5-14 ドワーフ国の不穏な日
冒険者ギルドのギルドマスター室に来た。神妙な面持ちのギルドマスターグエンがいる。
「来てくれたか。」
「どうしたんだ?」
グエンは神妙な面持ちだ。大きく息を吐き出し、俺達に話しかけた。
「これは極秘として扱ってほしいのだが、良いだろうか?」
「構わんよ。それは約束する。」
その言葉に、グエンが重いため息を吐く。
「龍が現れた、らしい。」
ん?その話は前に聞いたな。ドワーフ国の天板が塞がっている時の話だったな。
「眉唾の事だったが、それが事実らしいのだ。これを見てくれ。」
と言って、俺に何かを見せる。黒い板状の何か。大きさは俺の掌よりも大きい。とても軽く、とても硬い。
「黒龍の鱗だ。」
マリアに見せると、同じ結果を言う。間違いなく本物だろう。
「これをある冒険者が見つけてな。慌てて調査をすると、同じものが他に出てきたのと、目撃証言も出てきた。」
そして、同じ鱗を二枚、俺に渡す。勿論本物だ。
「そこで、依頼なんだが、貴族様には申し訳ないが、その狼人を貸して貰いたい。黒龍の巣を見つけ出し、追っ払うのが目的だ。」
退治ではなく、追放か。確かに、鱗だけで見ても、その巨大さは計り知れない。硬い鱗に守られた龍は、そんじょそこらの魔獣とは、桁が違う存在だ。
「それで、どうやって追っ払うんだ?」
「それはこれを使う。」
グエンが取り出した袋がある。何やら臭い。いや、本当に臭い!ビビがしかめ面している!マリアは、とんでもなく嫌な顔をしていた。
「これを巣にばら蒔けば、鼻の効く黒龍が逃げ出す代物だ。退治が出来ない存在だから、逃げて貰うしかない。」
確かにな。普通は退治なんか無理だろう。
「それで、何故ビビを?」
「ムトー程の実力者がいないのだ。ムトーに任せたいが、あいつは強者を見ると闘いたくなる戦闘狂だ。黒龍にすら闘いを挑むだろう。俺としては、ムトーを亡くしたくはない。そこで、ムトーよりも強いビビに任せたいのだ。やってくれないか?」
ふむ、ビビを見ると、目が訴えている。彼女もまた戦闘狂な一面もある。黒龍と闘いを挑むだろう。
「命に関わる依頼だが、やってはくれないだろうか?」
グエンの目が必死だ。確かに、黒龍の存在はこの国の驚異になりかねない。ならば、依頼を受けるべきだろう。
「良いだろう。その依頼は受ける。」
「助かる!では、これを渡そう。」
と言って、臭い袋を手渡す。臭いのですぐに無限保管に突っ込んだ。部屋を換気し、臭みを追い出す。
「さて、依頼はお願いする。依頼の完遂に至っては、護衛をつける。」
「いや、それはかえって邪魔だ。遠慮させてもらう。」
「だが!」
「ビビより強いならまだしも、弱いなら意味はない。それは邪魔にしかならない。余計な犠牲も生まない。」
「そ、そうか。」
どこかしらか、グエンは安堵の息を吐いた。
「さて、場所を聞こうか。」
「山頂だ。そこに黒龍がいる、との情報を得ている。」
「その情報は正確か?」
「鱗を持ってきた冒険者の語りようでは、信じても良いと思う。」
あんまり正確ではないな。だが、それにすがるしかないな。
「報酬は金貨十枚。手に入れた素材は全てギルドがもらう。どうだろうか?」
「いや、金貨はいらない。素材を全て貰いたい。それならばやっても良い。」
「そ、それでは割りが合わないのではないのか?」
俺の言葉に、グエンが困惑を示す。
「金にはあまり困っていない。ならば、素材を頂いた方が此方としては有難い。」
唸るグエン。俺の提示は予想外だったのだろう。
「わかった。では、素材は全て渡そう。だが、証拠が欲しい。素材ではなく、逃げ出した、という事実が欲しいのだ。」
「どうする?」
「証人を連れていってくれ。俺の信頼置ける冒険者の一人だ。」
そう言って、誰かがギルドマスター室に入ってくる。
華奢な身体、長い耳、超美人の女性だった。
「あー!ソーイチではないですか!」
「あ、ゼフィーさん。こんにちは。」
「なんだ、顔見知りか。なら話は早い。彼女、ゼフィーを連れていってくれ。彼女の身のこなしならば、怪我をする事もないだろうし、森にも強い。信用もある。彼女の言い分ならば、信用置いても良いだろう。」
貴族に信用無しと言うグエンの言葉にちょっとだけ引っ掛かりを覚えるが、それは仕方のない事だ。まだ信用は得られる程の付き合いはない。
それにしても、またゼフィーさんに会うとは思わなかった。
「貴方、貴族だったのね。そうには見えなかったわ。礼儀は必要かしら?」
「いらないよ。一代限りの栄誉貴族だからな。気にするな。」
「そう。なら良かった。」
超美人スマイル止めて。本当に止めて。
「では、期限は七日だ。それまでに完遂をお願いしたい。失敗しても罰則はない。命を大事にしてくれ。」
その言葉に、俺達よりもゼフィーさんが安堵の表情だ。
「さて、行きますか。」
「そうね。準備万端にしなくてはね。」
と言って、ギルドマスター室を出る。
★
「そういえば、その女性達の名前を聞いていなかったわ。」
「テラス。」
「ビビです。」
「マリアよ。」
「どういう関係かしら?」
「妻達だよ。」
その言葉に、驚きを隠せないゼフィーさん。
「そう、なんだ。はは、ヒトは凄いわね。」
何が凄いのかわからないが、ゼフィーさんが驚いているのは確かだ。
「さて、これからどうしますか?」
気を取り直し、ゼフィーさんが声をかける。まあ、こちらは準備万端出し、小屋を回収したらすぐにでも出発が出来る。
「直ぐに出発をするさ。」
「は?」
俺の言葉に固まるゼフィーさん。
「こちらはもう、準備万端なんだ。今日のうちに出発をするよ。」
「ちょ?待って!食料は?水は?」
「あるから大丈夫。此方が準備をするから。」
「・・・。」
絶句するゼフィーさん。
「それが普通の表現よ。」
絶句したゼフィーさんだったが、俺に対して怒りを露にする。
「貴方、森をなめているの?」
「いや、至って真面目だ。これでも西の大陸からここまで旅をしていたし。」
再び驚きを隠せないゼフィーさん。
「そ、これが普通。」
「マリア、何が言いたい。」
「あんたは普通ではないって事よ。自覚ある?」
「んー、ないな。」
重いため息を吐くマリア。おればちょっとしたチートを持つ普通だと思うが、違うのか?・・・違うか。普通は空を歩けないな。反省。
「さて、行くか。」
小屋を回収する。ゼフィーさんが、この行為に驚き、頭を抱えている。
「わかるわ。その気持ち。」
「一体なんなんですか?彼は?」
「さあ?」
マリアはゼフィーさんとの会話で、俺の非常識さを確認していた。
大門に到着し、国外に出る手続きをする。
「あの、今さらですが、ソーイチも行くのですか?」
「この五人で十分だろ。」
「き、危険すぎます!貴族様に怪我を、若しくは亡くなったりしたら社会的に大問題です!」
慌てるゼフィーさん。美人が慌てる仕草はとても可愛らしい。
「大丈夫だって。」
「だいじょうぶだよ。」
「心配ありません。」
「それがそうなのよね。」
その言葉に、ゼフィーさんが固まった。俺達が和気藹々にドワーフ国を出る。森に入るから、イトとレンはお留守番だ。そういえば、ずっと城で預かっているままだな。たまには会いに行こう。
「置いて行くわよ。」
マリアがゼフィーさんに声をかける。その言葉に反応してか、ゼフィーさんが後からついてきた。
さて、黒龍か。どんな奴なんだろうな。
俺は無意識にその存在を楽しみにしていた。
★
森に入る。道は険しいので、テラスとマリアは抱き抱える。今回は、俺がマリアを、ビビがテラスにした。ビビは逸る気持ちがあるためだ。ここは自重してもらいたい。
それとない速度で森を駆け上がる。ゼフィーさんはずっと後ろにいる。俺達の速度に着いていくのがやっとのようだ。
一時間程登り、休憩。それを繰り返す。三回程繰り返して、今回は登るのを止めにした。日が落ち始めたからだ。
木を切り、根を引っこ抜き、最低限の空間を作る。そこに小屋を出して、今回の拠点にする。
俺達が外で料理の準備をしていると、遅れてゼフィーさんが疲労困憊で合流した。
「お疲れさん。はい、水。」
「あ、ありがとう、ございます。」
息を切らすゼフィーさん。地べたに座り、疲れを露にする。あの、下着見えてますよ。
「なんなの?一体?」
「あまり考えない方が良いわよ。無駄に疲れちゃうから。」
マリアの言葉に、ゼフィーさんが反応する。
ゼフィーさんは頭を振り、邪念を払うかのような仕草をする。
「今日はここを拠点にして、山頂は明日にしようか。まあ、ゆっくり休んでくれ。」
「わかった。そうする。」
そう言って、ゼフィーさんは、用意した小屋の前に座った。テラスが隣に座る。
「ゼフィーはきれいね。」
「貴女、テラスね。貴女も綺麗よ。」
「そう?うれしい。」
何やら話をしているようだ。テラスに任せよう。俺は回りのチェックだ。ビビも参加する。ビビはいつもの薄着に着替えた。狩り仕様のビビだ。
「さて、行くか。」
「はい!」
「気をつけてね。」
久しぶりの森に、ビビが嬉しそうだ。二人で小屋回りをチェックする。
気配探知。そこそこにいるが、驚異になりそうなのは、一つだけだな。
「ビビ、あっちだ。」
「はい!」
俺は駆ける。ビビもついてくる。森の中、道無き道を駆け抜ける。ビビも探知したのか、俺に近寄る。
「いますね。」
「いるな。」
巨大な熊を見つけた。どうやら食事中のようだ。
「よろしいですか?」
「良いよ。任せる。」
ビビは飛び出した!一直線に熊の所に向かう。食事に夢中だったのか、反応が遅れた熊は、ビビを視認した直後に、絶命した。
ビビが、熊の頭に黒狼爪を突き刺したからだ。
「やりました!」
「でかした、ビビ!」
狩りを成功させたビビを誉める。尻尾が千切れんばかりに振っている。
「血抜きするか。」
無限保管の血抜きをしてから、熊を無限保管に入れる。これで、しばらくの肉は安泰だ。ビビの食欲を考えれば、直ぐに無くなってしまうが、それはそれだ。
「さて、帰るか。」
「はい。」
俺達は小屋に戻る。
日も暮れ、辺りは暗くなる。焚き火をし、小屋の回りを明るくする。
ご飯は外で皆で。見張りは俺とビビとゼフィーさんの三交代にした。テラスとマリアは休んでもらう。
久しぶりの野宿に、俺は心なしか、心が踊っていた。
ビビが一番手。俺が二番手、ゼフィーさんが最後にした。ゼフィーさんが小屋で休んでいるから、俺は必然的に外になる。彼女と一緒に寝るのは、気が引けたからだ。
「少し休む。ビビ、任せたよ。」
「はい、わかりました。」
俺は目蓋を閉じた。
暫くの休息をして、目が覚める。そろそろ交代だろう。ビビに声をかける。
「ありがとうビビ。休んでくれ。」
「はい、わかりました。あの、私もここで休んで良いですか?」
「ああ、良いよ。」
ビビは側で横になる。丸くなり、寝息をたてる。
さて、何をしているかな。
俺は木材で、櫛を作り始める。この前の露店で好評だったので、また売り出したいと思ったからだ。簡素な半月の櫛を作る。丁寧に、しっかりと。
気がつくと、日が昇り、朝になっていた。
★
ビビを起こす。軽く揺すっただけで、目を覚ますビビ。
「おはようございます。」
目覚めの早さは、流石と言いたい。直ぐに立ち、日課の型を始めた。俺もそれに付き合う。
小屋から気配。誰かが起きたようだ。ドアが少しずつ開く。ばつが悪そうに覗いてくるのは、ゼフィーさんだった。
「あのー・・・。」
「おはよう、ゼフィーさん。よく寝れたかい?」
「すいません!寝坊しました!」
「良いよ良いよ。疲れが出たんだろ。構わないさ。」
「はい、すいません。」
どうも、ゼフィーさんには負い目があるようだ。
「でしたら、今から見張りをお願いして良いですか?俺とビビは今から風呂で汗を流すので。」
「あ、はい。どうぞ。」
そう言って、小屋に入り風呂場に向かう。家族で風呂に入り、汗を流す。
食事の準備は外で。皆で分担した。
しっかりと朝の食事をとり、英気を蓄える。ゼフィーさんが少ししか食べなかったのは、少食だからなのだろう。気にはなったが、気にしない事にした。
そして、また山頂まで走る。昼前には山頂に到着し、休憩を挟む。ゼフィーさんの疲労を考慮してだ。
そして、件の黒龍を探す。辺りを見回しても、回りに飛んでいる気配はない。気配察知にも引っ掛からない。さて、どうやって探すか。
そんな時は、お願いテラスさんだ。
「んー、あっちかな?」
珍しく疑問系が気になったが、その方角を目指して進む。森林生い茂る場所のそこは、とても静かだった。
空気が濃いというのだろうか、濃密な空気に、身体が活性化する。ビビもその影響からか、興奮状態になった。テラスを側に置き、冷静にさせる。生い茂る草木を掻き分け、目指す方向に進む。
そこにあったのは、大きな洞窟だった。




