8-1 ウッドバーグ到着
お待たせしました。再開致します。楽しめる話になれば幸いです。
さて、ビビの故郷を後にして、俺達はウィズ大森林の北を目指して進んでいる。
森の中とあって、道は悪路であった。整地されていない道は、馬車を走らせるのはあまりにも不快を招いた。
これならば進歩が遅くなったとしても、徒歩の方が快適と判断した。
俺には居住地区というチートを獲得している。レンとイトを馬車ごと居住地区に入れての移動だ。これで突然の襲撃にも対処出来る。
前に、豹人に襲撃された時は、テラスにマリア、レンにイトを守りながらの対応だった。ビビはもう強いから、俺の背中を任せられる。
いくらチートを駆使しても、全てを守りながらの対応はかなりきつい。だったら、安全地帯である居住地区に入ってもらった方が、安全に先に進めるというものだ。
テラスとマリアは俺と同行したいと言ってきたので、居住地区に入ってはいない。まあ、襲撃があっても、二人ならば守りきれるだろう。油断はしないが、緊張はもっとしない。疲れるからね。
昼間は徒歩での移動。夜は居住地区に入り、しっかりと休む。これがとても快適だった。
考えてもみて欲しい。
夜に緊張の時間がないのだ。食事はしっかりととれるし、睡眠はベッドで皆が寝れる。風呂もある。
これを快適と言わずになんて言えば良いのか。
チートに感謝しかない。
「安全って良いわね。」
マリアはご機嫌で食事を作ってくれる。
「ですが、あまりこの生活に慣れてしまいますと、危険なようにも感じます。」
ビビの言葉だ。心にゆとりがあると、油断を招くからだろう。だがね、緊張の連続は心が磨耗してしまうからね。殺伐とした心にはなりたくはない。
「おーふーろー!」
「はいはい。」
食事の後の風呂は格別であり、一日の疲れを洗い流してくれる。
テラスは相変わらず密着してくる。とても柔らかい。
心にゆとりがあるからか、一部が元気になるってもんですよ。
「えへ。いいよ、ね?」
あれ?テラスさん?何故俺に跨がる?
「あの、私もよろしいですか?」
「ちょっと!二人とも欲求に忠実じゃない?」
「あれ?マリアはしないの?」
「・・・、する。」
あれ?皆さん約束は忘れましたか?移動中の行為はしない約束だったような気がするんですけど?
「ここならあんぜん。だからいいの。」
完全に俺を迎え入れたテラスは、顔を赤くし身体を動かす。
久しぶりの快楽は、俺の理性を壊しにかかる。それは時間の問題であり、チョロイチは発動していた。
「ソーイチ。」
「貴方様。」
「ソーイチさん。」
夜はまだまだ長いと悟ってしまった。
★
ウィズ大森林をひたすら歩いて十日が経過した。次の目的地であるウッドバーグはまだ到着していない。
「次の町はまだなの?」
「もうそろそろだとは思いますが。」
長い間森を歩き、マリアが飽きたのだろう。ぼやくようになった。
やろうと思えばこの道程を短縮する事は出来るが、あえて言わないようにしている。理由?なんとなく、だ。
「これも旅の醍醐味だ。ゆっくりで構わないから、先に進むぞ。」
「早く町に着かないかしら。」
ぶつぶつとぼやきながら、マリアは歩を進める。マリアに疲れたなら居住地区に入るか?と訪ねたがそれは拒否された。理由は言わなかったが、何か嫌なんだそうだ。ならば、しっかりと歩いてもらう。
だが、気分転換は必要か?と思ったので、耳を澄ます。すると、水の音を掴んだ。
「少しだけ遠回りするか。」
「えっ?何処に行くの?」
「気分転換。」
木々を避けながら、水の方向に歩く。すると川を発見した。
「少しここで休憩するか。」
清流が荒んだ心を流すかのように、マリアの表情が明らかに明るくなった。
「さて、ビビは魚を採ってくれ。俺は釜戸を作る。テラスは俺の手伝い。マリアは休んでくれ。」
「あら?私は除け者かしら?」
「いつも料理や掃除で働いているんだ。少しは休めよ。」
そう。居住地区の小屋はマリアが管理をしている。たまには休みも必要だろう。
「そう?なら、遠慮なく。」
くつろぐマリア。
「やっぱり、閉鎖的な場所よりも良いわね。」
閉鎖的、か。居住地区は俺が創った箱庭みたいな物だ。直感的に閉鎖感を感じていたのかもしれないな。
マリアの言葉は聞こえないフリをする。折角開放的になったのだ。それを邪魔する事はしない方が良い。
釜戸に火を入れる。ビビの採った魚を焼く。味付けは塩のみ。だが、それだけで十分に旨かった。
「ねえ、およいでいい?」
「んー・・・。」
「流れは急ではありませんし、深さもありません。私が着いていますから。」
テラスの意見に、ビビがフォローを入れる。
「良いよ。でも気をつけてな。」
「はーい!」
すると、おもむろにテラスは服を脱ぎ、川に入っていった。
「誰もいないわよね?」
「人の気配はないから大丈夫だけど、これは目のやり場に困るな。」
「水着、作ろうかしら?」
「そうだな。」
俺とマリアの心配を他所に、テラスとビビは川を堪能していた。
その姿はまるで天界の天使がいるような光景に思えた。まあ、テラスは女神みたいなものだが。
「何か、あの二人を見ると絵画を見ている気分になるわ。」
「マリアも混ざれば?」
「馬鹿ね。私が入ったら濁すだけよ。」
「そんな事ないさ。マリアはもっと自分に自信を持つんだな。」
「あの二人には霞むだけよ。」
「そうでもないさ。」
「そう?」
「ああ。」
マリアの手を握る。マリアは俺に寄りかかり、瞼を閉じた。
「あー!マリアずるい!」
裸のテラスが駆け寄って来た。
「ふふ。」
「どうした?」
「ん、何でもない。テラスちゃん、服を着なさい。裸は恥ずかしいわよ。」
マリアは立ち上がり、テラスの方に向かった。マリアの胸中はわからないが、機嫌が良いならそれで良い。
余談だが、この後マリアも川に入る事になった。テラスとビビに無理矢理だ。
だが、三人は笑っていた。つられて俺も笑みを溢す。
マリアには笑顔が一番と思った。
★
十二日目。ようやくウッドバーグの町を目視した。
「やっと到着ね。」
マリアの表情が明るくなった。テラスやビビも同様だった。
さて、移動しながらでも、狩りは欠かさずにやっていた。今日は二匹の鳥を指弾で落としていた。ビビが目を輝かせていた。
「旨いのか?」
「はい、とても!」
なるほどね。鶏肉好きのビビの好物なのだろう。二羽落としたし、一羽はビビに食べさせてあげよう。
そうこうしているうちに、木の柵に覆われた町、ウッドバーグに到着した。
さて、柵に二人の獣人がいる。多分門番であろう。気配か匂いかはわからないが、結構な距離から俺達を見ている。
少しずつ歩いて近づく。門番の二人も緊張の雰囲気を出していた。
敵視される事はないだろうが、この緊張はなんなんだろう。
「お疲れ様。ここがウッドバーグかい?」
「ああ、そうだが。」
二人の門番は犬人のようだ。ビビとは違い、顔は犬に近い。
「町に入りたいが、良いかい?」
「・・・、ヒトとは珍しいな。その前に聞きたい事がある。良いか?」
「構わないが?」
なんだろうね?かなり疑われている感覚は。
「何処から来た?」
「ガウスから。」
「徒歩でか?」
「そうだけど。」
「馬車は利用しなかったのか?」
「道が悪路でね。乗り物酔いが酷くて降りたんだが。」
「何日位歩いた?」
「十日以上は歩いたが。」
「それにしては・・・。」
ん?なんだ?
「女性には悪いが、臭いがあまりしないな。馬車の者でも必ず臭いはするからな。」
「ああ。川で汗を流したからな。そのせいじゃないか?」
「川か!なるほどな!疑問が解けたよ。」
なるほどね。臭いは盲点だったな。犬人だからか、臭いは敏感のようだ。あ、マリアが不機嫌になってる。
「すまないなお嬢さん。これも仕事だからな。さて、入町だが、食い物か銅貨一人五枚だ。あるかい?」
「食い物?」
「ん?ここは初めてか?この町は硬貨の取引はあまり通用しないんだ。町では物々交換が主流だが、一番価値があるのは食料だ。だから、食い物でも入町出来るんだ。」
「ああ、それで。ならこれはどうだい?」
俺は無限保管から、鳥を出した。さっき採ったばかりの鳥だ。
「おう!ホロロ鶏じゃないか!十分だ!さあ入ってくれ。ようこそウッドバーグへ。」
ご機嫌になる門番は、今にも涎を垂らすかのように、ホロロ鶏を見つめている。木の門が開かれ、ウッドバーグの町の中に入った。
★
どうやら、ホロロ鶏を差し出したのは失敗だったようだ。さっきからビビの様子がおかしい。いや、尻尾でわかる。
「悪かったな、ビビ。今度は銅貨にするよ。」
「あ、いえ。お構い無く。」
落胆しているビビは慌てて体裁を正す。だけど、尻尾は嘘つけないようだ。
「ビビさん、もう一羽あるんだから、一緒に食べましょう。美味しく料理するから。」
「はい。いえ、心配なさらずとも大丈夫です。はい。」
かなりショックだったようだ。これは何かでフォローは必要だな。
「ねえ、おなかすいたよ。」
テラスが俺の裾を引く。確かに小腹は空いた。
「なら、何処かで食べるか。」
「あそこはどう?良い匂いがするわ。」
マリアも俺の意見に同意する。煙突から煙を出し、良い匂いを漂わせている店があった。折角だし、ここの料理を堪能するのも悪くない。
「ならあそこに行くか。」
「さんせい!」
「そうね。行きましょ。さ、ビビさんも。」
「あ、はい。」
ビビはマリアに引っ張られながら店に入る。俺も後から入る事になった。
店は様々な獣人達が、思い思いに食事をしていた。酒もあるようで、昼間から飲んでいる人達は盛り上がっていた。
「いらっしゃい。あら、ヒトかしら?珍しいわね。」
女給が俺達を出迎える。猫の獣人のようだ。語尾にニャを付けていないのは残念だが、その表情は愛くるしい。そういえば門番も言っていたが、この町ではヒトは珍しいようだ。何やら視線を感じるのは、俺達が珍しいからだろう。
「ここは硬貨は通用するかい?」
俺は銀貨や銅貨を数枚手に出し、女給に見せる。
「ん?・・・、ああ、西大陸の硬貨ね。この店は大丈夫よ。少し値段が高いかもしれないけど良いかしら?」
「構わないよ。」
「はい!では四名様ご案内です!」
「いらっしゃいませ!!」
なかなかに活気のある店だ。居酒屋の様な活気さがある。
「ここに座って。メニューは此方ね。あと、代金はその都度の支払いでお願いしますね。」
「わかった。」
「まず飲み物ね。何を飲みますか?」
俺はメニューに目を通す。果実酒がある。良いね。ジュースもあるようだし、これを頼むか。
「果実酒を一つと、」
「いえ、四つお願いね。」
へ?
「マリア?」
「たまには私達にも飲ませてよ。二人とも良いわよね?」
「いいよー。」
「はい。」
「さ、今日は飲みましょう!」
「おいおい。」
「では、果実酒四ね。すぐに持ってくるわ。」
女給が後ろに下がった。
「おいおい、大丈夫か?」
この三人は酒に弱い。テラスは笑い上戸、ビビは寝てしまうし、マリアは絡み上戸だ。正直いって面倒くさい。
「今日はゆっくり飲むから大丈夫よ。テラスちゃんもビビさんも飲むって言っているんだし、たまにはね。まあ、つぶれたらお願いね。」
「勘弁してくれ。」
そうこう話をしているうちに、果実酒がゴブレットに並々に注がれていた物がテーブルに並んだ。
あ、この量は、これはヤバイな。
「さ、飲みましょう!かんぱーい!」
「乾杯。」
「さ、料理を注文するわよ。すみませーん!」
なんかやたらとテンションの高いマリアに引っ張られながら、この店の料理を堪能するのだった。
さて、味付けが淡白なのは、場所柄なのか、それとめ店柄なのかはわからないが、大量の料理を食べ、酒を飲んだ。
ビビは食事を夢中で食べ、マリアはケタケタと笑いながら酒を飲んでいた。
静かだったテラスは、急に歌を唄い始めた。その透明な歌声は、喧騒の店を一気に静かにさせるには十分なものだった。
誰しもがテラスの歌を聞き惚れていた。店の者も手を休める位に。
テラスは空と大地の恵みの歌を唄った。
唄い終わると、壮大な拍手喝采が巻き起こった。続いてお捻りも渡された。
テラスは全てのお捻りを俺に渡してきた。ならば、皆に一杯奢るのが礼儀だろう。
お捻りを店に渡して、客に一杯奢る。するとまた歓声が沸いた。
俺達のテーブルを中心に輪が出来てしまった。その場の客と乾杯をし、盛り上がった。
「こんな良い酒は久し振りじゃ。ありがとうな、若いヒトよ。」
「んだなー。娯楽の少ないこの町に活気を出してくれてありがとうよ。」
老いた獣人が俺にお礼をする。
「いえいえ、楽しんで頂けたなら、幸いですよ。」
「謙虚な若者じゃ。さあ飲め。」
「はい、いただきます。」
老獣人に進められ、酒を飲む。美味しいと思うのは、やはり楽しいからだろう。
「そういや、この町に来た若いヒトを思い出したぞ。あやつも今日みたいに楽しい酒を振る舞ったな。名前はなんだったかの?」
「あー!なんだったかな。マゴ?ミゴ?」
「メゴだよ、メゴ。」
「おお、そうじゃ!メゴと言っていたな。」
「メゴですって!!」
食事に夢中だったビビが立ち上がる。
「この町にメゴが居るのですか?!」
「あ、ああ、いや、もう十年も昔の事じゃし、今はいないぞ。」
「そう、ですか。」
意気消沈して席に座るビビ。そういえば、メゴの話は聞いた事があったな。
ビビの師匠と言うべきだろうか。孤独のビビに狩猟を教えた人物。だからこそ、今のビビがいるのだ。
「何処に向かったかわかりますか?」
「北に向かったから、ブルガンに向かったのは間違いないと思うぞ。なあ?」
「んだな。」
二人の老獣人は確認しあう。そして俺は一計を思い付いた。
「ブルガンか。なあ、ビビ。」
「はい?」
意気消沈しているのか、ビビの返事は薄い。
「ブルガンに行って、そのメゴを探してみるか?」
「えっ、良いのですか?」
「構わないさ。今は宛の無い旅だ。他に目的があっても良いだろう。二人はどうだい?」
「さんせーい。」
「良いわよー。」
テラスにマリアも俺の意見に賛成する。
「二人も良いって言っているし、遠慮するな。ブルガンに行ってメゴを探してみよう。」
「は、はい!ありがとうございます!」
さっきまで意気消沈していたビビが、元気を取り戻した。尻尾がもうね、すごいね。
二人の老獣人にお礼を言って、今日は食事と酒を楽しむ事にした。
余談
酒に潰れたのはマリアだけだった。




