5-13 ドワーフ国の平穏な日々 その3
あれから準備を進め、商品を増やしていく。指輪に腕輪、イヤリングにネックレス、とアクセサリーの種類を増やした。銀のインゴットは既になくなった。それでも全部売れたらかなりの価格になるだろう。
「そうね。金貨三枚分にはなるかしらね。」
マリアの鑑定がそう囁く。金貨一枚が三枚に化ける。単純に黒字が見えるのが良い。
「場所も決まったわ。後は売り込むだけよ。」
と言って、マリアは意気込む。
「治安は余り良くはありませんでした。見張りは必要でしょう。」
と、ビビも意見を出す。
「今回の販売は皆でやろう。精一杯声をかけたら、誰かは買ってくれるさ。」
「何言ってんの。全部売る勢いでいきましょ!」
「おー!」
マリアのテンションがテラスに移る。かわいいなあ。
「そうなると、明日は早いな。早く寝よう。」
「はーい。」
「わかりました。」
「そうね。夜更かしはいけないわね。・・・、駄目だからね。」
わかっています。今日は寝ます。
では、お休みなさい。
とはいえ、今日は中々に寝付けなかった。気分は遠足前の子供みたいだ。
作業場で、櫛を作る。一つ一つ丁寧に作る。時間を忘れ没頭する。出来た櫛を横に、また櫛を作る。
誰かに肩を叩かれた。急な出来事に、俺は咄嗟に振り向く。
「何をやっているのかしら?」
マリアが鬼の形相で此方を見る。
「いや、眠れなくてな。」
「だからといって、作業する意味はあるのかしら?」
「まあ、いや、その、な?」
「はい、もうお仕舞い。終わり!」
「あ、いや、まだ途中。」
「駄目!今日は寝なさい!」
「・・・はい。」
マリアが怒ると怖いのはいつもの事だ。言うことは聞こう。
途中で止めてしまった櫛から、後ろ髪引かれる思いだが、ベッドに移動した。
ベッドに寝ると、テラスとマリアに腕を絡ませ拘束される。もう逃げられそうにない。諦めて寝よう。
腕に感じる柔らかさを堪能しながら、目蓋を閉じた。
★
さて、本番の日だ。朝一番に起きる。今日も鍛練は欠かせない。身体を覚醒させる為だ。
風呂に入り汗を流し、朝食も欠かさない。
焦ることはない。平常心でいこう。
「いきましょ!」
「ああ!」
マリアの号令で、目当ての場所に向かう。露店はもう開店準備の真っ最中だ。目当ての場所を確保し、俺達も風呂敷を開いて、商品を並べる。
マリアが櫛を含むアクセサリーを並べる。ビビは不届きものがいないか見張り番だ。
テラスは、ちょこんと座り、見ている。うん、それで構わない。テラスの仕事は後にある。
準備を完了し、後は客が来るのを待つ。まだ人通りは少ない。ビビは後ろに移動させ、間口を広げる。
日も高くなり、狙う客は女性、もしくは彼女がいる男性だろう。若い人を狙って声をかけていく。
やはりアクセサリー、見ていく人は多い。値段も適正より多少高くしてある。のは、値切り対策だ。この値切りがコミュニケーション力が必要だ。俺には無理だ。これはマリアに任せよう。
「おう、何をやっているんだ?」
露店にやってきたのは、ガストンだった。
「販売よ、販売。折角だから見ていってよ。」
ガストンは笑顔でアクセサリーを見る。だが、みるみると表情が険しくなっていった。
「これを作ったのは誰だ?」
「それはうちの旦那様よ。良い物でしょ。」
「ああ。この精巧な指輪に腕輪、櫛も良いな。」
「折角だから何か買っていってよ。少し値段はいいけどね。」
「そうだな、この技量なら、高くて当然だろう。櫛は幾らだ?」
「銀貨五枚よ。」
「高いな。せめて二枚にしてくれ。」
「んじゃ三枚。」
「そうだな。そうしてくれ。」
「毎度ありー!」
定価で売らせるマリアの商魂には頭が下がる。櫛は沢山作ったし、原価0だ。売れば売る程儲かる。
この販売を皮切りに、櫛と腕輪が売れ始める。比較的安いこの商品は手が出しやすいのだろう。
「お、何をやっているんだ?」
今度はバルバが来た。西の管理を任されているドワーフだ。
「商売よ。何か買っていってよ。」
「そうだな。」
やはりだが、バルバも顔を険しくさせていく。何故か楽しくなってきた。
「指輪なんてどう?彼女さんに贈ってあげると喜ばれるわ。」
「だが、高いだろ?宝石も入っているし、露店で売るレベルではないな。」
「ん~、確かにそうかもだけど、全部本物だから、たまには大きな買い物も悪くないわよ。」
バルバには彼女がいるんだな。否定しなかったし。
「だが、指に入るか、だな。」
「なら、こうすれば良いわ。」
といって、ネックレスに使う皮を指輪に通す。
「これなら、どう?」
「成る程。悪くないな。」
即席のネックレスに仕立てた。本来のネックレスより割安になるから、手を出しやすくなる。
「幾らだ?」
「高いけど銀貨十枚の価値はあるわ。」
「もう少し何とかならないか?手持ちもそんなにある訳じゃない。」
「そうね。なら、八枚。これが限界よ。」
「んー!よし、買おう!」
「皮紐はプレゼントするわ。ありがとう!」
と、バルバには指輪を売った。
さて、商売に邪魔は付き物。やはりというか、テンプレというか。
「おい!誰に許可をもらってここで商売をしていやがるんだ!」
やはり来た。チンピラだ。三人の柄の悪い男達。
「ギルドよ。何か文句ある?」
マリアも食ってかかる。俺はビビに目線をずらして合図する。
「ここは俺達、黒鼬の場所なんだよ!ここで商売をするんならショバ代(場所代)払いな!」
「は?何を言ってるの?払う訳ないでしょ!」
「てめえ、このくそ女!」
殴りかかろうとするチンピラその1。はい、ビビさん出番です。
吹っ飛んだのは、チンピラだった。一瞬でチンピラその1の懐に入り、強烈な一撃を腹に入れた。
痙攣しながら気絶するチンピラその1。その2その3はその光景を見て、震えていた。
「まだ、やりますか?」
威圧的な態度をとるビビ。ん、凛々しいね。その姿を見て、その2その3はその1を担いで逃げていった。
回りから歓声が上がる。どうやらこの一帯にいちゃもんをつけてくる小悪党だったようだ。
ビビの活躍が目立ったのか、ひっきりなしにお客が来るようになった。うちでは安価の櫛や腕輪が売れていく。中には、一番高価なイヤリングを一括で支払う商人風の男もいた程だ。因みに、イヤリングは大きな宝石が入っているから、銀貨五十枚だ。
お昼時、弁当を広げ、食べる。一時休憩だ。人波もなだらかになった。
さて、そのチンピラが十人になってやってきたが、それを返り討ちにした。これ以上絡まれるのは面倒だから、一人を縛り上げ、聞き出し、俺が黒鼬のアジトに行き、壊滅させてやった。リーダー他数名は縛り上げ、衛兵に付き出した。やはりだが、衛兵達に目をつけられていたようで、捕まえられた事を喜んでいた。
「ご協力感謝します!」
「いやいや。」
と言って、詰め所を後にする。今は3時くらいだ。露店の場所に向かうと、人だかりが出来ていた。
耳を澄ますと、何やら聞こえる。
行けばわかった。テラスが歌っていた。
伴奏はない、アカペラで歌っていた。皆がこの歌声に酔いしれるように耳を澄ます。
歌詞は、人生は楽しいよ、という感じの歌だ。
歌が終わり、拍手喝采が嵐のように起こる。感動したのか、おひねりが舞った。大体は麦芽飴だったが、銅貨を払う人もいた。
丁寧なお辞儀をするテラス。アンコールはやらなかった。
観客は去ったが、商品を見て買う人が増えた。マリアが忙しそうにしていた。
残り数点。高額の商品が残った。時間も時間だ。そろそろ店仕舞いの時に、やってきた客は女性、エルフだった。
その華奢な身体、長い耳、金髪のストレート、超美人。見た目は冒険者のような格好であった。
「見ても良いかしら?」
「どうぞ。」
真剣に商品を見るエルフの女性。何やらぶつぶつと言っているが、聞きとれなかった。
「この指輪は幾らですか?」
「銀貨十枚よ。高いけど、質は保証するわ。」
「結構、するわね。ごめんなさい。手持ちがないわ。」
「良いのよ。見るだけは無料だから。」
熱心に一つの指輪を見る。宝石が入っていない簡素なシルバーリング。もう少しは安くしても構わない商品だ。
「もう少し、安く出来ないかしら?せめて、銀貨二、いや三枚に。」
「どうしてこれを?簡素な指輪よ。」
「何となく、かしら。何故か想いがつまっている気がしてならないの。」
なんか、作った俺が恥ずかしくなる台詞を聞いてしまった。
「はぁ~。どうする?」
「良いよ、銀貨三枚にまけるよ。」
「美人に弱いわね。はい、指輪よ。」
「あ、ありがとう!」
「礼はこっちにね。」
俺に頭が落ちる位の礼をする女性エルフ。
「私の名はゼフィー。これでも冒険者よ。何かあったら何でも言って!協力するから!」
「その時はお願いするよ。俺はソーイチだ。」
「ありがとう、ソーイチ、ありがとう!」
銀貨三枚をもらい、指輪を渡す。右手中指にはめたその指輪を見て、彼女、ゼフィーは微笑んだ。
「また会いましょう!」
と言って、駆け出していった。
「すごいびじんだった。」
「そうですね。エルフは美人が多いと聞きます。」
「あれで冒険者か。見た目じゃわからないわね。」
確かにな。彼女は身のこなしが軽かった。だからこそ、冒険者をやっていけるのだろう。
「さて、帰るか。」
「はーい。」
「わかりました。」
「そうね。片付けましょう。」
俺達は風呂敷を畳み、その場を去った。
★
「今日はご馳走にしたわ!」
並ぶ食事は豪華だ。ビビは肉から目を離さないが、テラスも甘い果実に目を奪われていた。
満腹になるまで食べた。完食したのは、ビビのおかげだ。
「それにしても、今日は繁盛したわね。」
風呂の中で、今日の反省会をする。
「そうだな。利益はどうだった?」
「金貨二枚に銀貨四十三枚よ。大黒字ね。」
「それは良かった。」
今日はマリアの商売人の力に助かった。俺だけならばこんなに上手くはいかなかっただろう。
「それで、今後はどうするの?またやる?」
「そうだな。不定期開催として、またやるか。」
「うん。いいよー。」
「わかりました。」
また、ガベラの所に行って、銀を購入して、また作る。それも良いだろう。
「今日はゆっくりしようか。」
「マリアにごほうび。」
ん?テラスさん?
確かに、今日のMVPはマリアだ。何か慰労しても良いだろう。
「え?いらないわよ!別に!」
「いいからいいから。」
俺はマリアに肌油を全身に刷り込んだ。マッサージも兼ねているから、疲れもとれる。
ピクピクと動くマリアは顔を背け、指を噛む。声を我慢しているようだ。
「これ、絶対に、何か、おかしいよ!」
「いやいや、単なる油だって。」
大きな痙攣の後、全身を脱力するマリア。マリアには刺激が強かったようだ。
「大丈夫か?」
「馬鹿ぁ~。」
マリアの後に、テラスとビビにもする。皆、肌が綺麗になった。
「キレイになったー。」
「はい。そうですね。」
テラスとビビも御満悦だ。ぐったりしているマリアを抱き抱え、ベッドに寝かせる。
今日は疲れた。目蓋を閉じると、簡単に眠ってしまった。
★
朝、いつもの鍛練をする。ビビの姿が堪らない。薄着は俺に効く!ってな感じだ。
朝食をとり、出かける時だった。
「おはようございます!アオバ様はいらっしゃいますか?」
と、聞いた事のある声を聞く。それは冒険者ギルドの猫?受付嬢だった。
「朝早くに申し訳ございません。至急ですが、ギルドマスターの元に来て頂けませんか?」
その慌て振りから、可及の用事だろう。
「わかった。すぐに向かう。」
「ありがとうございます!では、私はこれで!」
と言って、猫?受付嬢は去っていった。
さてさて、何があったのか。
準備を万端にして、俺達は冒険者ギルドに向かった。




