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挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
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7-4 ウィズ大森林その4


朝になり、日課の鍛練を行う。今回から、ビビは柔の型を重点においた。折角のしなやかな間接をもっているのだ。ビビは苦手なものだが、戦力増強になるのは間違いない。


柔の最大の要所は、相手の重心を知り、それを崩す事にある。理想は相手の力を利用して、自分の力に変換するのだが、これがなかなかに難しい。


ビビは俺を練習相手に、柔の動きをするが、うまく変換が出来ていないのが現状だ。


ビビの特筆は、剛にあり、それを伸ばしてきた。だが、この剛にも限界が訪れる。その特筆する剛を伸ばす為にも、柔の動きは必要不可欠だ。


柔の投げは、柔道ではなく、合気道に似ている。護身だからか、相手の力を上手く利用しないと成立しない。


ビビの脚の動きは良い筋をしているが、身体全体の動き、連動がちぐはぐしているからであろう。


こればかりは、反復練習しかない。


相手の動きを読み、流れを相手に合わせ、その流れを自分に寄せる。これが柔の基本になる。


繰り返す柔の動き。ビビは汗だくになりながらも、根をあげずに頑張っている。


終了する少しだけ前には、気の運用も忘れない。身体全体に行き渡らせ、気を密にする。力の底上げに繋がるからだ。


呼吸を整え、朝の鍛練を終了する。だいたい二時間はこの鍛練を続けている。


「不思議な動きをするのだな。」

「ダリ爺。」

「おはようございます、ダリさん。」


鍛練終了と同時に、狼人のダリが声をかけてきた。


「その武術がソーイチの強さか?」

「そうです。」


ビビが答える。正確には護身なのだが、これは言わなくても良いだろう。こだわりがある訳ではない。


「どれ、儂にも一本お願いしようか。のう、ソーイチよ。」

「えっと。」

「なに、軽い手合わせじゃ。大した事ではない。」

「では。」


流石、戦闘民族。俺達の鍛練で興味が沸いたのだろう。


今回は無手(素手)同士。ダリが独特な構えをする。右手を高く上げ、左手は下に下げる。姿勢は低く、重心も低くし、安定感を出す。


俺は左側を前に出す構えをする。手は急所を塞ぎ、隙を与えない。


ダリが攻撃をする。右手の爪が俺を襲う。だが、その攻撃は直線的であり、簡単にかわせる。流の動きでスライドして、相手の横懐に入り込み、ダリの右手を掴み、相手の突進力を利用して、重心を崩し、投げる。


ダリとしては、いつの間にかに倒れている、といった感じだろうか。寝ながら天を見上げる。


「大丈夫ですか?」

「ああ。問題ない。」


力は極力使わなかったから、ダリのダメージも少ないだろう。すぐに立ち上がり、こちらを見る。


「ふむ、不思議な技じゃ。」


感心するダリ。ビビもこの柔の動きをよく見ていたのか、目が輝いていた。


「もう一本、と言いたいが、時間じゃな。朝飯にしよう。」

「その前に汗を流しても良いですか?」

「構わんよ。近くに川が流れているから、そこで流すが良い。」

「わかりました。ビビ、行こうか。」

「はい。」


俺はビビの案内で、川に向かった。


川に着いたが、川は使わない。人気もないし、そのまま居住地区に入り、小屋の風呂を使う。


いつもならば、四人で入っているのだが、今回は二人きり。ビビも意識したのか、顔を赤くしていた。


だが、このまま汗を流しただけにした。抜け駆けはテラスが怒りそうだからだ。


汗を流し、ダリの家に戻ると、膨れ顔のテラスがいた。


「ずーるーいー!」

「まあまあ。」


テラスの怒り方が可愛いからか、怖さはない。マリアもクスクスと笑いながらテラスを宥めていた。


「さて、ご飯をいただこうか。」


とはいえ、朝から肉の塊は勘弁したかったが、流石に狼人。肉の塊が出てきた。


テラスとマリアは無理そうだったので、無限保管からパンと果物をそっと渡す。失礼かとも思ったが、ダリ達は気にしていないようだ。それよりも、


「何処から食料を出したんだ?」


という、質問があったので、魔法の鞄を持っている、と説明し、事なきを得た。


「さてと。」

「私達も。」


ガリ、テテ、ササが立ち上がり、狩りの準備を始めた。ダリも同じだ。


「ソーイチ様。私も構いませんか?」

「良いよ。行っておいで。」


ビビも狩りがしたいのだろう。一宿の恩もある。ビビの実力ならば、大抵は大丈夫だ。


「では、行ってまいります。」


ビビは足早に家を出ていった。


さて、俺達はどうするか。この村を観光でもするか?いや、何もないだろうな。ビビの帰りを待つ事にしよう。


「ソーイチ!おふろ!」


テラスのお怒りはまだまだ続いていた。仕方ないので、出かけるフリをして、居住地区に入り、風呂の準備をした。







村を散歩する。昼間は比較的人数が少なく、子供は槍や弓の訓練をしていて、老人がそれを指導していた。


まだまだ子供だが、性別問わずに武器を持ち、自分の糧にしていた。


「この子達が大きくなったら、狩りをしなければならないからな。教えは必要さ。」


老人の狼人が言う。これも教育の一環なのだろう。生活をするために狩りをする。これがこの村での常識なのだろう。


子供達は真剣に槍を振るい、弓を射る。遊びも含まれているから、尚更子供達はしっかりと鍛練に励む。


「あ!兄ちゃんだ!」

「お姉ちゃんもいるぞ!」


子供達が俺達に群がる。手製の槍と弓を見せては、自慢をする。


「兄ちゃんもやってみてよ!」


この一言に、老人が目を光らせた。


「後学に良いかもな。ほれ。」


投げ渡される槍を受けとる。子供達が俺の槍捌きが見たいのか、回りに群がった。


離れるように促し、円を作る。


さて、どうするか。


とはいえ、あまり手抜きをすると、子供達が失望するかもしれない。だが、本気は出せない。力加減が難しい。


なので、薙ぎと突きを見せる事にした。


流の動きからの薙ぎ。空気が切れるような音を出し、風を生む。

剛の震脚からの突き。空気が破裂したような音を出す。


格好をつける訳でもなく、地味な動作だが、音と風が効果を生んだ。


「兄ちゃん!スゲー!」

「どうやったらそんな音が出るの?」

「風が吹いたぞ!凄い!」


子供達が喜んだので、とりあえずは目的は達成した。


「良い突きじゃの。」

「いえいえ、まだまだですよ。」


槍を老人に返す。優しい笑みだが、目は笑っていない。


「このように上を目指せば出来るのだ。頑張れよ。」

「うん!頑張る!」

「俺も音を出す!」

「俺は風を切りたい!」


だしに使われたが、まあいい。


「儂が若かったら、挑みたい位の実力だな。」


俺の側で口を開く老人。流石戦闘民族。老いてもなお盛んという訳だ。


子供達が槍と弓を嗜んでいる横では、青年達が組手をしていた。お互い無手の組手。爪は出してはいないようだ。危険だからか?


ボクシングのようなグローブもしない本当の無手に、組手は危険な行為ではあるだろう。だから青年しかしていないみたいだ。


青年達は子供達みたいに群がる事はなかったが、視線は感じていた。さっきの槍使いが気になったからであろう。


ここにも戦闘民族の血が騒いだか。


だからといって、余計な事はせずに、その組手を傍観した。


ビビもそうだが、狼人の特徴は、脚力からの瞬発力だ。一瞬で相手の懐に飛び込む速さは流石と言いたい。爪も必殺の武器であろう。槍や弓がなくなっても、身体があれば闘える事を前提にしているかのようだ。


成人したら、狩りを教わるとも聞いた。昨日ダリが連れていた若者は、その狩りを習っていた途中だったようだ。今日もダリは若者を連れて狩りを教えているようだ。


狩りが主な生活基盤の村だ。その教えは必要だろう。


そう考えると、ビビはかなりの特別な存在だろう。小さい時から村から離れ、一人で生きていたからだ。たまにこの村に顔を出していた事を聞いたが、それでも、新たな群れに入る事はなかった。


ダリもビビの事は娘のように慕っていたようで、色々とフォローをしていたようだ。確かに、一人では森では生きられない。ビビが狩りの天才だとしても、だ。


村でビビの事を聞くと、同情するような言葉が返ってくる。それだけビビの人生は辛いものだったのだろう。


父母を亡くし、故郷で迫害され、一人で森で生きた。それだけで大変な思いだったのだろう。


だが、生きているのは、ビビ自身が望んでいるからだ。死ぬ選択をしなかった心の強さだ。だから今があるのだ。


「誰もが大変なのはわかるわ。でも、ビビさんの境遇は酷いわね。」

「駄目だよ、マリア。それはビビに失礼だ。」

「そ、そうね。ごめんなさい。」


今を精一杯生きているビビは、目標を持ち、希望を持っている。それが生きる糧になっている。それをけなす事は誰もしてはいけない。


俺達は、ビビがどう生きていたかを知っている者達に聞きまくった。







「ただいま戻りました。」


ビビが大蛇を担ぎ、戻ってきた。その見事な成果に皆が喜ぶ。処理場には村の人々が群がる。俺とマリアがその大蛇を切り分け、皆に分配する。肝は薬になるので、薬師の人に渡し、活用をしてもらう。


「皆喜んでいるな。」

「はい。幸運でした。」


満足そうなのビビは笑顔だ。そう。俺はこの笑顔を守りたいから、ビビと一緒にいるのだ。


腰に鳥が二羽引っ掻けてあり、これも成果のようだ。鳥が好きなビビにはご馳走だろう。


「今日も豪勢になるな。」


ダリも成果をあげたようだ。兎を狩ったようだ。かなりの大きさだ。


「皮はガウスで売れるからな。貴重な塩が手に入る。」


処理場でダリが話す。若者達も満足そうだ。この村は、狩りの成果を糧に、ガウスの街で必要な物を買っているようだ。


「さて、ガリ達はどうかな?」

「おう!大成果だぜ!」


大熊を担ぎ、ダリ達が戻ってきた。次々と成果を持ってくる人達。今日は村で一番の成果量のようだ。


このまま、村の広場で大宴会となった。


肉は一部分だけにし、先ずはモツを食べるようだ。しっかりと下処理をしたモツを大鍋で煮る。味付けは、何やら変わった木の実を磨り潰して入れていた。


臭みを飛ばすための香辛料であった。生姜に近いか。それに辛めだ。


村の人々は、思い思いにもつ鍋を食べ始める。その勢いは、激流の川のようだ。


テラスは果物を、マリアはパンと少量のもつ鍋を食べる。二人にはこのもつ鍋は厳しいようだ。


楽しい宴会に、俺は心が踊った。酒はないが、それでも楽しい宴会だった。


「そういえば、人が足りませんね。ガガの姿が見えません。ククにニニもいませんね。」


このビビの言葉に、隣にいたダリとガリが固まる。険しい表情になり、下にうつ向く。


「ガガは死んだよ。殺された。」


この予想外の言葉に、ビビが動揺する。


「な、何故です?殺された?一体誰に?」

「・・・、ゲルマだ。」


ビビの故郷の長であるゲルマの名前が出て、ビビは驚愕した。


「ククとニニは、連れ去られた。これもゲルマにだ。」


更に驚愕し、身体を震わせるビビ。俺はダリに話を聞く。


「どういう事ですか?」

「・・・、聞かん方が良い時もある。」

「いえ、ビビの気持ちを考えたら、それは無理な話です。」

「・・・、こっちに来い。」


皆を連れて、ダリの家にあがる。囲炉裏に火をつけて、暖をとる。


家にはダリとガリがいる。テテとササは子供達を寝かしつけるようだ。


「ゲルマがこの村を襲撃したのだ。」


この言葉から、話は始まった。



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