2-9 クコ村の武器 前編
今日の目覚めは早かった。小屋の中は、樹葉で敷き詰めてある。雨風も凌げるので、快適に成りつつある。今日も左腕に、暖かく柔らかい感触を感じている。手はテラスの太ももに挟まれている。ほんの少しだけ位置をずらせば・・・。
これ以上はいけない。
朝から理性フル回転で、自制する。だがもう少しだけ、幸せな柔らかさを楽しむ事にした。ぽにょぽにょは正義だ。
右太股に重みを感じる。視線を向けると、ビビが丸くなって寄り添っていた。背中を押し付けている。手が届かない微妙な位置だ。気が付いたが、ビビはすごく暖かい。体熱が高いのだろう。
少しだけ右足をずらすと、ビビもずれ、太股に寄る。
起きようかと思ったが、まだ日の出前だ。もう少しこのまま幸せを堪能しよう。
こえがきこえる。
おれをよぶやさしいこえ。
かるくくちびるにかんしょくをかんじる。
まちがいなく感じた。
俺は目を覚ます。
テラスが俺を微笑みながら覗きこむ。
「おはよう♪」
右手の人差し指を唇に添えながら、テラスは朝の挨拶をした。
何やら頬が紅い。テラスの行動に理解した俺は身体を起こす。
「おはよう。」
右手をテラスの頬に添え、軽くキスをする。
驚きと恥ずかしさか、顔を真っ赤にして、俺に抱きついてきた。顔を胸にグリグリする。
「エヘヘ♪」
軽く抱き締め、二人で小屋から出た。
外ではビビが魚を焼いていた。鮭とデカイ鮎だった。
「おはようございます。ソーイチ様、テラス様。」
「おはよう、ビビ。」
「ビビおはよう、お魚さんありがとう。」
「いえ、大したことはありません。」
何故だろう。この空間が、この時間が、この雰囲気が、とてもいとおしく、とても幸せを感じずにはいられなかった。
「魚は焼けました。」
「ん、ありがとう。ではいただきますか。」
「うん。」
「はい。」
「「「いただきます。」」」
俺達は魚を美味しくいただいた。
★
今日は大事な日だ。
食後、ビビに話しかける。
「今日は大事な話があるから、狩りは休んで、一緒に来てくれないか?」
俺は真面目な顔をする。
「今から、ですか?」
「うん、そうだね。これから村長と大事な話をしようと思う。ビビにも聞いてほしいんだ。」
「はい・・・、わかり、ました・・・」
ビビは唇をキュッと噛んでいる。俺の真摯に応えてくれたのか?違和感を感じるが、これから話し合いをするのだ。すぐに解消するだろう。
3人で村長家に向かう。
途中で、村長の息子を含めた狩りの若い衆を見かけた。
「おはよう、みんな。」
「あ、おはようございます、ソーイチ様。」
皆が挨拶をしてくれる。
今まで狩った巨大獣の話になったが、それを制する。
「今日ビビは、狩りに行かないから、皆が頑張るんだぞ。」
若い衆の顔に不安が出る。そうだろうね。
「村の周辺に巨大な害獣はいないから安心していいよ。それに、自分の実力にあった狩りをするんだ。」
「はい・・・。」
足りないか?
「ビビからも助言ないかな?」
「では、僭越ながら、
私が最初に狩りを教わった時の言葉です。
よく周りを観るのです。
よく臭いを感じるのです。
よく耳を澄ますのです。
よく獲物の行動を考えるのです。
森の空気を肌で感じ、森と一体になるのです。
初めは難しいと思います。ですが、意識をするだけでも変わります。
兎等の小さい獲物から狙いましょう。
以上です。」
流石に重みが違う。若い衆も困惑している。
ちょっと難度が高いか?いや、生死がかかっている。これは最低限なのだ。
「失敗してもいい。無理はせず先ずはやってみろ!」
俺は村長の息子の背中を叩き、押した。
「はい!頑張ります!みんな、行くぞ!」
「「「おぉーー!」」」
拳を挙げ、若い者は弓を片手に森に入っていった。
頑張ってほしい。これから村を支えるのは、皆なのだから。
さて、村長の家にはクコ村長と婦人がいた。
「おぉ、ソーイチ様、テラス様、ビビ様。どうかされましたか?」
「今日は、とても大事なお話があります。」
「大事な、お話、ですか?」
「はい、この村の未来のお話です。」
クコ村長は目を見開き、婦人は固まってしまった。当然だ。
「クコ村長、今日は私達と一緒に、クコ村の未来の為に、話し合いをしましょう。」
険しい顔になるクコ村長。
「はい、わかりました。」
決意の現れか、クコ村長に笑みは無くなっていた。
★
俺の話をする前に、
「村長は私に話があるのではないのですか?」
話をきりだす。村長の意思を聞く為だ。
「はい、ソーイチ様方は村から旅立たれますか?」
「はい、あと2、3日で旅立つ予定です。」
「そう、ですか・・・」
村長の顔色は青い。存在が心の支えになっていたのだろう。
「もう少し、御滞在していただけないでしょうか?あと二月程で、収穫が始まります。収穫が出来れば、村の食糧難から少し改善があります。それまで、御滞在してはいただけないでしょうか?」
「申し訳ありませんが、そこまでは無理です。それに、私がいるからといって、食糧難が改善する事はありません。」
「そんなことはありません。実際、食肉を提供していただいています。」
「それだけです。それでは、村に未来はありません。」
「何故ですか?」
「この村には、足りない物が沢山あります。それを補わないといけないからです。」
「でしたら!ソーイチ様に村を救っていただきたい!」
本音が出たな。
「それは甘えです、村長!村を救うのは、村人です。他人の私が救ってはいけないのです。私に出来るのは、手助けであり、救済ではありません。」
「!!」
絶句する村長。
「私が村を救済しても、いずれは村から旅立ちます。その後、どのように村を守っていくのですか?守るためには、村の人達全員で頑張らないといけないのです。」
肩を下ろす姿が、落胆を現していた。
正直、村長の言い分もわかる。後がない状況、藁をも掴む思いだろう。
袖を掴むテラス。嘆願するような哀しい目だ。だが、これは大事な事だ。
「私は村から旅立ちます。ですので、村の問題は村の人に解決して欲しいのです。」
「はい・・・」
肩を落とすクコ村長。絶望した様な表情になっている。
「ビビ、お前はどうする?」
「私、ですか?」
「あぁ、俺とテラスは村を出る。ビビはどうする?」
「何をいってるの、ソーイチ!ビビは・・・」
「テラス、これは大事な事なんだ。言葉にするという大事な事だ。」
「ビビ・・・。」
涙目のテラス。
「私は・・・・。」
言葉が詰まるビビ。
「私は、御二人に、連いていきたいです。」
「それは願い?、恩からの義務?」
「連いて、行きたいです。共にいたいです!これは私の我が儘です。どうか、連れていって下さい!私を共にして下さい!どうか、お願いします!お願いします・・・。」
頭を深々と下げ、懇願するビビ。いつもの淡々とした口調ではなかった。それほどの願いなのだろう。
「うん、こちらこそ。改めてよろしく、ビビ。」
「ビビィーー!!」
テラスがビビに抱きつく。泣きながら強く抱き締めている。ビビも頬に涙を流している。
「ありがとう、ございます。」
ビビは一度連いていくと言っていた。だが、それは村の中の話で、キチンとした意思を聞いた訳ではない。いやらしい事だが、ビビの気持ちには気がついていた。だが、蔑ろにする気もない。気持ちを言葉にするのは大事な事だ。
言葉にする責任だ。
「村長の気持ちはわかりました。私の意思は話しました。ビビの意思も聞いた。それでは、ここからが本題ですが、村を守る為の話し合いをしましょう。」
「!!」
「ソーイチ!」
「意地の悪い事をしました。申し訳ありません。」
俺は皆に頭を下げ、謝罪する。
村長やビビは慌てて俺の謝罪を止める。
「これからの守る為の話し合いをする為に、皆さんの意思の確認が必要だったのです。これから村人達は命懸けになるでしょう。」
「今までが命懸けでした。それは変わりません。では、私達はどの様にして、村を守ればいいのでしょうか?」
村長が聞いてくる。
「今から、沢山の質問をさせていただきます。そこから導き出しましょう。テラスもビビも協力してくれ。」
「うん、モチロン!」
「はい。」
聞きたい事は沢山ある。一つ一つ対応していこう。




