8-4 赤頭熊の討伐
森に入る。気配察知を行い、赤頭熊を探す。ビビも臭いを嗅ぎ探す。
森に入り一時間程、気配察知に引っ掛かった者を見つける。大きさを考えると間違いなく赤頭熊であろう。
目視出来る所まで近寄る。のそのそと歩く赤頭熊を発見した。
「次は私がやります。」
「任せた。」
ビビが息を潜め、赤頭熊に近寄る。俺達は黙ってそれを見届ける。
赤頭熊が立ち上がった。何やら回りを伺っている。
元々熊は警戒心の強い生き物だ。本来は人里に降りる真似はしない。
赤頭熊が咆哮を挙げた。それは空気を震わせ、木々を揺らす。
それでもビビは怯まない。間合いに入るまで、ゆっくりと慎重に赤頭熊に近寄る。
位置取りが決まったのか、ビビは赤頭熊の背後に回った。いまだに回りを伺う赤頭熊。異変には気づいているものの、ビビの位置を把握してはいないようだ。
ビビが一瞬のタメを作った。そして、閃きの如くの一閃。爆発的な脚力による直線的な突進を行う。
ビビの殺気に気がついたのか、赤頭熊は振り返る。だがもう遅い。
赤頭熊は脳天にビビの槍の一撃を貫通させていた。一瞬の事だっただろう。赤頭熊は痛みなく絶命した。
槍を引き抜くビビ。残心を忘れず回りを警戒する。
ビビが手招きをする。俺達は回りに注意を払いながらビビの元に近寄る。
「やったな、ビビ。」
「はい。やりました。」
見事なまでに一撃必殺。赤頭熊の巨体は綺麗なまま倒れていた。
「さて。」
俺は赤頭熊を無限保管に入れる。今後の資金や食糧になるのだ。丁重に使わせてもらおう。
「次を探すか。」
「はい。」
ビビと会話をしていると、地響きを感じた。どんどんと大きくなるその地響きに俺達は警戒をする。
気配察知。物凄い速さでこちらに向かう巨体が一つ。
「マリア!後ろだ!」
「え?な、なに?!」
マリアの後方より、木々を押し倒しながら接近する赤頭熊。もう目の前だ。
「くっ!」
ビビがマリアの盾になるように前に出る。
「危ない!」
マリアが叫ぶ。それでもビビは目の前の巨体から目を離さない。
巨体、速さ、その衝撃は想像を越える衝撃となるだろう。
この危険に俺は脊髄反射で前にでる。
流の足運び。
柔の体捌き。
例え熊とて、俺の護身拳法は通用する、と確信があった。
赤頭熊と触れた瞬間、柔を流れにのせる。
赤頭熊は宙を舞う。相当な高さだ。赤頭熊は受け身を取れず、首から落ちた。あの巨体だ。落下ダメージは相当なものだろう。
立ち上がる気配はない。俺は赤頭熊の脳天に刀を突きつけた。
「ふぅ、危なかったな。」
俺の言葉に、ビビとマリアが力を抜く。マリアなんて腰を抜かしたかのように座り込んだ。
「大丈夫か?」
「ええ。大丈夫よ。」
俺はマリアの腕を掴み立たせる。まだ先程の襲来を引きずっているのか、脚が震えていた。
回りを警戒する。気配察知も行う。回りに驚異はなさそうだ。赤頭熊を無限保管に入れる。
「小休止するぞ。」
俺の意見に、皆が賛同する。居住地区に入り、身体を休める。
居住地区では各々自由時間にした。ビビは何やら柔の動きを始める。休めと言ったんだがな。
マリアはテラスと一緒にいた。心を落ち着かせる為だろう。ゆっくりとしてほしい。
俺は寝そべり身体を休める。だが、頭はぐるぐると回転している。
さっきのはやばかったな。
俺は一瞬の判断の遅れを反省した。ビビの方が早く動いた。それは良い。だが、判断がもっと遅れていたらビビとマリアを怪我させていただろう。最悪の事は、考えたくもない。
もう少し回りに気を配ろう。気配察知も濃いものにしよう。
反省する。そしてそれを糧に前に進む。それが最善と信じて、だ。
「さあ、休憩は終わりだ。あと二頭だからな。木を引き締めよう。」
「はーい。」
「わかりました。」
「今度は気を付けるわ。」
皆の士気も回復したようだし、居住地区から出て、森を進む事にした。
★
居住地区から出て、俺は回りを確認する。
「何か、変だな。」
「はい。異様な空気を感じます。」
「そ、そうなの?」
俺は回りを見渡す。森が静かすぎる。異様なまでに静かだ。
俺は気配察知を行う。今までよりも濃密な、集中を乗せた気配察知だ。
「いるな。でかいのが二頭。すぐ近くだ。」
俺はこの空気に判断を下す。
「テラスとマリアは居住地区で留守番だ。いいな。」
「そんなにヤバイの?」
「ああ、悪いが二人は足手まといだ。」
その発言に、マリアは肩を落とす。だが、彼女は商人であり、戦士ではない。戦いの土俵が違うのだ。
「ダメだよ。」
「何がだ?」
「しんようされてないとおもっちゃう。」
テラスの言葉に俺は気づく。先程の事や、今の現状に焦りを隠していなかった。
「すまない、二人とも。」
「いいよ。わたしはいつもソーイチといっしょよ。」
「わ、私も!頑張るから!」
参った。こうなると、二人とも戦闘に参加させなくてはならない。
「わかった。だが、無理はするなよ。」
「ええ、わかっているわ。」
マリアに弩を渡す。今回はこれの出番だろう。
テラスを中心に、囲う様に立ち位置を決める。
気配察知。此方に気付く大きな物体。
先程よりも大きな咆哮が身体を震わせる。続いて地響き。かなりの大きさは容易に考えられた。
「来るぞ!」
気配を感じた一方は俺が担当。その後方をビビとマリアが担当する。
地響きが止む。ゆっくりと此方を伺うように、その巨体は姿を表した。
俺は目の前にいる赤頭熊に駆け寄る。短期決戦。一撃で決める。
懐に入ろうとするが、赤頭熊の懐は深く、俺を襲う長い腕は、俺を間合いに入れてくれない。
ならば、縮地。
刹那の動きに、赤頭熊の懐に飛び込んだ。
流の足運び。
柔の体捌き。
剛の一撃。
に螺旋を加える。
震脚が大地を震わす。その力が身体を巡り、拳に集約する。
その拳が赤頭熊の腹に当たった瞬間、赤頭熊の堅固な骨が砕け、全身へと響かせた。
血を吐き、前のめりに倒れる赤頭熊。刀で脳天を貫き、とどめをさす。
ビビとマリアを見る。彼女達も戦っていたが、決着はマリアの一撃で終わった。
★
マリア視点
ソーイチさんが駆け出す瞬間、私達の前になデカイ熊が襲ってくる。
私は恐怖した。今度こそ死ぬと思った。
でも、逃げられない。後ろには、テラスちゃん、そしてソーイチさんがいるからだ。
ビビさんが熊に槍を仕向けるけど、弾き返される。ビビさんは突進力を力にするタイプ。ゼロ距離はビビさんの力を半減させる。
それでも果敢に攻めるビビさん。その動きはとても早く、常人を越えている。
でも、決定的なダメージを与えていない。それは私にもわかる。だから、私もやらなくてはいけない。
脚が震える。手が震える。歯が鳴り、目が霞む。恐怖に闘うのはこんなにも過酷なのかを思い知らされる。
それでもやらなくちゃならない!
私は弩を構える。狙いを定める。ビビさんに当たらないように、確実に熊に当たるように。慎重に。
でも駄目。震えが止まらない。
もし、ビビさんに当たってしまったら、と考えると、怖くてどうしようもない。
指が震える。トリガーに指を当てるのが怖くて堪らない。
こうしていると、ビビさんがダメージを受け始める。ビビさんも強いのに、この熊はなんでこんなに強いの!
一瞬の暖かさを感じる。それは全身に広がり、恐怖で震えていた身体を落ち着かせる。
「だいじょうぶだよ。」
「テラスちゃん。」
テラスちゃんが私を抱き締めていた。
その温かさが勇気をくれる。震えが止まり、冷静な判断を呼び起こす。
私はトリガーを絞る。
矢は熊の頭スレスレをかすり外す。でも、これが熊の隙を生む。
「勝機!」
熊の隙に、ビビさんは大技を繰り出す。大地を踏みしめ地を揺らす。その槍は熊の腹部に突き刺さる。
「やった!」
「いえ、まだです!」
ビビさんの渾身の一撃でも倒れない熊は、怒りに身を任せる。強い咆哮を上げ、私達を威嚇する。
どうすればいい?
私は瞬時に考える。そして。
「ビビさん!少しだけ時間を稼いで!」
「承知!」
闘いに身を投げるビビさん。私は弩のあるボタンを押す。
弩の内部に力が貯まっていくのがわかる。それにはあと少しだけ時間がかかる。
頑張って、ビビさん!
私は弩のチャージを待つ。狙いは頭。次は、外さない。
カチリ、という音が弩から鳴った。
「ビビさん!離れて!」
この言葉に、ビビさんが反応し熊から離れる。
「いっけーーー!!!」
私はトリガーを絞る。その瞬間、私はテラスちゃんごと吹き飛んだ。
私達を支えてくれたのは、ソーイチさんだった。
「大丈夫か?」
「ええ、平気よ。あ!熊は?」
「赤頭熊なら倒したよ。」
私が熊を見ると、頭に大穴を開けた熊が立ったまま絶命していた。
「すごいよマリア!」
「やりましたねマリア。」
テラスちゃんとビビさんが絶賛する。私が熊を倒したようだ。
「あは、あははは。」
喜びではない。恐怖からの笑いだ。全てが終わり、私は恐怖を呼び覚ましてしまったのだ。
「落ち着け。」
ソーイチさんが私を抱き締めていた。テラスちゃんとビビさんもだ。私が恐怖に負けないように、温もりを与えてくれていた。
私は涙が止まらない。今度は恐怖ではない。熊を倒した達成感でもない。皆の優しさに泣いてしまった。
声を出さないその叫びを胸にしまいながら、私は落ち着くまで泣いた。
★
ソーイチ視点
マリアが落ち着くまで、居住地区に入る事にした。今、マリアはテラスと一緒にいる。ビビも少し離れた場所でマリアを見守っていた。
俺はというと、ご飯を作っていた。今日はお祝い!の位に贅沢をする予定だ。
久しぶりの家事に少しだけ手間取ったが、旨い飯を作ることが出来た。
「さあ、食べよう。食べて元気になる!これ基本な!」
今回は魚料理とデザートに果物を用意した。野菜もある。準備は万全だ。
マリアは目を腫らしながら一口。
「美味しい。」
「それは良かった。」
料理が上手くいったのか、マリアはみるみると元気になる。ビビは相変わらずの健啖を見せ、テラスは揚々と果物を食べていた。
食事も終わり、風呂に入る。致す行為はしないが、マリアはずっと俺にくっついていた。
そして、寝る。疲れた身体を、精神を休ませたかった。マリアはすぐに寝息をたてる。ビビも疲れたのか、同様にすぐに寝てしまった。
「お疲れ様。」
「がんばったもんね。」
「そうだな。」
俺もテラスを軽く抱き締めながら、寝る事にした。




