2-8 クコ村での日々
匂いがする。花のような甘い香り。葉の薫り。魚が焼ける匂い。
音が聴こえる。パチパチという音。
左腕が暖かく、柔らかい。
俺は薄目を開ける。陽射しが目に入る。多少の眩しさを感じるが、すぐに馴れた。日の出から少しだけたったのだろう。俺は目を覚ます。
テラスは左腕に抱き締めながら寝息をたてている。その拘束を優しくほどき、上体を起こす。カサカサという感触を感じ回りを見る。柔らかい樹葉の上で寝ていたようだ。衝立が左右にあり、風避けになっていたようだ。焚き火の熱が温かい。
コートが捲れ、俺の上半身が裸なのにようやく気が付いた。
風呂の後の記憶が無い。
コートをおそるおそる捲る、うん、真っ裸だ。
朝の息子は元気のようだ。
「おはようございます、ソーイチ様。」
ビビが声をかける。慌てて下半身を隠す。
乙女か!
ビビは俺の挙動を気にする様子もなく、
「魚もそろそろ焼けますので、テラス様を起こしていただけませんか?」
と言って、串に刺した魚の焼き加減を確認する。
ビビの行動になんとなく、やるせなさを感じた。リアクション後にスルーされた時の空気感を感じる。
それはともかく、髪を撫で、頬を擽る。柔らかい感触を楽しみながら、テラスを起こす。
「おはよう。」
薄目を開け、俺を見て微笑み、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「お、おは、おはよ!」
テラスは俯きながら徐々に俺から離れ、ビビのいる焚き火に行ってしまった。
ん?
テラスの行動に疑問を残しながら、衝立に掛かっていた服を着て、二人の所に向かう。
テラスの隣に座ると、ゆっくりと離れてしまう。
あれ?
「お、お魚さん焼けたよね?食べよ!ね!」
「はい、焼けました。ソーイチ様、どうぞ。」
ビビが手渡してくれる。テラスも受けとり、
「「「いただきます。」」」
魚を食べる。
魚はこの前、村の入り口で食べた鮭みたいな大きめの魚だ。身は白身で味は淡白。鮎を大きくした感じだろうか。塩も使い、美味しいのだが、一味足りないのは何故だろう?
黙々と食べるビビ。
顔を赤らめながら、チビチビ食べるテラス。
何故だろう、無言の時間が辛い。
「なあ、テラス?どうした?」
「え?何??」
「様子が変だぞ。」
「そ、そんな事ないよ?」
耳まで赤い。
「大丈夫か?」
「あ、うん、大丈夫、何でもないよ?」
挙動不審すぎる。
「テラス様、どうされたのですか?いつもソーイチ様のお隣にいらっしゃるではないですか?」
ビビも参加してきた。
「何かテラスが隣にいないと、寂しいんだけど?」
俺も追従する。
「あ、あのね、は、恥ずかしいの・・・」
「?何が?」
俺は首を傾げる。
「ソーイチのね、裸をね、見ちゃったらね、何かね、恥ずかしいの。」
身体中真っ赤にしてる。頭から湯気が出そうだ。
何故!?意味がわからない。
俺は風呂で意識を失ったあと、二人に介抱された。土手に柔らかな樹葉を敷き詰めて、衝立を置き、ビビが俺を抱えて寝かせてくれたようだ。確かに、ビビなら俺を抱えるのは簡単だろう。
その時に、テラスが俺の裸を見て、恥ずかしいのだそうだ。
俺が恥ずかしいのはわかるが、何故テラスが恥ずかしい?
「でも、隣で寝ていたのは?」
「あれは、ソーイチが寒くならないようにと思って・・・。」
ゴニョゴニョと小声で何かを言っている。するとビビが、ボソボソとテラスに耳打ちする。
「そうなの?」
驚いたように言うテラス。
「そうですよ。」
頷くビビ。
テラスは俯いたままだが、俺の隣に座り寄り添って来た。
俺は頭を撫でる。
「うん、落ち着く。」
テラスに微笑む。
「エヘヘ。」
テラスは顔を真っ赤にしながらも、俺を見て笑ってくれた。その光景を見ているビビは、幸せな微笑みをしていた。
いつもの優しい雰囲気が戻ると、魚が美味しく感じた。
因みに、テラスや俺が残した骨は、ビビが美味しくいただきました。
★
腹も膨れたし、俺は今日の作業に入る。
ビビに行動を聞くと、
「今日も森に入ろうと思います。まだ、危険な獣が近くにいると思いますので。」
「うん、わかった。だが、気を付けるんだぞ。あと、日の入り迄に、村の入り口に集合しよう。」
「はい、わかりました。」
そういうと、ビビは森に入っていった。
さて、俺もやりますか。
今日の俺は工作をする。
無限保管に入れてある大石の1つを出す。
2つに割り、下部は円柱形に山を付けた形に。上部は円柱形に逆山を造る。
真ん中に穴を開け、両方の山面に、放射状に軽く溝を掘る。
上部の石の端近くに穴を貫通させる。
山面を合わせて、真ん中に加工した木をピッタリと入れる。
上部の端に半分位まで穴を開け、加工した木を嵌め込む。
ぐるぐる回し、確認する。
「石臼」
完成。
次にいこう。
もう1つの巨石を無限保管から出す。
2つに割り、こんどはローラーのような円柱形を2つ造る。
真ん中に穴を開け、加工した木を嵌め込む。
流し打ちや受け皿を造る。
太目の柱や脚等を造る。
歯車を黒石で造る。
全部を組み合わせる。
石に連動するハンドルを回し、確認する。
「万力搾り機」
完成。
かなり早く出来た。普通なら、1つでも2、3日はかかるのに、これはチートのお蔭だろう。
2つは無限保管にしまう。
テラスが暇そうにしていたので、両方の腕を広げ、ハグを誘う。
微笑みながら胸に寄り添い、頭をスリスリしてきた。
軽く抱き締め、心に平穏を貰う。
そういえば、櫛を造ったっけ。
無限保管から櫛を出し、テラスの髪を透く。
あれ?この櫛、こんなに滑らかだったか?
まだまだ時間はあるので、テラスと散歩する事にした。
テラスは森に指を指すので、お姫さまダッコをする。かなり顔を赤らめていたが、気にしない事にした。
テラスが指定する場所には、何かがあるので楽しみだ。
俺は心を踊らせながら、その場所に向かう。
途中、巨大獣が何匹かいたので、指弾で倒し無限保管に入れる。
着いた場所には、お化け枝豆があった。かなりデカイ。一房2メートル位はありそうだ。中身の豆も同様にデカイ。大豆は育てやすい植物だが、こんなにでかいと土の栄養はどうなってるのか考えていると、樹豚がいた。
指弾!よしゲット!今度また皆で食べよう。
枝豆を無限保管に入れる。食糧は結構たまってきたが、道具がまだ足りないか?明日は道具を造ろう。木も少しだけ伐採して、無限保管にいれた。
時間も良い感じになったので、村の入り口に戻る。ビビがいた。
「おかえりなさいませ、ソーイチ様、テラス様。」
「ただいま、ビビ。」
「ただいま!」
今回ビビが狩ったのは、巨大蛇だった。全長は10メートル以上、太さもかなりある。ビビの狩り力には驚きを隠せない。
「この蛇の胆は、万能薬になります。村の方も喜ぶと思います。」
それとは別に、ビビは鳥を2羽手にしていた。
「それは?」
「はい、戻る途中見かけたので、石を投げて捕まえました。」
どんだけだよ。
「今夜の食事にしましょう。」
ビビが笑っている。多分、好物なのだろう。鳥を受け取り、無限保管に入れる。
村人は、蛇に驚いていたが、喜んで村の中に運んでいた。
やっぱりここの村人は逞しい。
俺は感嘆しながら、河原の方へ向かった。
★
鳥を焼いている間に、小屋を造ることにした。
丸太を噛み合う様に加工し積み重ね、杭を打つ。
ただそれだけだ。
雨風凌げればいいだけなので、工法は無視した。
殆んど完成する頃に、ビビから声がかかる。焼けたようだ。
鳥はかなり旨かった。岩塩様々である。やはり調味料はしっかりと揃えたい。そしてビビがすごい勢いで食べていたのに圧倒された。尻尾が吹き飛ぶ位振っていた。
そして、気が付いた事。無限保管にいれた物は、上物になるという事。
物によって効果は様々だが、食べ物は美味しく、道具はより使いやすくなっていた。テラスに聞くと、
「テラス様のお蔭だと思う。」
だそうだ。どんだけだよ。と心でツッコミをいれる。
無限保管は俺の世界と同義で、白テラスもいる。まあ、副作用か?と無理やり納得した。
食後に完成させた小屋は、一度無限保管に入れて出した。これで強度は大丈夫だろう。
さて、問題の時間です。
「今日は御二人でどうぞ。」
「なんで!一緒にはいろ!」
「先にソーイチ様が入って下さい。」
「いやいや、俺が入ると、二人とも入ってくるだろ?」
「私は後で構いません。」
「なんで?ビビも一緒に入るの!」
「テラスは俺の裸を見て恥ずかしいんだろ?」
「恥ずかしいけど、違うの。一緒に入るの!」
「違うって何が?」
「いいの!入るの!」
「恥ずかしいのは、愛があるからと伝えたからです。」
「ちょ!?ビビ?やだ言わないで!」
風呂問題。中々に解決しない。
収拾つかないし、本音を言うか?
「二人の魅力に当てられるから、別々に入ろう?」
間違っていない。
「それはソーイチの事でしょ?」
「私は魅力などないと思いますが。」
勘弁してくれ。
創造で服の増殖が出来なかったのがイタイ。つまり、創造は増殖が出来ない事を意味する。木綿の時の考えは間違っていたようだが、自分のチートは少しずつでも理解していけばいい。今後、布が手に入ったら、湯衣を造ろう。
妥協案。
背合わせで入る事になりました。
ビビはともかく、テラスの密着感が俺を荒ぶらせようとするが、何とか抑えることが出来た。




