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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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8-6 メゴという人物


「いやはや、参ったぜ。」

「だから言ったでしょう。彼等は本物だと。」


ギルドマスターのクロコと試験官であるタイガが探索者ギルドの応接室で談笑をする。


俺達は闘技場の一件の後、応接室に呼び出された。対応した受付嬢の営業スマイルが気味が悪く感じたが、それを口にすることはない。


「さて、本題だな。貴様達、いや、君達をランク9の探索者にする。異論はないな?」

「待ってくれ。ランクは6の約束だっただろ?何故9に跳ね上がるんだ?」


俺の疑問は最もだろう。先の約束は、ランク6だった筈だ。だが、ギルドマスターのクロコは、ランク9にすると言ってきたのだから、疑問しかない。


「簡単な話だ。君はその位、いや、それ以上の実力があると判断をしたまでだ。俺の権限では、ランクは9までしか与えられない。なので、最大の9を与えるのだ。」

「ふむ。」

「それに、あの闘いだが、君は手加減をしただろう?君が本気を出していたならば、俺は死んでいただろう。俺としては本気を出して負ける気はなかったが、結果はあの有り様だ。君の懐の深さには感心するばかりだ。」


俺の強さを認め、口調まで変わるクロコは、豪快に笑いながら俺達を認めた。いや、俺を、か。


「獣人は強さこそが全てだ。強さとは、単純な力ではなく、肉体的、精神的の強さと、品行がものをいう。君はそれを兼ね備えたヒトという訳だ。」

「品行、ね。」


俺は自身が粗暴ではないが、品行とも思えないのは、今までの問題を力で解決をしているから、だからだろう。


「強さこそ正義だ。強ければ、誰しもが憧れ、慕い、付いてくる。これが人(獣人)の真理だ。」


なんとなくわかる。闘技場を出る時は、観客の声は歓声に変わっていた。不快な思いをする事もなく、逆恨みもなく、純粋に俺を認めてくれていた。


「ヒトの身がこれ程の実力があるのは、にわかに信じたくはなかったが、こうも見事に実力を示したのだ。認めざるを得ないだろう。」

「ソーイチ様なら当然です。」


何故か胸を張るビビ。誇らしいのか、終始笑顔だ。


「ランク9の身分証だ。受け取れ。」


それは金属の身分証だった。銀、いや、プラチナだろうか。


「これは君自信の身分証になる。他の方々は実力を計っていない為に発行は出来ない。だが、パーティーの登録をすれば、それ一枚で皆の身分を証明する事も出来る。折角だ、パーティーの登録もしたまえ。すぐに発行する。」


何かこの手のひら返しには裏がありそうで怖いが、虐げられる事がなくなるのならば、悪くはないだろう。


「そうだな。パーティーの登録をするか。」

「では、すぐに取り掛からせる。それでパーティー名は何だ?」

「・・・白銀の翼、だ。」


何故かすぐに出た名前だ。テラス、ビビ、マリアもそれに不服はないようだし、このパーティー名で登録を済ませる。


「折角だ。身分証が発行するまで、雑談でもしようじゃないか。なに、そんなに時間は取らせんよ。」

「なら、聞きたい事がある。」

「ん?なんだね?」


「メゴという者について知らないか?」


この一言に、クロコとタイガが顔を一瞬曇らせる。


「メゴ、か?」

「ああ。この街に来ていたのは知っている。それもヒトだ。何かしらに知っている事があるんじゃないのか?」


クロコは顔を渋らせた。唸る様な声を出し、顎を手に乗せる。


「ランク9の褒美に教えても構わないが、他言無用を約束してくれるか?」

「ああ、構わない。知っている事を話してくれ。」

「・・・、メゴは、奴は大罪人だ。」


クロコの言葉に俺は耳を疑った。





ブルガンは強さこそ正義の街であり、法律はあるものの、最低限のものだ。強さで身を守り、己を誇示する。横暴も許される場合もあったりする。だからこそ、皆が強さを求め、己の身を守るのだ。


「メゴが大罪人?何かの間違いでは?」


ビビが俺の代わりに口にする。彼女もその言葉は信じられない様だ。


「これは極秘なんだがな、メゴはこの街の代官に暴行を働いた。殺しはしなかったものの、代官の守衛もろとも壊滅まで追い込んだのだ。」

「それは何故だ?」

「実際は知らない。だが、獅子人である代官が弱きヒトにやられる事はあってはならない。統率崩壊に繋がるからな。」

「それで?」

「代官は箝口令を敷いた。メゴはそれから姿を消して行方知れずだ。」

「ふむ。」


俺は考える。メゴは間違いなく善人である。外れの村の行動やビビの指導、これらの事を考えれば、メゴは善行で代官に向かっていったのだろう。


代官が悪なのかどうかはわからないが、メゴにとっては代官は悪だったのだろう、と推察する。


「代官は悪政をしているか?」

「そうだな。私腹を肥やす事はしているが、悪い政治をしている訳ではない。街の住人を認めているからな。」


私腹を肥やす時点で悪政だとは思うが、この街の風習であり、代官のカリスマが街の統率に繋がるのであれば、もしかしたらそんなには悪くはないのかもしれない。何せ強さは正義なのだから。


「因みに、代官は俺の元パーティーのリーダーだ。強さは本物だ。」

「そうか。その代官はさぞヒトを憎んでいるだろうな。」

「それは間違いないな。」


ふむ、代官本人に聞くのが近道になりそうだが、それは無理そうだな。


「聞くが、俺をメゴと誤認する可能性はあるか?」

「それはないな。我等が聞いた話では、メゴの体格、年齢、それらの極秘情報と一致しないからな。それに今さらメゴの再来を吹聴して、街を荒らし、混乱にするのは、ライも望んではいないだろう。」


代官はライ?という名か?まあいいや。誤認しないのならば、此方も余計な荒事に巻き込まれる事はないだろう。


「質問は以上か?俺は知り得る事は話したぞ。次は俺だな。そうだな。この街に来た経緯でも話してもらおうか。」

「西大陸から来たから長いぞ。」

「構わん。探索譚でも話してもらうか。」


そして俺は、色々隠し事をしながら、これまでの経緯を話す事にした。





二時間程だろうか。ドアをノックする音が聞こえた。雑談をする俺達は言葉を止め、ドアを見る。


「失礼します。身分証の発行が完了しました。」

「うむ、ご苦労。」

「パーティー、白銀の翼、ランク9の身分証です。ご確認をお願いします。」


それは、四枚ある。テラス、ビビ、マリア個人の身分証にパーティーの身分証だった。


「失くすなよ。それは名誉の塊だからな。」


クロコは身分証を手渡す。間違いがないか確認をする。


「これで君達は晴れてランク9の探索者だ。今後の働きに期待する。ああ、それと人選は慎重にな。これから大変になるからな。」

「何となくだが、言いたいことはわかった。もしもの時は頼って良いか?」

「構わないとも。気軽に訪ねてこい。歓迎する。」

「助かるよ。では。」


俺達が応接室から出て、ギルドの広間に行くと、人だかりが出来ていた。皆が俺達を待っていたのだろう。


「俺を仲間にしてくれ!役に立つぜ!」

「あら、私の方が役になるわよ。昼も夜も。」

「うるせえ売女!」

「ひょうろくは黙ってな!」

「お前らにはプライドはないのか?」

「強さ以下のプライドなんかドブに棄てて構わないさ!さあ、私を仲間にしなさい!」



様々な獣人が売り込みを始める。その必死さは、苛烈とも言えた。


「どいてくれ。」

「仲間にしてくれ!頼むよ!」

「私!私よ!」


此方の意図を無視して売り込みをする探索者達。ランク9の力はここまで魅力的なのだろう。


だが、度が過ぎる。


俺は回りを睨み、殺気を込める。すると、あれだけ騒がしかった探索者達が一斉に黙った。


「退いてくれ。」


人だかりに道が出来る。こちら、主に俺と目が合わない様に皆が明後日を向く。


俺達はギルドを出ると、ギルドの広間は騒然とした。


「あ、あれはヒトなのか?殺されるかと思った。」

「強さの次元の桁が違う。」

「・・・チビった。」


命欲しさに俺達に近寄る探索者はいなくなった。





居住地区の小屋の中。風呂に入りながら作戦会議を始めようとする。

とはいえ、魅惑の桃源郷を目の前にして、真剣な会議が出来る筈もなく、色香に負ける俺がいた。


「もう!お風呂では出来ないって私は言ったわよね!」

「悪い。魅力に負けた。」

「もぉ!」


マリアは肌艶々させながら俺に抗議するが、説得力がない。テラス、ビビも御満悦だ。笑顔が絶えない。


リビングに移動し、おやつをはさみながら今後の行動を決める作戦会議をする。


「とりあえず、第一段階はクリアね。次はどうしましょうか?」

「代官のライに話を聞ければ早いが、無理かな?」

「無理だと思います。獅子の獣人は人一倍自尊心が高いですから。ヒト、メゴに負けたとあっては、その自尊心は傷付いて癒えることはないかと思います。」


ビビがいうと説得力がある。それにしても獅子か。見てみたいものだ。


「しばらくはブルガンを拠点にする?少なくともメゴさんが向かった方角だけでも知らないと始まらないわ。」


マリアの意見も最もだ。十年位前の事だが、それでも街に何らかの形を残しているメゴ。誰かは方角を知っていてもおかしくはない。


「それじゃ、行き先がわかるまではブルガンで活動だな。」

「さんせー。」


テラスの声に皆が頷く。テラスの不思議な導きでもメゴの行方がわからないのだ。時間はかかるが、情報を集めよう。


「さて、今日は寝るか。」


一日の疲れを残しては、明日に響く。しっかり睡眠をとるのも大事だ。


「お休みなさい。」


そうして、俺達四人はくっついて寝るのだった。







翌朝。朝の日課をこなし、探索者ギルドに向かう。


ギルドに入れば、皆が此方に振り向く。その視線は前の痛々しい視線ではなく、尊敬の現れのような暖かい視線だった。


昨日の件があり売り込みはなくなったが、それでも俺達と縁を結びたいと思っているようなので、注意は忘れない。


「ようこそ白銀の翼様。今日はどの様な御用件ですか?」


受付嬢がスマイル満開で俺達を向かえる。先日の疑念の目が嘘のようだ。この変わりように、少しやりにくさを感じざるを得ない。


「ちょっとギルドマスターに会いたくてな。予約はしていないが大丈夫か?」

「はい、少々お待ち下さい。今、お客様にお会いしておりますので、その後にお繋ぎ致します。」

「わかった。待たせてもらう。」


朝早くから客とは、ギルドマスターも忙しいのだな。


俺達は暇をもて余していたので、掲示板の仕事を見る事にする。


熊、狼、蛇、猪、虎、様々な魔獣の討伐依頼がある。かなりの量だ。ランクも5から8と高い。だがそれにしては依頼料が安い気がする。討伐依頼は探索者の命を賭けた仕事でもある。安い仕事では、依頼する人も少ないだろう。


この依頼の量に俺は何かが引っ掛かった。予測の範囲の話だが、これはおかしいと察知する。


「あの~、どうかしましたか?」


知らない冒険者に声をかけられた。猫の獣人だ。


「いや、何でもない。」

「あの~、サインを頂けませんか?宝物にしますので。」

「申し訳ありませんが、その様な事はしないと決めております。お下がり下さい。」


猫の獣人との会話にビビが割り込む。一瞬猫の獣人は目を睨ませたが、ビビの威圧に負けたようだ。


「好奇心は身を滅ぼしますよ。」

「わ、わかりました。」


すごすごと下がる猫の獣人。仲間の所に戻っていった。


「やはり、警戒は必要ですね。」

「そうね。何かしら疑う事になるのは癪だけど、有名税と思うしかないわね。」


サイン一枚で何かがあるかもしれないからだ。売りに出して高値で売る事も予想出来る。形はなるべく残さない方が良い。ビビならばそのあしらいも適任だ。同じ獣人なのだから、話が通りやすい。


俺達が掲示板を見ていると、奥から物凄い剣幕声が聞こえてきた。一人はギルドマスターのクロコなのはわかる。もう一人はわからないが、その声の大きさはクロコ以上だった。


「出ていけ!」

「断る!」


何の話だろうか。聞き耳を立てたいが無粋な真似はやめておこう。


「あのソーイチ様。今日は日を改めた方が良いかもしれません。」

「ん?何故だ?」

「今、ギルドマスターとお会いしているのは、代官のライ様なのです。先程から、ソーイチ様に会わせろと仰ってまして、何かのトラブルに巻き込まれる可能性がありますから。」


代官のライがいるのか。それは良い事を聞いた。こちらから出向く必要がなくなったな。


「なら話は早い。失礼するよ。」

「えっ?」


俺は奥に向かい、応接室にノック無しで入る。


応接室では、掴み合いしている獣人二人。クロコとライだろう。


ライは見事なたてがみを持つ獅子の獣人だった。その眼は野獣の眼であり、狂暴さが伺える。


「ソーイチ!」


クロコが俺の名を呼ぶ。すると、代官のライがこちらに目を向けた。


「ほう?貴様が件のヒトか。こんなヒトごときに負けるとは、耄碌したなクロコよ。」

「うるせえ!こいつの強さは見た目で判断出来るものじゃない!」

「ふん!貴様の怠惰が原因だろうが!」


なにやら揉めている。面倒だが仲裁に入る事にしよう。


「火に油。」

「何か言ったかマリア?」

「貴方が入っても、どうせ良い結果にはならないわ。」


マリアの言葉に引っ掛かりを感じたが、取り敢えず仲裁に入る。


「まあまあ、先ずは冷静になろう。話はそれからだ。」


間に入ろうとすると、ライは身を素早く翻し、俺と距離を取った。


「私に触れるな!」


この距離感。拒絶というよりは、警戒だろう。ヒトに触れたくないのは、見下す以外にもありそうだ。


「で、この喧嘩は俺が絡んでいるのか?」

「ふ!ヒトごときに負けた負け鮫を笑いに来ただけだ。」

「俺を解任しに来たんだよ。ヒトに負けるような奴は街にはいらない、とな。」


ライはクロコを解任する為に来たようだ。ギルドマスターの解任を一時の感情で決めるのは、些か短絡的ではないだろうか。


「ん?その理屈ならば、ここにいる代官も解任に、となるよな?」

「あ?馬鹿!」


俺の反射的な言葉を聞いて、ライが怒り狂う。眼は血走らせ、鼻息は荒い。


「き、貴様!それはどういう意味だ!」


これはもう遅いな。仲裁は止めるしかないようだ。


「代官はメゴというヒトに負けたんだよな。なら代官も街から去るのが道理だよな。」

「クロコ!!」

「ふん!貴様の箝口令なんぞ、もう時効だ!」


喧騒は更に高まっていく。


「で、どうなんだ?去るのか?去らないのか?どちらにしろ強さで事実を捩じ伏せる奴に道徳者はいない。」

「私を馬鹿にするか!」


煽るだけ煽る。勿論目的あってだ。


「ここでは強さが正義なんだろう?ならうってつけの場所があるじゃないか。見せてくれよ。その絶対正義とやらを。」

「ヒトごときに指図される謂れはない!」

「んじゃどうするんだ?尻尾を巻いて逃げるのか?ま、それも良いか。言葉の撤回に、謝罪を入れ、ここから逃げな。」

「き、貴様!」

「決断は早くしろよ。日が暮れるぜ。」


十分に煽ると、ライは俺に殺気を向けた。


「良いだろう!貴様のその喧嘩、買ってやる。そして、殺してやる!!」

「あーはいはい。それじゃ、先に闘技場で待っている。」


応接室から出ると、マリアがこちらを見ている。



「ほら、みなさい。」


マリアは大きな溜め息を吐く。


俺はジト目するマリアに言い訳をしながら、闘技場に向かった。




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