表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
挙止進進に異世界旅譚  作者: すみつぼ
11/150

2-7 努力と幸せと


 部屋に窓はないが、外から聞こえる鐘の音で、目を覚ます。鐘の音は、日の出の合図だ。

 村には街灯とかないので、日が落ちたら月明かりはあるものの真っ暗になる為に、外での行動に制限がかかる。

 外の仕事は日中に、日没後は室内で道具などの手入れ等を行っている。

 夜間は4人の2人交代で見張りをしている。


 さて、目を覚ました俺の左腕が暖かい。やわらかい感触も感じる。相変わらず、テラスは腕を抱きしめて、寝息をたてている。裸で。

 ゆっくりと抱きつきを外す。どことは言わないが、少し触ってしまうのは不可抗力だ。


 体を起こし、背を伸ばす。


 顔を横に向けると、ビビがベットに座り、こちらを見ていた。


「あ、おはよう。早いね。」

「おはよう、ございます。」


 挨拶を交わす。ビビは律儀にも、俺の目覚めを待っていたようだ。


「体の調子はどうだい?痛い所とかは?」

「はい、大丈夫です。」


 まぁ、テラスの癒しもあったし、怪我はないだろう。最後の投げはやり過ぎたような気はするが。


「介抱までしていただいて、ありがとうございます。」


 ビビは頭を下げ、礼を言う。


「どういたしまして。」


 俺は微笑んでしまった。


 目の前にいるのは村長から聞いた、残虐で恐怖の対象ではない。義を知り、礼を知る、素晴らしい女性だ。


 頭を上げ、こちらを見つめるビビ。


 折角だ。ゆっくりと話をするか。


 俺は、このクコ村に来た経緯、〈転移とかは黙っている〉を話し、ビビ自信の事を聞いた。


 牙狼族のビビ。


 東にある大山脈を越えたウィズ大森林から来たと言う。

「大陸中央に存在するフィファリール山脈の竜路(ドラゴンロード)を抜けて、西大陸に入りました。その際、ドラゴンロードにいたドワーフを助けて、この黒鋼の長槍を貰いました。」


 


 おぉ、ドワーフ!!この世界にいたか!それに黒鋼も気になる。


 ドワーフ。

 言わずと知れた、ファンタジーの常連。山の精霊、低身長で力持ち、鍛冶に長けた種族。俺にとっては、是非とも会いたい種族だ。


 黒鋼の長槍も気になるので、見せてもらった。


 正直、落胆した。駄物とはまでは言わないが、出来が悪い。重心も悪く歪みがあり、焼きなましをおこしている。鋳造管理を失敗したのだろう。表面荒れが証拠だ。研磨で誤魔化しているが、その研磨も手抜きにしか思えない。ビビは満足しているが、ドワーフからも、ガラクタだがそこいらのよりはマシだろう、と言っていたと教えてくれた。


 その言葉に俺は安堵した。ドワーフの鍛治技術、期待が膨らむ。


 ドワーフの場所を聞くと、東にあるゴズロ山の麓に自治区があり、ケルト侯爵納める、ケルト市から入区許可証を受けとり、自治区に入れると言う。


 すんなりとはいかないか。


 ケルト市は、クコ村の南東にあり、距離も徒歩で15日程だと言う。


 距離はあるが関係ないな。チート使えばすぐに着くし、無限保管があれば、食糧とかも何とかなる。


 よし、次はケルト経由ドワーフ自治区に行こう。


 目的地を決めた俺は、テラスを起こし、村長達に朝の挨拶をした。







 目的地は決まったが、まだクコ村からは出ない。やる事は一杯ある。


 このまま放置すれば、いずれこの村は無くなる。理由は沢山ある。そして村がなくなれば、間違いなくクコ村の人達は死ぬだろう。そんな結末は嫌だ。


 そんな訳で、村滅亡ルートを避ける為に、頑張ろうと俺は思う。が、チートは殆ど使わないと決めた。


 何事も立ち上げは苦難の連続だ。そして苦難は努力で越えなければ、更なる苦難に対抗する事は出来ない。


 俺はそれを身を持って知っている。


 それに俺達は近い内に村から出るのだ。俺抜きでこの難局を乗り越えてもらわなければならない。


 そして、俺は考える。俺が出来る事を考える。







「ビビはこれからどうするんだ?」


 俺はビビに今後の行動を聞いた。


「私は、ソーイチ様と村の方々に恩を返したいです。」


 なるほど、殊勝だな。


「なら、森に入って村に危害を加えそうな害獣を倒してくれないか?俺は別の事をしたいんだ。」

「わかりました。倒した獣はどうすれば良いですか?」

「持って帰れたら、村の入り口に置いて門番に話せば、勝手にしてくれるよ。周りだけで良いから、無理はしないように。」

「はい、わかりました。」


 ビビは頷くと、足早に森に入って行った。


 ビビは単身で森に入っていったが、大丈夫だろう。村人の話では、狼人は獣人の中でも一騎当千の強者との事だし、狩人なら知識もあるだろう。


 さて、

「俺は森に入るけど、テラスはお留守番するか?」

「しないよ。ソーイチと一緒に行く。」

「ですよね。」


 まぁ想定内。どうしようか・・・。


「また、ダッコで移動だけど、大丈夫か?」

「あまり速くなければ大丈夫。あと、怖かったのは着地の時だからね!」


 ちょっと震えている。唇を噛み締めている表情が可愛い。


「今回は、そんなに速くしないし、多分跳ばないから大丈夫。」


 俺はテラスをお姫さまダッコする。テラスは俺の首に腕を巻き付け抱き締める。


「さて、行くか。」


 俺達は森に入って行った。







 走った!跳んだ!駆け登った!


 テラスに怒られた。


 駆け足程度だったんだが、テラスにはかなりの速度だったらしい。


 森に入って数刻、山々を走り廻った。

 途中で巨大な獣を何体か見つけて、黒石の指弾で倒し、無限保管に突っ込んでいる。

 この世界の獣はデカイ。まあ、見たこと無いものもいたが、この際関係ない。有り難く食料にさせてもらおう。


 俺達は目的物を探しに森に入っていた。


 それは、村の武器になる作物だ。


 木綿。


 村には、布が少ない。村人の話でも、王国でも布は貴重品、もしくは高級品だという。


 なら、木綿は武器になる。


 作付けして、大量に作れたら、それだけで一財産になる。時間はかかるが、永代的に続けられるのは強みだ。


 だが、綿の木が無い。時期的に、開いてないのか?


 樹木綿も考えたが、手間隙考えると、綿の方が良い。

「ないなあ。」


 一株でもあれば、創造で増殖するんだが。


 着ている服を増殖させるのは、永代的ではないので却下だ。作付け出来なければ意味がない。


「よし、テラスはどっちが良いと思う?」


 困った時のテラス頼り。二人いるんだし、テラスの意見も聞こう。


「ん~、・・・、あっち!」


 それは村から北にある山だった。確かに行ってないが、ちょっと遠い。


「ん~、跳んでいい?」

「良いよ。でも、着地は気をつけてね。」

「ああ、大丈夫。さて、跳ぶぞ。」


 俺は跳躍し、二段跳躍を連続させ、目的地に向かう。ものの数分で着いてしまう。チートスゲェパネェ!

 降りるのは、階段をイメージした。歩き降りるようにすれば恐怖はないだろう。


 テラスに頭を撫でられた。


 さて、目的地だがあるかな?




 探してみたが、無かった。


 テラスなら、と思ったが見つからないのは仕方ない。

 結構、日も落ちてきた。そろそろ帰るか。


「ねえ、ソーイチ。あれ面白い。」

「ん、なに?」

「木の枝が地面に刺さっているみたい。」


 テラスの指差す方を見る。

 確かに、枝が刺さっているみたいに見える。3メートル位の枝が群生しているそれは、見覚えのあるものだった。


「まさかね?」

 俺はその枝を切り、樹液を舐める。

「!!!」

「どうしたの?」


 テラスが覗きこむ。


「あはははは!!スゲェ!流石テラスだ!」

俺はテラスを抱き締めた。


 俺の予想の上をいっている。これならいける!


「苦しいよ。でもこれ、綿じゃないよ?」

「いや、木綿以上だ!流石テラス!」

「偉い?ご褒美くれる?」

「良いよ!何でもあげる!あ、エッチなのは抜きで。」


 またキスとかだと、襲ってしまう。今はまだ早い。

「んじゃあ、沐浴したい。」


 際どいがセーフだ。


「一緒に!」


 アウトー!!


「あのね、テラスさん?」

「沐浴はエッチじゃないよ?」

「いやいや、肌を見せるだろ?」

「ソーイチに見られるのは、エッチじゃないよ?」

「あのね・・・」

「ダメ?」


 ・・・上目遣いは反則です。


「・・・わかった・・・」

「やったー!絶対だよ!」


 我慢出来るかな、俺・・・。







 その枝を根こそぎ根から掘りあげる。結構な量だったが、時間はかからなかった。そのまま無限保管に入れる。必要材料はまだあるが、さまよった時に見つけていたので、苦労はない。

 白い巨石と、1メートル位の大石を二個を無限保管に入れる。あと、岩塩も見つけたのでそれも無限保管に突っ込んだ。チート最高っです!

一度村へ戻ると、ビビが3メートル程の巨大猪を村入り口に置いていた。


 槍使いが猪に勝つとか。戦闘民族だな。


「おかえりなさい、ソーイチ様、テラス様。」

「ただいま、ビビ。」

「ビビ!ただいま!」



「すごい獲物だな。」

「はい、皆さんに喜んでいただけるよう、頑張りました。」


 猪は脳天にだけ傷があり、あとは綺麗なものだった。


 村人は嬉々となり、猪を十数人で運び込む。クコ村長には節約してもらうようにお願いと、食器を借り、今日は河原で一夜を明かすと伝えた。

 クコ村長は寂しそうだったが、男には何も惹かれないので気にしない。


「私も御一緒しても宜しいでしょうか?」


 ビビが訪ねる。

 ビビも頑張ったのだろう。身体中ボロボロだ。さいわい怪我はしていないし、ちょうど良いので誘った。

「ありがとうございます。」

ビビは微笑んだ。


さて、もうひと頑張りしますか。





 河原に着き、すぐさま火を炊く。

 河の近場に深めの穴を開ける。掘る動作に集中と開放を使えばすぐに掘れた。ビビはこの行動に驚いていたが、説明せずにほっといた。


 上流と下流に繋がるように路を作り、穴に水を溜める。

 砂を流す為しばらく放置、その間に肉を焼こう。

狩った獣で1体選ぶ。豚を選んだ。

 黒石ナイフで捌き、モツは河で洗い無限保管へ。血抜きは、そのまま無限保管に吸い上げた。


 チート最高!


 ビビがいうには、樹豚(トレントピッグ)で捕まえにくい獲物とか。肉は美味しいとの事で、漫画みたいに棒を刺し、丸焼きにした。


 ビビに料理番をお願いしたら、

「お任せ下さい!最高の焼き加減にしてみせます!」

見えない目を輝かせて言ってくれた。頼もしい。


 テラスもビビの側でくつろいでいる。

 俺は、近くの森から木を黒石ナイフで伐採して加工する。集中を使うと簡単に伐採出来るから大変助かる。時間がないからチートでサクッと加工して、衝立を造り、穴の側に立てる。

 余った木材で、櫛を造る。素木なので滑りは悪いかもしれないが、無限保管にしまっておく。


 河から来る水を塞き止める。

 俺は薪に火を付ける。

 水溜まりに手をあて、火を道具に掌握、創造、火を水溜まりに突っ込んだ。水溜まりから湯気がたつ。

「風呂」

完成。


 やることが非常識だが、ここでは関係ない。風呂に入れるのは嬉しいからだ。



 肉が焼けたので、食べよう。あ、岩塩も使おう。


 肉を切り分け、

「「「いただきます。」」」


 俺とテラスが食べる。

「うっま!!」

「美味しい!」


 滅茶苦茶旨いぞ!塩をかけて更に旨い。


 ビビは食べずに肉を見ている。


 ん?どうしたんだろう?


「食べな。旨いぞ!」

「はい!」


 ビビは大口を開け、頬張った。口元が緩んでいる。


「旨いよ、焼き加減も最高だ!」

「はい!上手に焼けて喜んでいただいて良かったです。私もこんなに美味しい肉を食べたのは初めてです!」


 ビビのテンションが上がっている。尻尾がブンブンと振っていた。


「しっかり食べよう。」

「うん!」

「はい!」



 綺麗に全部食べました。半分以上はビビが食べた。俺達がお腹が一杯になってからが本番らしく、勢いが凄かった。



 腹も膨れたし風呂だが、やっぱりテラスは

「一緒に入る!約束!」

 と言って入る事になったが、

「ビビも一緒に入ろ。」

 テラスがビビを誘っている。


 おいっ!最高か!違う、そうじゃない。


「御二人がよろしければ、構いませんが?」


 拒否しないんだ・・・。


 何故か俺が一番風呂でないといけないらしく、衝立に服を掛け風呂に入る。

「風呂、サイコー。」


 くつろぐと、俺の両側から二人が入ってきた。


「気持ちいい~。」

「これが風呂ですか。とても良い物ですね。」


 二人がくつろぐ。

 俺は固まってしまった。目線が動かせない。動かしたらヤバイ。


「気持ちいいね、ソーイチ!」


 テラスが俺の左腕にもたれ掛かる。度々当たる柔らかいものが、俺の理性を壊しにかかる。


「はぁ~・・・」

 ビビも艶っぽい声を出す。


「ビビって、やっぱりお胸が大きいよね。羨ましい。」


 知ってる。


「そんな事ありません。テラス様のお肌の美しさは憧れます。」


 それも知ってる。


「せっかくだから、顔を洗ったら?狩りや料理で汚れちゃってるよ?」

「そうですね。」


 パシャパシャと水音を出し、顔を洗う。


「わ?!ビビ!美人!」


 何?!


 俺はおもむろにビビを見る!


 美人だ!


 少しつり上がっているが、その大きな瞳。スッとした鼻、少し大きめの口、整った顔は間違いなく美人だ!

 そして、見事な双丘も目に入り、固まってしまった。


「?」


 ビビは首を傾げている。


 ゆっくり目線を反らし、反対を向くと、テラスが立っていた。


 あ・・・。


 はい、全部見えました。とても御綺麗です。


 もう無理。


「どうしたの?ソーイチ?」

「ソーイチ様?」


 二人の魅力にあてられたのか?のぼせたのか?俺はわからないまま目を閉じた。


「ソーイチ!大丈夫?ソーイチ!」

「ソーイチ様?ソーイチ様!」


 天国なのか地獄なのか、二人の幸せな感触を感じながら、俺は意識を失ってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ