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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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8-5 メゴが残したもの


小屋で一泊し、朝の鍛練と食事をとる。マリアの表情は晴れやかだ。もう大丈夫だろう。


「さて、山を降りるがてらに薬草を取るか。俺達の仕事は薬草取りだからな。」

「そうだったわね。すっかり忘れていたわ。」


俺には薬草の知識はないが、ここはマリアの鑑定が光る場面であろう。森の中にある薬草を五十束集めるのだ。


「あと、村でメゴの話しも聞こう。行き先の手がかりが掴めるかも知れないからな。」

「そうですね。」


ビビもメゴの事は気になるようで、早く話が聞きたいと急いてるようにも見受けられる。


「先ずは薬草からだな。テラス、何処にあるか探してもらっても良いか?」

「うん、良いよー。」

「よし、それじゃあ出発だ。」


居住地区から出て、テラスの案内をお願いする。目的の薬草は所々に生えており、一時間程で目標の五十束になった。これは無限保管には入れない。グレードアップされては困るからだ。薬草はビビのナップサックに入れてもらい、森を出る。


森から出ると、村の住人が俺達を見つけては騒ぎだす。どうやら森から戻らないから、心配していたようだ。


「良かった。怪我はありませんか?」

「ええ、心配なく。」

「それで、赤頭熊は?」

「討伐しました。もう心配はありません。」


その言葉に、村長が顔を綻ばせる。回りも喜び何よりだ。証拠を見せようとしたが、村長は俺の言葉を信用すると言って、それを拒んだ。


「では、メゴについて教えてもらっても良いか?」

「はい、わかりました。」


村長は語り始めた。






十年程前になるだろうか。メゴは何処からか現れたのかはわからない。


畑を荒らし暴れまわる赤頭熊をいつの間にかに倒したのが、第一発見だった。


ヒトの身であるに関わらず、我々に優しいそのヒトは、村の困りごとを難なく片付けたのである。


赤頭熊を倒した後は、畑の肥料の改善に、保存食の作り方、新たな農作物の種すら渡してくれた。


我々はヒトに恩返しをしたいというと、ブルガンに入る為の金銭を頂けないか、と言ってきた。


我々は金を集めた。ブルガンに入るだけの金を。ここは貧しい村だ。皆で協力をしなければ、ブルガンに入る事も出来ないのである。


集まった金を渡し、ヒトは去った。メゴという名を残して。



「以上です。彼が与えてくれた物は、我々の生きる糧になっております。」

「ブルガンに向かった、というのは間違いないのですね?」

「はい。それは間違いありません。途中まで送りましたから。」


メゴはやはりブルガンにいた。ギルドに聞いても誰しもが知らないと言うのには不自然さがあるが、村長の証言を信じても良いだろう。


「情報の報酬だ。これを受け取ってくれ。」


そう言って俺は無限保管から赤頭熊を出す。


「このような大物!よろしいのですか?」

「構わない。皆で使ってくれ。」


熊に棄てるもの無し、と言われる位に重宝される物だ。食糧に装飾、防寒とあらゆる用途がある。


「ありがとうございます。このご恩は忘れません。」

「では、我々はこれで。」


と言って、村から離れる。村の入口には、村人が俺達を見送ってくれた。


「さて、ブルガンに戻るか。」


俺達はブルガンに戻った。





「はい、薬草五十束、受理致しました。」


淡々と事務作業をする探索者ギルドの受付嬢。ランク1の仕事なのだ。誰しも簡単に出来る仕事だ。


「では、終了ですね。お疲れ様でした。」

「追加だが、見てもらっても良いか?」

「・・・はい。なんでしょう?」


あからさまに嫌な顔をする受付嬢。そんなにヒトとは話したくないのだろうか。


俺は無限保管から一頭の赤頭熊を出す。5メートルはある大物をだ。


「え?は?」

「薬草取りのついでに襲ってきたから狩った。これを買い取ってくれ。」

「えっ?あの、えーと?」

「買い取りは受け付けているんだよな?」

「あ、はい!」


ギルド員が何人も集まり、赤頭熊を裏に運ぶ。なるべく状態の良い赤頭熊を選んだのだ。高値で売れる事を期待しよう。


「あの、質問してもよろしいですか?」

「ん?構わないが。」


おそるおそる俺に質問をする受付嬢。その目は疑念に満ちている。手には何やら水晶玉を持っていた。


「あの赤頭熊は貴方達が狩猟した。間違いありませんね?」

「ああ。間違いない。」

「え!ま、まさか、本当に?!」


受付嬢は水晶玉を叩く。俺の答えが嘘であるかのような反応だ。


「も、もう一度お聞きします。赤頭熊を狩猟したのは貴殿方ですか?」

「そうだと言っている。」

「嘘!本当に?!」


また水晶玉を叩く受付嬢。回りも俺達のやり取りを見てざわついている。


「お、おい。水晶が反応しねぇぞ。マジなのか?」

「だが、ヒトごときが赤頭熊を倒せるわけないじゃないか。」

「ごまかし?いや、それなら水晶玉が反応する筈。」


回りの声に聞き耳を立てる。なるほど、あの水晶玉は嘘発見器か。信用されてなかったのだな。ヒトだからか、ランク1だからか、それとも両方か。


「う、嘘ではないようですね。では正式に買い取りをさせて頂きます。」


受付嬢は驚きを隠さずに机に向かう。何度も此方を見ては、疑惑の目を向ける。水晶玉が反応しなかったから、俺の言葉を無理やり受理したのだろう。


「さて、この赤頭熊は外れの村の依頼だったみたいだけど、これは受理されるのか?」

「それに関してはお答え出来ません。また、事前受理をされてない場合は、無効になります。」

「まあそうだよな。」

「ですが、村に事情を聞いて判断をさせて頂きます。後、協議の結果に基づいた報酬をお支払い致します。」

「それで構わない。それで、赤頭熊の買い取り額は幾らになったんだ?」

「少々お待ち下さい。いま鑑定中です。結果が出ましたら、お呼び致します。」

「わかった。」


依然と回りがざわついている。俺達が椅子に座り結果待ちをしている間も、俺達を見てはヒソヒソと話をしている。


「水晶玉が壊れていた?」

「いや、それはないわ。前に嘘の報告に反応していたもの。」

「じゃ、やっぱりあのヒトが?」

「信じたくはないわね。何か不正でもあるとしか思えないもの。」

「でも受理、するんでしょ?」

「仕方なくよ。隣の村に聞いて確認すればすぐにわかるわ。」


ん~、これはかなりの信用の無さに腹が立つな。我慢は出来るが、なかなかに前途多難を醸し出しそうだ。


「ソーイチ様。」

「どうした、ビビ。」

「私が説明をしましょうか?」

「いや、それではマリアの計画が潰れる可能性がある。間違いなくヒトが狩りをした事実にしないといけない。今は我慢をしてくれ。」

「わかりました。」


ここでビビが出れば、全てはビビの成果だけになる可能性がある。彼等にもプライドを保つために、ビビの功績に仕立て上げるかもしれないからだ。それでは駄目だ。この成果は間違いなくヒトがやった事にしないといけないのだ。






探索者ギルド、裏方。


「状態は上々。鮮度も抜群。これは高額になるな。」

「でも、ヒトのした事よ。信じられないわ。」

「事実に目を背けるな。我々は結果が全てだ。例えヒトであれ、正当な報酬、買い取りをするべきだよ。」

「ですが。やっぱり信用出来ません。」

「それでまたメゴの一件を起こすつもりか?」

「そ、それは・・・。」

「金貨四、いや五枚だな。支払うのだ。」

「・・・、はい、わかりました。」






「買い取り価格は金貨五枚になります。また状態の良い魔獣を狩猟しましたら買い取りを致しますのでお持ちください。では、此方にサインを。」

「確かに、金貨五枚受け取った。」


俺はサインを書き、ギルドを後にする。


「今日はゆっくりとするか。路地に向かうぞ。」

「はーい。」


路地に入り、居住地区に入る。途中誰かに尾行されていたようだが、気にしない事にする。今日はゆっくりと休む休息日だ。


ビビの型に付き合い、マリアの料理に舌鼓をし、テラスに寄り添い安寧をもらい、そして愛し合う。


肉体的、精神的に休息をとる。そして、明日の糧にするのだ。




そして赤頭熊を倒した俺達の噂は、瞬く間に広がった。







次の日から、俺達は精力的に働いた。ランク1の仕事をしながら、ついでに高ランクの狩猟をする。これを三回行った時、受付嬢から注意が飛び込んだ。


「ランクを無視した狩猟は感化出来ません。ランク1なのですから、薬草でも採取していて下さい!」

「向こうから襲ってくるんだから、身を守る当然の行動だが?」

「貴殿方のやっている事は、統率違反になります!」

「つまり、逃げろと?そして死ねと?」

「そこまで言ってはいません!」

「向こうから襲ってきた自衛だ。文句はないだろ?」

「貴殿方がやっている事で、若い探索者に被害が出る可能性もあるのですよ!」

「それは自己責任だ。自分にあった仕事をするのが探索者じゃないのか?」

「ぐぬぬ!」


受付嬢と一悶着。それを無視してまた高ランクの獲物を狩る。


五回目ともなると、受付嬢ではなく、別の者が対応する事になる。


「ギルドマスターのクロコだ。」


鰐の獣人であるギルドマスターが俺達に声をかける事になった。


「貴様達を特例でランクを6に上げる。だがそれには条件がある。」

「それは?」

「俺と腕試しだ。」


ニヤリと笑うクロコ。その笑みは余程腕に自信があるのだろう。


「何故、その様な事をするんですか?」

「お前達の実力を見極める為だ。ヒト風情という風潮があるこの街で、しっかりと皆に実力を見せる必要がある。」


どうやら餌に食い付いたようだ。これで実力を見せれば、回りも納得するだろう。


「良いですよ。やりましょう。」

「そうでなくちゃいけねぇ。俺に勝ったらランク6、負けたら今後は高ランクの仕事には手を出さない。いいな!」


言質の後の追加の条件。ずる賢いと言うか。


「急に条件を付け加えるのは犯則ですが、全然良いですよ。」

「ほう、因みに俺は元ランク10だ。それでもやるよな?」


元ランク10ね。だからあれだけ自分に自信があるのだろう。


「それは威嚇、ですか?」

「忠告だよ。勝負は明日、場所はここの隣の闘技場だ。昼に来い。万全の態勢でな。」

「わかりました。では、明日。」


という訳で、元ランク10のギルドマスターと対戦する事になった。ここまでは計画通りだ。後はその元ランク10のギルドマスターに勝つだけだ。


その日は休息日にして、鋭気を養う。万全の体調でギルドマスターに臨むつもりだ。


そして翌日。探索者ギルド、地下闘技場。


「凄い人だな。」


満員の闘技場は、熱気と歓声に包まれている。闘技場の入り口で受付嬢に会い、控室に案内された。にこやかな顔をしているのが気になるが、まあ今は関係ないな。


「ふふ、逃げるなら今のうちですよ?」


受付嬢の言葉に、俺は笑顔の理由がわかった。


「何故?」

「ヒトがマスターに勝てる訳ありませんから。ここは両者の力量を計る場所です。最悪、事故で死にますよ。良いのですか?」

「つまり、ギルドマスターは俺を殺しに来る、そう言いたいのか?」

「いえ、あくまでも事故、ですから。」

「ご忠告痛み入るよ。だけど、やらせてもらうさ。」


俺の言葉に、受付嬢は怒りを表す。ようやく俺達の化けの皮が剥がれるかと思ったのだろう。それに反した答えは彼女を不快にするには十分だった。


「さて、行きますか。」


俺は闘技場に向かう。一応、籠手は装備している。刀は無限保管にいれてある。本気を出すのだ。無手でいかせてもらう。


俺の登場にブーイングが鳴り止まない。ここまでアウェーとはね。


「待たせたな。怪我をする前に逃げる選択肢もあっただろうに。」


ギルドマスターのクロコが挑発をする。


「勝てる見込みがあるから、ここにいるんだがな。」

「そうかい。で、何故お前一人だけなんだ?他の女はどうした?特に狼は?」

「ああ、彼女達は観戦だ。くだらないことで怪我をさせたくないんでね。」

「つまり、一人でやるのか?」

「そうだけど?何か不都合か?」


場内が静かになる。先程のブーイングがなくなり、異様なまでに静かになった。


「くっくっくっ!貴様!余程腕に自信があるようだな。それとも馬鹿なのか?この俺に一対一だと!なめるなよ!」

「もう御託はいい。かかってこい!」


あいつ、死んだわ。


と、誰しもが思っている。闘技場の全員が思ったことだ。


「死ねー!!」


クロコは両手に持つ戦斧(バトルアクス)を振りかぶった。






クロコの猛攻は、流石元ランク10を思わせるものだった。俺は防戦に回り、隙を伺う。


隙がない訳ではない。クロコはチラチラと右脇腹に隙を見せる。これは間違いなく誘いだ。俺はその隙を突く真似はしない。


今回、俺はまだチートを使っていない。あれを使えば簡単に目の前の猛威を潰す事が出来るが、クロコを簡単に倒してしまったら、まともな評価を得られない。まったく、面倒だ。


だが、この闘いが楽しいと思う自分もいる。流の足運びにより、クロコの戦斧は空を切るばかりだ。彼もまた微笑を浮かべ戦斧を振るう。余裕があるのだろう。


「逃げてばかりか?臆病者めが!」


クロコは俺を挑発するが、その手には乗らない。だが、逃げてばかりもいられない。


「隙がないんでね。」

「ならば貴様はその程度だ!」


あからさまに脇腹は隙だらけだが、そこはあえて攻撃をしない。



そろそろいいかな。



俺は攻勢に出る準備をする。


相手に対し集中する。戦斧を凪るクロコの攻撃を紙一重にかわし、隙だらけの右脇腹の反対側、一番防御の厚い場所をあえて蹴りを繰り出す。


もちろん、そこは防御される。だが、それは俺の誘いである。


青葉流護身拳法には、様々な技があるが、その一つ。防御を無理矢理にこじ開け、打撃を入れる技だ。


その名も『鎧通し』。あえて相手が意識をしている場所を選び、そこを無理矢理に押し通す技だ。


ガードする腕をすり抜け、俺の蹴りが脇腹に当たる。軸足を捻り、腰を入れ、繰り出された蹴りに力を入れる。


そのまま俺は蹴りを捩じ込み、クロコを吹き飛ばす。


悶絶のクロコは一直線に闘技場の壁にぶつかりめり込む。


この一撃で場内は静かになった。皆が信じられないものを見たかのように口を開け呆然とする。


壁にめり込んだクロコが地面に倒れる。その様子を見ると、まだ意識はあるようだ。


「があああ!」


雄叫びを上げ、立ち上がるクロコ。構える俺は体勢を整え、出方を待つ。だがそれは必要がなかった。


クロコは立ち上がったまま、気絶していたからだ。



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