や武器等を造って稼ぐ必要がある。俺としては、雑貨等の日用品で稼ぎたいと思っている。

武器に関しては、鉄等の金属材料が無いので造れない。弓矢は造れそうだが、正直気が乗らない。

弓が無くても獣は狩れるし、万が一の戦闘にも使わない。必要性が低いのだ。売買にしても、武器を売るのは気が引ける。俺の造った物が、人殺しの道具になるのは、何か嫌だ。今後、造るかもしれないが、人は選びたい。因みに、黒石ナイフは衝撃に弱く、割れやすいので、戦闘には向かない。無限保管に入れると、かなりの良作になりかねないので、特定の人にだけ売る予定だ。


さて、今は木で造れる雑貨を売って、金銭にしようと思う。櫛、食器関係等を多めに造る予定でいる。ノルマはないが、無限保管があるし、気にしないで造ろう。


右手を動かしていると、一人の女性が近づいてくる。ビビだ。

「お疲れさまです、ソーイチ様。夜番交わります。」

「ん、もうそんなになった?」

「いえ、少し早いですが、私は休ませていただきました。ソーイチ様もお休みください。」

彼女なりの気遣いだろう。

「なら、少し話をしようか。」

と言って、俺は隣に座らせる。

恐縮しながら座るビビ。火の灯りに照され、魅惑的に映る。元より美人だから当たり前なのだが。


会話は、ビビの野宿の話を聞いた。やはり彼女のサバイバル知識や経験は、俺以上にある。小さい頃から森で暮らしていたビビは、野宿のいろはを教えてくれる。今のやり方は快適なので、戸惑う所もあるらしい。


それはわかる。


こんなチート使った野宿なんか聞いた事がない。移動式の拠点があるのだから、快適だろう。だからといって、安全とはいえない。俺はこの世界の常識をまだ知らない。安全を優先し過ぎる位でも良いだろう。

「今は3人いるんだし、支え合えば良いんだよ。」

俺はビビの頭を軽く撫でる。耳がピクピクと動き、尻尾が左右に降っている。

ビビは頬を紅くし、俺を見つめる。見つめ合う。



良い雰囲気になってしまった。



「ソーイチ様。」


駄目だぞ。チョロイチは駄目だ。


「あの、ですね、・・・お願いをしても、よろしいでしょうか?」


うん、駄目だ。チョロイチは駄目だ。ビビはとても魅力的だが、今は駄目だ。


「何、を?」

「あのですね、・・・・ほしいのです。」


よく聞こえなかったが、ヤバイかも。うん、ヤバイよな?駄目だぞ、駄目だ。


「えっと?」

「はい、教えて、ほしいのです。」

「ん?」


あれ?違う?いや、ビビの顔は真っ赤だ。動悸が治まらん!ビビさん?胸が当たってますよ?


「ソーイチ様の、強さを教えてほしいのです。」

「?・・・あ!そっち!」


よかった。勘違いでよかった。ビビが近寄って来たとき、胸が強調されるように押し当てらたから、アッチの事かと思った。よかった。


「えっと、どういう事?」

「はい、立ち会いの時のソーイチ様の動きが、忘れれないのです。どうか、教えていただけませんか?」


前髪の奥から見える眼はうるうると涙を貯め、耳はペタンと閉じ、手は震えている。決死の覚悟なのかもしれない。俺からすれば大した事はないんだが。


「良いよ。俺ので良ければ喜んで教えるよ。」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」


抱きつくビビ。おおう、胸の感触がたまらない。こちらこそありがとうございます。


「それじゃあ、今からやろうか。」

「え?!あの、今から、ですか?お休みの時間が・・・」

「今日は軽く流すだけだから、大した事はないよ。」

「はい!ありがとうございます!」

立ち上がり、深々と頭を下げるビビ。そのまま頭を撫でる。耳がピクピクと動き、尻尾がブンブンと降っている。


かわいいなぁ・・・


「さて、やりますか。」

「はい!」


俺はビビに護身拳法を教える事にした。







アオバ流護身拳法。

護身拳法流派の一つ。身を護り、人を護る。のが教えだ。そしてアオバ流は爺さんが開いた流派だ。達人だった爺さんに、俺は子供の頃から叩き込まれた。今では師範代の実力はある。


武術の矛盾、他を傷つける行為で、身を護るなんて、と考える人もいるだろうが、人の業の対処の一つであり、手段なのだ。目には目を!ではない。目には、の前に対処し、護る手段である。基本、護りなので、俺つえー!に興味が無いのは、これが理由であり、わざわざ此方から傷つける事はない。


アオバ流は3つの動きがある。

体捌きの、流

投げの、 柔

打撃の、 剛

だ。

  

三位一体とあるが、アオバ流の教えは、三同壱義の言葉があり、3つの動きが同義となっている。まずは、基本の流を教える事にする。

流があって、初めて柔や剛が意味をなすので、流の体得は絶対なのだ。


ビビに、基本の型を教える。ゆっくりとした動きで、正確に、円の動きを体に染みこむように。


これが大事だ。この動きで、肉体、精神、体幹、気流、全てが鍛えられる。


柔と剛の手本を見せる。これは、流を体得すると技量の幅が増えるのを教える為だ。


ビビを直立に立たせ、彼女の左側頭に手を添える。すくむ瞬間、足を払い右手で円を画く。ビビはその場で側転をさせられた。一回転した彼女は、直立でプルプルと震えていた。耳が下がり、尻尾がヘタッと下がっている。


「ゴメン!怖かったか?」


俺は慌てたが、ビビは首を左右に降った。


柔。相手の重心を知り、崩して投げる技。



次に、地面を力強く踏む、震脚。1回目は足を上げたが。2回目は足を上げすに、同じ震脚をする。ビビに右手を出してもらい、拳を添える。

「打撃をするから。」

と伝える。ビビが頷き、身構える。


震脚の力を、膝、腿、股、腰、背、肩、腕、肘、拳と伝え、一気に力を打点に送り貫く!

手加減はしているが、衝撃はかなりのものだろう。ビビは右手の痛覚に驚愕している。


この技、打点の奥にも痛覚があるんだよね。


剛。己の力を正確に伝え、相手に打撃を浸透させる技。



それらを踏まえ、流の型をきっちりと教える。

ビビの体幹はかなりのものだが、直線的な動きが目立つ。


「何度も反復して、体に染み込ませるんだ。絶対に速くしては駄目だ。ゆっくりと丁寧に、体に馴染ませ、染み込ませるんだよ。稽古は毎日するから、慌てない事だ。」

「はい!ありがとうございます!」


良い返事だ。返事の後も、ビビは型をやり始めた。


まだまだ初日だ。板に付いたら応用を教えよう。ビビなら直ぐに覚えるだろう。


俺はビビにおやすみを言い、小屋へと入る。


風呂に入り、テラスの横で寝る。暖かい。

テラスは服を着ているのに、違和感を感じる自分がいた。だが、彼女の暖かさと香りと柔らかさは、何とも言えない平穏を呼び、睡眠の幸せに包み込まれた。



おやすみなさい



俺はテラスに言い、軽く抱きしめ、眠りに落ちた。




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