2-7 努力と幸せと
部屋に窓はないが、外から聞こえる鐘の音で、目を覚ます。鐘の音は、日の出の合図だ。
村には街灯とかないので、日が落ちたら月明かりはあるものの真っ暗になる為に、外での行動に制限がかかる。
外の仕事は日中に、日没後は室内で道具などの手入れ等を行っている。
夜間は4人の2人交代で見張りをしている。
さて、目を覚ました俺の左腕が暖かい。やわらかい感触も感じる。相変わらず、テラスは腕を抱きしめて、寝息をたてている。裸で。
ゆっくりと抱きつきを外す。どことは言わないが、少し触ってしまうのは不可抗力だ。
体を起こし、背を伸ばす。
顔を横に向けると、ビビがベットに座り、こちらを見ていた。
「あ、おはよう。早いね。」
「おはよう、ございます。」
挨拶を交わす。ビビは律儀にも、俺の目覚めを待っていたようだ。
「体の調子はどうだい?痛い所とかは?」
「はい、大丈夫です。」
まぁ、テラスの癒しもあったし、怪我はないだろう。最後の投げはやり過ぎたような気はするが。
「介抱までしていただいて、ありがとうございます。」
ビビは頭を下げ、礼を言う。
「どういたしまして。」
俺は微笑んでしまった。
目の前にいるのは村長から聞いた、残虐で恐怖の対象ではない。義を知り、礼を知る、素晴らしい女性だ。
頭を上げ、こちらを見つめるビビ。
折角だ。ゆっくりと話をするか。
俺は、このクコ村に来た経緯、〈転移とかは黙っている〉を話し、ビビ自信の事を聞いた。
牙狼族のビビ。
東にある大山脈を越えたウィズ大森林から来たと言う。
「大陸中央に存在するフィファリール山脈の竜路を抜けて、西大陸に入りました。その際、ドラゴンロードにいたドワーフを助けて、この黒鋼の長槍を貰いました。」
おぉ、ドワーフ!!この世界にいたか!それに黒鋼も気になる。
ドワーフ。
言わずと知れた、ファンタジーの常連。山の精霊、低身長で力持ち、鍛冶に長けた種族。俺にとっては、是非とも会いたい種族だ。
黒鋼の長槍も気になるので、見せてもらった。
正直、落胆した。駄物とはまでは言わないが、出来が悪い。重心も悪く歪みがあり、焼きなましをおこしている。鋳造管理を失敗したのだろう。表面荒れが証拠だ。研磨で誤魔化しているが、その研磨も手抜きにしか思えない。ビビは満足しているが、ドワーフからも、ガラクタだがそこいらのよりはマシだろう、と言っていたと教えてくれた。
その言葉に俺は安堵した。ドワーフの鍛治技術、期待が膨らむ。
ドワーフの場所を聞くと、東にあるゴズロ山の麓に自治区があり、ケルト侯爵納める、ケルト市から入区許可証を受けとり、自治区に入れると言う。
すんなりとはいかないか。
ケルト市は、クコ村の南東にあり、距離も徒歩で15日程だと言う。
距離はあるが関係ないな。チート使えばすぐに着くし、無限保管があれば、食糧とかも何とかなる。
よし、次はケルト経由ドワーフ自治区に行こう。
目的地を決めた俺は、テラスを起こし、村長達に朝の挨拶をした。
★
目的地は決まったが、まだクコ村からは出ない。やる事は一杯ある。
このまま放置すれば、いずれこの村は無くなる。理由は沢山ある。そして村がなくなれば、間違いなくクコ村の人達は死ぬだろう。そんな結末は嫌だ。
そんな訳で、村滅亡ルートを避ける為に、頑張ろうと俺は思う。が、チートは殆ど使わないと決めた。
何事も立ち上げは苦難の連続だ。そして苦難は努力で越えなければ、更なる苦難に対抗する事は出来ない。
俺はそれを身を持って知っている。
それに俺達は近い内に村から出るのだ。俺抜きでこの難局を乗り越えてもらわなければならない。
そして、俺は考える。俺が出来る事を考える。
★
「ビビはこれからどうするんだ?」
俺はビビに今後の行動を聞いた。
「私は、ソーイチ様と村の方々に恩を返したいです。」
なるほど、殊勝だな。
「なら、森に入って村に危害を加えそうな害獣を倒してくれないか?俺は別の事をしたいんだ。」
「わかりました。倒した獣はどうすれば良いですか?」
「持って帰れたら、村の入り口に置いて門番に話せば、勝手にしてくれるよ。周りだけで良いから、無理はしないように。」
「はい、わかりました。」
ビビは頷くと、足早に森に入って行った。
ビビは単身で森に入っていったが、大丈夫だろう。村人の話では、狼人は獣人の中でも一騎当千の強者との事だし、狩人なら知識もあるだろう。
さて、
「俺は森に入るけど、テラスはお留守番するか?」
「しないよ。ソーイチと一緒に行く。」
「ですよね。」
まぁ想定内。どうしようか・・・。
「また、ダッコで移動だけど、大丈夫か?」
「あまり速くなければ大丈夫。あと、怖かったのは着地の時だからね!」
ちょっと震えている。唇を噛み締めている表情が可愛い。
「今回は、そんなに速くしないし、多分跳ばないから大丈夫。」
俺はテラスをお姫さまダッコする。テラスは俺の首に腕を巻き付け抱き締める。
「さて、行くか。」
俺達は森に入って行った。
★
走った!跳んだ!駆け登った!
テラスに怒られた。
駆け足程度だったんだが、テラスにはかなりの速度だったらしい。
森に入って数刻、山々を走り廻った。
途中で巨大な獣を何体か見つけて、黒石の指弾で倒し、無限保管に突っ込んでいる。
この世界の獣はデカイ。まあ、見たこと無いものもいたが、この際関係ない。有り難く食料にさせてもらおう。
俺達は目的物を探しに森に入っていた。
それは、村の武器になる作物だ。
木綿。
村には、布が少ない。村人の話でも、王国でも布は貴重品、もしくは高級品だという。
なら、木綿は武器になる。
作付けして、大量に作れたら、それだけで一財産になる。時間はかかるが、永代的に続けられるのは強みだ。
だが、綿の木が無い。時期的に、開いてないのか?
樹木綿も考えたが、手間隙考えると、綿の方が良い。
「ないなあ。」
一株でもあれば、創造で増殖するんだが。
着ている服を増殖させるのは、永代的ではないので却下だ。作付け出来なければ意味がない。
「よし、テラスはどっちが良いと思う?」
困った時のテラス頼り。二人いるんだし、テラスの意見も聞こう。
「ん~、・・・、あっち!」
それは村から北にある山だった。確かに行ってないが、ちょっと遠い。
「ん~、跳んでいい?」
「良いよ。でも、着地は気をつけてね。」
「ああ、大丈夫。さて、跳ぶぞ。」
俺は跳躍し、二段跳躍を連続させ、目的地に向かう。ものの数分で着いてしまう。チートスゲェパネェ!
降りるのは、階段をイメージした。歩き降りるようにすれば恐怖はないだろう。
テラスに頭を撫でられた。
さて、目的地だがあるかな?
探してみたが、無かった。
テラスなら、と思ったが見つからないのは仕方ない。
結構、日も落ちてきた。そろそろ帰るか。
「ねえ、ソーイチ。あれ面白い。」
「ん、なに?」
「木の枝が地面に刺さっているみたい。」
テラスの指差す方を見る。
確かに、枝が刺さっているみたいに見える。3メートル位の枝が群生しているそれは、見覚えのあるものだった。
「まさかね?」
俺はその枝を切り、樹液を舐める。
「!!!」
「どうしたの?」
テラスが覗きこむ。
「あはははは!!スゲェ!流石テラスだ!」
俺はテラスを抱き締めた。
俺の予想の上をいっている。これならいける!
「苦しいよ。でもこれ、綿じゃないよ?」
「いや、木綿以上だ!流石テラス!」
「偉い?ご褒美くれる?」
「良いよ!何でもあげる!あ、エッチなのは抜きで。」
またキスとかだと、襲ってしまう。今はまだ早い。
「んじゃあ、沐浴したい。」
際どいがセーフだ。
「一緒に!」
アウトー!!
「あのね、テラスさん?」
「沐浴はエッチじゃないよ?」
「いやいや、肌を見せるだろ?」
「ソーイチに見られるのは、エッチじゃないよ?」
「あのね・・・」
「ダメ?」
・・・上目遣いは反則です。
「・・・わかった・・・」
「やったー!絶対だよ!」
我慢出来るかな、俺・・・。
★
その枝を根こそぎ根から掘りあげる。結構な量だったが、時間はかからなかった。そのまま無限保管に入れる。必要材料はまだあるが、さまよった時に見つけていたので、苦労はない。
白い巨石と、1メートル位の大石を二個を無限保管に入れる。あと、岩塩も見つけたのでそれも無限保管に突っ込んだ。チート最高っです!
一度村へ戻ると、ビビが3メートル程の巨大猪を村入り口に置いていた。
槍使いが猪に勝つとか。戦闘民族だな。
「おかえりなさい、ソーイチ様、テラス様。」
「ただいま、ビビ。」
「ビビ!ただいま!」
「すごい獲物だな。」
「はい、皆さんに喜んでいただけるよう、頑張りました。」
猪は脳天にだけ傷があり、あとは綺麗なものだった。
村人は嬉々となり、猪を十数人で運び込む。クコ村長には節約してもらうようにお願いと、食器を借り、今日は河原で一夜を明かすと伝えた。
クコ村長は寂しそうだったが、男には何も惹かれないので気にしない。
「私も御一緒しても宜しいでしょうか?」
ビビが訪ねる。
ビビも頑張ったのだろう。身体中ボロボロだ。さいわい怪我はしていないし、ちょうど良いので誘った。
「ありがとうございます。」
ビビは微笑んだ。
さて、もうひと頑張りしますか。
★
河原に着き、すぐさま火を炊く。
河の近場に深めの穴を開ける。掘る動作に集中と開放を使えばすぐに掘れた。ビビはこの行動に驚いていたが、説明せずにほっといた。
上流と下流に繋がるように路を作り、穴に水を溜める。
砂を流す為しばらく放置、その間に肉を焼こう。
狩った獣で1体選ぶ。豚を選んだ。
黒石ナイフで捌き、モツは河で洗い無限保管へ。血抜きは、そのまま無限保管に吸い上げた。
チート最高!
ビビがいうには、樹豚で捕まえにくい獲物とか。肉は美味しいとの事で、漫画みたいに棒を刺し、丸焼きにした。
ビビに料理番をお願いしたら、
「お任せ下さい!最高の焼き加減にしてみせます!」
見えない目を輝かせて言ってくれた。頼もしい。
テラスもビビの側でくつろいでいる。
俺は、近くの森から木を黒石ナイフで伐採して加工する。集中を使うと簡単に伐採出来るから大変助かる。時間がないからチートでサクッと加工して、衝立を造り、穴の側に立てる。
余った木材で、櫛を造る。素木なので滑りは悪いかもしれないが、無限保管にしまっておく。
河から来る水を塞き止める。
俺は薪に火を付ける。
水溜まりに手をあて、火を道具に掌握、創造、火を水溜まりに突っ込んだ。水溜まりから湯気がたつ。
「風呂」
完成。
やることが非常識だが、ここでは関係ない。風呂に入れるのは嬉しいからだ。
肉が焼けたので、食べよう。あ、岩塩も使おう。
肉を切り分け、
「「「いただきます。」」」
俺とテラスが食べる。
「うっま!!」
「美味しい!」
滅茶苦茶旨いぞ!塩をかけて更に旨い。
ビビは食べずに肉を見ている。
ん?どうしたんだろう?
「食べな。旨いぞ!」
「はい!」
ビビは大口を開け、頬張った。口元が緩んでいる。
「旨いよ、焼き加減も最高だ!」
「はい!上手に焼けて喜んでいただいて良かったです。私もこんなに美味しい肉を食べたのは初めてです!」
ビビのテンションが上がっている。尻尾がブンブンと振っていた。
「しっかり食べよう。」
「うん!」
「はい!」
綺麗に全部食べました。半分以上はビビが食べた。俺達がお腹が一杯になってからが本番らしく、勢いが凄かった。
腹も膨れたし風呂だが、やっぱりテラスは
「一緒に入る!約束!」
と言って入る事になったが、
「ビビも一緒に入ろ。」
テラスがビビを誘っている。
おいっ!最高か!違う、そうじゃない。
「御二人がよろしければ、構いませんが?」
拒否しないんだ・・・。
何故か俺が一番風呂でないといけないらしく、衝立に服を掛け風呂に入る。
「風呂、サイコー。」
くつろぐと、俺の両側から二人が入ってきた。
「気持ちいい~。」
「これが風呂ですか。とても良い物ですね。」
二人がくつろぐ。
俺は固まってしまった。目線が動かせない。動かしたらヤバイ。
「気持ちいいね、ソーイチ!」
テラスが俺の左腕にもたれ掛かる。度々当たる柔らかいものが、俺の理性を壊しにかかる。
「はぁ~・・・」
ビビも艶っぽい声を出す。
「ビビって、やっぱりお胸が大きいよね。羨ましい。」
知ってる。
「そんな事ありません。テラス様のお肌の美しさは憧れます。」
それも知ってる。
「せっかくだから、顔を洗ったら?狩りや料理で汚れちゃってるよ?」
「そうですね。」
パシャパシャと水音を出し、顔を洗う。
「わ?!ビビ!美人!」
何?!
俺はおもむろにビビを見る!
美人だ!
少しつり上がっているが、その大きな瞳。スッとした鼻、少し大きめの口、整った顔は間違いなく美人だ!
そして、見事な双丘も目に入り、固まってしまった。
「?」
ビビは首を傾げている。
ゆっくり目線を反らし、反対を向くと、テラスが立っていた。
あ・・・。
はい、全部見えました。とても御綺麗です。
もう無理。
「どうしたの?ソーイチ?」
「ソーイチ様?」
二人の魅力にあてられたのか?のぼせたのか?俺はわからないまま目を閉じた。
「ソーイチ!大丈夫?ソーイチ!」
「ソーイチ様?ソーイチ様!」
天国なのか地獄なのか、二人の幸せな感触を感じながら、俺は意識を失ってしまった。




