5-11 ドワーフ国の平穏な日々 その1
一日が過ぎ、俺は久々に小屋に帰る。久々の風呂で、今までの疲れを洗い流す。やはり風呂は最高だ。
もちろん、テラス達も一緒だ。密着が濃密なのは、寂しかったからだろう。
「ねえ、なに、これ。」
マリアが俺の元気な息子を指差す。いや、これは不可抗力だから。
「男は本当に辛くなると、元気になる時があるんだよ。」
「え~、本当に~?」
本当だが、今回は違う。そりゃね、美女三人が裸で密着していれば、誰だって立派になるってものさ。
「じゃあこれは、こうすればいいの?」
あれ、テラスさん?
「でしたら、私はこちらを。」
ビビさん?あれ?
「私も、する。」
マリアまで?
俺は、彼女達のご奉仕に昇天した。
★
ガベラの元で作った物の残りの作業を進める。後は微調整と紐付けだけだ。研磨もしっかりとする。
朝から始めたそれは、夜には完成を迎えた。
俺専用の手甲だ。ヒヒイロカネで作られた極業物。無限保管に出し入れも忘れない。
マリアの鑑定も、鑑定不能となり、伝説級を頂いた。痛い。頬をつねるな。
ヒヒイロカネの手甲は軽くて硬い。伝説級だし、これなら傷をつけるのも一苦労だろう。
大仕事の完了に顔が綻ぶ。満足感が俺を包み込む。
そして、完成をお祝いする肉パーティーが催された。大量に運び込まれた肉、肉、肉。ビビさん、よだれ出てますよ。
皆が満腹になるまで食べて、風呂に入り、愛し合い、寝る。幸せな一時を過ごした。
★
俺達は足りなくなった食糧を補充するために、買い物をする事にした。主に肉だが、野菜や果物も忘れない。酒も少々だが買わせてもらった。
観光も一段落。後は龍の道の開通を待つだけとなった。
それにしても平和だ。
暗の一件以来、ドワーフ国は平和になった。空気も循環され、人々は思い思いに仕事をして、酒を飲み、寝る。それを繰り返す平和の日々。
俺達も、その平和に包まれていた。
★
龍の道が開通するまでは、やることがない。ならば、ここを拠点にして、旅費を稼ぐのも悪くはない。マリアの買い物で、手持ちが少なくなったのは事実だ。まあ、彼女は必要経費として考えているだろうが、金は一応潤沢にあった方が良い。
龍の道が閉鎖されている以上、客はケルトから来る貴族や商人である。また、東の大陸から来た冒険者も客になるだろう。前者は資金があり、後者は余り無いだろう。そうなると、ケルトの客を見つけるのが効率が良い。
だが、簡単にいかないのが商売だ。マリアも無謀と言うかもしれない。だが、何もしないで時を待つのはなるべくしたくない。俺は貧乏性なのかもしれないな。
さて、どうするか?答えは家族会議で決めるのが良いだろう。
「うーん、わかんない。」
「魔獣退治で生計を立ててみては如何ですか?」
「それなら、雑貨を作って露店で売る方が良いんじゃない?安全だし。」
三者三様。自分の考える範疇で最も良い案を出す。あ、テラスは、まあ、うん。
「ビビの案は額は大きいが、安定した収入は望めない、かな。いない訳ではないだろうけど、探すのに苦労する。マリアの案は安定した収入があるだろうから、マリアの案にしよう。」
「確かにそうですね。」
「うんうん。地道が一番よ。」
明らかに落胆するビビ。マリアは嬉しいのか満面の笑みだ。
「だけど、ビビの案を捨てる気はない。ギルドにちょくちょく足を運んで、情報を得て、いい獲物があったらやっても良いだろう。」
この言葉にビビは笑顔になる。マリアは、しょうがないわね、といった表情をして、この代案を賛成する。
となると、どうするか、だ。材料はこの前採掘した、銀に鉄がある。宝石もあるから、これらを使えばいい。インゴットにするにはどうするか?まあ、チートを使うしかないな。ガベラに頼る手もあるが、なるべく仲介者は入れない方が、コストを安く出来る。
まずは、商業ギルドで、商売許可証の発行だろう。これがないと始まらない。商業ギルドにお邪魔する。
商業ギルドは思いのほか広く、数多の人で一杯だ。ドワーフはもちろんヒトに獣人、エルフなどもいる。ここまで異種族の混在は初めてだ。
「ようこそ、商業ギルドへ。どの様な御用件でしょうか?」
受付嬢は、獣人だった。兎の耳がキュートな女性。笑顔を絶やさず此方を見る。
「商売に許可はいりますか?」
「それは店舗ですか?それとも露店ですか?」
「露店ですね。」
「そこで、何を御売りになりますか?」
そこで、マリアが変わって答える。
「アクセサリーが主の雑貨になります。」
「そうですか。では、技術をみますので、御売りになる商品を見せて頂けませんか?」
ん?そう来たか。何を見せれば良いだろう?
「櫛なんてどう?木製の櫛。」
そういえばあったな。
無限保管から櫛を一つ出す。
「拝見致します。」
まじまじと見る受付嬢。あらゆる角度から、普通の櫛を見る。
こういうのは結構ドキドキするものだ。駄物ではないのはマリアの鑑定でわかってはいるが、受け入れられるのはまた違う。
「はい。かなりの上物を拝見させて頂きました。この技術力でしたら、販売の許可を発行させて頂きます。」
ふー、よかった。
「では、銀貨十枚です。これは、一月の値段になります。」
月々の支払いか。こういう場合もあるんだな。
俺は銀貨十枚を支払う。この位は、簡単に稼げるだろうから、安い出費だ。
「では、此方が許可証になります。」
簡素な許可証に判子が押され、それを手渡す受付嬢。それを受け取り、無限保管にしまう。
「販売にあたり、何か注意はありますか?」
「そうですね。場所取りをする際に、トラブルになりやすい事があります。これは自己判断をお願いしております。また、販売の邪魔をする方々も存在しますから、注意して下さい。商業ギルドは許可を発行致しますが、トラブルの解決には仲介致しませんので、ご了承下さい。」
金を取って、責任は此方かよ。中々にあくどい商売をしているな。まあ、許可証があれば、胸を張って販売出来るのだから良いか。
「ありがとうございました。」
「良い商売を。」
商業ギルドを出て、次は冒険者ギルドを訪れる。ここでは、情報の収集がメインだ。
「いらっしゃいませ。どの様な御用件でしょうか?」
此方の受付嬢も獣人。猫?かな?
「私はケルトに連なるアオバ男爵だ。ギルドマスターに会いたいのだが、時間はあるかな?」
ここで、錫杖を出し貴族特権を使う。俺は登録が目的ではないからだ。
「は、はい!少々お待ちを。」
と言って、受付嬢は席を外す。回りを見ると、突然の貴族の登場に、その場にいる冒険者達がざわついている。
「貴族様が一体なんの用だ?」
「女をはべらせやがって。」
「だが良い女だ。一晩相手してくんねえかな。」
何やら言葉が聞こえる。最後の奴は顔を覚えた。手を出してきたら、絶対に許さん。
「どうぞ。御案内致します。」
と言って、受付嬢の案内で、階段を上がる。立派なドアに受付嬢がノックをする。「はいれ。」の言葉に、俺達はその部屋に入った。
ギルドマスターの部屋に入った。中は広く、調度品が揃ってあった。一人のドワーフが机の前に立っていた。
「俺はギルドマスターのグエンだ。それで、貴族様が一体なんの用件だ?」
厳しい目付きで此方を見るグエン。急な来訪に苛立ちがあるのだろうか?
「私はアオバ男爵。なに、大した話ではない。仕事の斡旋を頼みに来たのだ。」
その言葉に、グエンの片眉が上がる。
「斡旋?」
「そうだ。このビビが、魔獣退治でこの国に貢献したいと言ってな。出来れば叶えてやりたい。腕はかなり立つから、安心して回して欲しい。」
「・・・。」
この言葉にグエンはあからさまな怪訝な顔になる。貴族の道楽とでも思われたかな?だが、腕が立つのは事実だ。
「急に言われても、こちらの信用はないな。ならば、腕の立つ者と勝負をさせて、見極めれば良い。それならば不満はないだろう?」
「よほど自信があるようだな。ならば、此方に丁度良い相手がいる。そいつを倒したら認めよう。」
冒険者は実力主義。これは何処でも変わらないな。
受付嬢の案内で、ギルドの真裏に向かう。そこは訓練場となっていた。
若輩の者達が、一生懸命に訓練に励んでいる。なんというか、微笑ましさすら感じる。案内された先には、大きな声をあげる者がいた。
大きな体躯に剥き出しの筋肉。頭には一本の角。巨大斧を肩に担ぎ、訓練者に発破を掛けていた。
「あの方は鬼人、ですね。かなりの強者と見受けます。」
ビビの言葉に反応する。多分彼がその丁度良い相手なのだろう。
「貴様がギルマスからあった貴族様か!俺はムトー!この訓練場の教官、及び試験官をしている!」
言葉がデカイ。それに、無意識か威圧感も凄い。マリアが腰を抜かしちゃうだろうが。
「では、始めるか!ギルマスからは手加減無用と聞いている。誰が来るのだ?それとも全員か?」
「ビビ。」
「はい。」
ビビが前に出る。黒狼爪を持ち、ムトーの前に立つ。
「貴様は狼人か!それにその黒鋼!中々の手練れと見た!さあ、本気でかかって来い!」
「行きます!」
両者は武器を構え、対峙する。
勝負は一瞬で終わった。
ムトーの振り下ろす戦斧をビビは横にかわして、一回転しながら、ムトーの背中に石突きをぶつける。余りの勢いに、ムトーはぶっ飛んでしまった。
生きてる?
と思う位は飛んでしまった。壁にぶち当たり、瓦礫に埋もれる。
「ム、ムトーさん?!」
受付嬢がムトーの元に走る。中々の俊敏性だ。猫?だからか?
瓦礫をはね除け、ムトーが立つ。よかった。生きてる。
「やるではないか!」
全身から血を吹き出すムトー。見た目の割には元気のようだ。
「良いだろう!このムトー!貴様の実力を認める!」
この言葉に、見学していた訓練生から歓声が沸く。
「なんだ!あの女!一撃でムトーさんを倒したぞ!」
「ムトーさんを倒すなんて、何者だ?」
「ムトーさんも強いのに、なんなんだあの狼人は?」
思い思いに言葉を発する訓練生。良い刺激になったのを祈ろう。
「では、解散!」
この言葉に訓練生は散り散りになり、己の訓練に戻る。ムトーは手当てが必要だしな。
そして俺達はまたギルドに戻った。
「ムトーを瞬殺か。やるではないか。」
グエンは先程の硬い表情から一変、柔らかくなっていた。
「貴族の道楽、かと思っていたが、それは違うようだな。」
言葉を濁さないグエン。自分に正直なんだろう。
「それで、斡旋の事だが?」
「ああ、何か大きな仕事が入ったら、そちらに回そう。その時はよろしく頼むよ。」
「こちらこそ。」
さて、やることは終わったな。
「小屋に戻るか。」
「はーい。」
「わかりました。」
「明日からの準備が必要よね。」
俺達は小屋に戻った。
★
小屋に戻り、櫛を作る。明日からの商売の商品を揃える為だ。今回作る櫛は簡単に、そして、簡素な物にする。漆とかあれば、もっと良い物が出来るのだが、無いものは仕方ない。
一時間間位で一つを完成させる。今日は五個位が限界だろうか。徹夜はマリアから禁止されているし、そんなには作れなかった。
「種類が少ないな。」
「そうね。他にもあった方が見映えは良いわね。」
風呂の中で、作戦会議をする。マリアは商売に携わっていた商売人だ。目利き、鑑定眼も持っている。二人で、明日からの事を話合っていた。
「櫛以外に、何を作るかだが?」
「鉄なら料理道具、銀はアクセサリーね。宝石も使えばかなりの額になるわね。」
そうなると、製作期間が必要になるな。
「そうね。暫くは製作期間にしましょうか。私達は、相場を見て勉強するわ。」
だから、心を読まないで。
「それは構わないが、大丈夫か?」
「もう、心配性ね。ビビさんもいるし大丈夫よ。テラスちゃんは目立つからお留守番してもらうけどね。」
「そうだな。二手に別れて行動するか。」
「なら決まりね。」
風呂から上がるマリア。テラスとビビはまだ上がらないのは、多分おねだりだろう。だが、
「今日はお休みにします。」
「えー!」
「駄目、ですか?」
なんで君達はそんなに肉食なの?ほら、マリアがジト目でこちらを見ているよ。
今日はお休みです。お休みなさい。




