7-8 村長選出
南の村の村民を全員集め、ビビが村長選出を行う事を説明する。当然、この説明に皆が動揺した。
絶対強者であったゲルマを討ち取り、南の村、及び他の村を救ったビビ。皆はビビ以外に村長はいないと確信していたからだ。
「私は後にこの村を出ます。長が不在の村は崩壊してしまうでしょう。だからこそ、次の長を選ばなければなりません。」
「で、ですが。」
「皆の動揺もわかりますが、私は長にはなれません。」
ビビは動揺する村民に対し、自分の拘りを露にした。誰しもが次の長はビビと思っていたのだ。その衝撃は大きい。
「どうしても、ですか?」
「はい。私の気持ちは変わりません。」
ビビは村民の気持ちを汲み取らなかった。村民からしたらあまりにも身勝手な事と思っているだろう。ビビもそれは承知している筈だ。
「ですので、今から7日後に村長選出の闘いを行います。見届け人は私がやります。我こそと思う者は、7日後にこの広場に集まりなさい。以上です。」
こうして、集会は終わった。皆は思う所もあるだろうが、ビビの発言は変わらない事とわかると、諦めた様に解散した。
「何故7日後にしたんだ?」
俺は普通に疑問になった。
「今すぐは皆も本領を発揮出来ないと思ったからです。皆は私が長をしない事に何かしら思う所もあるでしょう。その事を納得に変えるだけの時間は必要と思ったのです。いけませんでしたか?」
「いや、ビビの考えに賛成だ。今はまだ皆はビビを英雄と思っているだろう。その幻想に縛られていたら、次に進むのも大変になるからな。」
「強者が長になるって大変なのね。」
「誰しも先導者は大変なのさ。」
マリアの小言に俺は真実を返した。強者が絶対の狼人にとって、強さが正義だ。それを示してもらい、次の長になってもらわなければ、ビビが次に進めなくなる。
「わたしたちはどうするの?」
「しばらくは滞在だな。狩りでもしながら、その時を待とう。」
「ここで生活をするのかしら?」
「まあ、そうなるな。村の外れに小屋を出して、そこで生活をしよう。」
「そうと決まれば、休みましょう。いろいろやって疲れたわ。お風呂に入りたいし。」
「そうだな。」
マリアの意見に賛成する。村の外れに、無限保管から小屋を出す。居住地区からレンとイトも出した。
「さて、休むか。」
「おふろー!」
「そうですね。今日は疲れました。」
「その前に食事よ。しっかり食べて、怪我を治しなさい。」
俺達は日常を取り戻したかのように、小屋の中に入った。
★
俺は猛烈な眠気に負け、皆より早く寝る事にした。ふらふらになりながらベッドに潜り、目蓋を閉じる。一瞬の時間で眠りについた。
目を覚ましたら、テラスの抱擁を受けた。マリアも同じように、俺を抱き締めた。ビビも同じだった。俺が目を覚まさない事に、テラス達は心配になっていたようで、俺は二日は目を覚まさなかったようだ。
「二日も?」
「そうよ!心配したんだからね!」
マリアは俺が目を覚ました事に安心したのか、口調がきつくなっていた。テラスは相変わらずだし、ビビも涙目になっていた。
「こんなに消耗が激しかったのか。」
「やはり、あの暗が原因でしょう。ソーイチ様がより多く触れていましたから。」
暗の靄は命の器を削る。それは壮絶な痛みが伴う事だ。器のダメージが大きくなると、回復も遅くなる。あまりにも深いと回復不能まであり得る。
次はもっと良い方法を考えなくてはならないな。
俺は立ち上がり、身体を動かす。節々が痛いのは、寝過ぎが原因だろう。それをほぐす為にも、風呂に入る事にした。
今回はゆっくりと浸かる為に、俺一人で入る事を伝えたのだが、却下された。
密着が濃厚なのは、心配の現れなのだろう。テラスとビビが俺を離さない。マリアは俺に寄り添うだけだか、それでも離れない意思を感じた。
「それで、この二日で村に変化はあったか?」
「はい。私の意思を飲み込んだ者が数人いるようで、狩りの後に鍛練する者がいました。」
「食事も改善されたみたいね。皆しっかりと食べているわ。」
「はい、これ。」
「これは?」
「ソーイチがもっていた。」
白い石を俺に渡すテラス。ゲルマの暗い石が掌握、解放され、俺の手に握られていたのを、テラスが大事に持っていたようだ。
俺は白い石を無限保管に入れる。テラスの頭を撫でるのも忘れない。
あ、はいはい、ビビもしてほしい。マリアさんもですか。はいはい、わかりました。
今日は賢者であり、テラス達の誘惑に身を焦がす事はしない。正直身体がだるいのだ。まだまだ精神は回復してはいないようだ。その分、食事をしっかりと食べる事にした。
食べながら気がついたが、怪我は治っていた。テラスの癒しがそうさせていた。ビビも同様だ。
今日はゆっくりと過ごす事にして、精神の、器の回復をする事にした。
四人全員で、他愛のない話しに盛り上がった。
★
次の日からは、器も回復したようで、身体が軽く感じた。朝の鍛練を始めることにする。
ビビも同様に、俺の鍛練に付き合う。日課の再開だ。
風呂で汗を流して、朝食をいただく。昼間はビビと狩りに出掛ける。
テラスとマリアには、調査をお願いした。ゲルマの近辺に誰か不審な人物がいなかったかを知るためだ。
狩りは順調だった。猪の大物を狩れたからだ。
無限保管に猪をいれ、村に戻る。
帰る途中で、鳥も狩った。指弾でだ。
村に戻れば、皆で成果を見せ会う。ビビもそうだが、ザクトもなかなかな成果であった。ザクトはゲルマがいなくなったので、村で住む事にしたようだ。
狩った獲物は、村の皆で食べる。これが普通の事のようだ。ゲルマは獲物を一人占めしていたようであり、村の人々はあまり食べることが出来なかったようだ。
いつもの生活に戻り、村民に笑顔が戻る。食を皆で食べ合えば、自然と仲も良くなる。
ビビを村長にしたい気持ちを持つ者はまだまだいるが、食が回る様になり、自然と各々で考える事が出来るようになっていった。
ここで俺はマリアに尋ねる。
「それで何かわかったかい?」
「そうね。狼人ではない人物がこの村に来たのがわかったわ。」
「第三者、か。」
俺は、ドワーフ国の錬金術師を思い出す。もしかしたら、同一人物かもしれない。
「ゲルマが強くなったのも同時期よ。その第三者が怪しいのは間違いないわ。」
「もう少し詳しく知りたいな。お願いしてもいいか?」
「良いわよ。聞くだけ聞いてみるわ。」
第三者。やはり錬金術師か?
俺の心に靄がかかる。暗い石に錬金術師。もしかしたら、この一連の犯人かもしれないからだ。早く捕まえたい。その焦りだろう。落ち着きがなくなる。
だが、それを晴らしてくれるのは、いつだって近くにいるテラス達だ。
「だいじょうぶ?」
「ああ。大丈夫だ。心配ない。」
テラスが声をかける。何かを察したのか、俺から離れなくなる。
「ソーイチができることをやろう。」
「ああ、そうだな。」
焦っても解決はしない。逆に迷いが生じる原因にもなる。錬金術師はさておき、その第三者の事がわかれば、何かが掴めるかもしれない。そう考える事にした。
「ありがとう、テラス。」
俺はテラスのあたまを撫でる。嬉しいのか、笑顔のテラス。
「さ、食事を続けよう。」
「はーい。」
俺達は食事を美味しく頂いた。
そして、その生活を繰り返し、気がつけば7日目当日になった。
★
広間に人が集まる。広間の真ん中には、ザクトを含め数人がいた。村民は新たな村長を見る為に、集まっていた。
俺達も広間にいる。ビビが集まった猛者を見て、頷いた。
「では、始めます。」
歓声があがる。村長を決める試合ともなれば、皆も心が沸き上がるようだ。
形式は一対一の総当たりの勝ち抜き戦である。勝敗はビビが決める。そして少し違うのは、何回でも再戦出来る事にある。
これは、皆が納得するまで試合をする事にあり、皆が納得の上、村長を選ぶからだ。
負けても次がある。心が折れなければ、だ。
だから、この試合は時間がかかる。1日で終わるとは思えない。それでも大事な事だ。ビビも真剣に審判を務める。
時間がかかると思っていたが、実際は違かった。
ザクトが参加者全員に勝ったからだ。無双である。
「やはり、私の目は間違っていませんでした。」
ビビがご満悦だ。
「では、村長にザクトがなります。異論はありますか?」
村民の沈黙。その後の拍手により、村長はザクトとなった。
★
ザクトが村長に認められ、賛辞を浴びている。それを俺達は遠くから見ている。
「行きましょう。もう私の出番はありません。次はザクトがこの村を引っ張ってくれるでしょう。」
「そうだな。だが、挨拶はした方が良い。」
「挨拶、ですか?」
「そうだ。」
ビビと会話をしていると、ザクトと村民がビビを囲う。
「もう行くのか?」
「はい。私の居場所はソーイチ様の隣ですから。」
「そうか。だけどな、帰る場所は必要だぞ。俺は、いや俺達はビビの帰りを待っているからな。」
「行ってらっしゃい!」
「元気でいるんだぞ!」
「いつでも帰って来て良いんだからな!」
ザクト始め、村民もビビに声をかける。ビビは目を見開いていた。
「私は忌み子では?」
「そんな訳ないだろ!皆、いつもビビの帰りを待っているさ。」
そう、帰る場所だ。これが必要だったのだ。この為にビビの村を訪れたのだ。この選択は間違っていなかった。
「良かったな。ビビ。」
「あ、あの。」
「ん?」
「何故ですかね。涙が出そうです。」
「それは嬉しいからさ。」
ビビは上を向く。暫く上を向いた後、いつもの凛としたビビに戻った。
「では、皆さんも元気で。」
ビビは大きく声を出した。
「いってきます!」
★
俺達は徒歩で東の村を訪れた。経過をダリに話し、これから南の村と仲良くしてもらうようにお願いをした。
ダリからは今後ゲルマのような存在がでないように、各村長を集め、村長会議をするようだ。
「これからは、村との連携も必要になるだろうからな。」
ダリは腕を捲った。その意気で頑張ってほしい。
ダリの家には、連れ去られたククにニニもいた。会報したようで何よりだ。お礼を散々言われ、土産も渡された。
「またな。ビビ。」
「はい。」
ビビはダリと握手をして別れた。
「さて、行きましょう。」
晴れ晴れとした表情のビビに、俺も自然と笑顔になる。
「さて、次の街に向かうか。」
「はーい。」
「わかりました。」
「そうね。」
俺達は北に歩き出した。
狼人編終了です。楽しめましたでしょうか。
次の話が出来上がるまでまた時間をいただきます。




