8-3 ブルガンでの行動
さて、この大きな街であるブルガンを拠点に、俺達は行動を開始する。
その目的はヒト探し。ビビの師匠であるメゴを探す事だ。これだけ大きな街だ。探すのは困難ではあるが、手がかり位は見つけたい。
「メゴ、居ますかね?」
「さて、な。十年も前の話だからな。中々に難しいかもしれないが、やるだけはやってみよう。」
「そうね。先ず何から手をつけましょうか?」
小屋の中で作戦会議をする。街の中で適当にやっても非効率的だからだ。
「やはりギルドで聞くのが早いか?あと酒場だな。」
「ギルドなら冒険者や探索者ギルドね。後は酒場は色々あるみたいだし、聞いてみましょうか。」
「ですが、懸念もあります。我々に友好的に話をしてくれるかは疑問になります。」
そう。獣人はヒトを下に見下している。確かに能力は獣人の方が強いかもしれない。それが、見下す原因にもなっているのだろう。
「差別は何処にでもあるわ。だったら私達を認めさせるのが案外近道かもしれないわね。」
「ん?どうやってだ?」
「それはね、ギルドの仕事をこなすのよ。ランクにあわせた仕事をするのは時間がかかるから、少し上の仕事をするのよ。それを複数こなせば、誰だって私達を認めざるを得ないわ。」
誰にでも出来る仕事ではなく、あえて難しい仕事を選んで達成させる訳だな。
「危険もあるとは思うけど、ソーイチさんやビビさんがいれば、何とかなるでしょ。」
「だがな、それには問題もあるぞ。」
「何かしら?」
「低ランクの俺達に高ランクの仕事を受理をしてくれるか、だ。」
「それはね、勝手にやれば良いのよ。例えば、薬草取りのついでに魔獣も退治した、とかね。それが偶然、高いランクの依頼だったと言う訳よ。」
んー、そう上手くいくか?疑問しかないな。
「とりあえず、聞き込みしながら、仕事をこなして私達の評判をあげましょう。」
「そうだな。先ずは行動してみるか。」
小屋を出発し、居住地区から出る。回りを見回し目撃されてないかを確認する。
俺達は街の中心に向かう事にした。
★
先ずは聞き込みをする。昨日の輩の事もあり、皆で行動する事にした。まあ、ビビが一人で探し回る事も提案としてはあったのだが、テラスの反対があったため却下となった。テラスの意見は俺達の中で最優先となっている。これまでテラスの意見は幸運を運んでいる。もしかしたらだが、白テラスの加護が働いているのかもしれないからだ。ビビを一人にして怪我を負わされる事になるかもしれないと考えると、やはり皆で行動するのが良いのだろう。そんな訳で非効率ではあるが、皆一緒に行動をする事にした。
先ずはギルド巡りをする。冒険者や探索者、水運、森運、鍛冶に魔従、商人、ありとあらゆるギルドに訪れて、メゴの事を聞いてみた。
結果は惨敗。知らない。としかいわれなかった。中には、ヒトに教える事はない!と言ってくる者もいた位だ。やはり、ここではヒトの地位は低いようだ。
試しだが、街の中心にある衛兵所にも足を運んだが、やはり門前払いされた。このヒトを見下す風習は手強い。
一日でギルド巡りが終わったので、次からは俺達の評判を上げる方針に切り替える。探索者ギルドの掲示板を見て、手頃な仕事を探す。
「薬草取り、やっぱりあったわ。これを隠れ蚤にして、良い感じの仕事を探しましょう。」
手っ取り早いのは、害を為す魔獣の討伐だ。強ければランクも上がるのは早くなるだろう。
「これはどうかしら?」
マリアが見つけたのは、赤頭熊と呼ばれる討伐依頼だ。近くの村に出没し、農作物の被害に会っているとの事。ランクは5。依頼料は銀貨五十枚となっている。だが、この依頼は危険の割には報酬が合わない仕事の為、受ける探索者がいないのだろう。
「何故これにするんだ?」
「私達はお金よりも名声をとる為よ。こういう割に合わない仕事が後に名誉になるわ。」
いつまでも解決しない仕事に、村の困窮を解決。二つの問題を解決して、信用と恩を売る訳か。
「今は出資の時なのよ。儲けは二の次ね。」
考え方は商人だが、マリアの意見ももっともだ。テラスも賛成している事だし、その方向で話を進めるか。
「明日になったら、薬草取りの仕事をしつつ、赤頭熊の討伐をしましょう。」
「わかった。」
俺達は探索者ギルドから出て、いつもの街外れに向かう。今回は尾行はない。隠れるように居住地区に入り、体を休める。
「それにしても、視線が痛いな。そんなにヒトが珍しいか?」
「そうね。フードを被った方が街に溶け込めたから、これからはそうしましょうか。」
「街の皆がソーイチ様の強さを認めれば、こんな事にはならないのですが。」
「ビビの気持ちもわかるが、今は我慢の時でもあるな。やるだけの事をやれば、自ずと結果は出るさ。」
「そうですね。」
「はい、今から食事にしましょう。そしてお風呂に入って寝る。これが一番よ。明日からは体力勝負なんだから。ソーイチさんとビビさんには期待するからね。」
「任せて下さい。熊ごとき私が退治してみせます。」
ビビの力強い言葉に、明日からの方針の確認をする。村に向かいながら、薬草を取る。これだけだ。
今日の疲れを取り、明日に備える。ゆっくりとベットに横になり、目蓋を閉じた。
★
朝になり、朝の鍛練と食事を終わらせ、探索者ギルドへ向かう。
「薬草取りですね。わかりました。」
受付嬢が俺達が受ける仕事の事務作業を開始する。ランクも1の仕事だ。貴方達の身の丈に合っている、という表情を出しながら、だが。
「薬草取りも大事な仕事です。疎かにしないように。後、魔獣もいますから気を付けるように。」
「その魔獣も討伐したら、どうすれば良いですか?」
「そうですね。当ギルドで買い取りますので、持ち込んで下さい。兎や猪なんかは大歓迎ですよ。出来なければ逃げることをお勧めします。出来ないことはしないように。怪我をしますから。」
「わかりました。ではいってきます。」
「気をつけて。」
淡々とした言葉の受付嬢の言葉に、俺達の評価がなんとなくわかる。信用されていないのは仕方がない。薬草をしっかり取って、赤頭熊も討伐をしてしまおう。
俺達は探索者ギルドを出て、ブルガンの外に出た。
★
ブルガンの隣にある村に向かう。場所はすぐ近くだ。農作物を取るために、街からは離れてはいるが、徒歩で二時間くらいで到着した。
村の畑は広大であり、様々な作物を育てているのがわかる。木の柵で覆われてはいるが、熊を退ける事は不可能に見える。
さて。
「この村の責任者を呼んでくれ。赤頭熊の討伐に来た探索者だ。」
「あ!はい!わかりました!」
近くにいた若者に声をかけた。そして、直ぐ様にこの村の責任者である村長が来てくれた。俺達はそのまま村長の家へと招かれた。
「ありがとうございます。街に依頼を出したのですが、一向に探索者や冒険者が来ては頂けなかったので、困っておりました。」
フードを被ったままの俺達に頭を下げる村長。村長は犬の獣人であり、村も犬の獣人が殆どだ。村長は目蓋や耳が垂れ下がっており、白髪の老人だ。
「被害は大きいのですか?」
「はい。このままでは、街に納める税を支払いますと、我々の食料がなくなってしまうくらいには。」
「税?ならば、街の衛兵に声をかけましたか?税を支払うならば、衛兵が動いてもおかしくはないでしょう?」
「いえ、衛兵は動きません。彼等は魔従退治は管轄外と仰いまして、動いてはくれませんでした。」
「税を払っている、のにですか?」
「はい。」
解せない。普通ならば、税を払うならば、街が村を守らなければならなくなる。それをしない?何故だ?
「ですので、我々に出来るのは、強い探索者か冒険者に頼るしかなかったのです。」
「報酬が少なくて、誰も来なかったのではないですか?」
「はい、そのとおりです。ですがこれが我々が集められる精一杯なのです。」
話を聞くと、少しだけ様子が変わってきた。
「あの、討伐をして頂けるのですよね?」
村長は俺達にすがる勢いで懇願をする。
「ええ、その為にここへ来ましたから。では、簡単に赤頭熊の詳細を教えて頂けますか?」
「はい。あの赤頭熊達は村のあちこちの農作物を狙っては森から出てきます。」
は?
「赤頭熊達、ですか?複数いる、と?」
「はい。そうですが。」
「マリア?」
「探索者ギルドの依頼には、複数頭なんて書かれてはいなかったわ。間違いないわ。」
マリアは断言する。
「・・・、実際は何頭いるのですか?」
「確認とれているのは、五頭です。」
「それを隠していましたか?」
「いえ!滅相もありません!何かの間違いでしょうか、手違いがあっただけだと思います!」
村長は慌てる。ギルドに虚偽の依頼を出した?はたまた、数が増えたからか?
「・・・、本来ならば、この依頼に銀貨五十枚は安すぎます。そしてこの話をギルドに報告したら、二度と討伐者は現れないでしょう。」
「・・・。」
「我々も命を掛けるのです。これからは嘘偽りなく話をして頂けますよね?」
「そ、それは勿論です!」
村長の言質をとる。
「では、もう一度話を進めましょう。赤頭熊は五頭いるのですね。」
「はい。」
「出没はどの様に?」
「はい、昼間に森から下りて来まして、畑を荒らします。木の柵を作りましたが、簡単に壊されてしまいます。」
「体格、大きさは?」
「小さくて3メートル、大きいのは5メートルにもなります。」
「五頭は集団で畑を荒らしますか?」
「いえ、単頭で行動をしています。」
「そうですか。」
俺は少し考える。村長の話を聞く限りならば、赤頭熊は群れだが単独行動をする。という事だ。ならばやりやすい。群れを相手するよりは、単体で各個に討伐出来る方がやりやすいからだ。
「やって頂けますか?」
村長はさらに懇願する思いを声に乗せる。
「もう一つ確認だ。その赤頭熊を倒したら、その骸は我々がもらうが良いか?」
「はい、構いません。倒していただけるならば、何でも構いません。」
切羽詰まるとはこの事だな。俺達の目的は赤頭熊の討伐であって、回収ではない。交渉すれば赤頭熊の毛皮や肉を手にしたかもしれないのに、それをしない。赤頭熊が行う問題はよほど深刻なのだろう。
では、と席を立とうとした時だった。
「村長!大変だ!熊が現れやがった!」
「なんだと!」
事態は急変する。村長は俺達にすがる。
「ど、どうか村を救って下さい。お願いします。」
「ああ、任せろ。」
俺達は赤頭熊が出没した場所を聞き、その場に向かった。
★
「でかいな。」
「ですが、相手は一頭、それも油断しています。」
遠くから赤頭熊を見る。赤頭熊は一心不乱に畑を荒らす。畑、土の中の農作物を掘り起こし、それをむさぼっている。
「ここは私が。」
とビビが名乗りを上げるが、それを制する。
「いや、俺がやる。ビビは周辺の監視をしてくれ。」
「はい、わかりました。」
「マリアとテラスは待機。動くなよ。」
「わかったわ。」
「はーい。」
俺は立ち上がり、高速移動で赤頭熊に近づく。
赤頭熊が俺に気がついた時にはもう遅い。目が合う瞬間には、俺の拳が赤頭熊の脳天に炸裂する。
あまりの衝撃に脳震盪を起こした赤頭熊は巨体を横たわらせた。
意外に呆気なかった。まだ死んではいないが害獣駆除だ。刀を抜き、止めの一撃を入れる。
その静観は見事なまでに静かだったが、しばらくすると大きな歓声に変わった。
だが、その歓声もまた静かになる。
フードが外れ、俺の素顔を晒すと、村の獣人達は俺との距離を離した。
「お、おいヒトだぞ!」
赤頭熊を倒した事よりも、ヒトである俺の存在が大きいのは何故かはわからない。だが、このままでは話がややこしくなるような気がしてならない。獣人はヒトを見下す。ここでもそれは当然なのだろう。
「またヒトがこの村を救ってくれたぞ!」
村人が大歓声を上げた。
実際、俺の心配は杞憂だった。俺を中心に群がる村人達。喜びを表現し、手を握る、背を叩く、肩を組む、拝む等様々だった。
「貴方はヒトでありましたか。」
村長が近寄る。その表情は明るく、俺を見下すような目ではなかった。
「隠してすまなかったな。この大陸はヒトの偏見が強すぎる。素顔を隠すのが手っ取り早かった。」
「いえいえ、この村は以前ヒトに救われた事がありましてな。我々はヒトを蔑む真似は致しません。」
「そうだったのか。そのヒトなんだが、名前は名乗っていなかったか?」
「はい。今でも胸に刻んでおります。メゴと名乗っておりました。」
村長の発言に俺は驚きを隠せなかった。ブルガンでは手がかりがなかったのに、外れの村でメゴの名前を聞く事になるとは思わなかったからだ。
「そのメゴについて詳しく聞きたい。赤頭熊を討伐したら話を聞かせてもらっても良いか?」
「それは勿論構いません。赤頭熊を倒していただけるならば、何でもお話を致します。」
村長の言質を取れた。ならば、やることは早く済ませてしまおう。
「どうしますか、ソーイチ様。」
「森に入る。村での迎撃は畑を荒らしてしまうからな。」
俺にはチートがある。さらに、テラスの導きがあれば、赤頭熊の巣も見つけるのは簡単だろう。
「では、行くか。」
「何処へですか?」
村長が俺に聞いてくる。
「森に入る。」
「そ、それは危険ではありませんか?森は赤頭熊の領分ですよ。」
「それは大丈夫だ。問題ない。」
俺達は四人は、森に入るのだった。




